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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
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光への階(きざはし)

428


 おとといからの気疲れからか、二人ともぐっすりと眠ってしまった。そんなになるくらいなら、最初から嵌めなければよかったのに。

 自分は、『灯』をともして、ヌガルで貰った魔術関係の本を開いてすごした。


 朝方、スタッフが小さくドア越しに声をかけてきたので、二人とも疲れて眠っているので、出てくるまでそっとしておいて欲しい、と伝えておく。


 昼も近くなってから、ようやく目を覚ました。ロストリスを使ったわけでもないのに、よく寝てたねぇ。


「もう、お昼ですよ」


「ああ、アルファさん、おはよう。・・・え? 昼!」


「よく寝てました。ソファの上でしたけど、腰とか痛くないですか?」


「え、うん。僕は大丈夫。おい! ポリトマ! 起きろ!」


 がしがしと揺さぶる。


「怖い、怖いよ・・・」

「・・・なんの夢、見てるんだ?」


「さあ」


 寝起きが悪いのかね? ドアを開けて、スタッフに濃いめのコーヒーを頼む。


 入れたてのコーヒーが届けられて、やっとポリトマさんも目を覚ました。


「うなされてましたよ?」


「真っ暗なんだ。そこで、白い物が周り中を取り囲んでいて、どっちを向いても逃げられないんだ・・・」


 書類恐怖症になってなきゃいいけど。


「もう一眠りしますか?」


「いや、もう、いい。って、アルファさん?」

「まだ寝ぼけてたのか?」

「アンスムまで、って、そうか、ギルドハウスか」


 起きたばかりだというのに、疲れ果てた顔をしている。コーヒーを飲み干しても、目の下の隈がとれない。


「この後は、どうします?」


「すまないが、顔を洗ってきてもいいか?」

「僕は、水浴びしてくる」


「じゃ、自分はこれで」


「「待って!」」


「昨日の話で全部ですよ?」


「でも、でもなぁ」


「でもも、だっても、なしです」


「何か忘れてる気がするんだ」


「忘れてる? あ、そうでした」


「「何?」」


「トレント」


「「・・・」」


 挙動不審になって、左右をきょろきょろ見る。


「どうしたんですか?」


「機密に関わる話だから、ちょっと」


「まだ結界生きてますから、大丈夫です」


「・・・僕たちが寝てる時は、解除、してたよね?」


「いいえ?」


 術弾がもったいないじゃないか。


「・・・僕たち、ほんとに馬鹿だったよね」

「そうだな」


 どこかの学生と同じ台詞だ。


「あんな物、自分が持ってても使い道がありません。どこに持っていけばいいですか?」


 自分で獲った物の方が質がいいんだもん。


「・・・本当は、王宮に運び込みたいけど」

「昨日の今日だし、どうだろう」


 そういえば、いいものがあったっけ。


「あとで、ギルドの修練場、貸し切りにしてもらえませんか?」


「・・・何を、するのかな?」


「港都での研究の成果をお見せしましょう♪」


「うん。すぐ行こう。すぐやろう!」


 アンスムさんが妙なテンションになった。


「・・・そうだな」


 ポリトマさんは、どんよりしたまま。寝すぎたのかな?


 『防音』を解除して、修練場に向かう。アンスムさんが、ギルドマスター権限で、そこにいた人達を追っ払う。自分は、修練場いっぱいに『隠鬼』と『防音』を張る。内緒だって言うからね。


「今、何を?」


「別にぃ?」


 便利ポーチから、トレントの幹と根を取り出す。二人の口が、ぱかっと開く。ロクラフの時も見てたでしょうに、いまさら驚くかな。


 でもって、限定仕様の特製収納カードを取り出し、そちらにトレントを移し替える。


「「・・・」」


 歌詞を書き込んだロー紙と、収納カードをアンスムさんに渡す。


「十分な広さのところの中央にこのカードを置いて、こちらの文書を読んでください。また、トレントが出てきますから」


「普通に取り出せないのか?」


「自分のマジックバッグは、何故か他の人は使えないんです。それでも、一回出すだけなら誰でも出来る、というのを作れました。なんなら、試してみてもいいですよ? まだ、数枚残ってますから」


