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少年の実力(笑)

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「ところで、魔獣を狩った事はあるかな?」


 首を右に左に振って拳を避けながら、訊いてみた。


「あんなもんっ。狼やっ、熊っ、と! どこがっ、違う、ってんだーよっ!」


 ならば、初心者講習と行きますか。


 左右に大きくステップを踏む。それに釣られて、おもしろいように、上半身が振られていく。目を回さないかな?


「このっ。ちょこまか、とっ!」


「まあ、剣を持ってないからこんなもんかな? キルクネリエの身の躱し方は、そりゃもう素早くてね。この程度のステップで獲物を見失ってたら、狩はできないよ?」


「やかましいっ!」


 それは、自分の台詞だってーの。


 半刻ほど、ステップだけで揺さぶりをかけた。勝手国王君は、既に汗だくだ。動きに無駄がありすぎる。全然治らない。それでも、拳速は衰えない。体力馬鹿でもあるのか。


 では、体も温まってきた頃だろう。実戦訓練に移ってみるか。


 胸を狙ってきた拳を、今度はステップで避ける事なく、右手で受ける。衝撃が伝わる前に、


「え?」


 拳をつかみつつ、軽く引き下げると、体のバランスを崩した。更に国王君の腕をねじれば、簡単にひっくり返る。一丁上がり!


「な、なにしやがる!」


「おーやおや。すぐに立ち上がらないと、キルクネリエの角で串刺しにされちゃうよ?」


 立ち上がり様に、自分の足をつかもうとする。ふむ。


 ぎゅっと握りしめたところで、体を返し、更に反転した勢いを利用して振り飛ばす。地面の上を、ゴロゴロと転がっていく。


「やだねぇ。いきなり抱きつこうとするなんて。すけべ」


デ「違うっ!」


「ほらほら。油断大敵〜」


 立ち上がる前に、近づいていき、軽く尻を蹴る。


「この野郎っ!」


「女性に向かって、野郎はないよね」


「ちんくしゃが、うぜえんだよ!」


 軽口を叩いている間に、立ち上がった。


「もう勘弁ならねぇ。覚悟しやがれっ!」


 口だけなら勇ましいんだどね。


ス「だから〜、全部漏れてますって〜」


 またも顔面狙いのパンチが繰り出されてくる。さっきと同じように、片手で転がしてやる。立ち上がるのを待ち、次のパンチでも、ポイッと転がす。これまた一刻ほど続いた。いい加減、目が回らないのかな。三半規管も丈夫なようだ。


団「・・・なんと言っていいのか」

デ「アルさん、自分からは手を出してませんよね〜」

ス「・・・お尻は、蹴っ飛ばしているようですが?」

ノ「聞いていた少年の怪力なら、受けきれずに、手が砕かれるんじゃないの?」

団「そうだ。おい! 怪我はしてないか?!」


 団長も加わったギャラリーからのコメントが聞こえる。


「ぜーんぜん。まともに受けてませんから」


ス「・・・ノルジ殿なら、できますか?」

ノ「無理無理無理! よっぽど見切りが出来てないと、投げる前に粉砕骨折してますって!」

団「私も、出来るかどうか試してみたいな。混ざってみるか?」


「団長さんがご出馬するほどじゃないですよ♪」


デ「違うっ!」


「何っ、くっちゃべって、やがるっ」


 あらら。もう、息があがっちゃった?


「やー、あんまりにも単調だから飽きてきちゃった」


団「飽きたって・・・」


「そうそう、今のうちに謝っておくね」


「へっ。ようやく、俺の実力を」


「違う違う。素手での格闘戦はあんまり修行が進んでなくて。手加減間違えて怪我しちゃったらごめんという」


ノ「手加減だって?!」


 勝手国王君の顔が、真っ赤になった。


「ふざけんなっ!」


 右ストレートを左の掌で握り止めて引き寄せ、左手のジャブを右腕でいなしつつ、デコピン一発。


「あがあっ」


 手を離してやれば、両手で額を抱えてもだえ始めた。やだなぁ。これからだってのに。


「ほらほら。自分から目を塞いでどうするの〜♪」


 ついと踏み出し、勝手国王君の胸に振り当てる。もちろん、軽く、そっと。でも、上半身が大きく後ろに倒れる。すかさず足払いをかければ、受け身も取れずに背中から落っこちるわけで。


「がっ!」


 背中にもろ効いたらしい。すぐには起き上がれないようだ。お詫びに、ちょっと遊ばせてあげよう。

 左手と左足をつかみあげて、その場でくるくると回る。人間メリーゴーラーンドだ。くるくる〜。


「お、おお、おわあああああっ」


 ちなみに、足の方に向けて回転している。ふんふんふ〜ん。もう少し早く回ってみよう。


デ「な、なにあれ」

ノ「あ〜、アルファさん、すっごく楽しそう」

団「そうか? そうなのか?」


「はなせっ。はーなーせーえぇぇぇえ」


 右手足をばたばたと振り回すが、それだけだ。楽しんでいるようにも見える。 

 よし、もう少しサービスするか。回転に上下運動も付けてみた。


ス「なんか、見てるだけで気持ち悪くなってきた」

モ「私も、うぷっ」


「ほーら、高い高ーいっ」


「や、やめ、う」


 ぽーんと、手を離して、高ーく投げ上げる。空中で軽く回転し、落ちてきたところで、今度は右手と右足を握って、逆かいてーん!


