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気合いは十分

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 爽やかな青空に、今日も眩しく陽が昇る。


 [森の子馬亭]の前には、王宮の兵士さん達が並んでいた。これから、ギルドの修練場を経由して、王宮に向かうのだ。


 誰が、って、ディさん達が。


 兵士さん達が付くのは、住民がパニックになって、従魔達に手を出さないよう警戒するためだそうだ。普通の(野生の)魔獣が侵入した、と勘違いする人も出るかもしれない、とのこと。

 ある程度、自分の相棒達のことが広まっているので、そうそうお馬鹿なことをする人はいないと思うが。


 それに、


「今日は、晴れ舞台だよ〜。頑張ろうね、みどりちゃん♪」


 ノルジさんのあの様子を見たら、そんな気も失せる。・・・脱力する、とも言う。


 ディさんには、今日の王様との謁見、もといお茶会に自分も参加しないか、と誘われた。付き添いのいる歳でもないでしょう? と、返事してやったら苦笑された。そもそも、ガーブリアの従魔のお披露目にきたんだから、自分をネタにするのはやめてくれ、と釘も刺しておく。


「あら。そんなに気になるなら、ご一緒すればいいじゃない?」


 アンゼリカさんが、気軽に言う。


「自分が混ざったら、宣伝どころじゃなくなりますよ? きっと」


 ガーブリアのハンターさん達は、それを聞いて、目が泳いだり、顔を背けたり。やっぱり〜。


「でも、何のお話をしていたか、聞いてみたいわ」


「アンゼリカさん? 王族同士の対談ですよ? 聞こえないのが普通なんです!」


「でも、アルちゃんのこと、話すかもしれないでしょ?」


 どこまで過保護なんだ、この人は。


「そうですね。気になります」


 ロロさんまで! 王宮の勤め人がそれでいいのか?


 ギルドハウスに向かう途中、二人して何やら悪巧みの気配を漂わせている。


「ロロさんは、給仕に入らないの?」

「特に指示がなければ、お飲物の用意をしました後は、部屋の外で待機となりますので」


 不意に、こっちを向いた。ぎく。混ぜないで。自分は、聞きたくないってば。


「ア〜ルちゃぁ〜ん♪」

「賢者様? ご協力お願いできませんか?」


 知らない、知らない。


「おう、どうした?」


 あ、ギルドハウスに着いてた。


「お客様達の訪問先での会話を聞く方法をご存じないかと、賢者様にお伺いしていたところです」


 ロロさんは、またもずばっと答える。


「そうだなぁ。そういやぁ、アンスムが聞いた話で、レウムが変な商人に絡まれてたときに、、そいつとお譲が店ん中でわいわいやってたのが町ん中で聞こえたとか」


 ぎゃぁああ。ポリトマさん、アンスムさんとツーカーだからって、そこまでバラさなくても! でもって、ヴァンさんにまで教えないでよ!


「あらぁ、面白そう」

「【遮音】とは、真逆の魔術ですか?」

「聞いていただいても、かまいませんよ?」


 当事者の一人のディさんが、さらっと許可を出してくる。


「え? 従魔持ちなのに、まだ、魔術が使えるの?」


 ノルジさんが、またまた仰天している。


「え? アルファ殿が魔術をお使いになるのですか?」


 ディさんも、別の点で驚いている。


「だって、ほら、お嬢だし」


 だから、ヴァンさん。それって、理由としてどうなの。


「今日は、アル坊が暴れるんだって?」

「俺達も混ざっていいのかな?」

「うー、アル坊と腕試しかぁ。楽しみだな」


 暇人こいてたハンターさん達も、後ろからゾロゾロとついてくる。・・・自分も見せ物か!


