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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
131/192

仕掛けがいっぱい

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「おーい、終わったよー、って、どうしたの? さっきの馬車は?」


 ルプリさんの質問に、エレレラさんが自分の持っているカードを指差した。


「なに? アルさんのにしまっちゃったの? って、あんな大きな物をどうやって!」


 どうやって、と言われても、返事に困る質問だ。グロボアよりも一回り大きいくらいだから、マジックバッグでも入りそうなもんなんだけど。


「エレレラさん。この際だから、これも実験しちゃいましょう。上下逆さまに出てこないとも限らないし」


「それは困りますわ!」


「予備のカードはいくつか作ってあるから、何度失敗しても大丈夫!」


「車体に傷が付くではありませんか!」


「ロックアント製なのに?」


「・・・そうでしたわね」

「え? 何が始まるの」


「そうだ、ルプリさん、これ、読んでもらえますか?」


「う、うん?」


 カードの白い面を下にして床に置く。


 ルプリさんが、渡した紙の「呪文」を唱えだした。本当は、日本の童謡の歌詞なんだけどね。でもって、カードごとに別の歌詞を設定している。そうでないと、全部のカードが開いちゃうから。

 ロー紙に曲名と歌詞を書き込み、カードには曲名だけを記した。


 ぽん。


 無事に箱場車が現れた。横倒しにも上下逆さまにもなっていない。そして、カードは粉みじんになって消えた。


「・・・」


「取り出すだけなら、問題ないようですね」


「ま、まあ。ロックアントを大量に持ってるって言うんだから、ありなんだろうけど。でもさぁ、ちょっと普通にはありえないんだけど?」


「そういわれても。自分が作ったら、こうなった、としか」


「なんだけどさぁ」


「明日、夜具を持ってきたら出しましょうね」


 もう一度、箱馬車をしまっておく。ないものは泥棒できない。歌詞とカードも回収した。


「・・・」

「ありえないわぁ」


「こんなものでもなければ、ロックアントの討伐なんて出来ませんよ」


「いやいや。全然問題が違うって!」

「はぁ」


「エレレラさん? どうかしましたか?」


「アルファ様? 目立ちたくないとおっしゃるのでしたら、もっと、うんと、徹底的に自重してくださいませ」


 はうっ。


「で、でもね? わかってくれる人にしか見せてないっていうか、これも今回限りだし?」


「人の口から漏れるものですわ」


 ネーミングが悪かったのかな。これに使い慣れちゃってて、それが駄目なのかな、そうなのかな?


