オイシイは、正義
018
肉食系女子も、板についてきた。が、まだまだ工夫が足りない。
塩と、胡椒だ。
塩は、山脈の一部で見つけた。ワイバーンの襲撃をかわして、山腹に取り付き、岩塩の固まりを両手でえぐり取ってきた。が、指先ですりつぶす方法では、少々粒が荒すぎる。
蟻団子を加工した乳鉢もどきで、細かくくだけるようにした。ほっとくと水分を含んで使いづらくなるので、食前にすりこぎを握る。ご〜りご〜り。
一つ、解決した。
次は、胡椒。やはり、味にバリエーションをつけるなら、必須の調味料だろう。
ということで、もっと探検。
狩りをしないときは、香辛料を求めて、森の中を徘徊した。もちろん、動植物の分布や生態などを覚えながら、少しずつ、行動範囲を広げていく。
とうとう、隣の岩山にまで足を伸ばした。あの、ライオンもどきの縄張りだ。見つかりませんように〜、と、抜き足差し足で岩山の周りの森を探検する。人型でいることと、魔力隠蔽が効いたようで、今日のところは何事もなく退散できた。
さらに、数日、探した。まだ、見つからない。
そもそも、胡椒の実など、写真でしか見たことがない。ホールタイプのシーズニングスパイスでは卓上で擂って使うタイプもあったが、中身まではよく見てないし。加えて、胡椒のなる植物自体、詳しく知らない。
いうまでもないが、この世界に地球と同じ胡椒があるとも限らない。
こうなったら、手当たり次第だ。
うろ覚えな形をたよりに、それらしい物を採取していく。そのうちに、色形にこだわらずに取ってきた。
持ち帰って、においを確かめ、すりつぶして、味を確かめる。
ちょっぴり甘かったり、酸っぱかったり、えぐい味の物もあった。それらを少量、肉につけて、さらに風味がどうなるか試食する。いや、香辛料は、そのままだと刺激が強すぎて食べられない物もあったし。やっぱり、味付けして、口に合うかどうかが問題だからね。
前にも言ったが、毎日狩りをしている訳ではないので、試食も含めて、ずいぶん探しまわった。
とうとう見つけた。
なんと、まーてんの草地と森の境目に生えていたのだ。見た目は、スズランの実で、あれは食べたら死ぬ代物だった。なので、無視していたのだ。なかなかそれらしい物にお目にかかれなかったある日、自棄になって、「食べちゃえ!」と。
表皮を剥いて、しばらく乾燥させ、それを乳鉢で砕いた。塩とそれを適宜振りかけて、焼いた肉にかぶりつく。
ああ、文明の味。
古い時代からいくつもの歴史に関わってきた、貴重な代物。中世ヨーロッパでは、ものによっては一時、同じ重さの金と取引されていたともいう香辛料。それがいま、ここに再現されている。
自分、バンザイ!
一人、踊り狂って食べまくっていた様は、まるでサバトのようだった、かも知れない。
そのうちに、フグ食べたい、なんて言い出しかねない・・・




