表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/192

うわさ話

213


 まーてんに帰り、一休み。


 そして、いつものように過ごす。

 さらに、日本語メモをこちらの言葉に書き写したり、殿下に借りた本を読んだり。


 まーてん周辺の芝が、所々伸びている。見通しをよくしようと刈り取った。

 刈った葉は九十センテほどあった。試しに縄に編んでみる。生葉はそれなりに魔力を含んでいたが、縄のまま乾燥したらゼロになっていた。乾燥した縄は、洞窟の中でも消えてなくならない。使えそうなので、片っ端から縄にしていく。

 冗談のつもりで、縄の端をちぎってお湯に浮かべたら、ハーブティ(レモングラス風味)になった。う〜ん、さっぱりした味でよろしい。・・・じゃなくて!

 売れない特産品ばっかり作って、どうしろっていうんだ? 産地偽装もすぐばれるだろうしなぁ。これも、当分自家消費しかないか。


 しかし、よく知っているつもりのまーてん周辺でも、まだまだ新しい発見があるのは楽しい。


 あとは、日課のというか、今まで通り、薫製作ったり、各種の弾を作ったり、魔術の実験したり。


 程よく気力を充填した所で、ローデンに向かった。



 [森の子馬亭]に行き、「ただいま」の挨拶をして、今回も五泊お願いする。

 夕食にはまだ早いので、ギルドハウスにいってみた。


 なんか、雰囲気が悪い。というより、みんな苛ついている?


 受付のお姉さんに訊いてみる。


「なにか、あったんですか?」


 自分に気がついて、申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「いえ、すみません」


 目をそらしてくるし。でも、これ以上仕事の邪魔をしちゃいけないな。


「執務室に行きますね。何かあったら、呼んでください」


「・・・はい」


 執務室にいって、トリーロさんがいたので話を聞いてみる。この人も眉間にしわが寄ってるし。ハンサムが台無しよ?


「久しぶりです、トリーロさん。みなさん、イライラしているみたいなんですけど、何かあったんですか?」


「! 顧問殿! ああ、伝えたいことはたくさんあるんですが、ええ、どれから話したらいいものか!」


「落ち着いて! はい、さっきの話の返事から!」


 きっぱり言われたことで、ちょっと正気に返ったらしい。深呼吸一つして、椅子を勧めてきた。長い話なのか?


「最近、魔術学園の学生と思われる魔術師たちが、ギルドハウス前で嫌がらせを始めたんです」


「? なんでまた?」


 ギルドは学生の就職先というか、身分保証先としても大事にするべき組織のはずだ。それが、自分の将来そっちのけで嫌がらせ?


「妙なうわさを真に受けているらしく、顧問殿に対して「たいした術師でもないのに、大きな顔をするな」と。入り口付近にたむろして、出入りする人片っ端からその手の声かけをするもんですから、ギルドスタッフと古参のハンターは大激怒。

 なんですが、顧問殿をよく知らないうちの若手の連中が乗せられ始めて、「なんでそんな無能者がギルドにいるんだ?」とかなんとか言い始めて。おかげで、内部でもケンカが起こり始めて、採取にも支障を来し始めてきた所です」


 話が分からん。


「おおざっぱにまとめると、魔術師の卵が自分にいちゃもんを付けている。とばっちりで、ギルドが迷惑を被っている。あってる?」


「・・・合ってます」


「うわさって、どこからナニが広がったのかなぁ?」


「顧問殿は、以前、王城で筆頭魔術師殿に自分の術を披露されたとか。それと、先日の薬の調合の時の話が混ぜこぜになったらしいです」


「調合の時の結界を誰かが見ていて、あの程度のよそ者術師に筆頭魔術師が頭を下げるのはおかしい。とか?」


「そんなかんじです」


「そこに、なんで学生が出てくるの?」


 トリーロさんは、さらに説明してくれた。


 ローデンの街の「学園」は、初等部、中等部、高等部がある。初等部では、簡単な読み書き算数を、中等部では、もう少し難しい数学と基礎魔術を教えている。貴族、平民の身分に関係なく入学でき、ほとんどの子供は中等部を十二歳で卒業する。ちなみに、授業料はとても安い。

 高等部には、武器の取り扱い一般と戦い方を習う武術科と、中等部より高度な魔術を学ぶ魔術科がある。卒業は十五歳だが、途中で退学してもペナルティはない。武術科に通う学生は、卒業後、王宮や貴族の兵士、ハンター、傭兵になるものが多い。魔術科卒業生は、魔術師としてあちこちで雇用される。一部は学園に残って、研究に携わるものもいる。


