王子さまといっしょ
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団長さんとヴァンさんに懇願されて、結界を解除した。
が、ちょうど、外にいた魔術師さんが【火炎弾】を放ったところだった。自分たちの方に、一直線に飛んでくる。
ぎゃーっ
あぶなーい!
などなど、悲鳴が聞こえてきた。
女官長さんが、我に返って【防御】結界を発動しようとするが、間に合わない。
すっ、と自分が前に出る。黒棒を肩に構えて〜、フルスイング!
いい感じに、打ち上げた。
やがて、頭上で火の玉が小さく弾けて、散っていった。
た〜まや〜
周りを見ると、みな口を開けて見上げている。うん、なかなか派手できれいだったよね。
「皆さん、怪我はないですか?」
全員が、目をしばたかせたあと、こくこくと頷いた。大丈夫そうだ。
「長いこと、場所をお借りして、申し訳ありません。どうも、お邪魔しました〜」
よし、うやむやになった今のうちに帰ろう!
と、思ったその時、またも現れやがりましたよ。
「まてい! やっぱり、おまえがまおうだったんだな! こんどこそ、ゆうしゃがたいじしてやるぞ!」
練兵場の隅から、数人の男を従えたおぼっちゃま、もとい勇者さまがやってきた。
隣にまだいた女官長さんに、聞いてみる。
「お仕置きは?」
「! 多分、新入りの侍女が、取り巻きの身分を盾にされて、部屋からだしてしまったのだと・・・」
「・・・あれ、いいですか?」
一応、確認しておく。
「〜〜〜どうか、お手柔らかに〜〜〜」
「周りのも?」
「・・・はい」
「団長さんも、いいですか?」
「! う、あ、ああ、だが、ほどほどに〜〜〜」
よし、許可は取った。
おぼっちゃまの方に歩いていく。自分とおぼっちゃまの間にいた人たちは、あわてて両端に下がっていった。
「だから、自分はまおうでもありませんよ?」
「だまれ! まおう! せいぎはゆうしゃにあるんだ! まおうは、ゆうしゃにたいじされていればいいんだ!」
隣の人に耳打ちされたことをそのまま、おうむ返しのようにさけぶおぼっちゃま。
「えーと、勇者さまは、お付きの方が十分戦ってみせたあとの最後に大活躍するものでしょ? それが、勇者の陰に隠れてこそこそと。そんな人たち、勇者のお供とは認められませんね〜」
四人の取り巻きが、激高する。
おぼっちゃまの真後ろに立っていた男が、いきなり【火矢】を放ってきた。
これまた、黒棒で上空に打ちあげる。
「勇者を盾にするとは、卑怯なり〜」
おぼっちゃまの胸元に指弾で種弾を放り込むと『重防陣』結界を発動させる。
いきなり、おぼっちゃまに触れなくなった取り巻きさん達が慌てる、が、その隙に接近する。
他の二人が抜刀する間に、もう一人が弓を放ってくる。進行方向をいきなり右手に変更することで矢の着弾を避け、彼らの横合いから殴り込む。
ぼっちゃまの脇にいた剣士の体勢が整う前に黒棒を腹に当て、次の瞬間横殴りに振り抜く。地面すれすれを、体をくの字に曲げて飛んでいく。
黒棒で弓を絡めて取り上げると、つられて左脇ががら空きになる。右脇腹に黒棒をまわし、その勢いで横に投げ飛ばす。
呪文を唱えようとしていた魔術師の足元をすくい、前のめりになったところで腹から蹴り飛ばす。
「な、なんだ、おまえは、なんなんだ!」
一人残った男は、剣先をブルブル震わせながらわめいた。着ているものはかなり上質なものなのだろう。やはり、どこぞの貴族の息子さんか。
「そんな腕前で魔王を狩ろうとは、千年早〜い」
片手で黒棒を振り剣を跳ね上げたところで、右拳の一撃。気絶して倒れ込んできた体を右腕で受け止め、一旋して仲間の後を追わせる。
取り巻きご一行様、退場。
・・・よかった。気絶させるだけですませられた。内心、ほっとしたのは内緒にしておこう。
ぼっちゃまの結界を解除。
「あんなのを、従者にしているようじゃ、勇者さまの実力も知れてますよね?」
真っ赤になって怒るぼっちゃま。
「ちがう! ぼくは、ほんとうにゆうしゃなんだ!」
「へぇ〜、自分の知る勇者とはずいぶん違うんですねぇ〜」
「!」
「自分から「俺が勇者だ!」なんて、名乗った勇者がどこにいるんでしょう? みんな、人を助けて、人の役に立って、感謝されて、そうやって、いつの間にか誰かが呼び始めるものだと思ってましたが」
「!〜〜〜」
「だいたい、自称勇者のやることって、勘違いで騒動起こして、迷惑かけて、最後には退治されるのが落ち、ですよね?」
「!!!」