「ほら、行くよ?」


「では、また明日」


 工房を出る前に、『隠鬼』を起動させる。


「じゃ、いきましょうか?」

「はい。ルプリ様、こちらですわ」


 二人と別れて、宿に向かう。

 そのまま、宿の受付も素通りして、部屋の前に行く。人気がない事を確認して合図すると、ツキが中から鍵を開けてくれた。うう、ありがとう。


「ただいまぁ」


 ツキが顔をなめてくる。うん、ありがとう。


 しばらく、ツキと二人でベッドの上に伸びていた。


「ルー? 夕飯だよ?」


 のろりと起き上がる。オボロも、ついてきている。来たばっかりなのに、行動を読んでるっていうか。この子も賢いなぁ。


「はぁい。今行きます」


 今日も個室だそうだ。


 主任さんと兵士さん達が来ていた。


「こんばんわぁ」


「おや? お疲れですな。どうなさいました?」


「エレレラさんに、一撃頂きました」


「はあ?」


 食後に、少々打ち合わせをした。


「一応、完成しましたよ。箱馬車にしました」


「「「は?」」」

「そう簡単にできるものでは・・・」

「でも、ほら、ルーだから」

「「「確かに」」」


 ぐはっ。とどめ刺された。


「どうやって、会場に持っていくのですか?」


「・・・明日、エレレラさんが主任さんに相談しに行きますので、聞いてください」


「工房から直接、では?」


「途中で絡まれるのが落ちですね」


「どういう事ですか?」


「工房の回り、結構な人が張り付いてましたし」


「え?」


「【隠蔽】使ってましたけど。そうですね〜、帰ってくる時には最低八人はいました。明日はもっと増えるかな?」


「やっぱり、うちに・・・」


「却下!」


 主任さん、いいかげん諦めましょうよ。


「他の参加者からの質問とか疑問とかいちゃもんとかは、ありそうですか?」


「あるでしょうな。ですが、それは、エレレラ様に対処してもらいましょう」


「・・・彼女、責任重大というか、やる事が多すぎませんか?」


「ですが、リギュラ家の一員としてやってもらわなければ、今後の音頭取りも進みません。我々も、当日の警護と探索でいっぱいっぱいです」


 それもそうだよね。うん、頼まれたのは材料だ。料理は任せよう。


「それで、もうひとつ。シルバーアントの箱がそろいました。どのタイミングで、運びましょうか? レウムさんの見送りの時に、持っていこうかと思ってるんですけど」


「運んでくださるおつもりだったんですか?」


「まあ、ついでです。もう一台荷馬車を作ったので、それに乗せていきます。前の馬車と同じ形にしました。虫さん達が嗅ぎ付けて来ても、同じものとしか見えないはず。ヨコシマさん達は混乱するでしょうねぇ」


「「・・・」」

「え、えーと。箱馬車の出来は大丈夫なのでしょうか?」


「内装は、エレレラさんとルプリさんに見てもらいましたけど、問題ないようですし。それも、明日の打ち合わせで聞いてくださいな。

 あとは〜、っと、制作者をごまかす方法は、どうなりました?」


 またも、主任さんの目が遠くなっている。兵士さん達は、ぐるぐる目が回っているようだし。おおい、あなた方が、計画しているはずでしょ!


「あ、いや。ここまでご協力いただけるとは思っておりませんでしたので」


「納品までは、責任持ちますよ?」


 だから、材料は渡すから、後は任せるんだってば。じーっと、じーーーっと主任さんを見る。


「ご好意、感謝します・・・」


 主任さんが、引きつった笑顔で答えてくれた。よしよし。


「ル〜?」


「なんですか? レウムさん」


「他にも何かありそうな気がしてるんだよ。ちがう?」


「ありません。だいたい、「お披露目」は、レウムさんが出発した後の話ですよ?」


「やっぱり、ボクもさぁ」


「駄目です。自分の厄介ごとが増えます。それこそ、レウムさんが無茶してるって、奥さんに告げ口しますよ?」


「うっ」


 もう、レウムさんを黙らせるにはこれしかない。


「明後日までに、準備が整えば、我々の勝ちです」


「当日の予想外の妨害とかあったら?」


「それも考慮の上の準備です」


「でも、油断はしないでくださいね?」


「もちろん」


「では、明後日、砦でお待ちしております」


 主任さん達が引き上げていった。


「ルーは、明日も?」


「はい。工房に行ってきます。こっそり、ですけど」


「大丈夫なんだね?」


「それは、主任さんに確認してください。自分は作るだけ〜」


 ため息つかれた。だって、そういう約束だもん。


「じゃ、今夜はもう休もうか」


「そうしましょう」


 うん。いろいろとね、疲れたしね。



 翌日、またまた、こっそり宿を出てきた。

 工房には着いたものの、ルプリさんは、シルバーアントの移し替えそっちのけで、作業をはじめた。鼻歌まで歌ってる。


「なにやってるんですか?」


 昨日、保管用の箱は全部出来たんじゃなかったの?


「うん。おとり用にね。ほら、砦にも持っていくって話してたじゃない。でも、今、あそこって無関係者がうようよしてるでしょ。貴重な素材を変な奴らに持ってかれるのは、どうかと思うし。一緒に持っていってよ」


