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VS 騎士団

512


 貴族連中にも、従魔の群れは十分インパクトがあったようだ。特に、トリさんとみどりちゃんは、注目の的だ。ディさんがトリさんの背に載って練兵場を一周してみせると、おおいに拍手が沸いた。


 この後は、王様と貴族達でガーブリアへの支援を今後どのように行うかを相談するらしい。なので、彼らは練兵場から姿を消す。

 団長さん云く、普段の訓練を見学することも無いそうだ。団員達を信頼している、とも言えるが、もうちょっと関心を示してくれても良さそうなものなのに。


 ちなみに、自分が訓練に混ざっていることは参加者全員が口をつぐんでいる。せめて、自分に一矢報いてから! でないと、恥ずかしくて報告も出来ない、とのこと。なので、今日、自分が来ていることも知らせていない。


 王宮内で、王様に内緒、って、いいんだろうか。



 騎士団からは、魔術師さんも含めたユニットが三隊。でもって、遊撃隊として、ハンターさん達がてんでばらばら、もとい臨機応変に突撃する、ということになった。自分に投げられたら、退場。自分が降参したら、混成隊の勝ち。

 がちで、対魔獣戦だ。


「あの、相手をするのはアルファさんだけ?」


「そうです」


 団長さんは、指揮者モードに入っている。


「むちゃくちゃだ・・・」


「せめて、せめて一撃・・・」


 ヴァンさんのつぶやきも、団長さんは聞いちゃいない。作戦を練るのに集中している。


「ねえ、いつもこうなの?」


 アンゼリカさんも、やや呆れ気味だ。


「最初のときは団員さんが三十人、もう少しいたかな? でも、各個撃破しておしまい」


「まあ」

「おおぅ」


「これ、持っててください。今日は魔術師さんも混ざってるから、流れ弾があるかも」


 ディさんに『重防陣』の術弾を渡す。それを見ていたペルラさんの額に汗が一筋。


「流れ弾って・・・」


 ディさんは絶句。


「ちゃんと端に寄っててくださいよ?」



 従魔達も含めて見物人達が、下がったことを確認して、術を実行する。あれ、ペルラさんは、団長さんのところに行ってる。さてさて。


「よろしいですかな?」


「はいどうぞ〜」


 正面に二班、その奥に一班、左右に遊撃隊が二班。右側に見物人、左側に団長さん達の指揮班。それじゃあ、黒棒を両手にもって、と。


 左遊撃隊が、一気に迫ってくる。自分の左後方に回り込むつもりのようだ。自分は、あえて、ゆっくりと右遊撃隊の方に、移動する。


 くるりと向きを変えて、真後ろに迫っていた左遊撃隊を蹴散らす。黒棒を左右に振り、武器をたたき落とし、体勢が崩れたら、二本の棒で挟み込んで、放り投げた。


「うわぁあ」

「げっ」


 あるいは、棒を後方に突き出し、腹に当てる。足元をすくう。


「ぎゃっ」

「がふっ」


 混戦状態になったところに、奥の班から【氷の矢】が放たれる。こらこら、味方が怪我するでしょうが!


 一人の頭を踏み台にして、飛び上がり、すべてたたき落とす。踏み台にされたハンターさんは、負傷者扱い。そのまま、頭上から、黒棒を振るって、左遊撃隊を全滅させた。


 今度は、正面左班に向かう。あくまでもゆっくり。


 正面の左右班から【炎の矢】が、びしばし飛んできた。ふっ、甘いねぇ。黒棒の一振りで、ことごとく消火される。黒棒の性質は、前にも教えたでしょ?


「「う、うぉぉおおおお!」」


 騎士団の班の構成は、今回は、大盾持ちが二人、槍、剣が一人、魔術師さんが一人。

 盾で押さえ込む作戦のようだね。盾持ち二人が突貫してきた。うち、一人を大盾諸共蹴り飛ばす。お、槍が突き出されてくる。片足立ちで体勢が崩れたと判断したか。だけど、遅い! 蹴り上げた足で、槍の柄を踏みつける。その勢いに負けて槍から手を離してしまった。槍持ちは、左手の黒棒で横なぎに振り飛ばす。あ、らっきー、剣の人も巻き込まれた。魔術師さんの【炎の矢】は、右手の黒棒できっちり防ぐ。のしのし近づいていって、腹をなでて、おしまい。


