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おはなしあい、しましょ?

119


 王宮まで、ヴァンさんも付いて来た。「これ以上勝手な真似をされてたまるか!」だそうだ。自分も声を大にして言いたい。


 馬車も使わず、城門まで歩く。それまでの間、女官長さんは、ローデンの街の特産がどうとか、自分が好きな料理店の話とか、上機嫌で話していた。自分は、それぞれの話題について、お兄さんとかヴァンさんにおまけ情報を確認しながら、聞いていた。


 城門をくぐる直前、女官長さんに言ってみる。


「そういえば、結界のことも訊きたがってましたよね?」


「ええ! ぜひ詳しく教えていただきたいですわ!」


 掛かった!


「口で説明するより、実際に術を使ってみた方がわかりやすいと思うので、場所を借りてやってみたいのですが」


「では、練兵場を使いましょう。こちらですわ」


 門兵さんの一人に何か指示を出して、先に行かせる。ヴァンさんが、普通そうな顔を装いつつ、声をかけた。


「お嬢、何考えてるんだ? わざわざ、手の内を明かしてやるなんて」


 お兄さんも、心配そうに訊いてくる。


「アル殿は、俺たちを城に案内してくれたし、突発的な魔獣討伐にも参加してくれた。さらには、事件にも巻き込んでしまった。城側からお礼を増やすことはあっても、アル殿がこれ以上何かするべき義務はないだろう?」


「面倒ごとは、芽の小さいうちに潰しておこうかと♪」


 男二人が、顔を見合わせ、絶句する。


「そうだ、お兄さん?」


「な、なんだ?」


「もし、団長さんの手が空いているようだったら、いっしょに付合ってほしいです。伝言頼んでもいいですか?」


 びしっと背を伸ばしてから、頷いた。


「今の時間なら、練兵場にいるはずだ。先に行って確認してくる!」


 脱兎のごとく、駆け出していく。


「? あんなに、急いでいかなくてもいいのに。ね? ヴァンさん?」


 あれ? ヴァンさんの顔色も悪いぞ?


「あ〜、まだ二日酔いでしたか? いい薬、ありますけど、飲みます?」


「〜〜〜い、いや、いい、だいじょうぶだ」


 何となく、棒読みな返事だったが、大丈夫だというのだから無理矢理飲ませることもないな。


 練兵場に着いた。多分、非番の人たちの自主訓練をしていると思われる一角に、場所を空けてもらっている。小隊、中隊規模での訓練メニューは、反対側で行っているようだ。


「さ、さ、先日の結界は全く気付けませんでしたのよ。とても残念に思っておりましたので、今日はとても楽しみですわ」


 女官長さんは、今、とっても魔術師根性全開なのだろう。ま、知らない魔術を実地で知ることができる機会とあれば、無理もないが。ただし、期待通りにいくかどうかは、どうだろう?


 団長さんも来た。


「アルファ殿! お呼びかな?」


「こんにちは、団長さん。先日お約束した手合わせなんですけど、女官長さんにも見てもらいたくて。今日、お時間がよろしければお願いできませんか?」


 にぱぁっ、と破顔した。


「いやいや! こんなに早くに機会を得られるとは! こちらこそ、お願い致しますぞ!」


「それが、結界の実験も兼ねるのですが、かまいませんか?」


「剣技に影響があるものですかな?」


「いえ、音を遮るものです」


「ならば、問題ありませんな」


「女官長さん、先日よりも効果範囲を広げたいので、今日は術具を使います。配置してくるので、少し待っててください。団長さんは、装備の変更が必要なら、今のうちにお願いします」


