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迷客襲来

515


 修練場の騒ぎが一段落したところで、フェンさんの店に向かう。今日はツキを連れて帰り、またも三頭が修練場に居残り。今度は、利用者に迷惑をかけないよう、きっちり言い聞かせておいた。・・・大丈夫だよね?


 ガーブリア組は、軽く体を動かしてから[森の子馬亭]に戻るとの事。場所はもう覚えたというから、道案内の必要もなし。


「〜待ってたのに〜〜〜〜っ」


 店に着いたら、いきなりフェンさんに抱きつかれた。


「馬ちゃん、馬ちゃんは?」


 あ、宿に置いてけぼりだ。


「すみません。[森の子馬亭]で留守番中です」


「「「「え〜っ!」」」」


 大ブーイングに曝された。


「預かっていきますから・・・」


「「「ダメ!」」」


 なんで?


「フィッティングを確かめさせてもらわないと、引き渡しは出来ないわ!」


 さすが、プロは違う。って、そこまでこだわりますか。


「では、自分の分だけ」


「「「それもダメ!」」」


 またも却下。出来れば、ギャラリーの少ないうちに、衣装合わせを終わらせて、便利ポーチの底に沈めておきたいのに!


「馬ちゃんとのコーディネートなのよ? お揃いでチェックする必要があるの!」


「そんな必要認めません!」


 散々文句を言ったが、ちらりとも見せてくれなかった。つまり、出直し? ううう、いやだぁ。

 でも、フェンさんに自分の泣き言は通用しない。その上、明後日、出発するつもりだと漏らしたとたんに、


「明日は朝一番で来るのよ?」


 これだ。


「な、なぜでしょう?」


「不具合が合ったときの直す時間が必要だからよ!」


「今まで、不具合なんかなかったですって!」


「最初の防具の話を忘れたの? アルちゃんの、じゃないの。馬ちゃんのなの!」


 ・・・反論できない。言われるままに、朝一番で来る事を約束させらて、追い返された。ぐすん。



 昼食を食べたついでで、市場をまわる。まだ、果物が残っていた。よかった。


「全部くださぁ〜い」


「あらぁ。ずいぶんと食べるのねぇ」


 のんびりした店主さんの声に、


「お客さんへのお裾分けもあるので、たくさんください」


 そう、答えた。トリさん達を仲間はずれにするのはよくない。


「それって、アンゼリカさんとこの「従魔」さん?」


 おおう、ばれてる。昨日の街中パレードはいい感じに受け止められたようだ。よかったね、ディさん。あとで、教えてあげよう。


「その子達の分も、です。もちろん自分も頂きます!」


 味見もせずに渡すのはどうかと思う。


「ふふふ、うちのは美味しいからねぇ。たくさん食べてちょうだいねぇ。ちょっと待ってねぇ。背負い籠、用意してあげるからぁ」


 便利ポーチにはそれもしまってあるが、ここは店主さんのご好意に甘えよう。


 背負い籠一杯と手提げ籠二つ分のリンゴやナシ(に見える果物、味もほぼ同じ)を、買い込んで宿に戻る。そのまま厩に持っていって、トリさん達の前で試食する。


「よかったら、食べてね?」


 ムラクモには、半分に割って差し出した。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。もりもり食べていく。

 と、それを見ているトリさんとみどりちゃん。


「・・・あ〜、半分に割った方が、いい?」


 力強く、うなずかれた。そうですか。うん、食べやすいのがいいのね。


 ムラクモにも、食後のブラッシングをする。だが、やっぱり退屈らしい。しきりと袖を加えて引っ張る。


「明後日には、出るから」


 そう言っても、聞きゃしない。むぅ。


「あ〜、アルファさん。お帰りなさい。あっ! みどりちゃん! いいものもらったんだねぇ。よかったねぇ」


 ノルジさん、本当に引きますよ、その態度は。だいたい、自分の従魔が他人からご飯をもらう様を喜ぶって、どうなの!


