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おたよりがいっぱい

501


 アンゼリカさんに手を引かれて、ギルドハウスに連れて行かれた。窓口のお姉さんへの挨拶もそこそこに、ヴァンさんの執務室に直行する。


「お、お嬢?! いつ帰ってきた!」


 ヴァンさんも、どことなくくたびれたように見える。噴火後の騒動の後始末が大変だったのかな?


「ただいまです。それにしても、なんで[森の子馬亭]に、自分宛の物があるんですか?」


「まずそれかよ・・・」


 ため息をつかれた。


「ローデンに戻ってくる前に、山を見てきました。もう、大きな噴火はしないと思います。なので、緊急性はありません。

 それより、客室一室を占領させてしまったんですから。営業妨害でしょ」


 [森の子馬亭]の荷物は、分別そっちのけで便利ポーチに放り込んできた。今は、従業員の皆さんが、掃除に励んでいるはずだ。


「あら、それはいいのよ」


 アンゼリカさん、よくはないでしょ!


「顧問殿が帰ってこられたんですか!」


 トリーロさんが、駆け込んできた。やっぱり、やつれてる?


「久しぶりです、トリーロさん。お元気でしたか?」


「はい。顧問殿にはお変わりないようで、よかったです。旅先では、お怪我とかはされませんでしたか?」


「あ、あ〜」


 思わず、目が泳ぐ。だってね? 怪我はしてないけど、いろいろと。ほら、いろいろと。


「「「やっぱり!」」」


 三人がハモった!


「・・・もしかして?」


「もしかしなくても、だ。何をやらかしてきやがった!」


 ヴァンさんの目が怖い。


「顧問殿の執務室は、机周りは確保してありますが、なんと言いますか・・・」


「確保って?」


「通路です」


「・・・」


「もう、積み上げる余裕もありません。ギルドの倉庫を使うわけにも行かないので、致し方なく、女将様にご協力をお願いいたしました」


「いっそ、王宮に泣きついて」


「あちらも、それなりに・・・」


「はい?」


「とにかく! 全部、全部だ! きっちり白状してもらおうか!」


 だから、ヴァンさん、目が怖いです。


「賢者殿!」

「賢者様。お帰りなさいませ」


 あ、ああ、団長さんに侍従さん、ロロさんまでやってきた。


「・・・ここ、狭くありません?」


 部屋から出られれば、出てしまえば『隠鬼』でも何でも使って脱出・・・


「逃がすか!」


 あ、部屋の鍵をかけられちゃった。

 ヴァンさんの雄叫びを聞いて、侍従さん達とトリーロさんは、すかさず扉の前に移動して待ちの体制に入った。ヴァンさんは執務机の上にどっかりと座り込み、応接セットのソファーには、団長さんとアンゼリカさんが収まっている。・・・ここは、どこの尋問室?


 極力ごまかした。

 それでも、どこで、何をして、どうなった、まで、一通り吐かされた。白状させられた。追及の厳しいこと!


 昼時だからと再度部屋を出ようとしたら、アンゼリカさんが微笑みながら「まだ、あるわよね?」と、暴露もとい脅迫する。

 なので、最後の料理とまんじゅうを並べた。ほんっとーに、アンゼリカさんは千里眼の持ち主かもしれない。


 クモスカータの元団長さんとの一騎打ちをして、森に帰り、一休みしていたら、ロックアントの群れるシーズンになったので狩ってきた。と、自分の話を終える。


 目をキラキラさせていたのはアンゼリカさんだけで、他の人達は一斉にため息をついた。団長さんはこめかみをぐりぐりを押さえているし、ヴァンさんは話の途中で机から転げ落ちたままだ。侍従さんとロロさんは、顔は笑っていても手足が震えているし、トリーロさんは、床に手をついている。


「さすがはアルちゃんね!」

「女将、そんな生温いもんじゃねえぞ。この、歩く問題児が!」

「いえ、街道の非常識、とでも言いましょうか・・・」

「盗賊の災厄?」

「悪党の天敵、かもしれませんわ」


 みんなそろって、言いたい放題。でもね、全部巻き込まれただけ、被害者は自分なの。って、誰も信じてくれなかった。ぐすん。


「あの、それに、相棒達の活躍もあったおかげで・・・」


 ちなみに、ヴァンさんがひっくり返ったのが、ムラクモ達と会った件を話した時だ。

 ただ、そのときオボロも一緒にいたことにしている。「北天の使者」さんと会ったことも内緒だ。誤摩化せるところはとことん省略したわけ。そうでもしなければ、今日中に全部話し終わるなんて無理無理無理!


