迷客襲来
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修練場の騒ぎが一段落したところで、フェンさんの店に向かう。今日はツキを連れて帰り、またも三頭が修練場に居残り。今度は、利用者に迷惑をかけないよう、きっちり言い聞かせておいた。・・・大丈夫だよね?
ガーブリア組は、軽く体を動かしてから[森の子馬亭]に戻るとの事。場所はもう覚えたというから、道案内の必要もなし。
「〜待ってたのに〜〜〜〜っ」
店に着いたら、いきなりフェンさんに抱きつかれた。
「馬ちゃん、馬ちゃんは?」
あ、宿に置いてけぼりだ。
「すみません。[森の子馬亭]で留守番中です」
「「「「え〜っ!」」」」
大ブーイングに曝された。
「預かっていきますから・・・」
「「「ダメ!」」」
なんで?
「フィッティングを確かめさせてもらわないと、引き渡しは出来ないわ!」
さすが、プロは違う。って、そこまでこだわりますか。
「では、自分の分だけ」
「「「それもダメ!」」」
またも却下。出来れば、ギャラリーの少ないうちに、衣装合わせを終わらせて、便利ポーチの底に沈めておきたいのに!
「馬ちゃんとのコーディネートなのよ? お揃いでチェックする必要があるの!」
「そんな必要認めません!」
散々文句を言ったが、ちらりとも見せてくれなかった。つまり、出直し? ううう、いやだぁ。
でも、フェンさんに自分の泣き言は通用しない。その上、明後日、出発するつもりだと漏らしたとたんに、
「明日は朝一番で来るのよ?」
これだ。
「な、なぜでしょう?」
「不具合が合ったときの直す時間が必要だからよ!」
「今まで、不具合なんかなかったですって!」
「最初の防具の話を忘れたの? アルちゃんの、じゃないの。馬ちゃんのなの!」
・・・反論できない。言われるままに、朝一番で来る事を約束させらて、追い返された。ぐすん。
昼食を食べたついでで、市場をまわる。まだ、果物が残っていた。よかった。
「全部くださぁ〜い」
「あらぁ。ずいぶんと食べるのねぇ」
のんびりした店主さんの声に、
「お客さんへのお裾分けもあるので、たくさんください」
そう、答えた。トリさん達を仲間はずれにするのはよくない。
「それって、アンゼリカさんとこの「従魔」さん?」
おおう、ばれてる。昨日の街中パレードはいい感じに受け止められたようだ。よかったね、ディさん。あとで、教えてあげよう。
「その子達の分も、です。もちろん自分も頂きます!」
味見もせずに渡すのはどうかと思う。
「ふふふ、うちのは美味しいからねぇ。たくさん食べてちょうだいねぇ。ちょっと待ってねぇ。背負い籠、用意してあげるからぁ」
便利ポーチにはそれもしまってあるが、ここは店主さんのご好意に甘えよう。
背負い籠一杯と手提げ籠二つ分のリンゴやナシ(に見える果物、味もほぼ同じ)を、買い込んで宿に戻る。そのまま厩に持っていって、トリさん達の前で試食する。
「よかったら、食べてね?」
ムラクモには、半分に割って差し出した。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。もりもり食べていく。
と、それを見ているトリさんとみどりちゃん。
「・・・あ〜、半分に割った方が、いい?」
力強く、うなずかれた。そうですか。うん、食べやすいのがいいのね。
ムラクモにも、食後のブラッシングをする。だが、やっぱり退屈らしい。しきりと袖を加えて引っ張る。
「明後日には、出るから」
そう言っても、聞きゃしない。むぅ。
「あ〜、アルファさん。お帰りなさい。あっ! みどりちゃん! いいものもらったんだねぇ。よかったねぇ」
ノルジさん、本当に引きますよ、その態度は。だいたい、自分の従魔が他人からご飯をもらう様を喜ぶって、どうなの!