「ぐ、ぐぐぐ」


 振り飛ばした左の黒棒で、もう一人の盾を押さえ込んでいた。そこに、残り二班から、【炎の矢】がまたも、がんがん打ち込まれてくる。飛び上がって躱し、盾持ちさんの背後に回って、頭をこつんと叩く。左班の戦闘も終了。


 お、右遊撃隊が、左遊撃隊のいた所に向かって、静かに移動中。悪くない。ちょいと、移動スピードを上げて奥班に迫る。もちろん、【炎の矢】は、きっちり防ぐ。当たれば、それなりに痛いのよ? だから、当たらないようにしてるの。


 残り三班で自分を取り囲もうとする。一番効果があるのは、正三角形の中央に対象を置くこと。

 でも、自分は、あくまでも左遊撃隊と奥班を結ぶ直線上にあるように、移動する。そして、ぐいぐいと奥班に近付く。


 不意に、大盾二人が左右に分かれた。ありゃ、この班は魔術師さんが二人だったか。


「【火炎弾】!」


 だから! 味方に当たるでしょ!


 右手の黒棒で、打ち上げる。


 右脇が開いたと見て、奥班、右班の槍持ちが突撃してきた。左手の黒棒を地面について、ひょいと身を躍らせる。左手の黒棒の上で片手逆立ちした格好になる。


「「え?」」


 一番力を込めたポイントを外されて、二人とも前のめりになる。


「「むぎゅ」」


 二人の頭を踏んづけた。はい、退場。


「うぉおりゃ!」


 右遊撃隊からも、槍持ちが出てきたが、遅いって。右手の黒棒で槍をいなし、絡めとる。でもって、腹部を一突き。


「ぐふぅ」


 大盾持ち四人がのしかかってきた。しゃがみ込んで、彼らの足元を一旋。


「でっ」

「ぎゃっ」


 四人が尻餅をついて、左右に転がった。盾が役に立たなくなったところで、次々と脇腹に蹴りを入れる。この四人も戦闘不能。


 あらら、右班の剣持ちの人が、槍を拾った。いい判断だね。でも、彼が接近する前に、奥班へ到着。この班の剣持ちと魔術師さん達をパクポクとすっ転がす。最も、魔術師さんの一人は、さっきの【火炎弾】で魔力切れを起こしていたらしく、目の焦点があってなかった。はい、おやすみ〜。


 背後からは、右遊撃隊が、四人の盾持ちさんを踏み越えてやってきた。こらこら。味方の怪我を悪化させるんじゃないの。


 罰として、ちょいと強めに小手を打ち、腹や足を叩いてまわる。


「痛てぇ!」

「すねぇ!」


 遊撃隊に混ざり込んでいた、槍を拾った人も巻き添えを食った。突き出した槍を流されて、背中ががら空きになったところに、後ろ蹴りをかます。


「うおっ」


 あ、顔面からいっちゃった。鼻血とか大丈夫かな。


 残ったのは、右班の魔術師さん。と、指揮班かな?


 自分の前後を挟んで、なんと


【【業火爆来】】!


 だから、味方を殺しちゃ駄目でしょ!


 着弾予想地点から一歩下がったところで、二本の黒棒を交差させて構える。タイミングを見計らって〜、振り上げる!


 よっしゃ。真上にいった。


 二人が、頭上に飛び去る弾を見送る隙に、まずは右班の魔術師さんに足払いを掛ける。でもって、


「あ、あららら」


 のしのしと歩み寄る自分を見て、ペルラさんと団長さんが顔を引きつらせる。


 団長さんはあわてて剣を引き抜いた。ペルラさんも、自分の顔面めがけて【炎の矢】を打ち出してくる。球数も矢の早さも、他の魔術師さんより飛び抜けている。が、


 団長さんめがけて、左手の黒棒を投擲する。


「なあっ」


 二人が離れたところで、ペルラさんに右手の黒棒を突き出す。そう、ペルラさんの【炎の矢】は、全部、棒の先端で潰していた。球筋が素直すぎるわ。


「こ、降参です」


 ペルラさんが両手を上げた。


 さて、団長さんは?


 あ。


 股を抱えてうずくまっている。


 たたき落とすタイミングがずれた所為で、大事なところに飛んでしまったようだ。


「おしまい、ですね?」


 青い顔した団長さんが、片手を上げて同意を示した。・・・声も出せないほど、痛いらしい。


 振り向けば、うめき声を上げる騎士団員とハンターさん達、へたり込む魔術師さん達がいる。


「あー、緊張した」


 黒棒をしまって、首をまわす。


「緊張、されてたんですか?」


 ペルラさんが訊いてきた。


「だって、大怪我させるわけにはいかないじゃないですか」


「は、はは、そちらの緊張、でしたか」


 ペルラさんもへたり込んだ。何か、変なことを言ったかな?