「え〜? 宿の人からも世話してもらってるんだし。怪しいやつは、一蹴りでおしまいだよ?」


 ・・・そうでした。揃って魔獣ですもんね。


「様子を見に来たんですか?」


「そろそろ、退屈してないかな〜って♪」


 ・・・砂を吐きそうだ。退散しよう。と、思ったのに。


「アルファさん、よかった。こちらに居られましたか」


 ディさんまで。やんごとなき人が厩に、って、・・・身分詐称で入街するひとでした。


「・・・先日は、どうも」


 うおっ。フェライオス殿下まで! 今度は何ごとよ。


「郊外での、遠乗りに誘われたんです」


 ご丁寧にも、教えてくださる。でも、いたって普通な理由だ。よかった。


「はい、いってらっしゃい」


「え〜」

「ご一緒しては頂けないのですか?」


 前者は、ディさん。後者がフェライオス殿下。でもって、袖がぐいーっと引かれる。


「・・・ムラクモぉ」


 睨みつけてます。そりゃもう眼力ばりばりです。


「ノルジ、殿下を頼むね」


「みどりちゃん? 大丈夫? 二人乗りだよ? そう、引き受けてくれるの。ありがとう♪ 頑張ろうね♪」


 ありゃ。フェライオス殿下までドン引きした。


 それはともかく、逃げ出せそうにない。それに、ムラクモは既に上機嫌だ。これで、行かないとか言ったら、厩を半壊させかねない。


 アンゼリカさんに断ってから、と思ったが、まだ、部屋から出てこないらしい。リュジュさんに伝言を頼んで、出かける事にした。


 街中では、手綱を引いていく。門兵さんに挨拶して、街門を出たところで、騎乗した。ツキも、影から出てきてのびをする。まだ走り回る気か!


「なるほど、普通の馬よりも視点が高いですね」

「それに、すっごく早いですよ♪」


 ノルジさんは、みどりちゃん自慢が出来て顔がにやけきっている。(人の)彼女が出来たら、大変だろうな。

 ちなみに、他の護衛はいない。健脚でもって逃げ切る算段だから、と言いくるめてきたそうだ。・・・いいんだろうか?


「では、ダグ方向に軽く走ってみますか」


 はいはい、ディさんにお任せします。


「ムラクモ? 張り合ってかっ飛ばさなくていいんだからね? というより、やらないで」


 ・・・トリさんまで目をそらしやがった。ヤル気だったな?!


 途中、すれ違う隊商の視線の痛い事。自分以外のメンバーは、上機嫌。自分は、フード付きマントをすっぽりかぶってシャットアウト。


 ん? 前方が騒がしい?


 トリさん達が警戒態勢に入った。自分も聴力を上げて、あげて、・・・。


 また来た!


「アルファさん? どうしました?」


 ムラクモの足を止めたのに気が付いて、ディさんが声をかけてくる。が、それどころじゃない。街道のど真ん中で、何遍騒げば気が済むんだ!


 ムラクモから飛び降り、街道から離れたところで『花火』を打ち上げる。青い空に白い炎の菊の花が咲き誇る。・・・ほら来た。


「あああああアルファさぁ〜ん!」


「な! なんですかアレは!」


 ノルジさんが慌てふためく。アレの真下に居合わせた隊商も混乱している。そうでしょうとも。後方の隊商は無事だろうか。


「フェライオス殿下? お二方に説明をお願いします。自分はこれから手放せなくなりますので」


「うっ、はい! 了解、です!」


 じたばたとみどりちゃんから降りる殿下に、残る二人もそれぞれ従魔から降りる。


 次は、特大の『爆音』を用意。アレの鼻先に投げつけた。クリティカルヒット!


 ばこーん!


「あきゃぁああぁ」


 よし。墜落地点には誰もいない。


 地響きをたてて墜落してきたのは、お騒がせドラゴン、ジルシャールさんだ。


「ひさしぶりです」


 目を回していたようだが、声をかけたとたんに体を起こした。


「あ、あああ、アルファさん! おひさしぶりです!」


 声は明るい。明るい、が。


「竜の里から遥々と、ナニしに出てきたんですか? 婚約者探しにしては、ハデなお越しですね」


「そんなぁ。アルファさんがお困りだと聞いて、いても立ってもいられなくてぇ」


 もじもじするな! ってどこまでうわさが広がってるんだ?


「別に、呼んではおりませんが?」


「僕は、アルファさんのいらっしゃるところなら、例え火の中水の中!」


「ですから、お呼びした覚えはないのですが?」


「なんだってやります! もう、僕に任せてください!」


 ぶちっ。


 人の話を聞かないやつには、こうだ!


 すぱこーん!


 さっき、フェンさんの店でもらったハリセンで、ジルさんの鼻面を力一杯ひっぱたく。

 云く、ジョークグッズよ、ってこの世界にもハリセンがあったとは驚き。素材がワイバーンの皮という時点で、冗談では済まない代物だと思うが。


 だけど、この際、有効利用させてもらおう。なにより、竜の鱗相手なら、このくらいでないと。


 ぎゃん!


 おお、効いた効いた。


「あ、アルファさん、なにを・・・」


 もう一発。


 きゃん!


