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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
132/192

立つ鳥

421


 エレレラさんには、報酬を受け取るから、絶対に名前を出さない事を約束させた。ひどい話だ。

 工房で別れる前に、エレレラさんから再度お礼を言われた。


「キレイに片がつくといいですね」


「はい。全力を尽くして参りますわ」


 『隠鬼』を使って、こっそりと宿に戻る。いやもう、うようよいるわ。工房もエレレラさんも、大丈夫かな?


 今夜は、レウムさんと二人で夕食をとった。


「ねぇ、ルー?」


「なんですか?」


「本当に、一緒に戻らないの?」


「実を言えば、違法伐採している人達へのかく乱でもあるんです。ヘミトマさんには、「証拠は自分が全部預かった!」と宣言しましたけど、レウムさんの馬車は大きいです。自分が一緒に行かない事で、どちらに物があるか迷うでしょう。彼らは、探索の手をわける必要が出てきます。本陣が少しでも手薄になれば、調査している北都や港都の人達の手助けにもなります」


「・・・ルー」


「まあ、そうそう、うまくいくとも限りませんけどね」


「そういうことなら、しょうがない、のかな・・・」


 こじつけの屁理屈でも通用したようだ。


「これ、奥様に渡してください。それと、こっちは[使者]さんにもらった槍に」


 工房で作ってきた物を、レウムさんに渡す。


「ルー、これを作るのに工房を借りたの?」


「ついでです。ほかにも、いろいろ作ったんですよ? 馬車とか馬車とか」


「・・・」


「そうそう、奥様への贈り物なんですから、中を見ちゃ駄目ですよ?」


「じゃあ、なんなのか教えてよ」


「帰ってからのお楽しみ。奥様に教えてもらってください」


「えーっ、ずるい。少しぐらいいいじゃないか」


「だめでーす」


 そんな会話をした。



 翌朝、食堂に降りてきた。自分もチェックアウトする。部屋には、多めにチップを置いてきた。


「ルー?」


「明日まで居座ってたら、深みにはまりそうなので、逃げます」


「・・・うん。わかった」


 オボロの機嫌が悪い。昨晩は、ずいぶんと騒がしかったしな。


「オボロちゃんのおかげで、ゆっくり休めたよ。ありがとうね」


「まあ、レウムさんは、言うなればオボロの命の恩人、ですからね」


 ふみゃう。


「門までは、一緒に行きますね」


「うん」


 街門まで御者台に乗っていった。そこで、護衛の傭兵さん達にあった。


「へえ。こんなにちっちゃいのに、凄腕なんだって?」

「ばかやろう。森の賢者様だぞ?」

「俺、知り合いから、怪我したところを助けてもらったって、話を聞いた」

「同行してもらえたら、いろいろ話が聞けたのになぁ」


 どんなうわさが飛び交っている事やら、聞きたいような聞きたくないような。


「自分のわがままで、すみません」


「俺達は、仕事ができるからいいけどな」

「商工会長からも直々に頼まれてるし」

「任せとけ」


「お願いします」


「ルー!」


「レウムさん、また会いましょう」


「・・・」


 もう、声にもならなかった。馬車は動き出し、傭兵さん達もそれに習う。自分はそれを見送った。



 街に戻って、あの女性店主の店に行く。


「こんにちは、買い物に来ました」


「おや。もう出発するのかい?」


「ええ、用が済んだので」


 プリップリの干物を十枚と、みりん干しもどきも十枚包んでもらう。


「あと、塩とソースを買いたいんですが」


「ソースって、これ?」


「豆から作った物ってありますか?」


「これかな? ノマウっていうんだけど、他にもこれとか」


 ノマウが、醤油だった。あとは魚醤だ。それぞれ、小瓶を数本包んでもらう。ふふ、これで煮魚が出来る〜。


「じゃあ、これがおまけね」


 茶色の固まりを渡してくる。こ、これは、鰹節だ!


「薄く削って、ラースにかけて、ノマウをちょこっとたらして食べるとおいしいのよ」


 ねこまんまだ。でも、オボロは喜びそうだな。


「癖はあるけど、あなたならいろいろ使えると思って。どう?」


「頂いていきます。うれしいです」


「そう? よかった!」


 ほくほく顔で、プロテさんの工房に向かう。


「こんにちわ〜」


「アルさん、早かったね」


 ルプリさんが出迎えてくれた。にやにやしている。何かいいことあったのかな?