「・・・俺、こんな大容量のマジックバッグは取り扱えないんだけど。そもそも、この形、バッグじゃないよね?」

「試させてもらっていいのかな?」


「どうぞ」


「じゃ、じゃあ」


 修練場の中央にカードを置き、少し離れたところからアンスムさんが歌詞を読む。


 ごろごろん


「ね?」


「「・・・」」


「はい。実験も終わり」


 別のカードを取り出した。こんどの歌詞は、あらら、あれだ。子牛の歌。一番を、三回繰り返す。・・・ま、いいか。

 カードに設定した亜空間開いて、トレントを収納する。傍目には、カードが触れたとたんにトレントが消滅した、様に見えただろう。


「あ〜、ああ。うん」

「常識って、なんだったっけ」


 どうしてそこで、常識なんて言葉が出てくるんだ?


「・・・すまない。この、カード? の支払いを」

「それと、トレントの代金も、だよな?」

「どっちが?」

「ギルドだろう?」

「じゃあ、カード代は商工会で」


「要りません」


 がばっと振り向く。


「事業の件は了解した。だが、これは、証拠がある。支払わないわけにはいかない!」


「カード、開封したら、消えちゃいますけど?」


「その開封前に、不特定多数に目撃される」

「これは、どうやってもごまかせないよ」


「でもねぇ」


「モガシのやった手は?」

「アルファさんの欲しがる物がないよ!」

「でも、何か、何かないか?」

「料理は自分で作ってしまうし」

「調味料? 街で買えるしな」

「素材も、買うか狩るかしてしまうし」

「貴金属」

「だから、それ、ちがうだろ?」

「じゃあなにが」

「うあぁぁぁぁっ」


 アンスムさんがまたも頭をかきむしる。だから、将来の髪の毛が。大丈夫かな?


「アル坊はねぇ。情報も好きなんだよぅ」


「ルテリアっ」


 ぎゅむぅ〜っと、後頭部にね。


「なんで入ってきた!」


 アンスムさんが慌てている。なんだ、ルテリアさんは来てもいいよ、じゃなかったのか。


「え〜、はいっちゃだめ〜って、執務室だけだったでしょ?」

「その後で! いまここは立ち入り禁止なの!」

「もう、入っちゃったもんね〜」


 その、自分の頭を胸に抱え込むのやめてくださいよ。


「情報、か」


 ああ、ポリトマさんが考え始めちゃった。


「だがなぁ、金額に似合う情報なんて、国家機密ぐらいしか」


「やめてください! そんな恐ろしい物は要りません。というか、聞かせないで!」


 その手の話は、後々になるほどヤバくなるんだ。近寄りたくもない。

 ぶるぶる。と、頭を振りたくても固定されている。無理矢理動かすと、かえって喜ぶんだよこの人わ!


「なら、何の情報ならいいんだ?」

「うん? ギルドでも協力できるか?」


 そういうことなら、


「[北天]の定期報告。なら欲しいかも」


「「げっ」」


 二人そろって、一声叫んで息を止めた。


「深部に入れ、というのじゃなくて。ほら、今回みたいに違法伐採があったとか、いつもは見かけない魔獣が街道に出てきたとか」


「そ、その程度で、いいのか?」


「自分は[魔天]周辺で狩りをしてますけど、今回のことで、[北天]もまるっきり無関係じゃないな〜と感じましたので」


「なんていうか・・・」

「アル坊は、猟師、なんだもんね〜」


 だから、むにょって!


「値段と価値がずれすぎてるんじゃないか?」


「情報の必要度って、受け取る人によって違うでしょ。自分は、あったらいいな、と思いましたが、そうしょっちゅうクモスカータに調べに来れるわけないし」


「そう、か? そうなのか?」


「一種の牽制にも使えると思いますけどね?

 ほら、他国のギルド関係者が定期的に[北天]の状況を調べてるってことは、巡回の回数を増やす口実に出来るとか、違法伐採者が裏を勘ぐって手控えるようになるとか」


「それでは、私達の方が得をしてしまう!」


 適当な言い訳を鵜呑みにしてくれちゃって。商工会のトップが、それでいいのか?


