街の楽しみ
またまた、新章です。変なところからスタートしますが、よろしくお願いします。
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二度目のローデンの街を、おじさんに手を取られながら歩く。親子というには、どうみても無理がある二人連れだ。
「もういいじゃないですか〜。帰りましょうよ〜」
「なにおぅ! まだ、宿にも着いてないってーの!」
そんな会話を交わしながら、昼過ぎの雑踏の中をだらだらと歩く。
なぜか、その先にぽっかりと人がいないエリアが見える。それは、通りを右に左に移動していた。左右の露店を冷やかすにしては、動きが変だ。
よく見れば、大柄な男を含んだ三人連れが、わざと体を大きく揺らして歩き、通行の邪魔をしている。それを避けようと、人々が場所を空けていたのだ。
あ、目があってしまった? すんごいニヤけた顔をして、ずかずかと近づいてきた。
そっと、ヴァンさんに手を離すよう合図する。
「おう! 人様にぶつかっておいて・・・って」
体当たりする勢いで突撃してきたのを難なく躱して、体一つ分開いた隣に立つ。あからさますぎるわぁ。自分でなくても、誰だって避けて通る。
中央の大男が腹を立てて、顔を赤くする。
「・・・てめえ、ばかにしてんのか?」
「そっちが、でしょ? 「わざとぶつかって来たのか!」とかいって、難癖つけようとしていたのはあなた達の方では?」
さっきのやに崩れた顔からして、たぶん、この後どこぞに連れ込んで、あ〜んなこととかこ〜んなこととか、やりたい放題〜なんて、都合のいいこと考えてたんじゃないだろうか。どこにでもいるんだねぇ、こういう人たち。
「お、俺様を誰だと思ってやがる! サイクロプスを討伐した英雄だぞ!」
いや。それと迷惑行為とは関係ないよね。
「たっくさん、いましたけど。その中の、どちらさま?」
ますます顔の赤みが増す。血管切れそう。
「こちらの兄貴こそ、王宮から表彰された功労者だ!」
「アルファ兄ぃを知らねえのか!」
子分どもが、ふんぞり返って名乗りを上げる。
うわぁ。もう名前が知られてるよ。いや、たまたま同名だったのかな? それはどうでもいいんだけどさ。
周りをよく見ようよ。
そこにいた通行人が、そろって注目している。
「・・・なあ、表彰されたのって、女性だって聞いたけど」
「え〜、幻滅〜。もっと格好いいって思ってたのに」
「トップハンター連中なら、顔、知ってるんだよな?」
「あ、二ヶ月ぐらい前だっけ。ギルドハウスでその人たちが宴会したとか」
「そこにいるの、ギルマスじゃね?」
「ほんとだ。なあ、あんたなら教えてくれるよな?」
ギルドマスターがいる、と聞いて三人組の腰が少々引けている。だが、
「こんなところに、真っ昼間からギルドマスターがいるわけネェだろうが! てめえら、おれらが嘘付いているって言うのか?!」
ヴァンさんを見る。
「お、おい、これ以上笑い死にさせる気かよ・・・」
なんで、爆笑寸前?
「英雄でも、功労者でもいいですけど。通行の邪魔をしたり、女性を無理矢理連れて行ったりするのは、よくないですよ?」
「「「ふざけんな!」」」
判りやすく忠告したつもりだったが、通じなかったようだ。
「兄ぃを侮辱したんだ。覚悟はできてるんだろうなぁ?」
三人ともが武器を取り出す、でか男は、盾と見まごうばかりの幅広の大剣、下っ端は、普通の長剣と槍だ。
「小娘が! 往生せいやぁ!」
三方から取り囲んで、一斉に打ち掛かってきた。
ちょっとちょっと! 冷静になりましょうよ!
下っ端二人は、武器を構えた格好のまま気絶した。腹の急所に指弾を打ち込んだから。
でか男の大剣は、振り下ろされた瞬間、持ち上げることも引き抜くことも出来ない絶妙のポイントを黒棒で押さえつける。
力比べに一瞬ひるんだ隙に大剣の柄に飛び乗り、その場で顎を蹴り上げる。
彼だけ金属鎧を着込んでいて、指弾がきかないんだもん。
「おぐぅ」
白目を剥いて、ぶっ倒れた。やれやれ、これで少しは静かになったかな。
見物人から拍手がわき上がる。
「すげぇ!!」
「ちっこいのに、やるなぁ」
「この辺では見ない顔だよね?」
あれ? 思いっきり目立ってしまった?