 あ、アンゼリカさんが、『重防陣』の結界をガンガン叩いている。あわてて解除した。


「アルちゃん!」


「っと、その前に、怪我人を〜」


 騎士団の救護班員さんのところに運ばなくちゃ。


「んなんもん、団員にやらせとけ! その前に説明しろ。どうやった、何やった? なにがどうなってるんだ!」


 ヴァンさんまで、凄い形相で迫ってくる。


「何って、見てたでしょ?」


「判るか!」

「判らないわよ!」


 二人に、見物人席に引っ張っていかれた。自分も、それなりにくたびれたんですけど?


 ガーブリア組が、呆然としている。ほとんどの人が、地面に座り込んでいた。


「え、え〜?」

「なんと言いますか、・・・」


 ノルジさんとディさんが、それぞれの従魔にすがりついたような格好をしている。


「おめぇ。いつもあんなことをしてたのか?」


「あんなことって?」


「何十人も相手に大立ち回りなんぞしやがって・・・」

「もう、もう、もう!」


「アンゼリカさんだって、盗賊団相手にやったって聞きましたよ?」


 ロロさんが、よく冷えた香茶を持ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます」


 ん〜、美味しい。


「お疲れさまでございました。本日の技の冴えは、一段と見事でございました」

「お、おい。ロロ嬢? あれ見て、感想がそれか?」


「今日のは、団長さんの作戦ミスですよ」


「「「「は?」」」」

「お嬢、どういう意味だ?」


「あの布陣は、グロボアかアンフィを想定した物でしょう。でも、団長さん、何も訊かなかったし。違う魔獣にしてたんです」


「違うって、違うって、何?」


 ノルジさんが、質問する。


「あのですね。魔獣の特徴的な動きを真似て攻撃するんです。で、本日のメニューは」


「は?」


「ロックアント、にしてみました」


「「「はぁぁぁ?!」」」


「あの班構成なら、とにかく目つぶしして、動きを押さえた後、四方八方から叩きのめす方法がとれたはずなんですが」


「む、無理だ!」


 ヴァンさん、頭使いましょう。


「そうでもないですよ? まずは魔術師さんが光球系の術で顔面を攻撃、足が止まったところで、黒棒を振り上げられないように前後から大盾で押さえ込む。最後に首筋に槍でも剣でも一撃当てれば止まりました」


「あ、あえええぇ?」

「うそだぁ」


 ヴァンさんがらしからぬ声を上げる。ノルジさんも否定してくる。


「ま、魔術師さんのフライングもありましたし、自分もずるしちゃいましたけど」


「どういうこと?」


 アンゼリカさんが首を傾げている。


「ええと、最初は、一番遠いところにいた班の魔術師さんが【氷の矢】を打ったことです。混戦状態であんなものばらまかれたら、いくらロックアントの防具をつけていてもただじゃ済みません。

 次も、その班から【火炎弾】が打たれたこと。自分の真後ろに、ハンターさん達の遊撃隊がいたので、巻き添え必須でした。

 もう一つ、遊撃隊が、倒れていた大盾の人を踏み越えてきたこと。怪我人になんてことするんですか。

 最後が、ペルラさん達の【業火爆来】。あのままでは、負傷者が死者になってましたね。


 自分の方は、大盾四人に足払いをかけたことでしょうか。ロックアントなら、敵に取り付かれたら体を大きく振ってはねとばしますけど、自分でやると団員さん達が大怪我しそうだったので」


「は、はぁ」


「ロックアントは、触覚に物理的攻撃を与えると、ものすっっっごく、面倒くさくなります。消化液や蟻酸を吐きながら、手当たりしだい、いや、大顎で噛み付きまくります。そもそも、魔術攻撃、ほとんど効きませんし。

 ということで、魔術攻撃無視で、なぎ倒していっただけです」


「いつもながら、お見事でございます」


 ロロさんが、何やらメモっている。


「今日は、団長さんがリタイアしちゃってるので、直接説明できませんでした。ロロさん。すみませんが、後で、教えてあげてもらってもいいですか?」


「畏まりました」


 練兵場を見れば、ようやく団長さんが担架で運ばれていくところだった。

 主人公、無双の巻。力一杯、手加減してますけど。

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