必要なとき、必要なだけ
015
洞窟に帰ってから、木の枝に肉を刺して、焼いて食べた。食べながら、泣いた。
一夜、明けた。
二度と狩りをしない、ということはできない。この森で生きていくうちに、遅かれ早かれ、必ず必要になる技術だから。
とにかく、岩大蟻と同じ力加減では、狩りにならないということが判った。しかし、鹿を撃ったときは、最小限にしたはずだ。
まず、できることは、弾の素材や大きさを変えることぐらいか。
岩大蟻の弾はもっと小さくする。薫製にしたてん杉の種や枝も、弾にする。生よりは丈夫で加工しやすかったからだ。ちなみに、生の種は、指ではじいた瞬間に粉々になった。脱皮後のパワーアップ度は半端ない。手加減以前に、下手な材質では撃つことすらできなくなっている。ほんとにもう。
人型のままでも、岩大蟻の弾の加工ができた。手が小さくなった分、弾も小さくできた。薫製済みの枝を抜殻製のナイフで加工する。・・・ナイフをつくっておいてよかった。真球にするのが難しかった。岩大蟻の小弾と同じサイズは無理だった。種も同様に加工する。
ある程度、数が揃ったところで、試し撃ちを始める。かといって、森の中で、片っ端から、動物を撃つ訳にも行かない。
殺戮者になりたいんじゃないんだ。
悩んだあげく、とある古木をターゲットにすることにした。森の観察中に、魔力を持たない熊もどきのタックルでへし折れたのを見かけて、強度的にもちょうど良かろうと判断した。幹の部分だけを、草原に持ち帰る。大人でも抱えきれない胴回りの木材を、五歳の子供が頭上に掲げてひょこひょこ運んでいる姿は、さぞかしシュールだったろうな。でも、誰もみていないから、問題な〜い。
薫製枝の弾から試射する。力は最小限で。幹は少々えぐれて、木片が四散した。たとえるなら、散弾か? 着弾の衝撃で、弾が粉々に砕けたようだ。・・・あんなもんがヒトに当たったら、全身血だるまだ。ただし、魔力持ちには効かなそうだ。
次、薫製種。幹は陥没した。こちらは、ビルディングを解体するときの鉄球を当てた感じか。ボディブローには効きそうだが、必殺とは行かないようだ。
最後、岩大蟻の小弾。ぶしっ。めり込んだ。もう少し、力を込めて、もう一度。さらに深く刺さった。少しずつ力を加えて、試射を続けていく。何度目かで、ずかっ。貫通した。
弾種は、岩大蟻に決定。もう少し、獲物に合わせた弾のサイズ調整が必要だろう。そして、練習も。
岩大蟻の団子は、まだたくさんある。トライ&エラーでとにかくつくる。一応、薫製種の弾も、用意しよう。直撃させるのではなく、脅しに使えるかもしれないし。
かなりの時間を練習に費やした。あの鹿の親子のような殺し方を、二度としないですむように。
改めて、狩りに出た。
今日見つけたのは、鳥だ。ドードーに似ていて、足が長い。周りに、肉食獣がいないことを確かめて、撃つ。
鳥は、頭を吹き飛ばされて、倒れた。本体は、無傷だ。
両手を合わせて、「南無」と唱える。偽善かもしれないけど、自分なりのけじめ、だと思いたい。
逆さまにして血抜きをしている間に、羽をむしる。力任せに引っ張ると皮までちぎりそうになったので、慎重に行う。血抜きが終わったら、ナイフで胴を開き、内蔵を取り出す。むしった羽で、ナイフを拭き取り、肉を持って、洞窟へ帰る。
ワイルドライフが、また一歩すすんだ。
洞窟に戻って、さらに解体する。程よい大きさにしたところで、薫製ボックスに仕掛ける。一部は木の枝に刺して、焼き肉にした。
おいしかった。欲を言えば、塩味が欲しかった。
現実を直視したくなくて、強引に気をそらしているのでは?




