正義の定義
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メイドさんに、スーさん達もサロンに参加するかどうか聞きにいってもらった。なんとなく、先に聞いておかないと、後から「ずるい」とか「仲間はずれにした」とか、文句を言われそうな気がしたので。
スーさんは、血相を変えて飛び込んできた。
「今度は何をやらかすつもりなんですか?!」
どういう伝言を聞いたんだろう。予想の斜め上の叱責が飛んでくるとは。
「何もかにも。魔道具職人さん達と話をするだけですけど」
モリィさんは、
「アルさんの話は全部聞きたいわ」
コレまた意味不明な理由だ。
とにかく、もう少し広いサロンに移動して全員が着席できるようにした。まず、コンスカンタで使った術具のコンセプトと特製盾の形状の理由を説明し、その後、組合長さんの司会で質疑応答と相成った。
レンキニアさんは、猿ぐつわをかまされての参加だった。いいんだろうか。
質問が出なくなったところで、解散となった。
残った人達(ローデンからやってきた一同と団長さん、組合長さん、レンキニアさん(猿ぐつわ中))で、ゆっくりお茶が飲めるようになったのは、もうじき夕食、という時間だった。あー、よくしゃべった。
「アルファ殿は、本当に二十二なのか? 魔道具、いや術具の開発は時間をかければうちの職人達でも出来るだろうが、とにかく発想が並じゃない」
団長さんが、感心したような呆れたような感想を述べた。
「根が臆病者なので」
「「「「は?」」」」
「ほら、森で一人で修行していたわけですから、慎重な行動をする必要があったわけですよ」
ス「慎重? どこが?」
失礼な。まあ、自分の怪我ではなく、過剰殺生を防ぐため、とは口にしないが。
モ「だって〜、森の中で、あの『花火』を光らせても意味があるの?」
「どうせなら、きれいな方が楽しいでしょ?」
ノ「やっぱり違う、なんか違う〜ぅ」
同系統の『灯』は、周囲の照度と比較する事で最適な光量を維持し、なおかつ目が疲れにくい波長も自動調整する、という、手間のかかった一品なのだ。ただ光らせる「だけ」の設定にすれば、失明するほどの光量をまき散らす、近所迷惑も甚だしい物騒な代物と成り果てる。『花火』は、まあ、日本の花火を再現させたかっただけなんけど。
とにかく、自分の術弾は、めいっぱい術式を書き込まないと、まともに発動しないか、極大発現するかのどちらかになる。
単純に光らせる事が出来ない苦労を判って欲しい。言えないけど。
「複雑な形なら、より相手の気をそらせる効果が高いです。で、その隙に逃げます」
という口実にしておこう。
デ「逃げちゃうの?」
「『花火』を見た他の魔獣が集まってくるかもしれないでしょ?」
団「なら、狩をする時は?」
「『隠鬼』で、出来るだけ獲物に近づいてから、急所を一撃。あとは、安全なところまで全力で撤収します」
実際には、相手に気付づかれる間合いの外から指弾一発で仕留めて、すかさず便利ポーチに放り込み、まーてんの麓か『防陣』を張った狩小屋で悠々と解体している。
組合長さん(組)「あんた、盗賊でもやっていけるよな」
「なんで、そんな面倒くさい事をしなくちゃならないんですか」
ス「面倒くさいって・・・」
「だって、自分が食べる物は、森で調達できます。着るものだってなんとかできます。人から奪う必要がどこにあるんですか?」
団「この辺りの盗賊は、それが出来ないから盗賊やってるようなものなんだがな」
「修行が足りませんねぇ」
ノ「だから違う、絶対違う・・・」
夕食の用意ができたそうなので、食堂に案内された。
王様や宰相さんも混ざった夕食となった。
「私も、その勝手国王とやらの言い分を聞いておきたかった」
なんでそこで悔しがるんですか?
