白い布団
028
幅広の布地が作れるようになってから、ちょっとやってみたいことがあった。
布団である。
てん杉の糸は綿にできなかった。手に入る動物の毛も、羊のような毛質のものはなく、詰め綿入りの布団の再現はあきらめた。そして、草原の草は、どうやっても干し草にできなかった。ちくせう。
てん杉の葉を代用品にした。
大洞窟の奥に、葉を積み上げる。その上に、用意した敷布をかぶせ、形を整えた。
そろり、と敷布の上に寝転がる。
杉の葉の香りがした。
正真正銘の人間に戻れた気がした。布団の上で、ごろごろ転がってみる。しかし、すぐに落ち着かなくなった。
今の自分が、嫌いではない。むしろ、楽しいことの方が多いと思う。あれやこれや工夫し、知恵を絞っていろいろ作って、思った通りのものが完成すると嬉しくなる。
それでも、「人間ではない」ことが、無性に悲しい。
誰も、話しかけてくれない。誰も、聞いてくれない。誰も、答えない。
どれだけ、人の生活を模していても、いや、より人らしい環境になればなるほど寂しさが募る。
そう、寂しいのだ。
こんなもの、作るんじゃなかった。
敷布をはぎ取り、葉の山を蹴散らし、外に飛び出す。
今日の雨は、一段と激しい。
雲の中に突っ込み、むちゃくちゃに飛び回る。
以前、森の外に見た城塞を思い出す。きっと、森に入る人もいるだろう。だが、まーてん周辺に人の暮らす痕跡はない。人が立ち入らない領域に、平然と生存している。それが、どんなに異常なことか、わからない自分ではない。
ならば、自分が森を出る? 出てどうする。いずれ本性がばれたとき、どんな顔をされるか。見た目は、この森の獣と同類だ。恐怖と拒絶とそして迫害と。なまじ、他人の温もりを知ってしまった後では、尚更辛いだろう。
ばれなかったとして、見た目10歳のままでは、街中でずっと暮らせる訳もない。
否定的な破滅的な未来しか思い浮かばない。
何故、自分だったのだ!
・・・やはり、あの時、自分は死んでいればよかったんだ。
身体中から力が抜ける。
そのまま、雨降る森の中に墜落していった。
とうとう、自覚しました。




