VS 騎士団
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貴族連中にも、従魔の群れは十分インパクトがあったようだ。特に、トリさんとみどりちゃんは、注目の的だ。ディさんがトリさんの背に載って練兵場を一周してみせると、おおいに拍手が沸いた。
この後は、王様と貴族達でガーブリアへの支援を今後どのように行うかを相談するらしい。なので、彼らは練兵場から姿を消す。
団長さん云く、普段の訓練を見学することも無いそうだ。団員達を信頼している、とも言えるが、もうちょっと関心を示してくれても良さそうなものなのに。
ちなみに、自分が訓練に混ざっていることは参加者全員が口をつぐんでいる。せめて、自分に一矢報いてから! でないと、恥ずかしくて報告も出来ない、とのこと。なので、今日、自分が来ていることも知らせていない。
王宮内で、王様に内緒、って、いいんだろうか。
騎士団からは、魔術師さんも含めたユニットが三隊。でもって、遊撃隊として、ハンターさん達がてんでばらばら、もとい臨機応変に突撃する、ということになった。自分に投げられたら、退場。自分が降参したら、混成隊の勝ち。
がちで、対魔獣戦だ。
「あの、相手をするのはアルファさんだけ?」
「そうです」
団長さんは、指揮者モードに入っている。
「むちゃくちゃだ・・・」
「せめて、せめて一撃・・・」
ヴァンさんのつぶやきも、団長さんは聞いちゃいない。作戦を練るのに集中している。
「ねえ、いつもこうなの?」
アンゼリカさんも、やや呆れ気味だ。
「最初のときは団員さんが三十人、もう少しいたかな? でも、各個撃破しておしまい」
「まあ」
「おおぅ」
「これ、持っててください。今日は魔術師さんも混ざってるから、流れ弾があるかも」
ディさんに『重防陣』の術弾を渡す。それを見ていたペルラさんの額に汗が一筋。
「流れ弾って・・・」
ディさんは絶句。
「ちゃんと端に寄っててくださいよ?」
従魔達も含めて見物人達が、下がったことを確認して、術を実行する。あれ、ペルラさんは、団長さんのところに行ってる。さてさて。
「よろしいですかな?」
「はいどうぞ〜」
正面に二班、その奥に一班、左右に遊撃隊が二班。右側に見物人、左側に団長さん達の指揮班。それじゃあ、黒棒を両手にもって、と。
左遊撃隊が、一気に迫ってくる。自分の左後方に回り込むつもりのようだ。自分は、あえて、ゆっくりと右遊撃隊の方に、移動する。
くるりと向きを変えて、真後ろに迫っていた左遊撃隊を蹴散らす。黒棒を左右に振り、武器をたたき落とし、体勢が崩れたら、二本の棒で挟み込んで、放り投げた。
「うわぁあ」
「げっ」
あるいは、棒を後方に突き出し、腹に当てる。足元をすくう。
「ぎゃっ」
「がふっ」
混戦状態になったところに、奥の班から【氷の矢】が放たれる。こらこら、味方が怪我するでしょうが!
一人の頭を踏み台にして、飛び上がり、すべてたたき落とす。踏み台にされたハンターさんは、負傷者扱い。そのまま、頭上から、黒棒を振るって、左遊撃隊を全滅させた。
今度は、正面左班に向かう。あくまでもゆっくり。
正面の左右班から【炎の矢】が、びしばし飛んできた。ふっ、甘いねぇ。黒棒の一振りで、ことごとく消火される。黒棒の性質は、前にも教えたでしょ?