宰「陛下。一字一句違える事なく記録してございますよ」
王「読むと聞くでは臨場感が大違いだ!」
・・・臨場感って。アイドルのコンサートとは違うんですが。
団「アルファ殿。すまないが、明日の黒賢者の時には、陛下にもその術具を渡していただけるだろうか?」
「えーと、追加は、どれくらい必要になりそうですか?」
今日は、術弾四十個セットを持っていられるように、大急ぎでベストの内側にポケットをしつらえた。が、それ以上の数となると、術式を少々いじる必要がある。胸の増量を術弾で、って言うのも情けないし。
王様ほか王宮組が、頭を突き合わせて数え始めた。・・・改良は必須なようだ。
黒賢者の尋問には、昨日のメンバーのほかにも、治療師さんが立ち会うことになった。
王様とレンキニアさん、組合長さんには、マイク用術弾も渡す。自分が持つのは、双方向セット三つと、多スピーカー対応のマイク弾一つ。スピーカーとマイクの関連付けの術式を書き換える手間は掛かったが、その甲斐はあったな。
「なんでこんなところに入れられなくちゃならないのよ。出しなさいよ! あたしは陛下の側近、賢者なのよ? 不敬にもほどがあるわ!」
この子も、妄想系? やだなぁ。
ス「・・・なんかもう、全部口に出ちゃってますよね」
こりゃ失礼。
団「お前達は、コンスカンタ国内での盗賊行為の現行犯として捕縛された。判らないのか?」
「何が盗賊行為よ。陛下の、ホムラ君の言う事を聞かないやつらが悪いんだから。罰を与えてあげただけじゃないの!」
判ってないらしい。
「その賢者って、ローデンでも名乗ってたよね。なんで?」
「あたしの方が、優れているからよ」
うん。胸は自分よりも立派だ。
ス「何が優れているというんだ?」
「決まってるでしょ。魔術よ魔術! あたしに掛かれば、どんな人が来たってやっつけられるんだから。ホムラ君の邪魔をする人なんか、消えて当然よ!」
デ「岩山を砕いたっていうやつ?」
「それだけじゃないわ。弓なんか当てさせたりしない。【炎の槍】も【氷の矢】も、ぜーんぶ弾き飛ばしてやったわ!」
甲高い声で、きゃらきゃらと笑う。
うーん。なんか、こんなかんじの人をどこかで見た気がする。そう、迷子事件その一、だ。治療師さんに、質問してみた。
「あの、こんな症状っていうか、とんでもなく気分が高揚したり、妄想全開になったりする薬って、ご存知ありませんか?」
治療師さんの顔色が悪い。
治療師さん(治)「・・・あります。魔力量を増やす効能がある、と、一時期もてはやされましたが、すぐに副作用が明らかになって、禁薬に指定されました」
団「副作用とは?」
治「長期間服用すると、さっきアルファ殿の言われたような症状が出ます。さらに服用を続けると、・・・」
言い淀んじゃった。
治「死にます」
団「なんだとっ!」
「あれって、人をやめちゃうだけじゃなかったんだぁ」
ス「アル殿! それってもしかしてドストレ家の!」
「えーと、名前は忘れました。瞳孔が開いちゃって半開きの口からよだれが垂れて、一人では歩けない状態になった魔術師さん、を見た事があります。変な薬でも飲んでたんじゃないかと、予想はしていたんですが」
治「おそらく、禁薬のせいでしょうね」
大概の魔術師は、そういう精神異常を起こす薬には耐性があるそうだ。魔術を行使する訓練によって、集中力とかいろいろ鍛えられるから、だと言われている。なので、魔術師がおかしくなる原因は、禁薬でほぼ間違いないらしい。
ちなみに、[魔天]領域での魔力酔いは、まんま二日酔い状態になるが、魔力の薄い場所に移すだけで、ほぼ回復する。さらに、ドリアードの根を飲ませれば、もっと短い時間で普通に動けるようになる。一方で、何もせずに放っておけば、急アル中毒みたいに昏睡したまま死亡する、事も、ある。あった。多くは言いたくない。