「何仕掛けるんですか?」


「食べ残しの魚の骨とか、工房で出た木屑だとか、その辺の砂とか、古い漁網とか」


「・・・」


「あとで、ちゃんと見分け方教えるから、砦連中に伝えておいて。さぁて、他に何かないかな〜」


 おとり用に使い潰すんじゃないだろうか。



 ルプリさんは放っておいて、自分は、昨日できなかった細工の続きに取りかかろう。


 作っていたのはオルゴールだ。やれば出来るもんだ。なんとか、曲に聞こえるようになった。違う曲のオルゴールを数個つくって、その中の一つを選ぶ。


 次は、木工細工で、オルゴールを収める箱を作った。これは、拾い物の丸太から取った板を加工した。

 オルゴールの部分と、小箱の部分に分かれている。特に装飾はしない。ただ、表面が滑らかになるように丁寧に削った。小箱の部分には、リタリサの瓶と手紙を入れた。

 レウムさんの奥さん宛だ。使ってくれるといいな。


 あと、革細工で、[北天王]さんから貰った槍の鞘を作った。レウムさんの着替えの布でぐるぐる巻きにしているのは、あんまりだと思ったから。

 それと、オルゴールを入れるための袋も用意する。シンシャについてから開くように念を押しておこう。


 ほんと、細工仕事は、手間がかかる。けど、楽しい。



 こんこん。


「移し替えですか?」


「それ、明日の朝にして。今夜は、おとり用だけここに置くことにしたわ」


「・・・いいんですか?」


「だって、せっかく作ったんだから、誰かひっかかってくれないと、おもしろくないでしょ。あたしは、今から昼食買いに行ってくるから」


 行っちゃった。まあ、保管の要の箱の制作者がああ言ってるんだから、いいのか。


 ルプリさんは、エレレラさんと一緒に工房に帰ってきた。


「ごめん。昨日預かったもの、まだ渡してないんだ」


 ルプリさんが、エレレラさんに謝っている。


「いえ。それよりも、先に食事にいたしませんこと?」


 また、マットを床に敷く。

 パンに魚肉のハンバーグを挟んである。醤油風味のソースと刻みネギが効いていて、なかなかおいしい。


 食べ終わって、お茶を飲みながらエレレラさんが話しだした。


「ラストル様との打ち合わせは、ほぼ終わりましたわ。それで」


「具体的なことは言わなくていいです。というより、言わないでください。自分の仕事は、アレを作って渡して、で、終わりです」


「・・・当日は、ご一緒していただけませんの?」


「しません」


 現場にいたら、とことん巻き込まれるじゃないか。


「・・・残念ですわ」

「じゃあ、アルさんは当日はどうするの?」


「街を出ますよ?」


「え?」


「そろそろ出発しないと、約束に間に合わなくなるかもしれないので」


「・・・先約がおありならば、仕方ありませんわ」

「なんか、ずーっと工房にいたような気になってた。やっぱりさぁ」


「却下です」


「ちぇー」


 お茶も終わって、マットを片付ける。


「それじゃ、馬車を出しますか」


 合い言葉も使わずに、特製収納カードから取り出した。カードは消えてなくなる。


「・・・なぜ、アルファ様はあの長い文章を読まずに開く事が出来るのですか?」


「さあ? とにかく、夜具とか必要な物を馬車に積んでください」


 頼んでおいた夜具は、後席下の物入れに納めた。馬をつなぐ引き具も、持って来ていた。これは、忘れてたな。馬車の装着に不具合がないことを確認してから、御者席下の物入れにしまっておく。

 外から扉を開く方法も教える。


「さて、どの呪文にしますか?」


 特別収納カードは、まだ数枚残っている。エレレラさんは、しばらく迷ってから、一つを選んだ。


 収納カードに箱馬車をしまって、エレレラさんに渡す。そのカード用の歌詞をロー紙に書き写して、それも渡す。


「はい。依頼完了。頑張ってくださいね」


「ちょっと待って! これ、報酬!」


 ルプリさんが、あわてて革袋を押し付けてきた。ガーブリアで貰った袋よりも大きいのが二つ。


「それも、お渡ししてなかったんですの?」


「だから、ごめん、て。口座払いだと足が付くからって、預かったんだ」

「私の口座からは払い出ししてまいりましたので、何者かから購入した証拠になりますわ」


「でもこれ、多すぎません?」


 百枚どころじゃないような。


「あら。受け取っていただけないのでしたら、お名前を出させていただきましてよ?」


 どういう脅迫なんだ、それは!

 やっと、馬車から離れられた。

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