表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/192

少年の主張

533


 特別房に案内された。内張りも格子もロックアント製という豪華仕様。いくら掛かってるんだろう。望んでいた贅沢だよ? せいぜい喜べ。


「まだ起きないか?」

「はっ。交代の者からも報告は受けておりません」


 団長さんの質問に、見張りをしていた兵士さんが答える。おかしいなぁ。


「ん? どうした?」


「ロストリスの効果は一日から一日半で目が覚める、ってこの本には書いてあったんですが、アレから二日近く経ってるので」


 団長さんに、ヌガルで貰った薬草辞典を見せる。


「本当だな。それで、どうする?」


「治療師さんにも、聞いてみたいんですが」


「そうか。おい。誰か呼んできてくれるか?」


 兵士さんの一人が、牢から離れる。


「で、誰から殺る?」


ス「だから字が違いますって!」


「キンキンした声は、後回しにしたいですね。とすると、勝手国王、からにしましょうか」


「くくっ。勝手国王、か。そうしよう。だが、目が覚めた時に暴れた時の事も考えたい。ロックアントで保護した尋問室は作ってないし。そこを壊されたりしたら話も出来ない」


「練兵場、ではいけませんか?」


「逃げられたりしないか?」


 うん。その質問は当然だ。


「その時は、自分が責任を持って取り押さえます♪」


 実は、望むところだったりする。


 一方、自分の背後では。


「「あああ」」

「アルファさん、頼むから穏便にっ」


「だから、殺しはしませんって。自分は猟師ですよ?」


「どういう意味だ?」


「殺すのは、獲物だけ♪」


 聞いていた兵士さんまで身震いする。そんなに、室温が下がってたかな?団長さんは、大笑いしていた。


「いいね。いいよ。アルファ殿の信念はたいしたものだ! 気に入った!」


「・・・団長が気に入ったって」

「怖えぇぇぇっ」

「って、あの三人組が獲物以下ってことだよな?」

「ローデンの賢者って、本物も怖いんだ。ってえ」

「そういや、お前、あいつらに、腕、折られてたっけ」


 あ。マデイラのハンターさんが、重傷だって事を忘れてた。


 治療師さんがやってきた。


「あー、私はそのロストリスというものは使った事がありませんが、もしかすると投与量が多かったとか、じゃないでしょうか」


「建物丸ごと、に対して、棘十個分の搾りかすで作った煙玉を投げ込んだんですが」


「ですから、適量なんか知りませんよ。ただ、昏睡しているようでは無いようですし。それに、解毒薬もあるんでしょう? 目を覚まさせたい人に投与すればいいんじゃないですか?」


 それもそうか。


「ご助言、ありがとうございました。それで、お礼でもないんですが、これを」


 治療師さんに、北天王から貰った薬草(調合済み)を渡す。


「これは?」


「貰い物ですが、深い切り傷も治す傷薬です。もっとも、切り落とされた指などは元通りになりません。残念ながら骨折にも効果はないです。

 使い方は、傷口に薄く塗るだけです。マデイラのハンターさんとか、怪我人に使ってもらえませんか?」


 治療師さんは、薬瓶を取り落としそうになった。あぶなっ。


「そ! そんな貴重な薬をぽんと出すもんじゃありませんよ! こっちの心臓が止まりそうです!」


「えー。でも、まだ街道に盗賊が集まってくるかもしれませんし、戦力の回復は現時点で一番の解決事項でしょ? それに、マデイラの人は、派遣したハンターさんが帰って来ないって心配していたんです」


 使える物があるのなら、ここで使わずに、いつ使えばいいと?


