大脱線
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他の盗賊を尋問していた兵士さん達からも、次々に報告が入る。
やはり、何らかの刺激で興奮したとたんに気絶した、というものだ。
団「一旦、黒賢者の取り調べは切り上げる」
「それでは、こちらの術も解除しても構いませんか?」
団「陛下、よろしいでしょうか?」
王「騎士団長の裁量に任せる。アルファ殿、たびたびのご協力に深く感謝いたします」
「どういたしまして」
『拡声』を解除した。よって、勝手国王君と蒼騎士君の牢屋の『隠鬼』も解除される。
とたんに、蒼騎士君が、ぎゃあぎゃあうるさくなったので、ディさん達に理由を説明した。
ノ「道理で静かだったわけだ〜」
団「重ね重ねの配慮には、感謝の言葉もないな」
「いえいえ。自分が、うるさくなるのを避けたかっただけですから」
黒賢者ひとりで、あの騒音だ。勝手国王君がまざっていたら、収拾がつかなくなっていた気がする。とはいえ、勝手国王君は、作り付けの寝台の上にうつぶせになったまま。昨日の今日で反省したとは思えないし、さっきの取り調べは、全部聞こえていたはずなんだけど、静かなままだった。
蒼騎士君は、アティカに何をした! か、アティカ、大丈夫か? の、どちらかしか言わない。
「う、うん。なに、なにがあったの?」
おや、黒賢者が気がついた。
「アティカ、アティカ! 大丈夫? 怪我してない?」
「オーキス、うるさいわ。ちょっと気を失っただけみたい」
団「どうする? また、続けるか?」
それを決めるのは、団長さんでしょうに。
「さっきの、卒倒の原因。他にも倒れた人がいるようですので、そちらを調べてからの方がいいと思います」
囚人全員が、とか、盗賊だけとか、条件が絞れれば、原因も判る、かもしれない。感染する病気とかでなければいいんだけど。
うるさい牢屋を後にした。
盗賊の尋問も中断された。全員、元の部屋に戻されるところ、卒倒したものは、独房に隔離された。また、雑居房で気絶した盗賊も、独房に移されている。
今のところ、独房入りしたのは、ギルドハウスに居座っていた盗賊達だった。だけど、彼らの中でも数人は、雑居房に残っている。
団「ギルドハウスで捕縛して、卒倒したやつに共通しているのは、なんだ?」
ス「気絶したふりをした人は居なかったんですか?」
房から連れ出されたところで、暴れて逃げ出そうとするとか。雑居房がせせこましいから、独房の方がいいとか。
組「おう! よくぞ聞いてくれた! あいつらは、早速、試作品の試用に使わせてもらった!」
デ「はい?」
術「それじゃ、判りませんよ? あのですね」
レンキニアさんが、まともな説明をしてくれた。珍しい、と思ってしまったのは自分だけじゃないはずだ。
『瞬雷』の復元魔道具を作って、気絶したように見える人に使ったそうだ。槍のような形状で、手元にオンオフスイッチがある。本当に気絶した人なら、指先がかすかに動く程度だったけど、ふりをしている人は、目玉をひんむいて痙攣したそうだ。電圧、いくつに設定してあるんだろう。それに、
「それ、盗賊に奪われたら大変ですよ?」
特に、女性が。身動き取れないまま盗賊に拉致されたりしたら・・・、あとは想像に難くない。そう言ったら、
組、術「「あ」」
絶句した。
「安全装置、絶対に付けてくださいね?」
団「そう言う、アルファ殿の術具は?」
「あのー、昨日も説明しましたけど、どの術弾も、ほかの魔術師さんには使えなかったんですが」
術「私がっ! 私も試させてもらってもよろしいでしょうかっ!」
レンキニアさんのテンションが元に戻ってしまった。
団「あ〜、今度はうちの魔術師連中も大挙して来そうだな。興味のある者は、昼食後に、練兵場に集まるように言ってくれ。アルファ殿、何度も済まないが、付合ってもらえないか?」
「いいですよ?」
論より証拠。実験台もとい試験者が増えれば、自分も確証がとれるし。しかし、盗賊襲来からの復旧作業中でしょ? こんな事してていいんだろうか。
ス「見に行きますからね!」
ディさん、ノルジさん、モリィさんも、うんうん頷いている。この、野次馬め!
参加する人、その人達を誘導する人、無責任に見物人に徹する人・・・。練兵場は黒山の人だかりとなった。
かなりの人数が集まったので、いくつかの班に分けて、それぞれに術弾を渡す。一番害の少ない『花火』で、試してもらうことにした。
一番手はレンキニアさん。むーっ、とか、うーっ、とか、顔を真っ赤にしていたが、ポチリとも光らない。いや、力むんじゃなくて、術の発動命令を出すだけなんだけど?
