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意気投合

50話になりました! お読みいただき、ありがとうございます!

116


 城門から出る時には、メイドさんが見送りにきていた。


「その棒は、もうしばらく貸してあげます」


 まだ、傷が完治していないから。


「なくさないでくださいね?」


 そういうと、元気に答えてくれた。


「はい! またお会いできるのですよね! 楽しみに待っています!」


 その変なスイッチも早く治しておいて。



 ようやく城から出られたものの、ギルドハウスの場所が分からず、まだ、休暇続行中だというお兄さんが案内してくれることになった。あれ? 牢屋の時は仕事だっていってたのに。まあ、いいか。


 ぐったりしながら、街を歩く。


「どうした? 元気がないな」


「あ〜、ガレンさんの様子から、ギルドハウスでも穏便には終わりそうにないな〜と」


「これでも食べて、元気出せ」


 露店の串焼きをおごってくれた。肉のかたまりをこれでもか!と刺したボリュームある一品。味付けは、なかなか凝っているが、しつこくなく、とてもおいしい。


 そうそう、報奨金、というのももらった。金貨で三十枚。

 銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。銅貨五十枚の半銀貨、もある。おごってもらった串焼きは一本銅貨十三個。つまり、もらったお金で串焼きが二万本以上食べられる。


「・・・何か、変なことを考えていないか?」


「〜〜〜いえ、何も〜」


 文字が読めなくても、簡単な計算はできる。と、いうことにしておこう。


 頑丈そうな石造りの建物の一つに入っていく。

 中にいた、男たちがこちらを向いた。とたんに、


 うをぉぉぉぉぉっ


 雄叫びが響いた。


「!」


 がばり、とだきついてくるのを次々とかわして、外へ投げ飛ばす!


「さすが、アル坊、「密林の野生児」!! 待ってたぜぇい!」


 ガレンさんだけじゃなかった。討伐の時に見た知り合いを含め、その他大勢が待ち構えている。


「アル殿は、人気者だな」


 お兄さん、人ごとなのにウレシソウですね。


「俺もトップハンターとも話をしてみたかったが、そうもいかないようだな。これで帰ることにする。団長との約束もあることだし、待っている」


 頭をポンポンと叩くと、ギルドハウスから出て行った。


「おう、あんときの迷子の兄ちゃんか。なんか、ずいぶん面構えが変わったように見えたが、何かあったか?」


 自分は知らない! な〜んにも知らないったら知らない!


 なんと、マッシュさんまでいた。


「皆さんそろって、何事です? 依頼はどうしたんですか?」


「開店休業中だ。こいつら、「アル坊と飲むまでは、動かねえ!」とかいって、マジで居座り続けてやがる。頼むから、なんとかしてくれ!」


 奥から、ひと際、がたいの大きな人が出て来た。


「はじめまして、ガレンさんに呼ばれてきました。アルファです。よろしく」


 右手を出して、握手、と。


「おう、礼儀正しい嬢ちゃんだな。俺がここのギルドマスター・ヴァンだ。こちらこそよろしく。ってことで、早速話をさせてもらおうか。奥の部屋に来てくれ」


 ここでも、問答無用で連れ込まれる。ソファに座り、お茶をもらった。


「話っていっても、見当もつかないんですが?」


「ばっくれるな。サイクロプスのことに決まっている」


「あ〜、それなら、さっきお城で表彰とかされてきましたよ? 報奨金ももらったし。あと、なにかありましたっけ?」


「だから、ばっくれるな、といっている。あのデカ物、どうやって倒した?」


「えと、倒し方は人それぞれってことで、どうでもよかったような・・・」


「お前みたいなちんまい嬢ちゃんの一蹴りで瞬殺されたなんて、普通は正気を疑うぞ?