それは置いといて。
「[魔天]領域外の森で遭遇しまして。ヤバい状態になる一日前までは、意味不明な台詞をいいながら、ばんばん【氷の矢】を打ちまくってましたけど」
治「その後、何か服薬しませんでしたか?」
「いえ。危なっかしいので、猿ぐつわかませて身動き取れないようにさせて連れ出しました。水だけは飲ませてたんですが」
治「禁断症状が進んだためか、もしくは服薬量の限界がきていたのかもしれません。記録によれば、その症状が出てしまった者は、一月以内に死亡しています」
「あれ? 黒賢者は、二日以上、王宮の用意したものしか口にしてませんよね? 禁断症状が出ててもおかしくありませんか?」
デ「うーん。そのヤバくなった魔術師と黒賢者の違いはなんだろう」
「あ。」
団「なんだ?」
「ドリアードの根。あれで、体内の魔力を強制的に排出させてます」
治「回復できるぎりぎりのタイミングで、ドリアードを服用したため、副作用の発作が出る前に間に合った、のでは? もっとも、今後も経過観察が必要ですが」
「ちょっと! あたしを無視して、何の話をしてるのよ?!」
ス「忘れてましたね」
「あんた! 顔はいいけど、不敬よ! これでも食らなさい!」
檻の隙間から、手を突き出した。
が、それだけだ。
「な、なんで。【火炎弾】が出ないの・・・」
それから、必死になって魔術を使おうとしていたが、炎ひとつ、水滴ひとつ現れなかった。
治療師さんに、こそっとささやきかける。
「ドリアードの根は、どうやって与えてるんですか?」
水に溶かせば、粉っぽい感じの濁りがでるので、警戒されるはず。
治「ああ。食事、シチューなどに混ぜてます」
なるほど。ナイスアイデア。
一方、黒賢者は、牢屋の床にへたり込んだ。
「う、うそよ。そんなはずないわ。あたしは、誰よりも優れてる。だから、ホムラ君にも認めてもらえた。これから、もっともっとあたしを見てもらって、そうして幸せになる。そう、幸せになれるはずなのよ。
いや、いやよ。魔術が使えないなんて、ホムラ君に振り向いてもらえなくなる。あたしは幸せになりたいのよ!」
がしっ。格子を握りしめて、睨みつけてきた。
「あんた達が何かしたんでしょ! あたしの魔術を返して! 返しなさいよ!」
団「なんで、魔術が使えないと幸せになれないんだ?」
「ホムラ君は、かっこいいだけじゃなくて、とっても強いわ。どんなにきれいな女の子もいい家の娘でも、「弱っちい」の一言で相手にしてもらえなかった。
でも、あたしには魔術があった。同級生だけじゃなくて、先輩達にも使えない魔法陣の魔術も使えた。そうしたら、言ってくれたの。「おまえは、いいな」って。ちゃんと話もしてくれた。いままで、散々あたしを馬鹿にしていた子達とは違うのよ。あたしは、あのホムラ君に選ばれたの! だから、これからもホムラ君と一緒にいるのに、魔術が使えなきゃいけないのよ!」
「うーん。百歩、いえ、千歩譲って、魔術が使えるから偉い、として。それでも、無関係な人を傷付けていい理由にはならないよね?」
王宮の怪我人の中には、街壁上にいて魔術をぶつけられた人だけでなく、石積みの家を壊されたときに重傷を負った人もいた。
「アハハハハッ。ホムラ君の言う通りにしないのが悪いのよ。ホムラ君は、王様、陛下なの。みんな、言う事を聞くのが当然なの!」
「勝手国王君の、言う事を聞かなきゃならない義務なんて、これっぽっちもないんだけど?」
癇に障る笑い声を上げている黒賢者に、釘をさす。なんか、薬の所為だけじゃないよねぇ。もとから? 最初っから妄想系?