次々にチャレンジしては、破れ果てる。敗者達は、今度は、なぜ魔術が発動しないかの検討を始めていた。研究熱心なのはいいんだが、やりすぎるなよー。
術「ううむ。興味深い! 既存の魔法陣とは一線を画している。術具に個人認証を掛ける? いや、聞いた事がない。なら、魔法陣? これは、研究の余地があるなぁ。ククククッ」
組「奪われないようにするよりは、使い手を限定させた方が良さそうだな。さて、どういった手段にするか? ぐふふふふふ」
終いには、ツートップが、己の世界に没頭してしまった。禁薬無しでもイケチャウって、怖い。
団「あー、ほどほどにな。さて。全員が全員駄目とは聞きしに勝る。ほら! 解散だ解散!」
ちなみに、いくつかの術弾は帰って来なかった。エルダートレントの種から作ったやつなんだけど、問題ないかな? 大丈夫かな?
まだ、夕食には早いという事で、城壁の上を散歩させてもらう。いつものメンバーだけでなく、団長さんも一緒だ。彼女、いつ仕事しているんだろう。
団「なに。アルファ殿らの護衛任務を買って出ただけだ。それに、フェライオス殿も言っていたが、アルファ殿といると退屈しないで済むし」
ス「違いますよ。アル殿が次は何をやらかすかと思うと気が気じゃなくて」
デ「お気遣いはありがたいのですが、さすがに騎士団長殿自ら護衛役というのも、大げさではありませんか?」
団「何をおっしゃる。王子殿下お二人に、コンスカンタの英雄殿が揃っているのだ。なまなかな者を侍らせたのでは、こちらの恥ともなる。私くらいが、ちょうど手頃だ」
ノ「手頃って・・・」
「英雄殿って、誰ですか?」
団「アルファ殿に決まっている」
当然、あたりまえ、一般常識、みたいな顔して言わないで!
「もう、賢者とか英雄とか、いっぱいいっぱいです。拒否します。自分は、おとぎ話の主人公じゃありません!」
「「「何を今更」」」
このぉ! またも、ディさん達に裏切られた。
「その呼び名の所為で、こーんな大騒ぎに巻き込まれたんです。いい迷惑です。もう結構です。聞きたくありません!」
団「あー、だがな? アルファ殿は、我々コンスカンタの住民が手をこまねいていたところに颯爽と現れ、十分過ぎるほどの助力を授けてくださった。爵位、褒賞、称号、ありとあらゆる名誉を受け取っていただきたい。いや、それでもまだ足りないくらいだぞ?」
要らない要らない! そんなもん、大迷惑以外の何者でもない!
が、
デ「そうなんですよねぇ。ガーブリアの被害も最小限に抑えられたってのに、受け取っていただけたのは、お使いをお願いした時にお渡しした手間賃と、私の小刀一本だけなんですよね」
ス「ローデンギルドの顧問職をお願いすれば、ギルドマスター以上にまめに働いてくださるし。新商品の開発にも貢献してくださったのに、売り上げの一部しか受け取ってくれないし」
なにそれ! 自分が悪いみたいじゃないの。
「全部、ちょこっとだけ手伝っただけでしょ? コンスカンタに至っては、盗賊退治に協力しただけじゃないですか」
「「「「「いやいやいや!」」」」」
モ「そうよ! 竜の里だって、ちゃんとお礼をしないといけないのよ!」
うわお! いきなりなんですか?
モ「あのね、あのね? 内緒よ? アルファさんは、行方不明だった子を、里に連れ帰ってきてくれたの」
ス「まさかっ」
団「あれか? 三百五十年前の」
モ「その子、孵ったとたんに、「お姉様に会いたいっ」って」
「「「「あ〜」」」」
モ「内緒よ? 人に話した事を長老に知られたら、私、叱られちゃう」
ス「もちろん。竜の里から正式な通達があるまでは沈黙を守る事を誓います」
団「陛下にも、お話してはいけないのか?」
モ「貴女、アルさんのお友達だもの。だから話したの」
団「・・・判った。ご息女殿の意思を尊重して、陛下には伝えない。これでいいだろうか」
団長さんは、モリィさんから友達宣言されて、ものすごく嬉しそうな顔をした。
モ「ありがとう」
デ「も、もちろん私も言いません。言いませんったら!」
何を焦ってるの。
モ「あの子の恩人でもあるし、里の恩人でもあるわ。なんで、今まで気づかなかったのかしら、私。本当に恥ずかしい」
「あれも、成り行きでそうなっただけなんですから。深刻に考えなくても」
「「「「「駄目!(だ!)(です!)」」」」」
全員から、駄目出しをいただきました。ふえぇ〜ん。なんでこうなるの。
ん?