「いい買い物をしてきました」


「あ、そう? 早速で悪いんだけど」


「はいはい」


 プロテさんも待っていた。こちらは、渋い顔をしている。


「ネズミが引っかかった」


「え?」


「ほら、おとり用の、置いといたでしょ? 鍵は掛けておいたんだけど、ねぇ?」


 その部屋の前には、三人の男がひっくり返っていた。白目をむいている。


「・・・何を仕掛けてたんですか」


「いやぁ、小刀魚が上がったって言うから、ヒレとかくちばしとかをちょいちょいと」

「で、この有様。部屋の中は?」

「無事。引っかかってくれてもよかったんだけど」

「なに?」

「だから、おとり用の箱しかおいてなかったの。今朝、今からが引き渡し」

「・・・そうか」

「おとりと本物を取り混ぜて砦に運ぶから、たぶん狙いは向こうに移ると思うよ」

「アルファ殿、そのように伝言してもらえないか?」


「はいはい」


 侵入者は、工房の職員にぐるぐる巻きに縛られた。これも砦に持っていこう。


 部屋の中で、ムラクモを呼び出す。


「荷物を運びたいから、馬車を出してくれるかな?」


「・・・なんで、従魔がそんなもんを出すんだ? 出せるのか? いや、出せないよな?」


 プロテさんが混乱した。


「ほら、アルさんだし」


「おほん! 本物の箱はどれですかー」


「ああ、左の箱よ。鍵はこれ。右はおとりで鍵なしで開くんだ。ふふふ」


 説明を聞きながら、シルバーアントを箱に移していく。砦に持っていくのは三箱で、ダミーも全部持っていく。


「支払いだ。半金はここに持ってきた。残りは、すまん。すぐに用意できなくて、後で口座に振り込んでおくから」


「半分でも多いですって!」


「いや? 商工会館でちゃんと言ったよな? それに商工会が出所不明の品を扱うわけにはいかん。俺たちを犯罪者にする気か?」


 ぐわぁ。最初の価格設定からして間違ってるって! でも、なんだかんだで、押し切られてしまった。ああ、残高見るのが怖い。


 荷馬車には、箱と男が乗せられた。


「じゃあ、配達、頼むな」


「・・・はいはい」


「アルさん、これからどうするの?」


「砦に寄って、そのまま街を出発します」


「うーん。なんか、まだ話し足りない気がする。ねえ。やっぱり、」


「却下します!」


 まだ、勧誘する気だよ、この人。


「代わりに、これ、差し上げますから」


 オルゴールの一つを手渡す。


「なにこれ?」


「工房で作らせてもらった物の一つですよ。その小さなハンドルをゆっくり回してください」


「こう?」


「ねじ切る前に手を離して」


「うん。あっ、これ昨日聞こえてたやつだ!」

「初めて見たな」


 ぽろんぽろん、と音が鳴る。


「構造は簡単ですから、ルプリさんでも作れると思いますよ。じゃ」


 二人がオルゴールに気を取られているうちに、馬車を出す。


「あ。置き逃げなんてひどい!」


 聞こえなーい。


 通行人が取り付けない程度の早さで、馬車を進める。砦に着くと、練兵場脇の倉庫に案内された。


「プロテさんから、シルバーアントを預かってきました。本物は三箱、鍵で開けるそうです。残りは鍵なしで開けるおとりの箱、だそうです。おまけの三人は、プロテさんの工房に忍び込んだ泥棒さんです。箱を運び込むところを見られてるので、今後は砦が狙われるでしょう、と言ってました。では、あとよろしく」


「待て待て待てって! もういくのか?」


 主任さんが、引き止める。でもね。


「このまま街にいたら、明日の騒動に巻き込まれちゃいますから」


「!」


 やっぱり、そのつもりだったな?


「自分が街を出れば、違法伐採関係者は、何か証拠が持ち出されたかも、と慌てますよね? でもって、自分の作った物を狙ってたリギュラ卿関係者も浮き足立ちますし。ほら、証拠固めの絶好のチャンスです。頑張ってくださいね」


 でたらめ屁理屈、第二弾。

 レウムさんに、北都を出た後の報告書を預けてあるから、まるっきりの嘘でもないけど。


「う、あ、そ、そうか。あ、アルファ殿? やっぱり、」


「却下です!」


 なんだかなぁ。


 荷物を降ろしたら、満足したのか、ムラクモってば馬車ごと影に戻っちゃった。他の仲間達は、宿から影に入ったまま。うーん、退屈してるだろうな。


「それでは、失礼します」


 主任さんは、がっくしと肩を落としている。見送ってくれた兵士さんは苦笑していた。


 街門を出た。このまま南に向かえば、海都に着く。その間は、結構人が多いらしい。ならば、一旦北の人気のないところでゆっくりしたい。

 街門が斜面の影になったところで、『隠鬼』を使う。おや、【隠蔽】で追っていた人達が慌てている。慌てさせておこう。主任さんへの言い訳も、嘘じゃなくなる、かな?

 ようやく、港都脱出。

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