意気投合
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城門から出る時には、メイドさんが見送りにきていた。
「その棒は、もうしばらく貸してあげます」
まだ、傷が完治していないから。
「なくさないでくださいね?」
そういうと、元気に答えてくれた。
「はい! またお会いできるのですよね! 楽しみに待っています!」
その変なスイッチも早く治しておいて。
ようやく城から出られたものの、ギルドハウスの場所が分からず、まだ、休暇続行中だというお兄さんが案内してくれることになった。あれ? 牢屋の時は仕事だっていってたのに。まあ、いいか。
ぐったりしながら、街を歩く。
「どうした? 元気がないな」
「あ〜、ガレンさんの様子から、ギルドハウスでも穏便には終わりそうにないな〜と」
「これでも食べて、元気出せ」
露店の串焼きをおごってくれた。肉のかたまりをこれでもか!と刺したボリュームある一品。味付けは、なかなか凝っているが、しつこくなく、とてもおいしい。
そうそう、報奨金、というのももらった。金貨で三十枚。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。銅貨五十枚の半銀貨、もある。おごってもらった串焼きは一本銅貨十三個。つまり、もらったお金で串焼きが二万本以上食べられる。
「・・・何か、変なことを考えていないか?」
「〜〜〜いえ、何も〜」
文字が読めなくても、簡単な計算はできる。と、いうことにしておこう。
頑丈そうな石造りの建物の一つに入っていく。
中にいた、男たちがこちらを向いた。とたんに、
うをぉぉぉぉぉっ
雄叫びが響いた。
「!」
がばり、とだきついてくるのを次々とかわして、外へ投げ飛ばす!
「さすが、アル坊、「密林の野生児」!! 待ってたぜぇい!」
ガレンさんだけじゃなかった。討伐の時に見た知り合いを含め、その他大勢が待ち構えている。
「アル殿は、人気者だな」
お兄さん、人ごとなのにウレシソウですね。
「俺もトップハンターとも話をしてみたかったが、そうもいかないようだな。これで帰ることにする。団長との約束もあることだし、待っている」
頭をポンポンと叩くと、ギルドハウスから出て行った。
「おう、あんときの迷子の兄ちゃんか。なんか、ずいぶん面構えが変わったように見えたが、何かあったか?」
自分は知らない! な〜んにも知らないったら知らない!
なんと、マッシュさんまでいた。
「皆さんそろって、何事です? 依頼はどうしたんですか?」
「開店休業中だ。こいつら、「アル坊と飲むまでは、動かねえ!」とかいって、マジで居座り続けてやがる。頼むから、なんとかしてくれ!」
奥から、ひと際、がたいの大きな人が出て来た。
「はじめまして、ガレンさんに呼ばれてきました。アルファです。よろしく」
右手を出して、握手、と。
「おう、礼儀正しい嬢ちゃんだな。俺がここのギルドマスター・ヴァンだ。こちらこそよろしく。ってことで、早速話をさせてもらおうか。奥の部屋に来てくれ」
ここでも、問答無用で連れ込まれる。ソファに座り、お茶をもらった。
「話っていっても、見当もつかないんですが?」
「ばっくれるな。サイクロプスのことに決まっている」
「あ〜、それなら、さっきお城で表彰とかされてきましたよ? 報奨金ももらったし。あと、なにかありましたっけ?」
「だから、ばっくれるな、といっている。あのデカ物、どうやって倒した?」
「えと、倒し方は人それぞれってことで、どうでもよかったような・・・」
「お前みたいなちんまい嬢ちゃんの一蹴りで瞬殺されたなんて、普通は正気を疑うぞ?
だが、うちのトップクラスの連中がこぞって、本当だ!とかさすが!とか、子供みたいにはしゃぎやがって。そこまでいうなら本人に聞いた方が確実だ、と思ってな、実際のところどうなんだ?」
「解体した時にだいたいわかったでしょうに」
「・・・」
やっぱり、ただの野次馬だ。
「んじゃ、話はこれで」
「って、まだあるぞ!」
あと、何かあったっけ?
「ガレンに聞いたぞ? 欲しい部位があればってことで、爪を要求したってな」
「無理は言いません。なくてもかまわないくらいだし」
「? 欲しくないのか?」
「だから、できればって言っといたんです」
「〜〜〜討伐の功労者の要求だ。前足の片手分、後ろ足の両足分の爪が嬢ちゃんの取り分だ。
それと、登録はしていないものの、うちの依頼の手伝いをした、ということで依頼料も出る。受け取っていってくれ」
「ずいぶんと、大盤振る舞いですね」
「王宮で表彰されているやつに出し惜しみできるか! うちのメンツに関わるんだ!」
「メンツだの何だのに、関係ない人を巻き込まないでくださいよ。そういう理由なら、なおさら要りませんから。では」
「いいや! 何が何でも受け取ってもらわなくちゃ、うちが困る!」
「知りません」
「いいから、受け取れ!」
「要りません!」
聞き耳を立てていたらしい人たちが何やら相談している。相談? 悪巧み?
「どっちが勝つと思う?」
「おやじだろ?」
「じゃ、アル坊がどんくらい粘ると思うか?」
「いっとき」
「三刻」
「夕方の鐘まで」
・・・中まで聞こえてますよ〜
ヴァンさんと顔を見合わせる。
「絞めるか?」
「いいですねぇ」
「獲物は?」
久しぶりに[四つ牙]を取り出す。イノシシ型の魔獣の牙を集めて作った棒だ。
「そういうヴァンさんは?」
「これだ」
と握りこぶしを突き出す。
「いいですねぇ」
「いくか?」
「いきましょうか!」
ばかん! と戸を開く。
「退屈してるんだろ?」
「相手してあげます〜♪」
そろって顔色を青くした。
逃げ出そうとする。が、
自分の方が早い。
フロア出口まであと一歩、というところで、足下に棒を差し出し、跳ね上げる。
背中から、床に落ちた。うまく、受け身がとれず、痛みにのたうち回る。
ヴァンさんは、裏通り側の出入り口に陣取ったようだ。手加減しているようで、皆、顔やら腹やらにパンチをくらいながら、気絶できない。あれも痛いなぁ。
自分は、棒を使って、右往左往する男どもの脚をすくい、腕をからげ、フロア中央にポイポイ投げ込んでいく。
やがて、ヴァンさんと自分以外には誰も立っていなかった。
二人は歩み寄り、がっちり握手する。
「皆が、言うだけのことはあるな。いい腕だ」
「なんの、師匠に比べたら、まだまだ」
「そうか? ところでさっきの話だけどな」
「ここで、賭けの結果を聞かせてやることもないですよね? いい店知りませんか?」
「わかってるじゃねえか! こっちだ」
背後から、「アル坊、まてぇ」とか「また負けた〜」とか遠吠えが聞こえてきたが、無視する。
今日は朝から、疲れることばっかりに付合って来たんだ。これ以上、玩具にされてたまるか。
「どうせ、宿は決まっていないんだろう?」
「街に入ったこと自体が、初めてなんですて」
「ここの飯はうまい、酒もいい。どうだ?」
「ヴァンさんの紹介ですか〜。今日のところはお世話になります」
「そうこなくちゃな」
二人そろって、店に入った。
お城から出ても、ぷち事件。
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「四つ牙」
素材は、本文中にある通り。整形後、圧縮加工した。試しに作りはしたものの、[魔天]の魔獣にはあまり効果がないので出番のなかった一品。ロックアント製と違って、しなりがあるので、今回のような使い方にはもってこい。なお、さほど硬度はないので刃物で傷つく。




