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趣味な連中

535


 やめろ! とか、ぎゃあ、とか、悲鳴も出なくなった。いや、泣き出してしまった。子供だ。


「お、おやじにも、叩かれた事は、なかったのに!」


 どこの、アニメの主人公?


団「なってないな。親の顔が見てみたいぞ」


「そういえば。ユアラの出身、なんだよね?」


「おやじはっ、ユアラのっ、大商人っ、なんだぞ! こんなことして、ただでっ、すむとっ」


団「ほう。是非お名前を聞かせてもらいたい」


 団長さんの声が尖った。


「ラストルムっ、だよっ」


「「「「あっ」」」」


団「聞き覚えがあるのか?」


「黒賢者が、ローデンで口にしてるんです」


団「ふむ。小娘にも詳しい話を聞かなくてはならないようだな」


「だからっ。覚悟っ、しとけっ」


「結局、最後は親頼みかぁ。でもね。一国をここまで荒らしておいて、いくら大商人でも責任取れるのかな?」


団「無理だな」


「なんでだよっ!」


デ「下手に庇立てすれば、他国での暴力行為に加担した咎で、財産没収、身分証の取り上げ、ぐらいで済めばいいですが〜」


ス「状況如何では、血縁一同が斬首刑、もありますね」


団「ふむ。コンスカンタの法では、終生、鉱山労働者として働かせる。さらに重罪なら、寝るのも食べるのも鉱山の中。死ぬまで外には出られんよ」


ス「彼を取り押さえられなかったという事で、ユアラ王宮も追求の対象になりますね」


 さすが、各国の王子樣方と騎士団長さんだ。さらりと刑罰を提示する。


デ「しかし、あそこの騎士団、そこまで弱かった?」


ノ「父親が大商人だって言うし。手加減しようとして、失敗した、とか」


団「ありそうだな」


「なんだ。虎の威を借る狐君だったか」


デ「なんですか? それは」


「立場の強い人の威厳とか影響力を自分の力と勘違いして、威張り腐る小物のことです」


「「「「なるほどぉ」」」」


 尻を叩く手は緩めない。


「俺がっ、小物だって?」


「子供の小物。いや、小物な子供? 全然シャレになりませんねぇ」


ス「そう言う場合ではないと」


「だって。あちこちで迷惑かけまくって、捕まえてみれば、こーんなお子ちゃまですよ? なんなんですか、このやり切れなさは! しかも、これだけ言っても、反省の色を一っつも見せないなんてっ!」


「誰がお子ちゃまだ! このちんくしゃ!」


 ばしばし!