 ・・・ありゃ? 治療師さんだけでなく、団長さんまで、おろおろと辺りを見回し始めた。


ス「あ〜、ほら、アル殿ですから」

ノ「そういうこと、ですねぇ」

モ「なんで、こういうことができるのかしら?」

デ「だから、アルさんだし」

モ「そうね」


団「・・・そういうことで、いいのか?」


「「「「アルさんだから」」」」


 治療師さんは、壁に手をついてぶつぶつ言っている。


「あの〜?」


「はっ、はい。っと、団長殿! その、これ、は、我々がいただいてもよろしいのでしょうか?」


 うわ。上司に丸投げした。


「あ、ああ。アルファ殿が、貰ってくれ、と言っているんだ。重傷の者から使用していってくれ」


「了解です。で、では、アルファ、殿? 貴重な薬をありがとうございます。では、これで!」


 逃げるように、出て行ってしまった。よろしくお願いします、って言いたかったのに。


「ん。よし! 気を取り直していこう! この赤髪のやつを練兵場に引き出してくれ。アルファ殿、そこで解毒薬とやらを与えてくれるか?」


 おお、立ち直りが早いな。


「判りました」


 牢屋の鍵が開けられ、両腕を兵士さん達に支えられて行く。


「練兵場の出入り口に、あの盾を持たせた兵士を配置してくれ。これから、こいつの尋問を練兵場で行う」


「「了解です!」」


 数人の兵士さん達が、散っていった。


ノ「ねえ。アルファさん?」


「なんですか?」


デ「本当に、殺さない?」


「しませんよ。何度、言わせるんですか」


ス「でも、でもでも、さっきから寒気が収まらなくて」


 門の前で野営した時に薄着でもしたのかな? 毛皮も出しとけばよかった。ちなみに、野営道具は、ムラクモが乗せていた馬車ごと影に保管している。あとで、引き取らないと。


「風邪引いたんじゃないんですか?」


「「「違うっ!」」」


 ローデンの牢屋と違って、魔力は漏らしていない。力加減さえ間違えなければ、問題ない。


「うわ。もっと寒くなってきた」


「これでも羽織っていてください」


 ディさんに、毛皮を手渡す。


「そうじゃない〜ぃ」


 四人は身を寄せ合っている。ほら、やっぱり、寒いんじゃないの。




 枷を嵌められたまま、練兵場の中央に引っ張っていかれた。寒い寒いと言う見物人には、日の当たる壁際に居てもらう。どんな会話をするか知りたいというので、毛皮と一緒に『拡声』セットも渡しておいた。


 彼の脇には、自分と団長さんだけが残っている。下手に人数を置いても暴れられたら怪我人が増えるだけだから、という判断に寄る。


団「おい。いい加減、目を覚ませ」


 団長さんが、軽くほほを叩く。


「まだ、解毒薬を飲ませてませんから」


 用意しておいたロストリスの実の絞り汁を飲ませる。ちなみに、尋問する頭らしき盗賊を起こすために、牢屋の尋問担当者にも数本渡してある。


 なかなか、目を覚まさない。


「やっぱり、眠り薬が濃すぎましたかね?」


団「そうかもな。これで起きなかったら、もう一本飲ませてみるか」


「次からは、気をつけます」


団「気を付けるって、こんなこと早々あってたまるか!」


「それもそうですよねぇ」


 お、ようやく目を覚ましたようだ。


「あ、ああ? なんだこれ。どういう事だよ」


団「ほう? 自分のした事を棚に上げてよくも言う」


 勝手国王君は、ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。


「な? なんなんだよ。おい、これを外せ!」


 手枷を持ち上げて、団長さんに突き出す。判ってないな〜。まだ、寝ぼけてるのかね。


デ「いま、背中がゾクって来た」

ス「私もです・・・」


 人数分の毛皮を渡しておいたはずだけど?