「自分が、いつ、ジルさんを呼びました? 加勢してくれと頼みました? 言ってませんよね? どこで、なにを聞いてきたのかは知りませんが。こんな派手な登場してくれって、どこの誰が言いました?」


「でも、でも、アルファさんがお困りだろうって、みんなが・・・」


 ばしん! ぎゃうん!


「ですから、誰に頼まれました? ご存じないようですね。竜って、大きいんです。目立つんです。それが、大騒ぎしながら、街道沿いにすっ飛んできてご覧なさい。見なさい! 大騒ぎじゃないですか! 自分がそんな騒ぎを望んでいたとでも言うんですか?」


「そ、そんなつもりは・・・」


 すぱぱぱん! きゃいん!


「言い訳無用! そういうのは、余計なお世話、と言うんです」


「で、でも・・・」


 ぱぱぱぱぱぁん! ぎゃいん!


「まだ言いますか! あなたの行為は、迷惑以外のなにものでもありません」


「め、めいわくって、ぼくは・・・」


 ずばん!


 でっかい頭の横っ面をはり倒した。どすん、と頭が地に落ちる。


「い、い、か、げ、ん、に、してくださいね?」


 にっこり笑って念を押す。よく見れば、しっぽもつばさも丸まっている。


「さて、もう一度、お聞きします。自分の名前を呼んでいましたよね。何の御用でしょうか?」


「・・・」


 涙目になって、縮こまっている。ふん。


「用はないようですので、お引き取りください」


「せ、せっかく、お会いできたのに・・・っきゃん!」


 ハリセンを振り上げただけで、悲鳴を上げた。


「あ、アルファさん? もう、そろそろ、よ」


 ろしいのでは、と言いかけたのだと思うが。


「何か?」


「いえ! 何でもありません!」


 フェライオス殿下は、素直に引き下がった。よろしい。後は、とっとと帰らせ、・・・頭上からまたも大声が響く。


「ジール〜、馬鹿ジル〜、どこよ〜、って、いたいた!」


 本気で頭が痛くなってきた。


「え? もう、お一方ひとかた?!」


 ディさんが素っ頓狂な声を上げる。


 この声は、竜の里の長老さんと一緒に話をしたお姉さんだ。ジルさんの真横に優雅に着陸する。


「・・・お久しぶりです」


「え、あ、あらあ。あの時の。元気だった?」


「こちらの方が来るまでは、すこぶる元気でした」


「あは、あはははは」


 笑ってごまかすな!


「アルファさん、あの、こちらの方は・・・」


 ディさんの質問を受けて、紹介する。


「ジルシャールさんのお姉さんのお一人です」


「レモリアーナよ」


 横目で街道を見れば、大渋滞だ。竜を見て、馬車が止まる。当然、後続も止まる。どんどん止まる。


「フェライオス殿下? 大変申し訳ないのですが、騎士団を呼んで、隊商の交通整理をするよう、連絡して頂けませんか? ムラクモ、殿下を乗せてってくれる?」


 意外にも、ムラクモが素直に殿下に近寄る。


「ツキは、護衛をお願いね」


 びしっとお座りして尻尾を振る。いい子だ。


「でんか?」


「え。はっ。はいっ。すぐに行ってきます!」


 すぐさま、ムラクモに乗って駆け出していった。この場から逃げ出したようにも見える。まあいいか。


「ということで。これ、とっとと、連れ帰ってもらえませんか?」


 ジルさんを指差して、レモリアーナさんに「お願い」した。


「言わんこっちゃない」


 レモリアーナさんが呆れたように言う。


「でも、でも姉さん、アルファさんが・・・ひゃん!」


 ハリセンを手の上でポムポムと叩くと黙った。


「あ、あらぁ。いい物持ってるわねぇ」


「ご足労頂いたお詫びに、差し上げます。ですから、とにかく引き取ってください」


 今度はハリセンで示す。しっぽを抱えて、ますます小さくなるジルさん。


「だいたい、婚約者がいる身で他の女にうつつを抜かしてる暇があるんですか?」


「そ、それは「ジルさんには聞いていません」・・・」


 レモリアーナさんが苦笑した。鱗だらけの顔でも表情は豊かだ。


「あんた、それも報告してなかったの?」

「う」


「報告って?」


「アルファさんが持ってきた卵、あれ、マルフィーネだったの」


「マルフィーネさん?」


「ジルが探していた婚約者」


「え? え〜〜〜〜っ」


 だって、卵、こんなに小さかったよ?

 うわさ、千里を走る。え、違った?


 #######


『花火』


 それこそジョーク魔術。光で火薬花火を再現してみせたもの。ただし、破裂音はしない。

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