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勉強しよう

203


 ギルドでの目的は二つ。


 1 森の変異に付いて報告し、今後の方針に付いて相談する。

 2 文字を覚える手段を、教えてもらう


 1については、植生の変化をデータ付きで提出した方が説得力がある。自分で、書ければなお良し。今日明日に激変する物でもないから、まずは口頭で注意を喚起するにとどめる。

 2は、1にも関係してくるので、直近の問題として、なんとか融通を利かせてもらう。


 よし。


 ギルドハウスに入った。


 ぎぃやぁぁぁあぁ!


 中年男達の絶叫が響き渡る! しまった! 前回の騒ぎで、ヴァンさんを放置したままだった。やっぱりまずかったか?


 おそるおそる奥に進むと、なんと、そこにいた全員が土下座していた。受付のお姉さんも、体を直角に曲げて頭を下げている。


「・・・今度は、何事?」


「〜〜〜姉御、お、怒ってないんですか?」


 一人が小声で、訊いてくる。


「何を?」


「偽物、偽物事件で、うちらのおやじがなんかやらかしたって・・・」


「おやじ? ああ、ヴァンさんのことですか。でか男達の馬鹿さ加減が壺にはまったらしくて、大笑いしてましたね。でも、それがどうかしました?」


「なんか、姉御のことを笑い物にしちまったって、あれから、もう大変で・・・」


 そういう風に思ってたか。


「いや、なんていうか。偽物?を公衆の面前でしばき倒すなんて、芝居でもやらないでしょ? もう恥ずかしくてねぇ。それで、顔を出し辛かっただけなんだけど」


「「「あねごぉぉぉぉ!」」」


 そういえば、呼び名がまた増えた? しかし、自称十六歳の乙女に向かって「あねご」はないと思う。しくしく。


「そういえば、ちょっと急ぎで相談したいことができたから来たんですが。あ、お姉さん、教えてもらえます?」


 受付のお姉さんに、できるだけ早く文字を覚える手段に付いて相談した。街の住人ならば、[学園]で読み書き算数を格安で教えてもらえるそうだ。

 それとは別に、ギルドには、他所から来て文字が読めない人向けの教本があるという。早速、それを借りることにした。


 背後では、おじさん達が、


「さすが、姉御は器がでかい!」

「馬鹿どもを、瞬殺したって?」

「サイクロプスよりも、お手軽だろうさ」


 などなど、ほめてるんだか物騒なんだか分からない話をぼそぼそしている。あの馬鹿げた口上をあれ以上聞いていたくなかっただけ、だったんだけど。


 ヴァンさんが出てきた。すぐさま土下座する。


「ヴァンさん! もうそれいいですから! さっき、十分見ましたから!」


「なんかよぅ、毎度毎度お嬢に迷惑かけてばっかりでよぅ〜〜〜」


「泣き言はあとで! ちょっと、相談したいことがあって〜」


 ヴァンさんを部屋に引き戻す。


 年ごとの[魔天]の植生の変化に付いて話す。


「証拠と言っても、自分の走り書き、それも数年分しかないので、十分な信憑性があるとは言えないんですけど」


「だが、可能性があるんだな?」


 ちゃんと聞いてくれた。まあ、「魔天]の採取内容の変化はギルドの商売にも大きく影響するから、聞き流すことができないんだろう。ヴァンさん、こういうところは真面目なんだ。


「まだ、余裕はあると思いたいです。それで、採取品と採取した場所、量、時期など、判かりますか? 裏付けを取りたいんです」


「ちゃんと報告している分はな。よし。過去の依頼内容を一から洗い直す。だが、お嬢、おめえ報告書が読めるのか?」


「実は、これから、ちゃんとした文字の勉強するんです。それもあって、お願いはしましたが、こちらの仕事にはしばらく手が出せません」


「わかった。それと、王宮や貴族連中にはまだ黙っておく。資料がそろわなきゃ、あいつらは動かんし動けん」


「それでいいと思います。できるだけ早く覚えてきますから」


「だが、うちにある教本程度じゃ・・・」


「女官長さんたちにも、そのうちに協力をお願いするつもりです」


「・・・なんで、そこまでする?」


「無駄身分の使いどころでしょ?」


「・・・そうか、お嬢だしな」


 そこで、その台詞って・・・なんだかなぁ。


「五日間、[森の子馬亭]に宿泊します」


「わかった。あんまり、無理すんなよ?」


「もちろん」


 ここでやらなきゃ、いつやるって?



 受付で、あるだけの教本を借りてから、[森の子馬亭]へ戻った。



 夕飯をいただいたあと、部屋に籠る。


 さあ、いまこそ出番だ!


 先日の八つ当たりで作った紙の束とインクとペンを取り出し、『灯』を付けて、準備完了。あとは、教本をひたすら書き写していく。基本文字、単語、文章。何度も何度も繰り返す。


 夜が明けるまで、書き続けた。


 朝食を摂って、また部屋へ籠る。

 教本を十回丸写しするのが目標だ。一冊終われば、次の教本を。紙は、まだいくらでもある。インクも気力も十分だ。どんどんいくぞ〜!