「どこかしら? どこにいるの?」

「・・・俺達にも会わせろや」


「なぜ?」


「減るもんじゃねぇだろ? 出し惜しみすんな」

「生きた魔獣を観察できるまたとない機会ですぞ!」

「あの、顧問殿と今後も仕事場をご一緒するなら、早いうちにご挨拶させていただければ、と・・・」

「「同感です」」


 ・・・揃って、好奇心丸出しの顔つきだ。相棒達は、見せ物じゃないぞ?


「一頭ずつ、紹介してくれればいいじゃねえか。修練場か? 厩か?」


 侍従さんとトリーロさんが、自分の左右をがっちり固めた。な、投げ飛ばしてもいいかな?


 ところが、連行される前に、ユキが影から出てきた。場を読み過ぎだよ、こら。


 二人が、硬直する。


「お、おい。今、どっから出てきた?」

「顧問殿の、足下、から?」


 トリーロさんが、だらだらと顔中に汗をかいている。さすがの侍従さんも、その顔が引きつりまくってる。


「あら、アルちゃん。この子はどうしたのかしら?」


「・・・みなさんに挨拶したいそうです」


「だから! どこにいやがったんだ!」


「・・・自分の、影の、中、です」


 ぼそっと、答えた。クモスカータの北砦では、たいして驚かなかったのに、えらい違いだ。


「まあ、小屋要らずなのね」


 全員が、ずっこけた。


「お〜か〜み〜、そういう問題じゃねえ!」


「あら、今、ここに、居るんだもの。他に、何かあるの?」


 ヴァンさんが言葉に詰まった。やがて、がっくりとうなだれる。


「そうだよな。お嬢だもんな」

「・・・そうでありますな」


 団長さんまで! その一言で纏められるのもなんていうか、慣れたくはない。ないけど、いろいろ説明しなくて済む、んだよねぇ。がっくり。


「一頭じゃねえって、言ってたよな」


 トリーロさんと侍従さんは、自分の手を離すと、今度はソファーを壁際に移動させた。

 広くなったところで、自分が何も言わないうちに、ツキとハナも出てきた。あーこらこら。全員を紹介するとは一言も言ってないぞ。


「ジャグウルフの子供ですかな?」

「いや、キノエラは、これで成体だ」

「みんな、違う色をしているのね。きれいだわ」


 次は、ムラクモがどどーんと登場する。ハナ達は、入れ替わりに素早く影に戻った。空気を読むよねぇ、この子達は。


「・・・こちらは、また大きな馬ですな」

「トライホーンだ。こいつも[魔天]東域にしかいないよな」


 団長さんとヴァンさんが、ぼそぼそと話をしている。山脈の西と東では、呼び方が違うこともあるようだ。


「四頭も、かよ・・・」


 すぐさま、ムラクモとオボロが入れ替わる。


「まだいやがったのか!」


 オボロは、ヴァンさんに向けて、おおきなあくびをかまし、伸びをしてから、しっぽをおおきく振る。それを見て、全員がアンゼリカさんの周りに身を寄せる。


「・・・見たことねえ。でも、色はともかく、体格は、ほら、あれだ」


「誰かが、金虎と呼んでいたような」


「それだ! って、ルーバリアの黒色個体かよ!」

「ルーバリア、というのですか?」

「[北天]の魔獣だ。普通は黄色なんだが、こいつは、黒。好き者が目の色変えるぞ。それに、なんで東域にいたんだ?」

「「「・・・」」」


 トリーロさんと王宮組の目は、そろって点になる。アンゼリカさんだけが、「みんな、かわいいわぁ」とにこにこしている。


「やっぱり、目立ちますか?」


「トライホーンもルーバリアも、魔獣の中では中型だが希少種だ。それも含めて五頭だぞ? 目立つなんてもんじゃねぇ!」


 ヴァンさんが、うなるように教えてくれる。そんな、怒鳴らなくても。


「ローデンでは、従魔使いは魔術師未満の扱いをされているので、ほとんど見かけません。その上、記録に残されている従魔の種類も頭数も少ない。賢者殿は、相も変わらず規格外ですなぁ」


