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みんなそろって

104


 便利ポーチから、怪我の手当用の薬と当て布、包帯、敷布代わりの毛皮などを取り出して、お兄さんに渡しておく。


 「まず、ロックアントを回収してから、食べ物を探してきます。手持ちの非常食は自分用しかないので。それまでに、手当をすませておいてください。

 それと、これとこれで、妄想男、じゃなかった、ヒスピダさん? に猿ぐつわかませて手足を縛って。できれば、お坊ちゃんにもかませておきたいところですけどねっ。まだ、目を回しているみたいだし、勝手にうろうろしないよう注意しておくんですよ?」


 お兄さんは、何か言いたそうだったけど、


 「・・・わかった」


 とだけ、答えた。

 言い方がきつくなったかもしれないけど、四人中三人が戦力外なうえ、ジャングル仕様な装備品をいっさい持たないご一行さまを一人で全部面倒見ろって、ちょーっとぐれたくなっても仕方ないと思うのですよ、ワタクシは!


 「動物避けの結界を張っておきます。話は、戻ってから。い・い・で・す・ね?」


 「・・・わかった」


 お兄さんは、これだけ答えた。


 四人の周りに結界用の種弾を配して、さっきよりも広い『防陣』を展開。もちろん、自分の出入りは自由。そういう結界なの!


 う〜ん、時間がない。十一匹のロックアントは、解体しないまま便利ポーチに収納する。次は、ご飯か。


 運良く、鹿を見つけた。指弾で為留める。竹籠も出して、芋や薬草を拾っていく。途中の川で水を汲み、芋を洗う。


 『防陣』に戻ってきた。

 なんか、お兄さんの目がまん丸くなっている。まあ、さっきは持ってなかった竹籠背負ってたり、その上に、自分と同じくらいの大きさの鹿が乗っかってたりするからね。ハンターのおじさんたちと初めて遇ったときも、あんな顔をしてたっけ。


 「・・・おかえり。ところで、聞いてもいいか? さっきは、何をしたんだ? ロックアントの残骸が、あっという間になくなったが・・・」


 そっちか。


 「あ〜、それより先に、ご飯にしません?」


 「・・・・・それも、そうだな。すまん、手伝おう」


 お兄さんには、鹿を解体してもらった。そのあいだに、串を取り出す。もう一度、外に出て、薪を集めてくる。この辺りだとスコールは毎日降らないから、乾いた枝も拾える。


 種弾で枝に火をつける。お兄さんたちってば、本当に何にも持ってきてなかった。火種すら持ってなかったとは。


 ぼっちゃんは、目が覚めていた。今のところ大人しい。頼りにしていた魔術師がぐるぐるまきの簀巻きにされているのがショックなのかな? メイドさんはまだ気がつかない。


 日が暮れる前に、たき火が準備できた。芋と肉を火にかざす。


 「改めて、礼を言う。すまなかった。ありがとう。俺はウォーゼンという。ローゼンのある貴族に使えている騎士だ。ヒスピダは、そこのご子息の家庭教師、という話だったんだがな。あと、ロージーは専属の侍女だ。それで、「詳しいことは、食べてから。どうせ、めんどくさい話なんですよね?」

 ・・・そうしよう」


 せっかく獲ってきたご飯だ、おいしくいただきたい。味が悪くなりそうな話は、後回し。


 「でん、ミハエルさま、肉が焼けましたよ。食べてください」


 ・・・今、言い換えましたね、「でん」なんとか・・・って。さっきアレは聞き違いじゃなかったんだ。うわぁ、やっぱり、イイトコ過ぎるところのおぼっちゃまであらせられましたか〜。


 「こんなものしかないのか? へいみん。ゆうしゃにふさわしいばんさんをよういしろ!」


 あ、いきなり復活した。


 「勇者さま。あいにく、これしかありません。食べてください」


 もー、取り繕う気も起こらない。

 伊達に三百年以上引きこもっていたわけじゃない。この時代の上流階級ご子息さま向けコミュニケーション能力を求められても困る。なにより、妄想系は、管轄外!

 担当者はどこだ?!


