おともにもであった
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狩小屋の中には、簡易ベッド以外には何も置いていない。とっとと、出発しよう。
「多分、こちらですよ」
彼が歩いてきた痕跡を逆にたどっていけばいいはず。と、方向を示す。伊達に森暮らしが長いわけじゃない。自分の目には丸わかりだ。
しかし、
「違う、こっちだ!」
おぼっちゃまは、反対の方に歩き始めた!
素早く小脇に抱え上げる。
「なにをする! はなせ!」
だって、そっちは森の奥でお供の人などいませんがな。でも、素直に言うことを聞いてくれそうにないな。じたばたと、暴れる。
ということで。何食わぬ顔で、
「大変です。足下に毒蛇がいました。急いで逃げましょう!」
と、言い置いて走り出した。
ヘビが出た、と聞いて怖くなったらしい。おとなしくなった。よしよし。
あちらこちらに方向を変えながら歩いていたようだが、程なく分かれた地点までもどった。おぼっちゃまが言った通り、同行者の痕跡が三人分ある。どうも、最後尾を歩いていたおぼっちゃまが、あさっての方向に勝手に歩いていった、と。
やっぱり迷子じゃん。
それより、森の中で、子供から目を離すとは、なにかあったかな?
三人の行った方へ移動する。
途中で一人が別れている。年若い女性のようだ。おぼっちゃまがはぐれたのに気がついたか。考えて、残る二人分の足跡をたどることにした。
さらに、急ぐ。
その間、
「ぼくがゆうしゃなんだ」
とか、
「ゆうしゃはどらごんをたおすんだ」
とか、
「まおうもたおして、えいゆうになるんだ」
とか・・・
ユカイなことをつぶやいていた。が、ガン無視して、さくさく進む。
「おい、へいみん!」
相手にしてもらえないことに我慢できなくなったのか、怒り始めた。
そこで、
「なんですか? 勇者さま? 別のヘビが後ろに来ているんですけど」
と、言ってみる。いないけど。
とたんに、黙り込んだ。そんなにヘビが嫌いなんだろうか? おいしいのに。まあ、騒がれるよりはいいか。
それより。
さらに、スピードを上げで走りだす。
この先に厄介な魔獣がいるようだ。成人男性二人が迎撃しているようだが、おぼっちゃまの様子とか、あっさりはぐれたこととか、この分では期待できないな。
ぶら下げられた男の子は、さらに揺さぶられることで、目を回してしまったらしい。静かになった。よしよし。
いやもっと静かに移動することもできるけどね、あんまり静か過ぎると魔獣の待ち伏せと勘違いされてハンターに一撃食らいかけたことがあったものだから、人に近づく時は音を立てるようにしている。
それはさておき。
一気に接近する。
すぐさま、鎧姿とローブを纏った男二人の近くに到着。今しがた遭遇したばかりのようだ。
「なんでこんなところにロックアントがいるんだ!」
「この程度では、勇者さまに対して役不足というもの・・・」
彼らが相対していたのは、自分が岩大蟻と呼んでいたロックアントだ。勝手命名は世間じゃ通用しない。知り合いになったハンターに、いろいろ教えてもらったんだよ。
このあたりには、体長1メルテぐらいのフォレストアントが分布している。そして、ロックアントは体長2メルテで、周縁部よりも奥が主な生息域だが、この時期はけっこう外まで行動範囲を広げる。見た目はフォレストアントが巨大化しただけに見えるが、性質も強さも大違い。
それはさておき。ロックアントは、ハンター曰く、「一匹相手なら倒せなくもないが、こつがいる」。理由は、固いから。ちなみに、フォレストアントは魔獣ではないので剣や魔術で普通に倒せる。
鎧男は、噛み付かれないよう牽制するので精一杯のようだ。ローブ男は、なにやらぶつぶつ言いながら【氷矢】を叩き込んでいるが、これまた効果ないようだ。固いから。そして、魔術も効かないから。
彼らには、決定打が欠けている。かといって、思いあまって、こんな所で【火】系の大規模魔術を使われたりしたら、後が困る。森が火事になったり、魔術の巻き添えになったり。
まして、今は子供がいる。別の意味で生死に関わる。
つまり、時間がかかるだけ、不利になっていく。
仕方ない。
「助勢しま〜す! おぼっちゃまはこちら〜」
声をかけて、おぼっちゃまを男達の足下に転がす。
脇をすり抜け、回り込み、ロックアントの顎下に潜り込む。
「おい!」
まるで自殺行為のように見えたかもしれない。が、自分には問題ない。
がつん!
