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いつもどおりの

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 街を出てしばらくは、変な人がこそこそ付いてきていた。鬱陶しかったので森に入ってすぐに撒いた。迷子にならなかったかな? いや、軽く引っ張り回したりはしたけどさ。


 ローデンを出て、その日のうちにまーてんに帰り着いた。

 まーてんの山頂に上がって、羽を伸ばした。いや、はねじゃないな、つばさだ。

 体力的にはどうってことはないが、とにかく精神的に疲れた。ぐでーっと腹這いになって寝そべる。


 は〜、ぬっくいわぁ〜。


 三日ほどは、そのままの状態でゴロゴロしていた。


 やっと、街でもらったアレやコレやを片付ける気になったので、山頂から降りる。


 ギルドからの報奨金だの、王宮の報酬だの、合計で百六十五枚にもなった。そのうち、自分が使ったのは、宿屋の宿泊費銅貨八十五枚だけ。

 ・・・くれると言ったのだから、貰っとこう。腐るもんでもないし。貨幣種類別に分けておく。

 今度、街にいった時は、おいしい物を食べようか。そうだ、香辛料を探すのもいいな。


 そうそう、これからも街にいくことを考えると、服をもう少し工夫したい。

 ずーっと着ている脱皮殻製は、見た目は革のスーツで、森で頻繁に変身するときの必需品。

 ではあるが、毛皮のロングベストを羽織っていたとはいえ、街中では目立つことおびただしい。てん杉布を王宮で見られたときも食いつかんばかりの様子だったので、ソレで一張羅を新調しても、やっぱり目立つだろう。


 幸いにして、森杉からも糸がとれている。てん杉の葉とロックアントの内臓で染色できることも確認した。まだ使っていない糸も染めて、織り上げよう。

 森杉布なら、そこまで目立たないですむ、はず。と、期待する。だってほら、怪我人の手当とかでずっと使ってきたけど、なんにも言われたことないし。でも、これでもダメだったら、街でショッピング、するしかないなぁ。


 サイクロプスの爪は、種弾に替わる結界用術具の実験に使う。結界用術具は複数回使えた方が便利なときもあるからだ。実用化できれば、種弾を頻繁に作らなくてもすむ。

 もちろん、まだ、種弾の追加補充は必要だ。攻撃用とか新しい術の実験用とか、とかとか。


 森の見回りも欠かせないし。


 ん〜、忙しい忙しい。



 二ヶ月ほど、森からは出なかった。ハンターにも会わなかった。彼らと森であうのは、今までも半年から一年ぐらいのペースだったので、別段おかしくない。


 作る物作って、実験して、また作って。


 爪弾は、一応成功と言える。強度、漢字の刻印は問題なく、術の発動も複数回出来た。

 困ったのは、飛ばしてしまうと、回収できないこと。藪の中に飛び込ませると、見つけられない。何度も使えるはずがもったいない! 身につけて発動するしかない。まあ、いいか。


 街中で防具を付けっぱなしにするのもどうかと思い、一回目の脱皮殻で作った手袋とブーツを作り直した。指輪にして、両手の中指と小指にそれぞれ付ける。手に付けた状態でも、脚の筋力制御は出来るようだ。その上から、いつもの手甲と脚甲も付けてみたが、こちらも制御に問題はない。ごっついアーミースタイルから脱却できた、かな?


 途中、動き回っている森杉を見つけたので、思わず切り倒してしまった。てん杉では条件反射的に作業してしまっていたからな〜。

 動かない森杉よりも質の良い糸だった。いいことを知った。いつも通り、糸をとり、樹皮と根も回収した。早速、糸を染色し、織り上げておく。


 服は、何とかなった。

 デニムに似た厚手の生地から、ジャケットとズボン、ベスト、そして、フード付きマント。もう少し薄手の平織り生地からは、カッターシャツ。色違いで複数枚縫った。細めの糸で織った生成りの生地は、下着用にした。思ったよりも、肌触りがいいので気に入っている。


 服関係の作業の合間に、森を見回った。ロックアントのシーズンはとうに終わって、随分と落ち着いた。


 森杉の樹皮からも、紙を作ってみた。コピー用紙まではいかないが、そこそこ書きやすい。綴ったノートを大量に準備しておく。

 そう、文字を覚える為だ。街に、教科書とか売ってないかな?


 後は、常備薬を作り増ししたり、素の種弾を作り増ししたり、てん杉の薫製果実を作り増ししたり。これらも、いつも通り。


 街から戻ってやろうと思っていたことは、ほぼ終わった。


 そういえば、ヴァンさんに「たまには顔を出す」と約束したし。そろそろ、行ってみるかな?


 

 ローデンに向かった。


 森を出たところで、手甲と脚甲を外す。黒棒も、総ロックアント製から、水晶玉付きに持ち替えた。いやどっちでも同じなんだけど、気分的に。

 ネックレスを付けて、門兵さんに挨拶する。


 身分証を見せたら、すぐに通してくれた。控え室のある方が、少々騒がしいようだが何か事件かな?


 そのまま、ギルドハウスに行く。


 受付のお姉さんが、自分の顔を見るなり飛び上がった。


「いらっしゃいました〜〜〜っ!」


 こっちが、びっくりした。何事!?