 そういって、二人の側を離れる。


 なぜか、お兄さんとヴァンさんが付いてくる。


「・・・なあ、なんか、怒ってないか?」


「二人とも見学するつもりですか?」


「「当然!」」


「ま、怪我することはないでしょう。なんでしたら、乱入して来てもかまいませんよ?」


「・・・様子を見てから、考える」

「・・・そうだな」


「団長さんとの試合する広さって、このくらいあればいいですかね?」


 半径五十メルテほどの円状に、種弾を八個、等間隔に置いていく。


「! そういえば!」


「お兄さん! いきなりなんです?」


「アル殿の武器は?! ロージーにまだ貸したままだろう?!」


「今日の獲物はこちら〜」


 便利ポーチから、黒棒を取り出す。形状は、メイドさんに貸したのと同じだが、一端に水晶球をはめ込んである。


「・・・団長の大剣は、その辺の魔獣の首を一刎ねにするって聞いたことがあるが、ほんとか?」

「本当だ」


 またも、二人して、じっと見る。


「当たらなければ〜、だいじょうぶ〜」


 二人とも、まだ何か言いたそうだったが、団長さんの所に戻って来たところで、棒を回したり、体を軽くほぐし始めるのを見て、黙った。


「お二人とも、準備はよろしいのかしら?」


「おう、いつでも始められますぞ」


「まずは、結界を敷きますね」


 『重防陣、遮音』


 結界が発動した。


「!」


 すぐさま、団長さんに向かって、黒棒を突き出す。これは、女官長さんから距離を取るための牽制だ。

 団長さんは、素早く後ずさりしながら抜剣する。


「お手柔らかに〜」


 と言いつつ、足や腕を狙って、黒棒を薙ぐ。黒棒を剣で受けた時の力の大きさに驚いたようだが、すぐさま反撃して来た。そうこなくちゃ。


 団長さんの剣の振りに会わせて、黒棒の腹を当てていく。最初の一撃と違って、正面から受けないよう躱していく。剣撃の間隔が少しずつ早くなる。団長さんは、真剣に急所を狙い始めたが、すべて、柔らかく受け止めて流す。


 キン! カン! キキン!!


 女官長さんたちは、自分たちが結界中央で打ち合う様子を、結界境界ぎりぎりまで下がった所で見ている。


「〜〜〜すごい!」

「あの早さ、あの重さで、なんで受けていられるんだ?」

 

 男二人とは違って、女官長さんは、どんどん顔色を悪くしている。その様子に気がつき、


「女官長殿、いかがなさいましたか?」

「あんたなら、あの程度の試合は見慣れているはずだろ?」


「・・・あなた方には、判りませんか」

 

 ため息を一つついてから、説明を始めた。


「アルファ殿は、二種類の結界を張っています。私がお願いした【遮音】だけでなく、もう一種類」


「「それのどこが?」」


「! この範囲に結界を敷くのは、一流の魔術師でもなかなかできることではありません! そして、二重に! しかも! 術を維持しながら、あのような剣撃を難なくこなしている! こんな、こんなことができるなんて・・・」


「女官長殿なら、できるのではないのか?」


「一種類の結界を広範囲にある程度の時間維持する、あるいは、二種類の結界をうんと小規模に展開する、ぐらいならばできると思いますが、アルファ殿のようなことは、とてもとても・・・」


 説明しながらも、なおも顔色が悪くなっていく。


 団長さんには、三人がなにか話しているのは見えているが、話までは聞こえていないらしい。自分には、よーく聞こえていますとも。ふふふ、目論みは当たったようだ。


「アル殿!」


「なにか〜」


「はじめのとき以外に、反撃してこないではないか!」


「いやぁ、受け技の練習がしたくて♪」


「〜〜〜」


 女官長さんや宰相さんの悪巧みを止められなかったということで、団長さんも有罪♪ ここは、存分に相手してもらいましょ。


 剣にさらに重さが加わった。自分は、それでも受け流しに徹する。

 大剣は重い。できるだけ、団長さん自身に反射ダメージがいかないように、うまく流しているつもりだが、重量物を振り回す疲労度までは、軽減できない。そろそろ、いいかな?