 あきれたように、団長さんが言った。


 ポフン、とオボロが小さくなる。すたすたと団長さんに近寄ると、肩に飛び乗り、片手で団長さんの頭をポフポフと叩く。団長さんは、その間、がっちりと固まったまま動かない。


「・・・賢者殿。その、彼女は何を」


「たぶん、「元気出せ」と慰めているんだと」


「「「・・・」」」

「図体を小さくするだとぉ? 主も主なら、付いてるやつも並じゃあねえか・・・」


 今度は、ヴァンさんの頭もぽんぽんと叩いてきた。


「・・・ありがとよ」


「さて、自分の方の説明はしましたよ。今度は部屋いっぱいの荷物のことを教えてください」


「あ、ああ、そうだな」


 またも、どんよりとなったヴァンさん。でもって、ソファーの配置を元に戻す侍従さん達。・・・仕事、早いよね。それでも、物が溜まりまくるって、どういうことだろう。


 トリーロさんは、お茶の用意をしていた。全員に香茶のカップが渡されたところで、ヴァンさんが話し始める。


「説明っつっても、たいしたことはないな。ただ、ローデンと直接取引のない都市から、お嬢宛にっつって、わんさかと届きやがって」

「判断に迷っているうちに、溜まってしまったんです」

「王宮にもそれなりに届け物がありまして」

「そちらは、賢者様の偉業に対する感謝もとい謝罪もとい陳謝、なのですが、裏を読めば賢者様への取りなしをお願いしたいという主旨のようで」


 次々と追加情報を口にする面々。聞いていた自分は意味不明。


「・・・なんなんですか、それは?」


「そういうことをやらかしてきたんだろうがお嬢が!」


 一気に言い切った! やらかしたとは、あんまりな言い方じゃないか。


「特にガーブリア、シンシャ、帝都、港都の方々がしつこくて」


 侍従さんが、苦虫をかみつぶしている。ロロさんの目も笑ってない。うわぁ、どんだけ押し寄せてきたんだ?