「いてえ! やめろ! やめろよぅ!」


 昼過ぎまで尻を叩き、泣きつかれてぐったりしたところで解放した。


 近寄ってきたスーさんが、ぼそりとつぶやく。


「・・・むごい」


「本気で叩いていませんから、こんなものでしょう」


「これで?!」


 尻を真っ赤に腫らしている。ズボンをはかせる時にも、酷く痛がった。立たせようすれば、まともに歩けない。

 再び枷を付けられ、またも両腕を兵士に抱えられ、足を引きずるように牢屋へ連れ戻されていった。


 彼とともに練兵場を出る時には、入り口を守っていた兵士さん達の拍手で送られた。敵は取ったぞー。


 彼の独房の隣が、あの黒賢者の独房だった。勝手国王君を見ると、格子を握りしめ、自分達に向かってわめきだした。


「ちょっと! あんた達! ホムラ君に何をしたのよ!」


団「目を覚ましていたか。ちょうどいい」


「その前に、お昼にしませんか?」


 さすがに疲れた。精神的に。


団「それもそうだな」


 気絶していた勝手国王君を特製牢屋に放り込むと、きゃんきゃん吠える黒賢者を無視して、出て行く。

 その道すがら、兵士さん達のサムズアップとまぶしい笑顔で見送られる。


団「・・・なんだ?」


「ええと、すみません。自分も勝手をしました。兵士さん達も、彼の主張を聞いてみたいかなーと思って、あちこちに『拡声』をばらまかせてもらいました」


 特製盾で盗賊をどつき回していた人の奮闘ぶりもとい暴れっぷりを間近に見て、相当鬱憤が溜まっていたと察した。

 故に、出来るだけ長時間保つように力加減に気を付けたし、何より、芝居がかった台詞で怒ってみせた。半分は、本気だったけど。

 お仕置き劇場を耳で聞いて、あれに参加できなかった人達が、少しでも気が晴れてくれればいいなー、と。


デ「それって、それって、いくつくらい?」


「ええと、自分に付いてくれた侍女さんと牢屋の兵士さんに、二十個ぐらいずつ。人の集まるところに置いてくださいって、お願いしました」


団「・・・やるなぁ」


「あんなお子ちゃまだったとは、皆さんも予想外だとは思います。でも、彼らの分も思いを込めて尻を叩きました♪」


団「いや。後日、尋問の結果を知らせなくてはならない、とは思っていたんだ。多分、兵士達はこれで溜飲を下げてくれるはずだ」


デ「あ、あー。もしかして、リンチを防げたって事ですか?」


団「そうだ」


 なんとまぁ。そこまでの効果は見込んでなかったんだけど。


「それなら、黒賢者は明日にしませんか? じっくり話をしたいです」


団「また、頼めるか?」


「準備しておきます♪」


ス「・・・魔術合戦、なんてやらないですよね?」

デ「それわ!」

団「するのか?!」


「やってもいいですけど。・・・冗談です」


 全員が、顔色を変えて詰め寄ったので、撤回した。


「黒賢者には、ドリアードの根の粉末を飲ませています。なので、魔術はしばらくまともに使えない、はず、です」


デ、ノ「「は〜」」

ス「脅かさないでください!」


「さて、ご飯にしましょうよ」


 遅めの昼食だったが、おいしくいただいた。給仕のメイドさん達も、すばらしい笑顔を振る舞ってくれた。うむ、笑顔でいただく食事は楽しい。

 だが、ディさん達は、心ここにあらず、といった感じだ。


「スーさん、どうしました?」


「いや。明日の事を考えると、こう、胃がきゅっと」


「殺したりはしませんから、安心してください」


「それで、安心出来ればいいんだけど、ね」


 ノルジさんも、胃の当たりの服をぎゅっとつかんでるし。ん?


「モリィさん? まだ、残ってますよ?」


 料理が口に合わない、って事はなかったよね。


「ううん。そうじゃなくて」


「ちゃんと食べてください。料理してくださった方に失礼ですよ?」


「・・・うん。わかった」


 何か考えているようだが、無理に聞き出すのも悪いよね。


「悩み事なら、相談に乗りますから」


「あ、ありがとう。よく考えてから、うん、その時はお願いするわ」


 大丈夫かな。


 モリィさんとスーさんは部屋に戻り、自分達は厩舎に向かう。


「みどりちゃあぁんっ! おーまーたーせぇ〜」


 ノルジさんは、みどりちゃんにがばっと抱きついた。普段以上に、濃厚なスキンシップだ。案内してくれた厩舎の担当者も付き添いの侍従さん達も、思いっきり引いている。


「・・・トリさん。トリさぁん!」


 あれ? ディさんも、トリさんにしがみついた。何かあったっけ?


 相棒達は、ムラクモの馬房に集まって丸くなっている。その場房の前に、荷馬車も運び込まれていた。


「こちらで保管していてくださったんですね。ありがとうございました。すぐ片付けます」


 が、ムラクモが鼻を鳴らす。あれ?


「ムラクモ? ほら、荷物が一杯だし。重いでしょ」


 またも鼻を鳴らす。


「えーと、これ、乗せたままで引きたい?」


 大きく頷いた。走り回る方は満足したから、こんどは趣味の時間、ってか?


「・・・すみません。相棒が眺めていたいというので、ここで預かってもらっていいですか?」


 兵士さんに頭を下げる。


「邪魔だなんてとんでもありません! け、んじゃなかった、アルファ殿、の相棒方のお好きなようにしてください。それより、我々のお世話に、問題はありませんか?」


 相棒達を見れば、みんな緩やかに尻尾を振っている。


「気持ちよく過ごしているようです。大丈夫ですよ」


 当たりの兵士さん達が、大きく息を吐いた。


「コンスカンタには、従魔連れは、めったに訪れないもので」

「粗相があったらどうしようかと心配していたんです」


 いい人達だ。


「お心遣い、ありがとうございます」


「お気づきの点がありましたら、何なりと申し付けてください」

「それにしても、先ほどの一幕は痛快でした!」

「よく、やってくださいました!」


 ああ、そっちもあったか。


 入れ替わり立ち替わり、兵士さん達にお礼の言葉をもらう。それを見ていたディさんとノルジさんは、ますますトリさんとみどりちゃんにしがみつく。なんなんだ。


 ばぁん!


「レンキニアです! ささ、アルファ殿、これからがっつりしっぽり語り合いましょうっぷ!」


 厩舎に飛び込んできたと思ったら、またも、殴り倒されている。


「騒がせて済まない。間に合わなかった」


 本当に、いいんだろうか。


「こいつも、普段はまともに仕事をしているんだが。時々、職人の血が騒ぐようでな。城壁の防御陣の発案者が来たというんで、舞い上がっているんだろう」


「一度、ちゃんと話をしないと、仕事にならないのでは?」


「それはそうなんだろうが、いいのか? こいつ、魔道具の話になるとしつこいぞ?」


 ルプリさんの上を行く、のかな?