「「う、うぉぉおおおお!」」
騎士団の班の構成は、今回は、大盾持ちが二人、槍、剣が一人、魔術師さんが一人。
盾で押さえ込む作戦のようだね。盾持ち二人が突貫してきた。うち、一人を大盾諸共蹴り飛ばす。お、槍が突き出されてくる。片足立ちで体勢が崩れたと判断したか。だけど、遅い! 蹴り上げた足で、槍の柄を踏みつける。その勢いに負けて槍から手を離してしまった。槍持ちは、左手の黒棒で横なぎに振り飛ばす。あ、らっきー、剣の人も巻き込まれた。魔術師さんの【炎の矢】は、右手の黒棒できっちり防ぐ。のしのし近づいていって、腹をなでて、おしまい。
「ぐ、ぐぐぐ」
振り飛ばした左の黒棒で、もう一人の盾を押さえ込んでいた。そこに、残り二班から、【炎の矢】がまたも、がんがん打ち込まれてくる。飛び上がって躱し、盾持ちさんの背後に回って、頭をこつんと叩く。左班の戦闘も終了。
お、右遊撃隊が、左遊撃隊のいた所に向かって、静かに移動中。悪くない。ちょいと、移動スピードを上げて奥班に迫る。もちろん、【炎の矢】は、きっちり防ぐ。当たれば、それなりに痛いのよ? だから、当たらないようにしてるの。
残り三班で自分を取り囲もうとする。一番効果があるのは、正三角形の中央に対象を置くこと。
でも、自分は、あくまでも左遊撃隊と奥班を結ぶ直線上にあるように、移動する。そして、ぐいぐいと奥班に近付く。
不意に、大盾二人が左右に分かれた。ありゃ、この班は魔術師さんが二人だったか。
「【火炎弾】!」
だから! 味方に当たるでしょ!
右手の黒棒で、打ち上げる。
右脇が開いたと見て、奥班、右班の槍持ちが突撃してきた。左手の黒棒を地面について、ひょいと身を躍らせる。左手の黒棒の上で片手逆立ちした格好になる。
「「え?」」
一番力を込めたポイントを外されて、二人とも前のめりになる。
「「むぎゅ」」
二人の頭を踏んづけた。はい、退場。
「うぉおりゃ!」
右遊撃隊からも、槍持ちが出てきたが、遅いって。右手の黒棒で槍をいなし、絡めとる。でもって、腹部を一突き。
「ぐふぅ」
大盾持ち四人がのしかかってきた。しゃがみ込んで、彼らの足元を一旋。
「でっ」
「ぎゃっ」
四人が尻餅をついて、左右に転がった。盾が役に立たなくなったところで、次々と脇腹に蹴りを入れる。この四人も戦闘不能。
あらら、右班の剣持ちの人が、槍を拾った。いい判断だね。でも、彼が接近する前に、奥班へ到着。この班の剣持ちと魔術師さん達をパクポクとすっ転がす。最も、魔術師さんの一人は、さっきの【火炎弾】で魔力切れを起こしていたらしく、目の焦点があってなかった。はい、おやすみ〜。
背後からは、右遊撃隊が、四人の盾持ちさんを踏み越えてやってきた。こらこら。味方の怪我を悪化させるんじゃないの。
罰として、ちょいと強めに小手を打ち、腹や足を叩いてまわる。
「痛てぇ!」
「すねぇ!」
遊撃隊に混ざり込んでいた、槍を拾った人も巻き添えを食った。突き出した槍を流されて、背中ががら空きになったところに、後ろ蹴りをかます。
「うおっ」
あ、顔面からいっちゃった。鼻血とか大丈夫かな。
残ったのは、右班の魔術師さん。と、指揮班かな?
自分の前後を挟んで、なんと
【【業火爆来】】!
だから、味方を殺しちゃ駄目でしょ!
着弾予想地点から一歩下がったところで、二本の黒棒を交差させて構える。タイミングを見計らって〜、振り上げる!
よっしゃ。真上にいった。
二人が、頭上に飛び去る弾を見送る隙に、まずは右班の魔術師さんに足払いを掛ける。でもって、
「あ、あららら」
のしのしと歩み寄る自分を見て、ペルラさんと団長さんが顔を引きつらせる。
団長さんはあわてて剣を引き抜いた。ペルラさんも、自分の顔面めがけて【炎の矢】を打ち出してくる。球数も矢の早さも、他の魔術師さんより飛び抜けている。が、
団長さんめがけて、左手の黒棒を投擲する。
「なあっ」
二人が離れたところで、ペルラさんに右手の黒棒を突き出す。そう、ペルラさんの【炎の矢】は、全部、棒の先端で潰していた。球筋が素直すぎるわ。
「こ、降参です」
ペルラさんが両手を上げた。
さて、団長さんは?
あ。
股を抱えてうずくまっている。
たたき落とすタイミングがずれた所為で、大事なところに飛んでしまったようだ。
「おしまい、ですね?」
青い顔した団長さんが、片手を上げて同意を示した。・・・声も出せないほど、痛いらしい。
振り向けば、うめき声を上げる騎士団員とハンターさん達、へたり込む魔術師さん達がいる。
「あー、緊張した」
黒棒をしまって、首をまわす。
「緊張、されてたんですか?」
ペルラさんが訊いてきた。
「だって、大怪我させるわけにはいかないじゃないですか」
「は、はは、そちらの緊張、でしたか」
ペルラさんもへたり込んだ。何か、変なことを言ったかな?
