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ある日、森の中・・・

新章、スタートです。 タイトルに副題をつけました。


今後も、よろしくお願いします。

101



 空と地に[天]あり

 空に[天上]、地に[地天]

 地天より廻りて、天上へと還る

 天上と地天を繋ぎし[魔天]あり

 魔天に城あり、城に魔王あり

 魔王、生ける者と[天]を繋ぐ者なり


 ◆ ヘリオゾエアの伝承 ◆


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ヘリオゾエア大陸中央部には、資源豊かな森林が広がっていて、森林中央部は特に[魔天]と呼ばれている。しかし、[魔天]領域には、魔力を糧とする魔獣が多数生息しており、人々の安易な侵入を阻んでいる。

 森林の縁に沿って発達した都市や砦は、森林から恵みを得る狩猟拠点である。また、各都市は、[密林街道]によって結ばれていて、大陸の東西南北の物流をになう交易の要所でもある。


 そして、ここは、森林南西部に位置する交易都市、「ローデン」にほど近い森の中。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 自分は、いつも通りに、てくてくと、散策していた。


 なにせ、森から出ないうえに、滅多に人にも会わない、絶滅危惧種的ぷち引き蘢り生活をしていれば、都市間の経済活動などマジでどうでもいいことで。

 それに、一度、機会を失うとなかなか外に出る気にならなくて、ね。


 まあ、自分の現在地に近い街の名前ぐらいは、時々会うハンターに教えてもらっている。ほかにも、売れ筋の獲物の種類とか、新しい加工方法とか、うまい酒とか・・・。その程度の関係しかないのよね〜、今のところは。


 代わりに、森の情報を教えたり、[魔天]周縁部の魔獣素材を譲ったりしている。

 なお、自分がまーてんで作っているアレやコレやは、おいそれと他人には譲れない代物であることが判明している。素材そのものがめったに人手に入らないうえ、加工するのにとてつもない技術力が必要だから、だそうだ。そんなもんを、ほいほい市場に出したら、採取方法だの加工方法だの、その他よけいな事情まで追求されてしまう。


 されかけたけど。必死でごまかした。


 それでも、自分が渡す素材や加工品は、上等だとかで結構喜んでもらえている、と思う。


 「そろそろ、[蟻のシーズン]も終わりだなぁ。今年は、群の大きさも数も、ほぼいつも通りだったってことで、今度あったら教えてあげよう」


 そうだ、お土産になりそうな物を作っておこう。ちょうどいい獲物がいたら素早く確保の方向で。その前に、小屋に寄っておこうかな?


 結構な広さを徘徊するようになってから、捕った獲物の処理をするのに、いちいちまーてんまで戻らなくてすむよう、あちこちに狩小屋を建てた。


 便利ポーチ、便利なんだけど。一度うっかり入れっぱなしにして、後処理を数頭分まとめてやるはめになったもんだから。それからは、一頭狩るごとに解体し、部位に分けてしまうようにしている。整理整頓は最初が肝心。だけど、雨の中で解体するのもどうかと思うわけで。

 加工道具一式は持ち歩きしてるので、本当に「雨宿り用」。なんだけど、マメに点検しておかないと、痛んじゃう。


 「ここの小屋は三十日ぶりかな〜?」


 いくつか作ってある狩小屋の一つに到着。そこには、



 「はやく、どらごんをみつけてこい! ゆうしゃであるぼくが、たいじするんだ!」


 ・・・元気に「泣きべそ」をかいている男の子が一人、居りましたとさ。


 子供だ、子供。はじめて見た。


 それは置いといて。


 「どちらさまですか?」


 「だから、ぼくはゆうしゃだ!」


 全然状況がわからない。


 「えーと、迷子の勇者さま?」


 「まいごじゃない!」


 「お供は、居られないのですか?」


 「・・・」


 「お供の方「が」、まいごになったのですね・・・」


 「そ、そうだ。だから」


 「だから?」


 「う、う、うるさい!! いいから、ぼくはおなかがすいているんだ。なにかよういしろ!」


 「・・・」


 ローデンからは二日はかかる場所までどうやって来たのかとか、獣に襲われずによく無事だったなとか、いろいろ聞きたいことがあるのに。話が通じない。


 小屋の主の権利として、不法侵入者は問答無用で叩き出すか、とも考えた。


 しかし、相手は子供。どう見ても子供。十歳くらいの男の子。柔らかな金の髪、ふっくらしたほほ。上質な布地で作られた服と、子供用の防具と、それらに不釣り合いな練習用の剣。いずれも、きらびやかな細工が施されている。

 どこからどうみても、最低でも「上流階級のおぼっちゃま」にしか見えない。最悪「とんでもなく身分の高いおぼっちゃま」。


 放っておいたら後々どんな騒ぎになるか、考えたくもない。


 ため息が出る。



 決めた。


 「勇者さま?」


 「なんだ? へいみん」


 「・・・

 この小屋には、勇者さまのお口に合う食べ物がありません。それに、お供の方も勇者さまがいらっしゃらなくて困っておられることでしょう。

 自分は、ただの猟師ですが、よろしければ、迷子のお供をお探しになる手伝いをいたします。いかがいたしますか?」


 「ゆるす! では、とものものをさがしてこい」


 思わず拳を握る。


 が、深呼吸して。


 「お供は、怪我をしていてここに来られないのでしょう。お供の窮地を助けてこそ本当の勇者です。勇者さまのやさしさを示せば、増々忠誠を誓われるでしょう。ぜひとも、勇者さまが探しに行かれるべきです」


 と、提案してみた。


 「・・・そうだな、そういうものだな。とものものをたすけるのもゆうしゃのすることだ! よし、すぐ、いこう」


 すっかり乗り気になってくれた。案外ちょろい。この調子でいくか。


 ぼっちゃま一人を街に担ぎ込んでもいいが、おそらく、供回りの護衛が森の中を探しまわっているはず。これを探して、押し付けて、とっとと連れて帰ってもらおう。


 「ひとつ、お聞きしてもいいですか? お供の方は何人ですか?」


 「うん。けんしとまじゅつしとひろいんだ!」


 「・・・剣士と魔術師とヒロイン・・・」


 誰だ、こんな教育したのは?

 本文の補足、始めました。


 #######


[魔天]と「まーてん」


 呼び名が似ているのは偶然。


 主人公が「まーてん」と呼んでいるのは、住処のテーブルマウンテンとその周辺の草地まで。世間で言う[魔天]は、「まーてん」を中心とした、ほぼ円形に広がる魔力溢れる森全体のこと。生物層が物騒すぎて、ここを横断する街道が造れず、結果、森を取り囲むように街道が発達した。


 ちなみに、テーブルマウンテンのような魔力を放出している岩は[魔岩]と呼ばれる。[魔天]領域内のあちこちにある。[魔天]領域外にも数は少ないが存在する。素材として、主に魔術の増幅装置に使われる。採取量は少ない。切り出された[魔岩]は、徐々に魔力を失っていく。


 #######


 便利ポーチ

 主人公の作ったマジックバッグのこと(033話)。主人公の脱皮殻、てん杉布製。

 便利ポーチとこの世界にあるマジックバッグは、機能は似ていても全くの別物。

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