「ヴァンさん! なんなんですか、この有様は」


 彼らを指差して文句を言った。


「いやぁ、なんていうか、なぁ?」

「顧問殿は、騎士団とばっかり遊んでいるじゃないですか。ずるいです」


 トリーロさん、その文句も間違ってます。


「それよりも、さっきの遠くの話を聞く方法よ! 出来るんでしょ?」


 アンゼリカさんが、話を蒸し返してくる。うぅ、すり替えられたと思ったのに。


「盗み聞きは、よくありません!」


 ヘミトマさんの所は、討伐の一環だったの!


「別に、怪しいことをするのでなければ、聞かれてもかまわないはずよね?」


 アンゼリカさ〜ん、目付きが怖いです。


「いいじゃねえかよ。ほら、片方はいいって言ったんだし」


 あ、ヴァンさんまで乗ってきた。


「私は、賢者殿には聞いていていただきたいと思うのですが」


 アストレさんまで〜。


「後で、陛下にばれたら、どうするんですか」


「賢者様のなさることに、文句を言えるはずはありません」


 ・・・ロロさん? 胸を張って言えることじゃないと思います。



 押し切られてしまった。


 マイク用の術弾をディさんに渡す。術のオンオフは、スピーカー側の術弾でも出来る、ように作ってしまっていたためだ。しまった。


 ディさんとノルジさんが王様とお茶をした後、練兵場でガーブリアの従魔達をご覧になる。王様が退場してから、騎士団、ギルドハンター混成隊と、自分で模擬戦をする。

 お茶の最中に模擬戦をしたかったのだが、ディさん達も「見たい!」とだだをこねたので、こういう予定になった。

 その間は、見物人達は練兵場の一角で待ちぼうけ。自分も、暇になるかと思いきや。


「賢者殿! これが、改良した鎧です!」

「こちらは、槍の柄を工夫してみました」


 工兵さん達に取り囲まれていた。ガーブリア組の目が点になっている。


「あ、あの、ギルドマスター?」

「ヴァンでいいぞ。どうした」

「なんなんですか、あの有様?」

「いや、俺も知らねぇ」

「以前、ロックアントの加工方法についてご示唆いただきまして、ようやく成果が出始めたところなんですな」


 団長さんがご丁寧に解説している。のが、聞こえた。


「自分に見せられても、ですね?」


「「いやいやいや」」

「これらのおかげで、先日の氾濫でも活躍できたんです」

「是非とも、ご覧いただきたく!」


 スピーカーの術弾は、一番話を聞きたがっていたアンゼリカさんに渡してしまったので、それを口実に逃げることも出来やしない。


「お嬢は、そんなことまでしていやがったのかよ」

「本当にねぇ」


 うう、アンゼリカさんのつぶやきが怖い。


「賢者様、団長様。女官長様からご伝言です。魔術師隊も演習に加えていただけないか、と」


 さらに、ロロさんが追撃をかましてきた。


「かまいませんぞ?」


「構います! 自分に、何人相手させるつもりなんですか!」


 すでに、十数人のハンターさん達が、柔軟体操を始めている。おじさま祭りなんて見たくないのに!


「あぁ? 同時に全員が掛かるわけじゃないんだろ?」

「魔獣の氾濫のときの「ゆにっと」の検証をお願いできますかな?」


 あ、あ〜、防御とか遠距離攻撃とか?