 だが、うちのトップクラスの連中がこぞって、本当だ!とかさすが!とか、子供みたいにはしゃぎやがって。そこまでいうなら本人に聞いた方が確実だ、と思ってな、実際のところどうなんだ?」


「解体した時にだいたいわかったでしょうに」


「・・・」


 やっぱり、ただの野次馬だ。


「んじゃ、話はこれで」


「って、まだあるぞ!」


 あと、何かあったっけ?


「ガレンに聞いたぞ? 欲しい部位があればってことで、爪を要求したってな」


「無理は言いません。なくてもかまわないくらいだし」


「? 欲しくないのか?」


「だから、できればって言っといたんです」


「〜〜〜討伐の功労者の要求だ。前足の片手分、後ろ足の両足分の爪が嬢ちゃんの取り分だ。

 それと、登録はしていないものの、うちの依頼の手伝いをした、ということで依頼料も出る。受け取っていってくれ」


「ずいぶんと、大盤振る舞いですね」


「王宮で表彰されているやつに出し惜しみできるか! うちのメンツに関わるんだ!」


「メンツだの何だのに、関係ない人を巻き込まないでくださいよ。そういう理由なら、なおさら要りませんから。では」


「いいや! 何が何でも受け取ってもらわなくちゃ、うちが困る!」


「知りません」


「いいから、受け取れ!」


「要りません!」


 聞き耳を立てていたらしい人たちが何やら相談している。相談? 悪巧み?


「どっちが勝つと思う?」

「おやじだろ?」

「じゃ、アル坊がどんくらい粘ると思うか?」

「いっとき」

「三刻」

「夕方の鐘まで」


 ・・・中まで聞こえてますよ〜


 ヴァンさんと顔を見合わせる。


「絞めるか?」


「いいですねぇ」


「獲物は?」


 久しぶりに[四つ牙]を取り出す。イノシシ型の魔獣の牙を集めて作った棒だ。


「そういうヴァンさんは?」


「これだ」


 と握りこぶしを突き出す。


「いいですねぇ」


「いくか?」


「いきましょうか!」


 ばかん! と戸を開く。


「退屈してるんだろ?」


「相手してあげます〜♪」


 そろって顔色を青くした。

 逃げ出そうとする。が、


 自分の方が早い。


 フロア出口まであと一歩、というところで、足下に棒を差し出し、跳ね上げる。

 背中から、床に落ちた。うまく、受け身がとれず、痛みにのたうち回る。


 ヴァンさんは、裏通り側の出入り口に陣取ったようだ。手加減しているようで、皆、顔やら腹やらにパンチをくらいながら、気絶できない。あれも痛いなぁ。


 自分は、棒を使って、右往左往する男どもの脚をすくい、腕をからげ、フロア中央にポイポイ投げ込んでいく。


 やがて、ヴァンさんと自分以外には誰も立っていなかった。


 二人は歩み寄り、がっちり握手する。


「皆が、言うだけのことはあるな。いい腕だ」


「なんの、師匠に比べたら、まだまだ」


「そうか? ところでさっきの話だけどな」


「ここで、賭けの結果を聞かせてやることもないですよね? いい店知りませんか?」


「わかってるじゃねえか! こっちだ」


 背後から、「アル坊、まてぇ」とか「また負けた〜」とか遠吠えが聞こえてきたが、無視する。


 今日は朝から、疲れることばっかりに付合って来たんだ。これ以上、玩具にされてたまるか。


「どうせ、宿は決まっていないんだろう?」


「街に入ったこと自体が、初めてなんですて」


「ここの飯はうまい、酒もいい。どうだ?」


「ヴァンさんの紹介ですか〜。今日のところはお世話になります」


「そうこなくちゃな」


 二人そろって、店に入った。

 お城から出ても、ぷち事件。


 #######


 「四つ牙」

 素材は、本文中にある通り。整形後、圧縮加工した。試しに作りはしたものの、[魔天]の魔獣にはあまり効果がないので出番のなかった一品。ロックアント製と違って、しなりがあるので、今回のような使い方にはもってこい。なお、さほど硬度はないので刃物で傷つく。

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