「じゃ、そういうことで。届け先はローデン・ギルドにお願いします。あ〜、すっきりした。さ、帰ろ」


「ま、待て待て待て!」

「その、大パーティーはどうするんだ?」


「だって、材料は渡しちゃいましたよ? 保冷庫に入りきらない分が、まだ手元に残ってるし。もっと要ります?」


「うわぁ」

「どんだけ捕ったんだ・・・」


「自分が訊きたいくらいです。とにかく、住み慣れたところが一番、ということで」


「あ、そうだ。元だんちょーの追加情報、持ってきたんだった」


 ルテリアさん、ちゃんと用があって来たんだ。


「いくらで?」


「お土産に足りなかった分だよん。どっかに貯めてた分で、数人雇ったって」


「どっちに居るかは?」


「東、らしいけど確実じゃなかったぁ」


「十分!」


 男二人が、一瞬顔を見合わせてから、ごくりとつばを飲む。


「女って・・・」

「いや、男が馬鹿なんだよ、きっと」

「怖ぇ〜」


「「失礼な!」」


「「はい! ごめんなさい!」」


 アンスムさん、尻に敷かれまくってるな〜。


「ポリトマ。パーティの采配、頼めるか?」

「なんだ?」

「出国まで、付いていく」

「!」

「ルテリアは、パーティの手伝いな?」

「仕方ないよねぇ」


 その辺は、夫婦なんだ。息ぴったり。


「相手があれなら、発言力のある証人がいた方がいい」

「そうだな。そっちはまかせる」

「アルファさん!」


「はい」


「まずは、飯にしないか?」


「はい?」



 全員が身ぎれいになってから、自分がおととい泊まった宿に集合することになった。自分はそこで一泊。今日中に帝都を出るつもりだったんだけど、またも逃げそびれた。


 朝昼をろくに食べていなかった男達の食欲はすごかった。・・・半分は自棄食いかもしれない。

 自分もがっつかない程度に食べ続ける。ここの料理は、何度食べても飽きないな〜。

 ルテリアさんは、かなりの酒豪だ。飲んでははしゃぎ、何かと自分を抱え込もうとする。だから、食事時だってば。

 でもって、お土産に渡したオルゴールを、見せびらかす。


 ポリトマさんの眉間にしわが寄る。


「これ、の制作者は?」


「港都のルプリさんに訊いてください」


 誰が作ったか、は、教えない。なぜか、オルゴールにむけたアンスムさんの指先が、震えている。


「あの、さ? これ、材料、鉄、じゃ、ないよね?」


 おや、素材を識別しちゃった? そこはギルドマスター、さすが。でもね。


「普通は鉄で作ると思いますけど。聞きたいですか?」


「うっ。聞きたいような、でも聞いたらあとが恐いような・・・」


 なんか、壁に向かって葛藤を始めちゃったよ。


「だーめだよぉ〜う。わたしへ〜のお〜みやげ〜、なんだ〜もんね〜」


 変な節をつけて、歌いだした。


「だめだ。貴族どもが目の色を変えるぞ」


 まだ、考えてたんだ。


「ほっといてもいいんじゃないですか?」


「だが、ルテリアが」


「こんなでも、[深淵]に入り込んでいたハンターですし」


「そうだよぉ〜うう」


 ぼよんぼよんと、踊りだす。やめてぇ、見せないでぇ。


「そ、そうだ。ポリトマさんにもあげます!」


 一個取り出し、ハンドルを回して曲を鳴らす。あら、これも子牛の歌。後半だけがエンドレス。泣けてくるわぁ。

 強引に手をつかんで、手のひらに乗せる。


「私?! 私はっ」


「執務室の書架だけじゃ、侘しいでしょ」


 あ、今まで、忘れてたんだ。一瞬で真っ青になった。


「ソ、ソウカ?」


 ロクラフみたいに、口から泡をはきそうだな。


「どちらも、大事にしてくださいね?」


「ウン。ソウ、シヨウ」


 しまった、瞳孔が開いちゃった。

 ここまでするかな。


 それにしても、ルテリア。407話のちょい役だったはずなのに、主人公も翻弄するとは。

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