団「自己紹介も出来ないのか。最近の若いやつはなってないな」


「なんだよ! 俺は国王だぞ?」


「ふぅん。どこの国の王様なんでしょうねぇ」


「ああ? ちびのツルペタのチンクシャが口を開くんじゃねぇ!」


 ほう。


ノ「穏便に! アルファさん、穏便に!」


 うるさい。


団「私はコンスカンタ騎士団長だ。お前達一味は全員捕縛された。判るか? 捕まったんだよ」


 ぶん! 枷の嵌まった手が、振り抜かれる。


「うるせえ! こんなもんで俺を捕まえた? 冗談にもほどがあるぜ」


「任せてもらえませんか?」


 団長さんに、お願いしてみる。


団「・・・頼む」


 ギャラリーの「やめろー」だの「うわあああ」だのの声援がうるさい。


「それで?」


 改めて勝手国王君に声をかけた。


「チンクシャに用はねえって言ってるだろうが!」


「自分には大有りなんだけどね。君が国王だって言い張る根拠とか、なんでコンスカンタにいるのかとか、いろいろ聞かせて欲しいんだけど?」


「へっ。どいつもこいつも弱っちいんでやんの。だったら、当然俺が一番だよな? 国王を名乗っても文句はねえだろう」


「それも、異論有りだね。単なる力自慢だけで国王が勤まると? 笑っちゃうね〜」


「馬鹿にしてんのかよ。この、ちんくしゃ!」


 それ以上は言うなとか、もうやめろとか、いちいちうるさい。


「コンスカンタの西側で街道を塞いだのも君達だよね」


「それがどうした。俺の実力を見せてやっただけだぜ? アティカが砕いた岩を全部投げてやった。あんたに出来るか? 出来る訳ねえよなぁ」


 力一杯あざけっているつもりだろうが、枷を嵌められて地面に座り込んでいるので全く効果がない。というより、背伸びした悪ガキにしか見えない。


「まだ答えてないよ。なんでコンスカンタに来たの」


「その辺で売ってるなまくらじゃ、俺の実力にはやわすぎるんだよ。ここなら俺に似合う武器もあるって、アティカが調べてきたのさ。だけど、名前倒れでがっかりだぜ。どこの工房も出し渋って、しまいには「売る物はない」って言いやがって。

 ここで手に入らないなら、いっそ作らせればいい。俺が国王なら、いくつでも作らせる事が出来る。

 そうだろ?」


 なぁにが、そうだろ? だ。このお子ちゃまが!


ス「寒い、寒いです」


 やかましい!


「つまり、欲しい武器が手に入らない腹いせに街を荒らした、と」


「腹いせ? 違うね。奴らの自業自得だ。さっさと、俺の剣を差し出せばそれで許してやったんだぜ?」


 なんでこう、上から目線なのかねぇ。


「団長さん? 他に何かあります?」


団「そうだな。盗賊どもと一緒にいたのはなぜだ?」


「ああ? あいつらが勝手に付いてきただけだぜ。でもさぁ、国王って言うからには兵隊も必要だよな。言う事を聞くならってことで、使ってやってただけだ」


 で、勝手国王君の怪力にビビりつつ、うまい事転がして稼ぎをあげようとした、ってことか。まあ、似た者同士ってことだね。


「ねえ。武器を手に入れるなら、代金は持ってるんだよね?」


「俺の実力があれば、すぐに稼げるさ。だから渡せって言ったのに、誰一人まともな武器を出しゃしねぇ。どいつもこいつも目が腐ってるんじゃないのか?」


「あのねえ。駆け出しの新人が、いきなりオーダーメードの武器を手に入れられるはずはないでしょ」


「俺のどこが駆け出しだって? 俺の実力、なめてんのか、ああ?」


 ちんぴら臭がぷんぷんする。


「たかが、怪力一つで、どうしてここまで思い上がっていられるんだろう」


ス「アル殿! だだ漏れ、漏れまくってます!」


「このチンクシャが!」


 立ち上がって、殴りつけてきた。


団「ほほう。たしかに、「力」自慢なだけはあるな。その枷、結構な重量があるはずなんだが」


「だから、こんなもんじゃ俺を捕まえた事にはならないって」


「そこまで言うなら、自分で枷を外してみたら?」


団「お、おい。さすがにそれは」


「黙っていれば、好き勝手なことを言いやがって! おい! 国王にこんな辱めを与えたんだ。覚悟は出来てるんだろうな?!」


 誰も、黙ってないし。


 目の前で、枷同士を打ち合わせて接続部分を壊そうとしている。そう言うところは頭が回るか。


 一刻ほど奮闘して、ようやく枷をはずせた。はい、ご苦労様。


「それでは、自称「国王」様? 自分の実力も見てもらえますかね?」


「俺が剣を持ってないからって、いい気になるなよ? 一撃で粉々にしてやるっ」


 でも、当たらなければ問題ない。


「団長さん、ギャラリーのところまで下がっててもらえますか?」


団「いいのか?」


「自分で言った事の責任を取るまで、です♪」


団「・・・そ、そうか。なら、好きにやってくれ」


「おい! 俺を無視するんじゃねえ!」


 団長さんに殴り掛かろうとする手をつかんで、くるりと投げた。背中から地面に落ちる。なに、力一杯手加減して差し上げましたとも。


「ってえ!」


「そうでしょう。でも、君に殴られた人はもっと痛かったと思うよ?」


「あいつらがっ、弱いのがっ、悪いんだよっ」


 拳速はそこそこあるが、コースにぶれがある。ふむ、やっぱり単なる力自慢だけか。


ス「だからっ。漏れまくりですっ」


「ばっかにしやがって!」


 おう。打撃のスピードも数も増えた。でも、当たらない。


 さぁて、どうやってお仕置きしようか。


ス「全部口に出てますって!」

 三人組その一のつるし上げ開始。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