あ、アンゼリカさんが、『重防陣』の結界をガンガン叩いている。あわてて解除した。
「アルちゃん!」
「っと、その前に、怪我人を〜」
騎士団の救護班員さんのところに運ばなくちゃ。
「んなんもん、団員にやらせとけ! その前に説明しろ。どうやった、何やった? なにがどうなってるんだ!」
ヴァンさんまで、凄い形相で迫ってくる。
「何って、見てたでしょ?」
「判るか!」
「判らないわよ!」
二人に、見物人席に引っ張っていかれた。自分も、それなりにくたびれたんですけど?
ガーブリア組が、呆然としている。ほとんどの人が、地面に座り込んでいた。
「え、え〜?」
「なんと言いますか、・・・」
ノルジさんとディさんが、それぞれの従魔にすがりついたような格好をしている。
「おめぇ。いつもあんなことをしてたのか?」
「あんなことって?」
「何十人も相手に大立ち回りなんぞしやがって・・・」
「もう、もう、もう!」
「アンゼリカさんだって、盗賊団相手にやったって聞きましたよ?」
ロロさんが、よく冷えた香茶を持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます」
ん〜、美味しい。
「お疲れさまでございました。本日の技の冴えは、一段と見事でございました」
「お、おい。ロロ嬢? あれ見て、感想がそれか?」
「今日のは、団長さんの作戦ミスですよ」
「「「「は?」」」」
「お嬢、どういう意味だ?」
「あの布陣は、グロボアかアンフィを想定した物でしょう。でも、団長さん、何も訊かなかったし。違う魔獣にしてたんです」
「違うって、違うって、何?」
ノルジさんが、質問する。
「あのですね。魔獣の特徴的な動きを真似て攻撃するんです。で、本日のメニューは」
「は?」
「ロックアント、にしてみました」
「「「はぁぁぁ?!」」」
「あの班構成なら、とにかく目つぶしして、動きを押さえた後、四方八方から叩きのめす方法がとれたはずなんですが」
「む、無理だ!」
ヴァンさん、頭使いましょう。
「そうでもないですよ? まずは魔術師さんが光球系の術で顔面を攻撃、足が止まったところで、黒棒を振り上げられないように前後から大盾で押さえ込む。最後に首筋に槍でも剣でも一撃当てれば止まりました」
「あ、あえええぇ?」
「うそだぁ」
ヴァンさんがらしからぬ声を上げる。ノルジさんも否定してくる。
「ま、魔術師さんのフライングもありましたし、自分もずるしちゃいましたけど」
「どういうこと?」
アンゼリカさんが首を傾げている。
「ええと、最初は、一番遠いところにいた班の魔術師さんが【氷の矢】を打ったことです。混戦状態であんなものばらまかれたら、いくらロックアントの防具をつけていてもただじゃ済みません。
次も、その班から【火炎弾】が打たれたこと。自分の真後ろに、ハンターさん達の遊撃隊がいたので、巻き添え必須でした。
もう一つ、遊撃隊が、倒れていた大盾の人を踏み越えてきたこと。怪我人になんてことするんですか。
最後が、ペルラさん達の【業火爆来】。あのままでは、負傷者が死者になってましたね。
自分の方は、大盾四人に足払いをかけたことでしょうか。ロックアントなら、敵に取り付かれたら体を大きく振ってはねとばしますけど、自分でやると団員さん達が大怪我しそうだったので」
「は、はぁ」
「ロックアントは、触覚に物理的攻撃を与えると、ものすっっっごく、面倒くさくなります。消化液や蟻酸を吐きながら、手当たりしだい、いや、大顎で噛み付きまくります。そもそも、魔術攻撃、ほとんど効きませんし。
ということで、魔術攻撃無視で、なぎ倒していっただけです」
「いつもながら、お見事でございます」
ロロさんが、何やらメモっている。
「今日は、団長さんがリタイアしちゃってるので、直接説明できませんでした。ロロさん。すみませんが、後で、教えてあげてもらってもいいですか?」
「畏まりました」
練兵場を見れば、ようやく団長さんが担架で運ばれていくところだった。
主人公、無双の巻。力一杯、手加減してますけど。