 剣速がすこし遅くなった頃、カウンターを増やし始める。剣を受けた反対側の棒をすねに当ててみるとか、横薙ぎに襲って来た時は背中で受けて、肩を支点に跳ね上げ、脇を狙うとか。


 女官長さんが気づいたようだ。


「あの棒は、いったいなんなのです?!」


 そう、ただの鉄棒なら、団長さんの技量があればスパッと切られていてもおかしくはないはず。そのうえ、剣自体の重量に剣速が加わるので、たとえ剣を受け止められても、その分も含めてかなりの反動が来る。まして、こんなに、くるくると振り回すことは小柄な女性には無理だ、と言われるだろう。


 団長さんも含めた男三人が、女官長さんの絶叫を聞いて、そういえば!と言った顔になった。


 ふふふん。大成功。知りたがりの女官長さんは、もういても立ってもいられないことだろう。だが、教えてあげな〜い。せいぜい、地団駄踏むがいい。


 団長さんは、多分、本物の戦場ならばもっと集中力も維持できるのだろうが、最初っから、ただの試合気分でいたのであれば、体力的にもそろそろ限界だろう。


 こちらから、体を引く。


 団長さんは、剣を構えた状態でしばらく待機したが、すぐに剣をおろして深く一礼した。


「かたじけない」


「こちらこそ」


 声を小さくして、お礼を言ってきた。


「俺の立場も守ってくださったか」


「さすがに、衆目の中でぽっと出の小娘に膝をついちゃあ、騎士団長の沽券とか威厳とかいろいろまずいでしょうから」


「重ね重ね、配慮いただき感謝する。よい経験をさせてもらった」


「これくらいで、勘弁してあげます♪」


「?」


「女官長さんたちの暴走を止められなかったでしょ? もう、いい迷惑ですよ、本当に」


「! 〜〜〜」


 結界の外には、いつのまにか人がびっしりと集っている。が、誰ぁれも入れない。何を話していたかも聞こえていない。

 団員だけでなく、魔術師らしき人も混ざっている。【火槍】とか【風刃】をがんがんぶつけはじめた。が、破れない。大剣や大槌まで出てきたが、それでも破れない。


 それに気づいた女官長さんが、さらに顔を引きつらせた。


「三、三重の結界・・・!」


「女官長さ〜ん!」


 声をかけると、びくっとした。


「外の人と、タイミングを合わせて一発打ってみたらどうですか? 中からなら、破れるかもしれませんよ?」


 一瞬ためらったが、すぐに首を横に振る。


「いえ、我々が危険ですので」


「防御結界がご入用ですか〜♪」


 やったね。すんごい引きつった顔をしたよ。


「・・・いえ、十分、はい、十分すぎるほど見せていただきました。今日の所は、これで、どうか・・・」


 頭を下げてくる。

 団長さんもヴァンさんも、女官長さんの様子をみて、やや引き気味だ。

 おそるおそる、声をかけてくる。


「や、おれも十分てあわせしていただいたことだし・・・」

「もう気が済んだだろう?」


 あれ? お兄さんは一人納得顔をしている。


「さすが! アル殿!」


 自分とこの団長がこてんぱんにされておきながら、その感想はどうなの?

 今回は、主人公が女官長に圧力をかけました。効果はありましたが、ちょっとやり過ぎ?


 #######


 二重結界

 大規模結界魔術は、普通、魔法陣を使う。事前の魔法陣構築と発動後の集中力の維持が必要。二重結界は、二種類の魔法陣を同時に発動する。コントロールにさらに集中力を求められる。

 術具を使う結界の場合、魔法陣より規模が小さくなる。魔法陣の発動後、その結界内で術具を使った魔術の使用は可能ではあるが、前出の魔法陣との間で魔力と集中力を分ける必要があり、ものすごく器用な人でもなければまず無理。たいていは、術のバランスを崩して、どちらも失敗する。


 主人公は、今回、二種、各四個の種弾を交互に配置した。結界の維持は、種弾に込めた魔力で維持されているため、発動後の負担はない。最後に提案した、三つ目の結界内結界もやろうと思えば発動できた。


 女官長は、最初、『遮音』と『重防陣』感知結界の二つを認識。魔法攻撃を防御したことで、三種類の結界術であることを知った。さらに、術式を見破ることも、自力で再現することもできないと実感。悔しいを通り越して、実力差を実感しすぎて、自信喪失したところ。


 #######


 『重防陣』

 攻撃の感知と、物理、魔術のピンポイント防御の二重結界。

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