 昼食は、外に食べにいった。籠もりっぱなしだと、アンゼリカさんの血管が切れそうな気がしたので。[森の子馬亭]から、少し離れた食堂で、シチューのような煮込み料理を頼んだ。いやぁ、お腹いっぱい。美味しかった〜。


 気分一新。

 部屋に戻って、複写を再開する。


 夕食の時間になったと呼ばれたので、食堂(夕方からは酒場になっているが)にいく。

 「偽の討伐者」事件で、もっと顔が売れて騒ぎになるかと思っていたが。給仕をしていた人に聞いたら、「ここは女将さんの教育が行き届いていますから」と言っていた。さすが、アンゼリカさん。


 腹ごなしに竪琴をいじる。

 「リクエストを〜」と曲名を言われたけど、「独学で流行曲とか知らないので」と、好き勝手につま弾かせてもらった。なぜか、おひねりまで貰ってしまった。ただの練習だったのに。いいんだろうか?


 程々で切り上げ、部屋に戻って再び文字の練習。最初から丁寧な筆跡を心がけていれば、変な癖も出にくい。書き方に慣れて来たところで、筆記のスピードを上げていく。


 一晩中、書いて書いて書きまくった。最初の教本の十回書き写しが終わった。未使用の紙束は全く減る様子がない。漉きまくったかいがあったというものだ。

 朝食前まで書き続けた。


 [森の子馬亭]三日目の朝

 

 朝食の為に食堂に行くと、アンゼリカさんと彼女によく似た若い女性が、仁王立ちして待ち構えていた。


「お、おはようございます?」


 騒ぎなどは、起こしていないはずだけど。あ、昨晩のおひねり、貰っちゃいけなかったかな?


「アルちゃん、何をしているのかしら?」


 アンゼリカさん、にっこり笑っていらっしゃるようですが、こめかみに青筋が立っている。


「何って? やっぱり、自分の腕でおひねり貰ったのは、まずかったです「違うでしょ!」・・・」


「見てよこの子! まったく、無茶ばっかりして!」


 隣の女性に訴えかける。


「母さんが、手伝って!って呼び出しするから何事かと思えば。でも、確かに、これはダメね!」


「どちらさま?」


「娘のフェンよ。よろしくね」


「どうも、はじめまして。アルファです」


 しかし、わからん。なんで、初対面で駄目出しされるんだ?


「何でもかんでも一人でやろうとするんじゃないって、お母さん、言ったわよね? それで、どうして二晩も徹夜することになるのかしら!!」


 ばれてーら。


「その服、生地はいいもの使ってるようだけど、縫製が甘いわね。もったいない!」


 おや、論点が食い違っているよーな?


「「今日は、付き合ってもらうわよ?」」


 そこで、その結論に繋がる理由がわからない!


 二人に監視される中で、朝食を頂いた。味もよくわからない。


 食べ終わると、フェンさんと[森の子馬亭]従業員のリュジュさんにホールドされた状態で、別の店に連れて行かれた。リュジュさんは女将さんの名代だそうだ。


「では、フェンさん。よろしくお願いします」


 店の奥の部屋まで引っ張っていかれたところで、リュジュさんが何やら挨拶する。なにを、よろしくお願いされるのかな〜。

 その部屋には、大きな姿見があり、反対側の棚にはいくつかの反物と獣皮が並んでいた。


「私の店はね、ハンターや傭兵の軽装の防具と、旅行者向けの衣服や小物を作っているの。特に、女性用がうちの主力商品でね。一部は、ほかの防具店にも卸しているわ」


 職人さんだったか。自分の服の出来栄がイマイチだったので、どうにかしたい、と。


「でも、自分、これで不便じゃないですし・・・」


「「却下!」」


 リュジュさんまで。なんで?


「ほとんど、宿に籠ったままなのは、よくないです! 女将さんから、今日一日は目を離すなって。それに、そんなにおきれいなんです。もっと、身だしなみとか、おしゃれとか! ううう、くやしい〜〜〜!」


「リュジュさんや? あなたも十分若いし、街で暮らしているんですから、いくらでもいけるでしょ?」


 キッと、睨みつけられた。


「歳は同じくらいでも、素材が、素材が違うんです〜〜〜」


 泣き出した。


「いや、各人の持ち味を生かしてこその、着こなしというかおしゃれというか、でしょ?」


 フェンさんに同意を求める。が、


「どちらも、同意するわ」


 自分の頭のてっぺんから脚の先までを、じーっと観察し続けながら、そうおっしゃいました。


「もう! この人! 本当に自覚ないんです。フェンさん! 思いっきりやっちゃってください!」


 この歳から、燃えちゃうんだ、この街の人は・・・。


「任せて!」


「何を!」


 慌てて、聞き返す。


「もちろん、服と防具のコーディネートよ。腕が鳴るわぁ」


 なんか、妄想男を彷彿とさせる目付きをしてますよ?


「拒否権は・・・「「ありません!」」・・・そですか」


 その日は、一日、彼女らの玩具になることが決まった。

 主人公も、一度はまると熱中する人ですよね?


 #######


 主人公の、調査記録が数年分なのは、トレントの全分布域を探索し始めたのが三回目の脱皮が終わってから、だから。

 二回目の脱皮前は、まーてんのごく周辺、三回目の脱皮前は、「魔天]深淵部までが調査範囲。深淵部まではいるハンターは滅多にいないため、遭遇もしなかった。三回目の脱皮後、ようやく周縁部および周辺域を徘徊するようになった。

 トレントは、周縁部から深淵部まで分布している。

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