「それもわからないほどの子供じゃないでしょ。いくら、誰も相手にしてくれないからって、ごっこ遊びを城の外に持ち出したあげくに、まじめに仕事している人に迷惑をかけるんじゃない!」
顔を真っ赤にしたまま、泣き出しそうな顔をしている。が、容赦しない。
「泣けば何とかなるとか思ってる? それこそ、子供のすることでしょ? どれだけ、自分が子供だったか自覚できたかな?」
周りにも自分の声は聞こえているはずだ。
「だいたい、この城の人たち自体、どこかおかしくないですか? ちゃんとこの子のことを見ていました? チヤホヤするか、厳しくするか、の二択しかないんじゃ、この子だって混乱しますよ。この子が何を見て、感じて、何をしたいか、どうして欲しいか、ちゃんと解ろうとしていたんですか?」
「「「「「!」」」」」
そもそも、その辺がしっかりしていれば、城から脱出されるなんてことは起こらなかったはずだ。
「〜〜〜! お、王太子殿下は、街の者たちにも認められた、優秀な方で!」
「その身内がこの子ですか? その方の足を引っ張ってませんか? 騒動が起きない方が不思議なんですけど」
「「「「「!」」」」」
「まあ、人様の教育方針ですし。これ以上、赤の他人が口出しすることじゃありませんでしたね」
言い置いて、立ち去ろうとする。
「まて!」
ぼっちゃまが、鼻水たらしながら、制止した。
「まだ、なにか? ごっこ遊びに付合うのは、もうおしまいですよ?」
「おまえを、ぼくのじゅうしゃにしてやる!」
ため息をつく。
「人の話、聞いていませんでしたね。これ以上は付合わない、と、はっきり言わなければ解りませんか?」
「〜〜〜! そうじゃない! おまえは、ほかのものとちがって、ちゃんとはなしをしてくれた。そう、おもった。だから、もっとききたい、とおもったから・・・」
「自分は猟師です。城勤めは守備範囲外ですので、お断りします」
「どうしても、だめか?」
「だめです」
とうとう、泣き出した。
子供を泣かしたくはなかったが、彼の自業自得でもある。
女官長さんの方に歩いていく。
「厳しい諌言、確かに承りました」
「本当に、いい加減にしてくださいね? 部外者が出しゃばれるのはここまで。あとは、皆さんの仕事でしょ?」
侍女さんたちも、騎士さんたちも、そろって頭を下げる。あ〜、ほんとに柄じゃないんだけどさ!
「自分はこれで失礼します」
すたすたと歩き出す。
「「「「「「ご教授、ありがとうございました!」」」」」」
ぎゃ〜っ、どこの体育会系よ?
お兄さんが、横に来た。
「街門まで見送る」
「俺も行こう」
ヴァンさんも付いてきた。
城門から出た所で、大きくため息をついた。
「「どうした?」」
「疲れたんです!」
「一杯やってくか?」
冗談じゃない、これ以上付合えるか!
「ねぐらに帰って、休みます」
「「そうか・・・」」
「本当に、なんで、何の縁もゆかりもない自分が、あんなこっ恥ずかしい説教を、それも、あんなに人がいる前でやらなくちゃならなかったんですか!? 絶対、何か間違ってるでしょ?!」
「す、すまない」
お兄さんが謝っても、しょうがないけどさ。つい喋っちゃった自分も自分なんだし。顔から火が出そうだ〜。
「なるほどな、うちの連中が絶賛するわけだ・・・」
聞きたくない、聞きたくない!
「これでも食べて、元気出せ」
お兄さんが、あの串焼きをおごってくれた。
「腹が減ってると、怒りっぽくなるっていうしな」
ヴァンさん、問題が違いますて。
「本当なら、ロックアントについても相談したかったんですけどねぇ・・・」
「なんだとぉ!?」
「あんまり採れないと聞いたことがありますけど。今回の騒ぎの始めに獲った十一匹分がまるまるあります。どうします?」
「どうするって! そりゃぁ、手に入れば、ギルドとしては喜ばしいが、十一匹分となると、サイクロプスの爪よりも高ぇぞ?」
「首を一撃で落としているから、状態もいい。素材としては最高だと思う」
お兄さんが補足説明してくれた。
「! よし、買う! 買わせてくれ! ちょっとだけ、ギルドハウスに寄ってもらうが、構わねえな?」
「売るなら、ものを渡さなくて、どうするんですか」
またも、ギルドハウスへの道を辿ることに。
付き合い良過ぎますよね。
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【火炎弾】の打ち返し
魔力を弾くロックアント製の棒だったから、また、術式の芯をうまく「流せた」から、打ち上げることができた。野球の試合でやったら、キャッチャーフライでアウト。