「誰が勝手国王よ!」
「自分勝手に国王を名乗って盗賊の親分程度で粋がったあげく捕まってお仕置きされて泣きじゃくったお子様君?」
牢屋の外にいた人達は自分の意見に同意してくれた。マイク弾の向こうからは盛大な拍手が聞こえる。ほら、多数決だよ?
王「よく言ってくれた!」
「な、なによ! ホムラ君のお父さんは偉いんだから! あんた達だってただじゃ済まないわよ!」
虎の威を借る狐、二匹目。
ス「それそれ! ローデンでは、なんでその人の名前を出したんだ?」
なぜか、胸を張ってドヤ顔をする黒賢者。
「だって、将来の義理のお父様よ? 宣伝ぐらいして差し上げるのは当然だわ。それをなによあの貴族! まともに話も出来なかったわよ? ばかばかしくなったから、やめたの。あんな馬鹿貴族、お義父様に紹介するまでもないわ」
「「「わー」」」
ギャラリーから、気の抜けた声が聞こえる。
「つまり、好きな男の子の親に胡麻をすったつもり、と」
デ「あのさぁ。商人と国王じゃ、どちらに権威があるか、知らないはずはないよね?」
「ふん! コンスカンタみたいなしみったれた国、ろくに食料も手に入らないくせに威張るんじゃないわ! ユアラの大商人の方が偉いに決まってるでしょ」
「「「「・・・」」」」
王「言うに事欠いて、よくまあ」
組「俺達から、大量に魔道具を買いあさっているくせに」
二人とも、こめかみに血管が浮いているんじゃないだろうか。
「頭が悪いにもほどがありますね」
治「禁薬を使用しているうちに、誇大妄想が固定されちゃったのかもしれませんねぇ」
「固定って?」
団「そういうことはあるのか?」
治「さあ。私もこういう人に付合った事はありませんから、断言はしませんよ?」
こちらも、力一杯疲れた声で言う。
「王様ごっこを続けている理由、原因、根拠、が判りませんね。いくら何でも、学園に通っていれば、現実も理解しそうなものですけど」
「何が現実よ! ホムラ君が一番なの。それを認めない人の方が間違ってるの。当然でしょ?」
その場にいた他の人達も、深いため息をつく。
「見たいものしか見てない、って感じ、ですか」
団「気に入らない事は暴力で排除し、都合の悪い事は認めようとしない、か。こいつも、どんな育ち方をしてきたんだ?」
黒賢者がいきなり激高した。
「いくらあたしが孤児院の出だからって、馬鹿にしないでよ!」
団長さんと顔を見合わせた。
「孤児院に居たの?」
団「別に馬鹿にしたわけではない。呆れていただけなんだが」
「なんで誰もあたしの言う事を聞いてくれないのよ?! 親が居ないだけで馬鹿にする方が間違ってるでしょ!」
それはそうだが。って、あれ?
黒賢者が、へたり込んだ。
団「おいっ! こいつ、どうしたんだ?」
「興奮しすぎて、気絶したのかな?」
そこに、兵士さんが駆け込んできた。
「団長殿! 盗賊どもの数人がいきなり気を失いました!」
伏線が〜、ずいぶん前のネタがぼろぼろと湧いてきています。拾いきれない・・・(涙)。
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魔力量増強薬
本来の能力以上の魔力を扱うために、脳に負荷が掛かっている。時間が経てばたつほど、負荷は累積し、最後には脳組織を破壊してしまう。
黒賢者は、まだ脳組織が起こるほど摂取していない。また、捕縛されてから、体内から魔力が失われているため、魔力を扱う事が出来ず、結果、脳への負担が軽減されている。
ドリアードの根の煮汁でも、連日がぶ飲みすれば同様の症状を引き起こす。禁薬の原材料は、別物。