 ハンターにギルドがあるように、魔術師には魔術師組合がある。

 ギルドほど街の間での連携はなく、組合は「うちの街が一番!」的団結で活動しているところがほとんどだそうだ。なお、王宮の魔術師組織とは別物とのこと。


 問題は、そこから先。


「魔術科生は、卒業前に組合の魔術師に付いて、仕事のやり方とか実用的な魔術の使い方などを教わるそうです。組合員と魔術科生の結びつきは先輩後輩の間柄で・・・」


「先輩が言ってた悪口を後輩が鵜呑みにしている、と」


「学生は正規の組合員ではないので、組合に対しての抗議もまともに取り合ってもらえず、学園に抗議すれば、学園内の問題ではないので学生個人に文句を言え、と」


「なにそれ?」


「音頭をとっているのが、今期の魔術科生でも実力があり、実家の後ろ盾もあって、学園では注意し辛い生徒だそうです」


「組合とは関係なし?」


「彼女はそうなんですが、他の生徒はそれぞれ先輩に当たる魔術師からなにか吹き込まれているようで、聞いているだけでもうっ」


 あ、握りこぶしにまで青筋が起っちゃってるよ。


「自分の実力を見せれば、話は早い、のかな?」


 それをきいたとたんに、トリーロさんが凍り付いた。


「こ、顧問殿。どこで、だれに、どのていど、をみせつけるおつもりで?」


「相手を調べてから。うんと効果的にやらないと」


 トリーロさんが部屋から飛び出していった。早速調査してくれるのかな?仕事早いなぁ。

 えーと、練兵場で見た【火炎弾】よりも、ちょっと大きめのを連発してみるとか? あ、だめだ。まだ、ひと一人飲み込みそうな大きさになっちゃってるし。『重防陣』は、お披露目しちゃってるからインパクトないし。

 やっぱり、もう少し使い勝手のいい魔術を開発しないとなぁ。


 待ってる間に、この書類の整理でもしてますか。お、紙漉の試作品と工具の確認の日程問い合わせだ。いつにしようかな〜。


 ほかには、なぜか各種行事へのお誘いが。夜会とか、ダンスパーティとか、昼食会とか、お茶会とか、果ては見合いまで。

 正体主さんは、貴族がほとんどで、大店の商人もそれなりに。変わり種では、商工会の若手職人による新技術開発検討会、なんてのがあった。もっとも、全部時間がないからパス! トリーロさんにお断りの手紙を書いてもらおう。・・・仕事、増やしちゃったかも。


 さして時間が経ったようではなかったが、いつの間にか夕方だ。そろそろ宿に戻ろうかな、と思ったとき、数人が大慌てでこちらに駆け込んでくる。また、何か事件?


 ばぁん!


「お嬢!」

「「アル坊!」」

「賢者殿!」

「「「「早まるな!」」」」


 ヴァンさんを筆頭に、マッシュさん、ガレンさん、トリーロさん、なぜか団長さんまでいた。誰に呼ばれてきたんだろう。それにしても、皆、血相を変えている。


「早まるなって、何が?」


「トリーロのやつが「お嬢が組合に殴り込みを掛ける」って」


「誰が殴り込み? ギルドに迷惑がかかっているんだから、ちゃんと自分を見てもらえるように・・・」


「「「「やめてくれ!」」」」


 大の男の悲鳴は耳にうるさい。


「たむろってる餓鬼どもは、うちでなんとかするから。お嬢が出張るほどじゃねえから!」

「俺たちに任せとけって、な?」


「でも、受付のお姉さんたちの顔を見たらほっとけないし〜」


「いいから! いや、大丈夫だから! アル坊はこうどっしり構えておいてだな!」


「うわさ話ってこじれると、あと大変だし」


「アル坊が暴れる方がよっぽど大変だってーの!」


「暴れるじゃなくて、魔術を見せればいいんでしょ?」


「「「「やめてくれ!!」」」」


「うちの街の魔術師が、皆、使い物にならなくなる!」


 これは団長さん。


「じゃ、体術とか武術とか」


「「「あの程度の連中には実力の差もわかるはずがない!!」」」


 ギルドの面々。


「すみません、僕が中途半端におしらせしたものですから!ちゃんとちゃんと調べて報告しますのでそれまではなにとぞ自重して大人しくしてて〜」


 トリーロさん、いつものお澄まし顔が台無しよ?


 そのあと、[森の子馬亭]に連行された。酒や食事を大量に並べて、五人がかりで、説得もとい懐柔してきた。しょーがない。ここは皆さんの顔を立てて自重しておきます、といったら、全員が滂沱の涙を流して喜んだ。


 そんなこんなで、ギルドハウスに立ち寄らないまますごした。というよりも、[森の子馬亭]にほぼ軟禁状態。つまらなかったので、宿泊日数を切り上げて、まーてんに帰ることにした。



 次にローデンに来た時に、その後の顛末を教えてもらった。


 翌日、「男五人を侍らせて、悦に入っている悪女」という野次を飛ばし始めていたらしい。どんな情報通が裏についていたんだか。


 しかし、今度ばかりは相手が悪かった。


 男五人のうち、ギルドの四人が怒髪天を突く形相でギルドハウス前にいた学生達を締め上げ、延々と説教をかましたそうだ。トリーロさんもそれなりに強い、と初めて知った。普段、武器を持っていないから気づかなかったな。観察力が落ちてたか。反省。


 調子に乗っていた若手ハンターも巻き添え食って、ギルドマスター命令で初期トレーニングのやり直し。なんと、騎士団の訓練に参加させられる羽目になっていた。団長さんは、それはそれはいい顔をして、地獄の特訓に叩き込んだとか。


 トリーロさんに、皆楽しそうでいいな、といったら、「顧問殿のためですから」と、輝く笑顔で応えてくるし。


 ギルドハウスは、こうして静けさを取り戻しましたとさ。

 出所不明が、一番厄介。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