 ヴァンさんが、駆け下りてくる。


「〜〜〜やっと来たか〜っ!」


 ビビっちゃうような勢いで寄ってくる。


「な、な、なにがあったんですかっ」


 ありゃ? みんな、なぜか涙目になっている。


「あれから、全く音沙汰がないもんだからな? こないだの一件でローデンに愛想付かして、余所に往っちまったんじゃないかと・・・。

 ううっ、来てくれて、うれしいぜ!」


 そ、そういうことですか。


「だって、ほら、たまには来ますよって、言ったじゃないですか」


「でもよ、でもよぅ〜〜〜」


 暑苦しい男泣きがここそこで聞こえてくる。


 受付のお姉さんもすすり泣いていたけど、あえて声をかけた。


「あ〜、よかったら、皆さんに熱いお茶でも淹れてもらえませんか?」


「ぐすっ! そうですねっ! すぐにご用意します」


 全員に、配られた。これで、少しは、落ち着くだろう。

 酒にしなかったのは、気付効果よりも悪酔い効果の方が出そうだったから。酔っぱらうなら、夜にしてくれ。


「あの後、変わりはありませんか?」


 一階フロアの休憩所で、お茶をお替わりしながら、ヴァンさんと話をした。


「おう! ロックアントは、いい値で売れた。いやほんと、助かったぜ。お嬢様々だ。


 王宮の話は、ほとんど漏れてこないから、よくわからん。ただ、ウォーゼンって騎士がいたろ? あいつは時々ここに来て、障りのない分を教えてくれたぞ。スチャラカ王子が自分から勉強を始めたとか、団員が前よりも訓練に熱心になったとか、そんなところだ。


 そういやぁ、お嬢が街から出た翌日だけどな。貴族の館が、いくつか騒がしかった。関係あるかは知らんがな。私兵が、街から出るのを見たとか。


 ・・・お嬢?」


 あれは、王宮じゃなくて貴族連中の下っ端だったか。案の定、定時に帰れずに捜索隊を出す羽目になったわけだ。


「さくっと、撒いてしまいました。ついでに、ちょいと迷いやすい方に誘導してみたり。ちゃんと拾ってもらえたのかな?」


 ぐふっ、と、ヴァンさんが嗤った。


「それがよ、森ん中で仲の悪い家の奴らが鉢合わせして、喧嘩になったんだと。でもって、その音を聞きつけたかで、狼どもがわらわらと・・・」


 [魔天]周縁部のさらに外側の森外周部には、狼がいる。魔獣化していない獣でも、統率のとれた攻撃は非常に手強い。練兵場でぶっ飛ばした取り巻きのような連中では、歯が立たないだろう。


「あわてて、協力してなんとか撃退したが、怪我人続出でひどい有様だったとか。これまた、笑わかしてもらったわ」


 王宮ではまだ、貴族連中を完全に締められていないようだ。困ったもんだ。


「ん? なんだ? なにか問題ありか?」


「火の粉が降り掛かってきたら、払いのけるだけだし」


「・・・あんとき、ぶん投げたやつら以外にもいるってか?」


「王宮で表彰されてますし。一応、注目株、なのかな? そういうネタがあれば、手に入れようとか、使ってやろうとか、そんでもって出し抜いてやろうとか、他人の意思を無視してやらかしたがるのがお貴族さま、なんでしょ」


「・・・ああ、そういうもんだな。だがな、お嬢はうちの顧問だ。王宮っつー後ろ盾もある。下手なちょっかいは、自分の身をやばくするって考えねぇんか?」


「どこにでも、頭のゆるい人はいるもんです」


「それもそうか」


 さて、話もすんだし、帰るか。


「情報、ありがとうございます。これでどうでしょ?」


 金色の液体の入った小瓶を取り出す。蜂蜜だ。


「いや、スタッフ間での情報交換は、必要業務だから対価は要らん。だいたい、こんな貴重なもん、置いてかれても困るぞ」


 ありゃ?


「蜂蜜が、貴重品?」


「普通のやつなら、普通だ。だが、お嬢が持ってきたってことは、[魔天]のどっかからってことだ。普通じゃねぇ」


 話し言葉が、なんか変。ロックビーの蜂蜜であることは間違いないけど。


「・・・ま、お嬢だしな」


 ヴァンさんまで、そう言うようになったか。あ〜あ。


「偉い人の接待の時、お茶に添えてみるとか」


「そだな。スタッフへの差し入れってことで、貰っとくわ。ありがとな」


「それじゃまた」


 席を立とうとすると、あわてて聞いてきた。


「ちょっと待て! もしかして、もしかしなくても、もう帰るのか?」


「いやだって、ギルドに話しに来ただけですし」


「「「「いやいやいや!」」」」


 周りで話を聞いていた人たちが、一斉に駄目出しする。


 ほかに、用事ないもん。


「うまいもん食ってくとか!」

「ほら、アル坊、服、服見ていきなよ!」

「防具なんかもさ、職人技のきいたやつとか、いろいろあるしさ!」


「え〜、そんなの、いつでもいいですよぅ」


「「「「だめ〜〜〜〜っ!」」」」


 ヴァンさんも立ち上がった。え? 妙に威圧感があるんですが・・・。


「そういやぁ、女将に引きずってでも連れてこいっていわれてたな。おう、ちょいと配達してくる」


「「「「そうこなくっちゃ!」」」」


 く、首、首が絞まるっ。


 この街では、何かしら引きずり回されている気がする。

 ・・・こんな、日常は、いやだーっ

 二ヶ月程度では、ほとぼりは覚めていなかった・・・。


 主人公の受難?は、まだまだ続きます。


 次回から、新章です。

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