「今日のところは、他に予定もありませんし。よろしければ、団長さんに引き際を見極めてもらえれば」


「ん。そうだな。引き受けよう。バラディ殿はどうされる?」


「行きます! 付いていきます!」

「もう、見てても見てなくても心配で心配で」


「そ、そうか。済まない、サロンの一つを用意してきてくれ」

「かしこまりました」


 団長さんが、自分に付いてきていたメイドさんに、指示を出した。




 サロンには、ドアから庭から、濃ゆい趣味人達が、次から次へと詰めかけてきた。


「あのっ、見えない相手と話をする術具はっ!」

「盾を見てきた! すごいっ! あそこまで均一に加工するこつを是非!」

「いやいや! 盗賊どもをしびれさせたアレを作らせてくれ!」

「そんなもんより、まず、その結界だ結界! 個人で展開して、術者が離れたまんま一晩維持してたって? どうやったんだ? 教えてくれっ!」


 誰も彼もが一斉にしゃべっているので、なにがなにやら。


 レンキニアさんは、魔道具職人さん達に突き飛ばされ、壁の際で伸びている。ディさんとノルジさんも、弾き飛ばされた。壁を叩いて、苦しさをアピールしているが、興奮しているマニア達には通じない。


「貴様らっ。客人の前で、みっともない真似をするんじゃない!」


 団長さんの一喝で、一瞬静まり返る。


「てめえら。質問は一人一個までだ。いいな?」


 すかさず、エストラダ組合長さんが、ドスの聞いた声で宣言する。


「お、おやじ! ずりぃぞ!」


「おめえらの話に付合ってたら、三日三晩でも済まねえだろうが。け、んじゃない、アルファ殿は、か弱い女性だぞ? もっといたわりやがれ!」


 なぜか、ディさんとノルジさんの視線が冷たい。


「はくじょーものー」

「ずるい〜」


 次から次に乱入してくるおじさん達に驚いて、団長さんと自分を覆う『防陣』を張っていたのだ。既に接近していたおじさんに阻まれて、ディさん達を結界に取り込む余裕も、術弾を投げ渡す隙もなかった。だから、不可抗力。

 ちなみに、真っ先に結界に取り付いた数人は、後続との間に押しつぶされて気絶していたりする。南無。


「あの、ここでは狭すぎませんか?」


 室内がおしくらまんじゅう状態だ。暑苦しいとも言う。


「・・・そうだな」

「だが、場所を変えれば、さらに集まってきそうだぞ?」


「そもそも、なんで集まってきたんでしょう」


 盗賊の襲来時、非戦闘員の住民や商人達は、街の背後にある鉱山に避難した。ちなみに、鉱山口は街壁に直結していて、鉱石の分別場を経て街に通じている。


 それはさておき。


 魔道具職人や武具防具の工房主が、騎士団員をサポートするという口実で、王宮に待機もとい居残っていた。現在、建物に被害を受けていない住民から順次帰還させている。ただ、まだ帰っていない人達も相当数居る。

 そのうち、暇を持て余した職人らが、サロンの準備をしている侍従さん達から話を聞き出し、こうして野次馬ってきた、と。


「ローデンの王宮魔術師さんでも、自分の魔術や術具は解析不能でしたし、話を聞いてもおもしろいかどうか」


 組合長さんが、にやりと笑った。そういえば、最初に挨拶した時と口調が違う。お澄ましモードは解除したようだ。


「ここんとこ、俺たちもマンネリ化してるっていうか、新しいアイデアがなかなか出なくてな。そこに、あのアルファ砦の発案者がやってきたんだ。それだけじゃねぇ。おもしろい魔道具を次から次に披露してくれた。ここで話だけでも聞いておかなくては、職人の名が廃るってもんだ。

 なあに。一から十まで教えろとは言わねえよ。あんたの魔導具を再現するにしても、別の魔道具に応用するにしても、ヒントだけでも貰えれば御の字だ」


「かっこいいですねぇ」


 潔いというか、漢前というか。最後は自分の手で完成させてやる、という気迫に溢れた台詞だ。職人の誇りってやつなんだろうか。


「おう。惚れてくれてもいいぞ」


 おやじばっかりずるい!とか、抜け駆けは赦さんとか、ギャラリーが喧しい。


団「そう言う事なら、王宮の魔術師も参加させるか?」


「・・・あそこの人も、そうですよね?」


 ぽん!


団「すっかり忘れてたよ」

 勝手国王君なら、主人公とがちんこ勝負ができるか、と思ったのですが、ただの残念君になってしまいました。この、根性無し!

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