「え〜? 宿の人からも世話してもらってるんだし。怪しいやつは、一蹴りでおしまいだよ?」
・・・そうでした。揃って魔獣ですもんね。
「様子を見に来たんですか?」
「そろそろ、退屈してないかな〜って♪」
・・・砂を吐きそうだ。退散しよう。と、思ったのに。
「アルファさん、よかった。こちらに居られましたか」
ディさんまで。やんごとなき人が厩に、って、・・・身分詐称で入街するひとでした。
「・・・先日は、どうも」
うおっ。フェライオス殿下まで! 今度は何ごとよ。
「郊外での、遠乗りに誘われたんです」
ご丁寧にも、教えてくださる。でも、いたって普通な理由だ。よかった。
「はい、いってらっしゃい」
「え〜」
「ご一緒しては頂けないのですか?」
前者は、ディさん。後者がフェライオス殿下。でもって、袖がぐいーっと引かれる。
「・・・ムラクモぉ」
睨みつけてます。そりゃもう眼力ばりばりです。
「ノルジ、殿下を頼むね」
「みどりちゃん? 大丈夫? 二人乗りだよ? そう、引き受けてくれるの。ありがとう♪ 頑張ろうね♪」
ありゃ。フェライオス殿下までドン引きした。
それはともかく、逃げ出せそうにない。それに、ムラクモは既に上機嫌だ。これで、行かないとか言ったら、厩を半壊させかねない。
アンゼリカさんに断ってから、と思ったが、まだ、部屋から出てこないらしい。リュジュさんに伝言を頼んで、出かける事にした。
街中では、手綱を引いていく。門兵さんに挨拶して、街門を出たところで、騎乗した。ツキも、影から出てきてのびをする。まだ走り回る気か!
「なるほど、普通の馬よりも視点が高いですね」
「それに、すっごく早いですよ♪」
ノルジさんは、みどりちゃん自慢が出来て顔がにやけきっている。(人の)彼女が出来たら、大変だろうな。
ちなみに、他の護衛はいない。健脚でもって逃げ切る算段だから、と言いくるめてきたそうだ。・・・いいんだろうか?
「では、ダグ方向に軽く走ってみますか」
はいはい、ディさんにお任せします。
「ムラクモ? 張り合ってかっ飛ばさなくていいんだからね? というより、やらないで」
・・・トリさんまで目をそらしやがった。ヤル気だったな?!
途中、すれ違う隊商の視線の痛い事。自分以外のメンバーは、上機嫌。自分は、フード付きマントをすっぽりかぶってシャットアウト。
ん? 前方が騒がしい?
トリさん達が警戒態勢に入った。自分も聴力を上げて、あげて、・・・。
また来た!
「アルファさん? どうしました?」
ムラクモの足を止めたのに気が付いて、ディさんが声をかけてくる。が、それどころじゃない。街道のど真ん中で、何遍騒げば気が済むんだ!
ムラクモから飛び降り、街道から離れたところで『花火』を打ち上げる。青い空に白い炎の菊の花が咲き誇る。・・・ほら来た。
「あああああアルファさぁ〜ん!」
「な! なんですかアレは!」
ノルジさんが慌てふためく。アレの真下に居合わせた隊商も混乱している。そうでしょうとも。後方の隊商は無事だろうか。
「フェライオス殿下? お二方に説明をお願いします。自分はこれから手放せなくなりますので」
「うっ、はい! 了解、です!」
じたばたとみどりちゃんから降りる殿下に、残る二人もそれぞれ従魔から降りる。
次は、特大の『爆音』を用意。アレの鼻先に投げつけた。クリティカルヒット!
ばこーん!
「あきゃぁああぁ」
よし。墜落地点には誰もいない。
地響きをたてて墜落してきたのは、お騒がせドラゴン、ジルシャールさんだ。
「ひさしぶりです」
目を回していたようだが、声をかけたとたんに体を起こした。
「あ、あああ、アルファさん! おひさしぶりです!」
声は明るい。明るい、が。
「竜の里から遥々と、ナニしに出てきたんですか? 婚約者探しにしては、ハデなお越しですね」
「そんなぁ。アルファさんがお困りだと聞いて、いても立ってもいられなくてぇ」
もじもじするな! ってどこまでうわさが広がってるんだ?
「別に、呼んではおりませんが?」
「僕は、アルファさんのいらっしゃるところなら、例え火の中水の中!」
「ですから、お呼びした覚えはないのですが?」
「なんだってやります! もう、僕に任せてください!」
ぶちっ。
人の話を聞かないやつには、こうだ!
すぱこーん!
さっき、フェンさんの店でもらったハリセンで、ジルさんの鼻面を力一杯ひっぱたく。
云く、ジョークグッズよ、ってこの世界にもハリセンがあったとは驚き。素材がワイバーンの皮という時点で、冗談では済まない代物だと思うが。
だけど、この際、有効利用させてもらおう。なにより、竜の鱗相手なら、このくらいでないと。
ぎゃん!
おお、効いた効いた。
「あ、アルファさん、なにを・・・」
もう一発。
きゃん!
