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ショウタイム

114


「貴様のような小人でも、使い道はある。その命、わしの役に立つのだ。喜ぶがいい」


 んまぁ、今度は小太りな初老の男性が、ふんぞり返っているじゃないですか。

 さっきの中年に負けず劣らずな派手派手しいお召し物を身にまとい、あの似非執事を従えてやってきた。


 お兄さんが素早くメイドさんを抱え上げて、距離を取る。


「命が、役に立つ?」


「そこの侍女にこたびの不始末の責任を取ってもらうだけだ。だが、ただ死なせるだけでは、つまらぬ。

 有効な使い道とはこうだ。侍女は平民騎士と結託して殿下を害そうとした。当然、死刑だ。さすれば、護衛役も部屋付きも空白となる。分かりきった話ではないか。あとは、我が家の手の者がその席に着けば良い。わかったら、さっさとその首さしだせ」


 ・・・そういう、理屈でしたか。


「メイドさん? こちらの派手男は、こういってますが、どうします?」


「!」


 この場で「自分がどうしたいか」を聞かれるとは思っていなかったようだ。お兄さんも、目を丸くしている。


「どうします?」


「私は・・・」


 派手男が割り込んできた。


「お前たちの意思などどうでもよい。嫌だと言っても、従ってもらうだけだ」


「「!!」」


 自分は、竪琴その他諸々をしまって立ち上がり、派手男を見る。


 似非執事は、自分がマジックバッグ(便利ポーチ)を持っていることを知って、少々警戒気味だ。杖を構える。

 ふぅん、魔術師だったんだ。


「どうします?」


 かまわずに、メイドさんに質問する。

 手にした棒を握りしめて、震えている。


「教えて? 自分が、その棒を貸してあげたとき、どう思いました? 嬉しかった? 余計なお世話だって怒りました?」


「! そんなことは、ない、です。ただ、おどろいただけで・・・」


「なんで、驚くの?」


「あんな口調で話しかけられたのが、初めてで」


「驚いただけ?」


「・・・いえ、嬉しかった、です」


「どうして? どうして、嬉しい、と思ったの?」


「・・・この人は、自分を助けてくれる、と思ったから。そう、思えたら、嬉しい、と感じてしまって」


「ねぇ? 自分が助けた人がそれを喜んでくれるなら、助けたかいもある、自分も嬉しい。

 もう一度聞きますね? それで、いま、どうしたいですか?」


 自分の顔を見つめて、震えている。


 また、派手男が横やりを入れてきた。


「なにをつまらん話をしている。おい、さっさと仕留めてしまえ」


 自分たちは、大事な話をしているんだ! 邪魔をするんじゃない!!


 魔力が漏れた。


 建物全体が低く震える。


 似非執事は、即座に気絶した。


「おい! 何をやっている?!」


「そこのうるさい人?」


「この! 無礼者!!」


 低い声で話しかける。


「今、大事な話をしているところなんです。大人しくしてくれませんか?」


 一応、丁寧にお願いはする。が、


「これから死ぬ奴らに、なんの配慮がいるというんだ。しかも、ごろつきと平民相手に遠慮などするわけないだろうが」


 あ〜そう。


 たくさんある小部屋の檻が、がたついたかと思うと、へにゃりと歪んで床に落ちた。建物が立てる音はますます大きくなっている。


「メイドさん? 自分のことは自分で決めましょうよ。

 自分が助けた人が、つまらない男に利用されて簡単に死ぬ方を選ぶなんて、助けた人に対する侮辱だと思いませんか?」


 お兄さんも、メイドさんも、身動き一つしない。二人とも、冷や汗かいてない?


「ね? どうしたいですか?」


「〜〜〜生きたい、もっと生きていたいです!」


 よしよし。


 派手男を振り向く。ついでに壊れた柵を跨いで牢屋を出る。


「そこのうるさい人。ということですから、諦めてくださいな」


 あらあ、剣を抜いてきたよ。


「な、なにを諦めることがあるというのだ。お前たちこそ、諦めてとっとと、その命、わしに差し出せ!」


「や、です」


「!」


「あげませんよ。もったいない。あなたにあげるものなんか一つもないです」


 建物を造っている石積みにすきまが増えている。土ぼこりも舞い始めた。


「もうよい! 死ね!」


 人の話を聞いてくださいよ。

 剣を振りかざして襲ってくる派手男に向かって、一歩踏み出す。


 