そりゃそうだ! 真っ昼間の公道での立ち回りだ。目立たない方がおかしい! ヤバい、恥ずかしい、どうしよう! なにやってるんだ、自分?!
大笑いしているヴァンさんをがくがく揺さぶった。
「ねえ! これ、どうしよう? 笑ってないで教えて〜!」
だけど、げたげた笑い転げるばかりで、全く頼りにならない。ちょうど、巡回している兵士さんが来たので、泣きついた。
「すみません! 武器もってむかってきた人たちをのしちゃいました。この後どうしたらいいですか?」
おや? 自分の顔を見て、ビシッと固まった。
「「賢者殿!」」
ひっ! もしかして、あの時練兵場で見てた?!
「「「賢者殿?」」」
ヴァンさんが、まだ笑いながら、兵士さんに余計なことまで教えてしまった。
「こいつら、自分らの兄貴が「アルファ」だと名乗りやがってな、ぶくくく・・・」
「「! しょっぴいて、厳罰を与えておきます!」」
周りの人は、兵士さんの態度が不思議らしい。そうだろう。ただの猟師に向かって、王宮の兵士さん達が最上級の口調で対応してるんだから。
「あの、兵士殿? こちらの女性は?」
「「こちらが、われらの功労者! アルファ殿であります!」」
見物人一同に対し、大声で紹介する兵士さん。
「つ、つまり、本人の、目の前で、堂々と、偽物が、メンチを、切った、わけだよおい!」
止める間もなく、ヴァンさんがさらにしゃべってしまう。あちこちから、笑い声が漏れ聞こえてくる。
「そのうえ、どいつもこいつも、一撃で倒されてやがる。これが、笑わずにいられるか!」
ソレを聞いた人たちが、次から次へと笑い出した。騒ぎを聞いて寄ってきた人に話が伝わると、その人もまた笑い出す。
ヴァンさんも再び笑い出した。
やがて、あたり一体が、病気のように笑いで満ちあふれた。
自分も、当事者でなければ指差して笑い飛ばしていたのに〜。なんかもう、ため息が出る。
兵士さんに、声をかけた。
「・・・付き合います。どこに運べばいいですか?」
「「はっ、ありがとうございます!」」
三人の武器を没収した。自分は、でか男の足首を掴んで引きずっていく。持ち上げられなくもないけど、おんぶに抱っこはかさばりすぎる。取り巻き二人は、それぞれ兵士さんの肩に担がれている。
連れて行かれる三人を見て、何ごとかと隣の人に聞き、それをきいて笑い出す街の人たち。自分は、顔をあげて歩けない。
街門の近くにある一般人向けの牢獄まで、連れて行った。
三人は、当たりどころがよかったのか、全然目を覚まさない。途中で、暴れ出さなくてよかった。
「自分も、取り調べが必要ですか?」
と、聞いた。やっぱり当事者の一人だし。
「「いえ!! 全く! 必要! ありません!!」」
・・・そこまで、絶叫しなくても。
「では、後をお願いします〜」
「「了解、致しました!」」
ヴァンさんは笑いこけて動けなくなっていたので、通りに置きっぱなし。今のうちだ。
そそくさと、街を出た。
ああ、空の青さが目に眩しい。
それにしても、なんで、来るたびに騒動が起きるんだろう?
タイトルに偽りあり、でした。
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でか男は、「王宮に表彰された人物」を騙ることでうまい汁を吸おうとしていたならずもの。子分二人は、でか男を本物と信じて媚を売っていたチンピラ。
一同は、一発で撃沈されたことにいたくプライドを傷づけられ、復讐を誓うも、取り調べ時に、相手が「本物」だったことを聞かされた。サイクロプスを蹴り殺す勢いじゃなくてよかったな、と言われ真っ青に。その後、盗賊もやっていたことが判明し、罰として二十年間の山での石切作業を言い渡される。後年の口癖は「人は、見かけによらねぇ」。