「自分が、いつ、ジルさんを呼びました? 加勢してくれと頼みました? 言ってませんよね? どこで、なにを聞いてきたのかは知りませんが。こんな派手な登場してくれって、どこの誰が言いました?」
「でも、でも、アルファさんがお困りだろうって、みんなが・・・」
ばしん! ぎゃうん!
「ですから、誰に頼まれました? ご存じないようですね。竜って、大きいんです。目立つんです。それが、大騒ぎしながら、街道沿いにすっ飛んできてご覧なさい。見なさい! 大騒ぎじゃないですか! 自分がそんな騒ぎを望んでいたとでも言うんですか?」
「そ、そんなつもりは・・・」
すぱぱぱん! きゃいん!
「言い訳無用! そういうのは、余計なお世話、と言うんです」
「で、でも・・・」
ぱぱぱぱぱぁん! ぎゃいん!
「まだ言いますか! あなたの行為は、迷惑以外のなにものでもありません」
「め、めいわくって、ぼくは・・・」
ずばん!
でっかい頭の横っ面をはり倒した。どすん、と頭が地に落ちる。
「い、い、か、げ、ん、に、してくださいね?」
にっこり笑って念を押す。よく見れば、しっぽもつばさも丸まっている。
「さて、もう一度、お聞きします。自分の名前を呼んでいましたよね。何の御用でしょうか?」
「・・・」
涙目になって、縮こまっている。ふん。
「用はないようですので、お引き取りください」
「せ、せっかく、お会いできたのに・・・っきゃん!」
ハリセンを振り上げただけで、悲鳴を上げた。
「あ、アルファさん? もう、そろそろ、よ」
ろしいのでは、と言いかけたのだと思うが。
「何か?」
「いえ! 何でもありません!」
フェライオス殿下は、素直に引き下がった。よろしい。後は、とっとと帰らせ、・・・頭上からまたも大声が響く。
「ジール〜、馬鹿ジル〜、どこよ〜、って、いたいた!」
本気で頭が痛くなってきた。
「え? もう、お一方?!」
ディさんが素っ頓狂な声を上げる。
この声は、竜の里の長老さんと一緒に話をしたお姉さんだ。ジルさんの真横に優雅に着陸する。
「・・・お久しぶりです」
「え、あ、あらあ。あの時の。元気だった?」
「こちらの方が来るまでは、すこぶる元気でした」
「あは、あはははは」
笑ってごまかすな!
「アルファさん、あの、こちらの方は・・・」
ディさんの質問を受けて、紹介する。
「ジルシャールさんのお姉さんのお一人です」
「レモリアーナよ」
横目で街道を見れば、大渋滞だ。竜を見て、馬車が止まる。当然、後続も止まる。どんどん止まる。
「フェライオス殿下? 大変申し訳ないのですが、騎士団を呼んで、隊商の交通整理をするよう、連絡して頂けませんか? ムラクモ、殿下を乗せてってくれる?」
意外にも、ムラクモが素直に殿下に近寄る。
「ツキは、護衛をお願いね」
びしっとお座りして尻尾を振る。いい子だ。
「でんか?」
「え。はっ。はいっ。すぐに行ってきます!」
すぐさま、ムラクモに乗って駆け出していった。この場から逃げ出したようにも見える。まあいいか。
「ということで。これ、とっとと、連れ帰ってもらえませんか?」
ジルさんを指差して、レモリアーナさんに「お願い」した。
「言わんこっちゃない」
レモリアーナさんが呆れたように言う。
「でも、でも姉さん、アルファさんが・・・ひゃん!」
ハリセンを手の上でポムポムと叩くと黙った。
「あ、あらぁ。いい物持ってるわねぇ」
「ご足労頂いたお詫びに、差し上げます。ですから、とにかく引き取ってください」
今度はハリセンで示す。しっぽを抱えて、ますます小さくなるジルさん。
「だいたい、婚約者がいる身で他の女にうつつを抜かしてる暇があるんですか?」
「そ、それは「ジルさんには聞いていません」・・・」
レモリアーナさんが苦笑した。鱗だらけの顔でも表情は豊かだ。
「あんた、それも報告してなかったの?」
「う」
「報告って?」
「アルファさんが持ってきた卵、あれ、マルフィーネだったの」
「マルフィーネさん?」
「ジルが探していた婚約者」
「え? え〜〜〜〜っ」
だって、卵、こんなに小さかったよ?
うわさ、千里を走る。え、違った?
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『花火』
それこそジョーク魔術。光で火薬花火を再現してみせたもの。ただし、破裂音はしない。