 建物が崩壊した。



「うわぁっ」「きゃぁあ〜〜〜」


 お兄さんとメイドさんが悲鳴を上げてうずくまる。

 壁を形作っていた岩の破片が、派手男の握る剣に当たった。剣を曲げた石は、派手男の腹に跳ね飛んだ。


「おぶぅ」


 ふむ、静かになった。


 石はすべて崩れ落ち、周囲に積み上がっている。ほこりも落ち着いてきた。


 自分を含めて、下敷きになったものもいない。よし、問題ないな。



 ・・・なくない。

 この現状、いや、惨状は、もしかして、やってしまった?



 お兄さん、メイドさんが、おそるおそる顔を上げる。

 自分は、おそるおそる、二人を振り向く。


「「「・・・」」」


 遠くで、たくさんの人が騒ぎだしている。石造りの建物一つがあっというまにがれきの山になったんだ。当然だ。


 一応、確認だけ。


「えーと。・・・二人とも、怪我は、ありませんか?」


 我に返って、手足をぱたぱたと叩いている。


「大丈夫だ」


「脚以外は、怪我していません」


 よかった。


「あ〜、すみません! 自分でもちょっとやりすぎたというか、加減がというか・・・」


 今、自分はどんな顔をしているだろう。


「大丈夫です」


 メイドさんが、どこかすっきりした顔をして、きっぱりという。


 なにが?


「あの、アル様は、私を助け、私のために怒ってくださいました。だから、大丈夫です。私は、アル様が好きです。そういう自分になりたいです! ・・・好きでいても、いいですか?」


 〜〜〜そういう意味の、「大丈夫」だったんだ。


「俺も、大丈夫だぞ」


 お兄さんも言い募る。


「なんたって、アル殿のすることだしな」


 そういう納得のされ方しても、嬉しくないよぅ。


 今度は自分が半泣きになっているのだろう。埃と相まって、きっと、ぐしゃぐしゃだ。

 こんな顔、見られたくないんだけど。


 たくさんの人が、壊れた建物に向かって集まってきた。 




「ご無事ですか!?」


 何と、真っ先に駆けつけたのは女官長さんだった。

 その後から、団長さん含めて、騎士団の人たちがわらわらと駆け寄ってくる。


「えと、怪我人は一人だけ」


「誰です?!」


「メイドさん、こないだの怪我の分だけ」


 女官長さんの肩から力が抜けた。


「ようございました」


「・・・よくないですよぅ」


 今度こそ、泣きべそだ。


「すみません。一棟、全壊させました!」


 深々と頭を下げる。

 門兵さんに、「建物を破壊するような規模の魔術を使うと、処罰されます」って注意されてたのに!


 ?


 誰も、何も言わない。叱責も、罵倒も、恐怖に溢れた叫びもない。どうして?


 そおっと顔を上げると。


 ニコニコ笑っている団長さんと女官長さんがいた。


「! わ、笑ってる場合じゃ!」


「その牢屋は、近々改修工事する予定だったものです。ですが、見積りの時点で、建て替えとそう変わりないと出てまして。ですから、壊れても問題ないんですよ」


 団長さん?! いや! そうじゃなくて!


「あら、魔術師ならば、そんなことができる人もいなくはないですし」


 できるのと、やっちゃったのでは、意味が違うし!


「なんにせよ、アル殿のすることだから」


 お兄さん!


「その一言で締めないで!」

 以外と短気な主人公でした。


 #######


 建物崩壊のからくり


 主人公が漏らしたほんの少しの魔力が原因。

 似非執事は、その魔力の多さに耐えきれず失神。残る三人は、もう少し魔力耐性があったため、かろうじて気絶せずにすんだ。

 魔力が漏れた時点で、石の一つ一つに弱い重力低減効果がかかった。最後に主人公が一歩踏み出した魔力衝撃で、緩んでいた石積みはバランスがとれなくなり、連鎖的に崩れた。主人公のいた周辺(爆心地)の石は、主人公の魔力に耐えきれず、割れてしまい小さくなっている。

 派手男の剣を壊したのは、無意識にやっていたこと。


 魔法陣を使って盗賊のアジトを殲滅する、あるいは、術を失敗して研究室を吹き飛ばすケースはある。女官長が学生時代によくやらかしていた。

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