「ほーらほらほら♪」


「・・・」


 声も出なくなるほど、喜んでもらえたようだ。


団「あれ、頭が下を向いているよな?」

デ「それで、地面ぎりぎりに振り回されてる?」

ノ「うわぁ」

ス「もう見てられない・・・」


 えー、そうかなぁ。楽しくない?


ス「さっきから〜、全部聞こえてますよ〜」


 モリィさんは、こちらに背を向けたままだ。ちゃんと見届けるんじゃなかったの?


 もう一度、左手左足にしたら、今度は両足首をつかんでまわしてみた。勝手国王君は、もう何も言わない。堪能してもらえたようだ。それでは、


「フィニーッシュ!」


 気が済むまで回してから、高く投げ上げる。


「うわわわわっ」

「アルさんっ!」


 糸の切れた人形みたいに落ちてきたところを、お姫様だっこで受け止めてあげた。


 勝手国王君の顔は土気色。あり?


 地面に寝かせて、軽くほほを叩くと、


「う、げ、おえええええっ」


 吐いた。


「団長さーん、お手伝いをお願いしてもいいですか〜」


 ダッシュでやってきた。


「な、なんだ?」


「この勝手国王君、回転には弱いみたいなので」


「「「いやいやいや!」」」

団「あ〜、あれだけ振り回されれば誰でも」


「ま、それは置いといて。今度は、単純に高い高ーいをやってあげたいなーと」


団「な、投げ上げるのか?」


「違いますよう。彼の右手足を持ってもらえますか?」


 自分は、左手足を持って立ち上がる。


「せーの、で、上に振ってください」


「わ、かった」


 では、せーの!


 高ーい、低ーい!