団「どうされた?」
ちょうど、城門の上に来ていた。大通りから南に向けて視線が開けた場所だ。大通りの南側には建物はなく、川縁の崖っぷちまで広間になっている。その深い渓谷の先に、白っぽい岩がにょっきりとたっている。街壁に登った時にも、見えていた。周囲とは異なる岩質のようだ。なんで、今、気になるんだ?
そのとき、街の鐘が鳴らされた。カーン、カーン、カーン。カーン、カーン、カーン。三点鐘だ。
団「いかん! 全員、王宮奥の塔まで走ってくれ! 説明は後だ!」
言うなり、団長さんが駆け出した。
ディさん達とともに、あわてて付いていく。自分は、殿を務めた。こけた人が居たら拾っていくつもりで。ちょこっと振り向けば。街中の人が、城門や鉱山口めがけて走ってくる。そして、
「な、何あれ」
岩が光っていた。
光は、渓谷を白く染め、広間に到達し、さらに王宮に迫ってくる。
団「アルファ殿! 急いで!」
鐘は、連鐘になった。カンカンカンカンカン・・・。おっと、急がないと。
だが、王宮に入り込む前に、光に追いつかれた。
— おねえちゃん!
自分は、気を失った。
ゆっくりと意識が覚醒する。[森の子馬亭]で人事不詳になって以来、かな? また、アンゼリカさんに怒られる。
目を開けば、なじみのない天井が見える。ようやく、思い出した。コンスカンタ王宮で自分にあてがわれた客室だ。
体を起こそうとすると、頭の芯に鈍い痛みを感じる。魔震を受けた時にも、こんな痛みはなかった。あー、強いて言えば、二日酔い? でも、吐き気はない。なんだろう。
「気付かれましたか?」
首を回せば、メイドさんが心配そうな顔をしていた。どっかで、見た事のある人だ。コンスカンタじゃなくて、どこだっけ?
他にもメイドさんが居るようだ。
「治療師に連絡を。お見舞いは、診察後の治療師の判断を待ってからです」
いや、女官さんだな。ふくよかな、いい声をしていらっしゃる。
「ご迷惑を、お掛け、しました」
あらら。声がかすれてる。
「こちらをお飲みください。詳しい説明は、もう少し体調がよろしくなってからにいたしましょう」
体を支えて起こしてくれる。カップも支えてくれた。一口、含む。白湯だ。もう一口。はふ。
また、ベッドに寝かされた。
「あの」
「まだ、お話にならない方がよろしいかと。状況は、簡単に説明して差し上げますから」
城壁の上で倒れてから、まだ三刻ぐらいしかたっていないそうだ。三日でなかったのは幸いだ。また、昏倒したのは自分だけで、スーさんを除く三人が、やや気分が悪くなり、やはり、客室で休ませてもらっている。
「倒れられた原因ですが、治療師に説明させますわ。あら、わたくし、自己紹介もまだでしたわね。コンスカンタ王宮女官長を勤めております、メルメエメラ、と申します」
女官長さんでしたか。フェンさんとこの会計担当のお姉さんと、名前がかぶってる。でも、その分、親しみが持てそう。
「自分は」
にっこり笑って、自分の台詞を封じた。やるな。
「存じております。どうぞ、お楽になさってください。それにしても、先日の、あの盗賊どもへ下された鉄槌。もう、興奮しましたわ」
貫禄たっぷりの女官長さんが、両手を握りしめ、うっとりとした顔で言う、台詞じゃないですね。・・・怖い。
「お姉様。目を覚ましてくださって、本当に、よかった・・・」
最初に声をかけたメイドさんが、涙ぐんでいる。でも、ちょっと待て! お姉様って、なに?
ここで、また風呂敷を広げてしまいました。
次話から、最終章です。
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作者より、お詫び。
読者の皆様には申し訳ないのですが、次話以降のストックが尽きてしまいました。そのため、次章から、毎週金、土の予約投稿に変更します。
「いつか、どこかで」は、必ず完結させます。また、話数が確保でき次第、毎日投稿に戻す予定です。未熟者の作者ではありますが、どうか、長い目で見届けてやってください。
どうぞ、よろしくお願いします。