 お兄さんをじっと見る。


 「・・・ミハエルさま、食べてください」


 ・・・こちらも、コミュ障か。語彙が少なすぎる。泣けてきた。


 「これが、明日の昼までの食べ物の全部です。それと、今食べておかないと、おなかの虫が鳴りっぱなしになって、それを聞いたヘビが寄ってくるかもしれませんね〜」

 

 鹿一頭、大人四〜五人がかりでも一日で食べきれるものではない。そして、ヘビはどちらかというと、音より匂いとか熱で獲物を探す。と言う事実は黙っておく。


 「!!!」


 そうか、そんなにヘビが嫌いか。よし、明日も狩をすることになったら、是が非でもヘビを捕ってこよう。



 ひととおり食べ終わったあと、残りの肉と芋を木の葉で包んで蒸し焼きにしておく。こうすれば、冷めても味が落ちないし、メイドさんが目が覚めたときにもすぐに食べられる。

 ローブ男には、続けて眠ってもらっている。なんたって、妄想男に魔術とは、なんとかに刃物な訳で、危ないなんてもんじゃない。


 おぼっちゃまも、眠った。毛皮を出して掛けてやった。


 残り火が、小さくはぜる。


 「結界なら、朝まで持ちます。それまで、休んでください。明日の方が、大変なんですから」


 「今のうちに、話せることは「ありません」・・・そうか」


 背中丸めてしまったよ。きつく言い過ぎたかな? でも、厄介ごとなら聞きたくもない。


 「それにしても、何の準備も無しによくここまで入ってこれましたよね?」


 「皆、魔力耐性が高くてな。ヒスピダは魔術師だから[魔天]にも入れると言っていた。あと、あいつが一時的に足を速くする魔法を掛けたのを、必死に追いかけてきた」


 「いや、この辺は普通に入れます」


 「?! そうなのか? 密林に入るには魔術師か、魔力耐性のある者だけだと聞いていたのだが」


 [魔天]領域は、ほかの地域と違って土地自体の魔力が濃い。その影響を受けた動物が、魔獣に変異する。魔力の濃い土地に長時間いられるのは、魔力を使う技術に長けた「魔術師」か、あるいは生まれつき魔力に耐性のある人だけ。[魔天]中心部ほど、魔力は濃くなる。耐性持ちでも、どこまで侵入できるかは人それぞれだ。

 しかし、さっきも言ったが、この辺は厳密には[魔天]ではない。ただの森だ。


 「森の奥、[魔天]の影響ある地域は、確かにそうです。ただ、目で見える境界はありません。よく知らない人がついうっかり奥に迷い込まないよう、そういうことにしているそうですよ?」


 「そうですよ? って、あんた、いや貴殿はハンターではないのか?」


 「猟師はしてますけどね、街には一度も行ったことがないんで。それこそ、ハンターに教えてもらったんです。いったことがない事情はないしょ。女性の秘密を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反ってことで」


 なんか、複雑な顔をしているな。


 「・・・そういうものか?」


 「そういうもんです。ただ、一つだけ聞きたいことが。街に帰る方向はわかりますか?」


 「・・・」


 ・・・そこから?!

 葉っぱの包み焼きは、バナナ、あるいはホウノキの葉をイメージしてます。冷めたらおいしくないと思います。


 #######


 主人公の薬

 自分では怪我も腹痛も起こさないが、香辛料候補や薬草をいろいろいじっているうちに作れてしまったもの。でも、ハンターのお墨付き。薬効は高い。ものによっては効きすぎるので、希釈して使うこともある。種類はいろいろ。二日酔いの薬もある。


 #######


 当て布、包帯

 森杉の糸で織った布。

 てん杉の布は、世間一般には存在するはずのないものだとわかったため、質が下の森杉でハンター向けカモフラージュ用に作った。布のサイズが小さいので、今のところは誰にも突っ込まれていない。

 実は、これも世間にはない一品。また、見る人が見れば、織り上がりが優れていることに気づく。

 妄想男を縛り付けたひもも森杉の布。

 ちなみに、森杉、てん杉も、正式名称が別にある。

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