ノ「アレはアレで、くるものがあるよねぇ」

デ「自分では、体験したくないよね」

ス「・・・同感です」


 そうかなぁ。多分、小さい頃のコミュニケーション不足で寂しかったんだろうから、ここは力一杯遊んであげなくちゃ。


ス「お願いですからもう言わなくて結構ですから〜」


 ふむ? 頭ががっくんがっくん上下している。


「団長さん。足の方から波打つように振りましょう」


「え?」


「このままだと、頭がもげそう」


デ「そう思うんならやめてあげてくださいっ」


「自分が遊び足りてません♪」


ノ「あ、そう・・・」


 団長さんが疲れたというまで、「高い高い」をした。


 勝手国王君は、下ろされた直後に、またも、吐いた。


 息が整って、しゃべれるようになるまでしばらくかかった。それでも、復活するんだから、たいした体力だ。


「で、でめぇ」


 だから、地面にへたり込んで言っても、滑稽なだけだって。


「剣さえ、武器さえあれば、てめえなんか」


「そう?」


 そこまで言うなら、お手並み拝見といこう。


 黒棒を取り出し、投げ与える。


「・・・何のつもりだ」


「自分は、剣を持ってないからね。これを相手の体に当てられたら勝ちってことで、どう?」


「てめえの頭を勝ち割ってやるっ」


 うーん、帝都の元騎士団長さんの方が、剣筋は良かった。当たり前か。


 かすっ。


 力の向きをそらせて流し、すっと下に振る事で、そのまま彼の持つ黒棒を上から押さえ込む。


「なっ!」


「馬鹿力だけじゃないでしょ」


「この野郎!」


「だから、女性に野郎はないって。モテないよ?」


「うるせぇ!」


 彼の台詞も単調でつまらない。


ス「つまるつまらないのはなしではないでしょう!」


 力任せに、自分の黒棒を振りほどき、黒棒を大きく振りかぶると、右手から殴りつけてきた。


 モチロン、一歩後ろに下がって避けると、二歩踏み込んで、頭をぽかりと殴る。


「がっ!」


 だから、いちいち殴られたところをさするんじゃない。黒棒を握っている片手を叩いて、取り落とさせる。


「なにしやがる!」


「実剣なら、今ので手首を切り落とされてて終わりだね♪」


「卑怯だぞ!」


「卑怯も何も、隙を見せる方が悪ーい!」


 黒棒を拾おうとする手を叩き、足を掬って転がす。なんとまあ、やられ慣れてないんだねぇ。


団「・・・情けなくなってきたぞ」

デ「何がですか?」

団「あんな、子供にいいようにあしらわれていたかと思うと」


「彼一人じゃなかったですからね。やっぱり、数の暴力にはそうそう対抗できませんよ」


ス「・・・アル殿なら、文字通り一騎当千が出来そうですよね」


「出来ません! スーさん、無謀なことを言わないでください」


 ギャラリーと会話しながらも、立ち上がろうとするところを転がし、その都度、黒棒で尻やら頭やらを叩く。


団「私も、アルファ殿なら出来そうな気がするんだが」


「いっぺんにかかって来られたら、手加減できずに殺しちゃいますよ」


団「そういうことか。だが、盗賊の現行犯なら、討伐依頼がなくても罰則はないぞ?」


「ほら。自分なりのけじめ、なので。譲れませんねぇ」


デ「で、でも、どうしても大勢を相手にしなくちゃならなくなる時があるかもしれないよ?」


「そのために、術具を作ったんです」


「「「「あ」」」」


「い、いい加減に、まともに相手しろよ!」


 勝手国王君は、散々転がされて土まみれだ。


「だって、修行の相手にもならなかったし」


「! てめえ!」


「真実って胸に痛いよね」


「ふざけやがって!」


 またも足を掬って、転がす。


「最初に、武器を取り落としたのは君だよ? それこそ、殺されてない事を感謝してくれてもいいと思うんだけど」


団「そうだな」


「街の占拠は、盗賊とつるんだ事でうまくいったけど、それだけだよね。君の実力って何?」


「ユアラの騎士団だって、俺達にかなわなかったんだぞ!」


 へぇ。ユアラ周辺に盗賊が増えた理由はそれかな?


団「だが、それは貴様個人の「実力」とは言えまい?」


「だから! 大岩を立て続けに投げるなんて、他の誰が出来るってんだ!」


「それがなんの役に立つの?」


「!」


「最初にも言ったよね。怪力が自慢なのは判ったけど、それだけ?」


「十分だろうが!」


団「散々、アルファ殿に転がされていたようだが」


「!!」


「多分、盗賊は君達を利用していただけだと思うよ」


「な!」


「街の貴金属類は根こそぎ持っていってたけど、加工しなければ食べられない食品類は手付かずだった。食べ物がなくなったら、きっと、君たちを置いて逃げる算段でもしてたんじゃないかな?」


団「よく、そこまで読めるな」


「本格的に腰を据えるなら、篭城している間に、拠点になりそうな建物にいろいろ細工したりするんじゃないかなーと。でも、その形跡はなかったですよね?」


団「ギルドハウスも、ねぐらにしかしてなかったようだしな」


「お、俺が国王なんだから、そんな事をする必要はっ」


「料理を作る。武器防具を作る。衣服を作る。全部一人で出来る?

 材料を集める。加工する。それらをやり取りする。良い物を得ようとするなら、なおさら他の人との協力が必要だよ?」


「・・・」


「君は、なりは大きくても力持ちでも、中身は十歳の子供にも劣っていたって事。判ったかな?」


デ「なんで、十歳?」


「海都で、スリをした子供達に話を聞いたことがあって。母親が誘拐されて食べ物がなくなったからだと言ってましたけど、学園の授業料も払えなくなるから頼っちゃいけないって。もう少し大人を頼ってくれてもよかったのに。それはともかく、彼なりの判断は評価できました」


ス「・・・確かに」


「それに、ちゃんと悪い事だと自覚していたんです」


ノ「なんでそんな話を聞いたの?」


「・・・その誘拐犯達を捕まえる手伝いをさせられたので」


ス「こないだの報告会では言ってなかったじゃないですか!」


「そこの兵士さん達によってたかって巻き込まされたんです」


「ち、ちくしょう!」


 勝手国王君は、手近にあった壊れた手枷を自分に投げつけてきた。そのまま、練兵場の出口に向かって駆け出そうとした。往生際が悪いなぁ。


 投擲物は右手で受け止め、彼の足下に黒棒を差し出して転がす。見事なスライディングポーズ。でも、ベースには届かない。はい、アウト。


「子供らしい罰を与えないと駄目なようだねぇ」


団「あ、アルファ殿、何をする気だ?」


「殺しはしません♪」


デ「寒い〜!」


 立ち上がる様子も見せない勝手国王君を、片膝に乗せる。ズボンを下ろして尻を剥き出しにし、


ス「ま、まさかっ!」


 ハリセン二号を取り出した。

 悪あがきも程々に。しかし、主人公が手加減すると、なんで緊張感がなくなるんでしょ。

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