「き、今日は単なる対人戦でしょ?」


「どっちだって同じじゃねぇか」

「アル坊の対人戦かぁ。見物だねぇ」

「頑張れようぅ」


 ・・・覚悟してろ。


「あら、お話が始まったみたいだわ」

「「「どれどれ」」」


 工兵さん達を除いて、アンゼリカさんの周りに集まっていった。音量を上げるか。


「突然の訪問にも関わらずご対面をお許しいただき、感謝します」

「いえ。改めて、この度の災害にはお見舞いを申し上げます」

「ありがとうございます」


 程よく、聞こえているようだ。


「さすが賢者殿!」

「あれも、ご自分の術具なのですか?」

「よく聞こえないわ。静かにしてもらえる?」


「「「はい」」」


 アンゼリカさんの鶴の一声で、押し黙る。


「賢者殿。今のうちに、見てもらえませんか?」


 工兵さん達はあきらめが悪い。手に手に武具防具を持って、小声でお願いしてくる。

 まあ、他人の会話にも興味ないし、いいか。


「魔導炉の圧力を上げて加工してみたところ、盾の厚みを抑えられました」

「こっちの槍の柄は、軽量化に成功しました」

「ただ、折れやすくなった物がありまして」


「圧力のかけ方が不均一だったからでは?」


「「「なるほどぉ」」」


 などなど。


 逆に、金属の流通について質問させてもらった。


 コンスカンタ周辺が主要産出地で、それよりも規模の小さな鉱山が、ヘリオゾエア大陸南部に点々と分布している。

 鉱山からは、砂鉄ばりに純度の高い鉱石が、各種、採取されるらしい。それを、溶鉱炉あるいは魔導炉を使って加工している。主に、鉄、銅、鉛、を配合して合金を作る。稀に、特注品で、魔方陣を刻んだ武具も作られる。

 金属は、武器以外にも農具や台所用品にも用いられている。産出量は、需要ぎりぎり。普通なら、高級品となりそうだが、一般市民が手に入れられるよう、王宮が価格補助している。当然、リサイクルもされている。

 金銀の貴金属は、一部を除いて、大陸共通通貨に鋳造される。コンスカンタの専売だそうだ。各国の通貨取引量に合わせて配達され、王宮に持ち込まれた後、正式に通貨として取り扱えるようになる。経費は、ごにょごにょ、よく判らない。たぶん、王宮の秘匿事項だから、だろう。


 魔導炉のことも教えてもらった。


 特殊な岩石で組んだ炉で、薪ではなく純度の高い魔石を燃料に使う。魔道具職人の商売道具であり、術者の腕で製品の善し悪しが決まる。炉は使用する本人でなくても作れる。炉のサイズと性能は比例しない。加工するのは、金属の他にロックアントなどの魔獣素材で、魔導具の材料になる。


 などなど。

 フェライオス殿下から拝借した本にも載っていない話を、いろいろと聞くことが出来た。


「おおい。そろそろ、こっちくるぞ?」


 ヴァンさんに声をかけられた。おや、いつの間に。

 相棒達には、事前に、出てこないように、拝み倒している。ムラクモは不満そうだったが、一応は了解してくれた、ようだ。・・・頼むから、アドリブはやめて。そうでなくても、今日は見せ物になるんだから。


 術を解除した。アンゼリカさんの手のひらで術弾が消える。


「貴族連中も大勢来てるみたいだな」


 そりゃ、よかったですね。おおいに宣伝してください。自分は、しません。


 ガーブリア組が、従魔達を連れて彼らに挨拶しに向かった。さて、軽く打ち合わせをしておきますか。


「団長さん、武器や防具は訓練用の物ですよね?」


「・・・実剣では駄目ですか?」


「今日は人数が多いので、壊しちゃうかも」


「「・・・」」


「ハンターさん達にも模擬剣を貸してください」


「おいおい」


 ヴァンさんが止めようとする。


「模擬戦で、商売道具を壊したら元も子もないでしょ」


「「・・・」」

「防具は実戦使用の物を、でよろしいでしょうか?」


 ペルラさんが妥協案を出してきた。


「魔術師隊の皆さんも混ざるんですか?」


「是非とも、日頃の訓練の成果を賢者様にもご覧いただきたいと」


 ニコニコとしている。


「・・・これが、自分も見ているだけなら賛同しますけどね〜」


「イタい目に会わないとわからない者も居りますの」


 ・・・相変わらず、厳しい人だ。でもって、自分を使うな!

 アンゼリカさんの暴走後、どこかコワレ気味な人達の所為で、話が斜めにそれていく。・・・どうしてくれるんだ。

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