手にした黒棒を首の関節めがけて振り上げる。こつは、首関節の特定の部位を「力一杯」打ち抜くこと。蟻の頭が地に落ちる。
はい、おしまい。
今見たことが信じられないように、鎧男が叫ぶ。
「何者だ!?」
「勇者さまのお供の方ですよね?」
ロックアントの胴体が崩れ落ちる前にその下から離れ、にっこり笑って挨拶してみる。初対面での好印象は大事。
「無事で良かったです。勇者さまも心配していましたよ?」
手にした黒棒を背中に戻して、歩み寄る。
目を回した子供に目を向け、渋い顔をして鎧男は言う。
「勇者さまとは、こちらの方のことか?」
「自分で、そう言ってましたので」
ローブ男を振り返って、鎧男が問いただす。
「ヒスピダ! 殿下に対して、なんてことを吹き込むんだ!」
しかし、彼は、焦点の合ってない目をして、何やらつぶやき始める。なんか、変? できれば、お近づきにはなりたくない。
「そうだよ。殿下こそが、勇者なんだ! 今こそ、そのお力を見せていただく時じゃないか。そうだろう?」
ますます、怪しい。妄想もここまでいくと周囲の被害甚大だ。
ちょっと、やめてよ。仲良く無事にお帰りいただきたいだけなのに、話がおかしくなってない?
ローブ男は、くすくす笑いながら、両手を前に掲げる。え?
剣を構え、鎧男はやめさせようとする。しかし、
【氷槍】
木々の間を縫うように、多数の氷の槍が放たれた。
その結果、ロックアント十匹が姿を現した。
・・・何がしたいんだ、この妄想男!
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魔術師
魔力を用いて、魔術を行使する人
自分の持つ魔力や[魔岩]からの魔力を使う。魔術師は魔法陣も呪文も使う。
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術系統
適正を持つ人の多い順に、【火】【風】【光】、【土】、【水】【氷】、【雷】、【空間】
各系統を帯びた魔力を使って、術を発揮する。系統を帯びてない魔力を使うには、それなりの知識と技術が必要。
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系統魔力
ありふれている順に、【土】【水】、【風】、【火】【光】、【氷】、【雷】、【空間】
【土】【水】は、内包している魔力が多いため、術として使うには難しい部類になる。
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フォレストアント
でかいだけの昆虫。でも、噛まれれば痛い。蟻塚を作って集団生活する。これが魔力により変異してロックアントになる。
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ロックアント
攻撃されると反撃する。他の魔獣も同じ。
基本、単独行動だが、特定の季節に群を作ることがある。
フォレストアントが魔獣化した物、あるいは、ロックアントの死骸を食べた蟻が魔獣化したもの。なぜか、同じロックアントになる。魔力攻撃に強い耐性を持つ。
ロックアントの弱点は、のど元と、首関節の背中側にある。思いっきり力を込めて破壊すると首が落ちる。弱点でも、並の騎士程度では力不足なくらい、とんでもなく固い。ロックアントの背中に飛び乗り、足場の不安定な状態でも、大槌をピンポイント且つ全力で打ち込めるような人がいれば、楽勝。
騎士団が戦うときは、すべての脚の関節(やや固い)を壊して、身動き採れなくなったところで首を狙う。
外殻は削り出しで、鎧、盾などに加工する。鉄鎧より軽い鎧になる。捕るのも加工するのも大変なので、素材も鎧もそこそこの値段になる。圧縮、変形加工するためには、魔導炉(魔力を使った溶鉱炉のようなもの)と高度な技量が必要。主人公のように「手でこねる」なんてことは、他の誰にもできない。