「街規模のごたごたに巻き込まれそうになって、あとはそれぞれで対処してくれ、って逃げ出してきたところですよね」


「逃げてはきたんだ」


「捕まってたら、まだ、ローデンには辿り着いていませんよ?」


「・・・それもそうよね」


 沈黙が重い。


 ようやく、団長さんが口を開く。


「ガーブリアは、まだわかります。災害の予告を出した都合上、賢者殿の御名前は無視できませんから。

 しかし、他の街からは、紹介状も無しに使者を立ててきた貴族も居りまして。王宮は、その対応で手一杯です」


 いきなり他国の王宮に乗り込むとは、いい度胸してるなぁ。


「なんで、団長さんがそういう話を知っているんですか?」


「・・・王宮の職員で賢者殿に近しい者だから、聞いておけと」

「我々も、本来ならばそのような情報を知る立場ではないのですが・・・」

「申し訳ありません」


 いや、謝ることじゃないけどさ。


「これらの物が届き始めたのは、最近二ヶ月ほどです」

「シンシャの連中は、北峠経由で来てるぞ。本当は、何をやってきたんだ?」


「何って、さっき話した通りのことしかしてませんよ? 後ろ暗い人達が、疑心暗鬼になってるだけでしょ」


「本当か?」


 みんなして、じとーっと見ている。


「だいたい、なんで、会ったこともない人から物を貰わなきゃならないんですか。全部、返却です。却下です。お引き取り願います」


 討伐の報酬も、本気で要らないって言ってきたほどなのに。


「それがいいわ。さすがアルちゃん!」


 アンゼリカさんが、にこにことして、そういってくれた。よかった〜。お説教コースは回避できたようだ。

 残りのメンバーは、何も言わない。言えない。


「届いている書状を確認しましょう。トリーロさん、済みませんが、手伝ってもらえますか?」


「は、はい」

「僭越ながら、我々もお手伝いいたします」


 侍従さんコンビが、手を上げた。


「でも」


「いえ。しぶとく王宮に居座っている客人の振り分けもお願いしたいので・・・」


 ああ、そういうことか。ほぼ全員が、お引き取りコースだと思うけど、確認は必要だ。


「では、名簿を持ってきてもらえますか?」


「かしこまりました」


「お土産も、いろいろ持ってきたのに。お披露目できなかったな〜」


 がたん! ヴァンさんがいすを蹴倒して飛び退った。


「さっきの従魔で十分だ!」


「たいした物じゃないですよ?」


「お嬢の「それ」は信用できない!」


 ヴァンさん、あんまりだ。


「東西の魔獣の暴走をお一人で平定されて、まだ、獲ってくる余裕があるとは・・・」

「さすがは賢者様です!」

「それで、お土産ってなあに?」


 アンゼリカさんだけが、動じない。えーと、順番に列挙していくか。貰い物は省いておいて。


「東の草原のウサギ、モグラ、オオカミの毛皮。赤根のジャム。それから、港都の海で取ってきた虹魚の肉が三、四匹分、小刀魚の干物が大量。そうそう、北峠で運良く貰えたグロボアの肉が半身分と、状態は良くないけど皮もありますね」


「虹魚、にじうお?! あの、とんがらかった口しやがった、ばかでっかいあの魚か!」

「やっぱり、全部は話していらっしゃらないじゃないですか!」


「ちゃんと言いましたよ? 岬で魚を捕ったって」


 固有名詞を口にしなかっただけだもん。


「・・・だれか、こいつに常識を教えてやってくれ」

「ところで、ヴァン殿。にじうおとは?」

「あ、ああ、そうか。ローデンでは知られてないよな。

 そいつは、西の海にいるでかい魚で、昼夜構わず襲ってくる厄介者で、船に穴をあけて沈めちまう。小刀魚も、口が尖っていてな、人に突き刺されば失血死だ。群で行動していて、次から次に水面に飛び出してくる。こいつらが、沖に現れたら船は出せない。

 おい、お嬢。どうやってこいつら仕留めた?」


 ヴァンさんこそ、名前とか習性とか、よく知ってるな〜。

 そのヴァンさんが、ハナ達が影から出てきたことにおどろいた、ということは、ローデンでは相当珍しいことのようだ。

 ・・・人前では、影に出入りしないように、お願いしとかないと。


「岬にいたら飛びかかってきたので、片っ端から首を折りました。いい修行になりましたよ」


「・・・修行、ですか」

「そうだよな、そういうやつだよ。お嬢は!」


 ヴァンさんの目が据わっている。侍従さんとロロさんの顔は、引きつったまま。トリーロさんは、目があっちこっちに泳いでいる。


「お魚なら、うちに貰えるかしら?」


 アンゼリカさんが、ニコニコしながらそう言ってくる。


「是非! 自分で作ると、大味な物ばかりになっちゃって」


「あらあら。何を作ったのかしら?」


「さっきのまんじゅうにも使いましたよ?」


「まあ。私にも作り方を教えてね?」

「女将! そういう話じゃねぇだろ?」


 それを聞いて、アンゼリカさんがヴァンさんに顔を向ける。とたんに、ヴァンさんの顔色が蒼くなった。


「アルちゃんが怪我もなく帰ってきてくれたんだもの。お土産まで持ってきてくれたのよ? さ、今夜はご馳走を作らなくっちゃ♪ アルちゃん、早く帰ってきてね?」


 アンゼリカさんは、そのまま執務室を立ち去った。


「ヴァン殿〜」

「すまん」


 どういうこと?


「全員、宴会に強制参加しろ、ってことだ。チクショウ、こうなりゃとことん食ってやる!」


 久しぶりのローデンで、自棄食いに付合わされるって・・・。

 後始末から始まる新章でした。


 なのですが、切りのいいところまで進めたら、文字数が大幅に増えてしまいました(涙)。すみません!

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