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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
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浪、高し

417


 プロテさんの工房に行った。船大工の本拠地だけあって、とても広い。


「中型船までは、ここで組み立てられるんだ。交易船ともなると、外でないと無理だけどね〜」


 木材を保管してある場所も通り過ぎ、別棟に入る。


「うちの魔導炉だよ。港都で一番大きい、んじゃないけどね。性能はいいんだ。昔の記録には、ロックアントの変異種、シルバーアントだっけ? も加工したってあったし。こっちが、あたしの実験室。で、その二つ隣を使って」


 ルプリさんが示したのは、ちょっとした車庫くらいはある部屋だった。助かる。


「あれ? こっちの部屋も空いてますよね。なんで、こっちじゃないんですか?」


「だって、爆発した時に巻き添えにしちゃうじゃないの」


 ・・・爆発前提の開発、ですか。


「こっちに、魔道具の材料とか、作ったものも置いてあるよ」


 借りる部屋のさらに隣が倉庫として使われていた。


「鍵は?」


「あるよ」


「じゃあ、さっき言えばよかったのに」


「魔導炉のあるこの建家は、あたしが管理しているんだ。どんな鍵を使うかも任されている。いくらでもいじりがいがあるんだ。ふふふ、どんなのがいいかなぁ」


 ここにも趣味人がいた。


「・・・ええと、自分の借りる部屋の鍵は?」


「あってもなくても一緒でしょう?」


「はい?」


「その特別製に全部しまっちゃうんだから」


 それはそうですけどね。


「ほら、誰かが、何かしてますよ〜と、うろうろしている人にアピールできるかなーって」


「そんなやつは、ここには近づかないから」


「はい?」


「何度か巻き込まれて、懲りたって。あれ以来、工房の外はうろちょろしても、中には入ってこないんだ」


 うわぁ。どんだけ吹き飛ばしてるんだ、この人わ。


「それに、アルさんなら大丈夫だと思うし。いろいろ隠し球持ってるみたいだし」


「・・・」


 お見通しかい。それとも、あてずっぽ?


「朝は、宿に迎えにいくよ。それでいいよね」


「あ〜、お願いします」


「帰るときは、好きに出ってっていいから。じゃ、あたしはこっちで実験を」


「と、その前に! 試作品の最後の試験!」


「お、そうだったね。そっちの部屋でいいよね」


 借りた部屋に入った。箱を床に置き、ルプリさんがふたを開ける。


 ぼぼん。


 箱はバラバラになり、四匹のシルバーアントが現れた。って、ルプリさんは?


「〜〜〜」


 ・・・埋まってた。


 急いで掘り出す。同じ大きさの鉄板だったら、圧死している。軽いシルバーアントでよかった。それでも、結構な衝撃があったはず。なんだけど


「あ〜、ひどい目にあった! 取り出し方も考えないと駄目か。でも、一回きりって条件はクリアしたから〜」


 ルプリさんは、ぶつぶついいながら部屋を出て行く。あはは、改良、頑張って。


 今日は、夕方までにそんなに時間はない。それでも、検討ぐらいはできる。


 まず、ロックアントで簡易机といすを作った。部屋の中、なんにもなかったからね。

 その机で、図面を引く。ムラクモに約束した、荷馬車の改良案だ。振動を減らすバネとか取り付けてみたい。後付けの幌もいいな。


 ムラクモを呼んで、車軸を太くし、振動を押さえるバネも付けたことを、説明する。幌は、布地の関係で今回は見送る事にした。


「これで、どう?」


 満足したようだ。


 ロックアントの板を取り出し、成型、組み立てする。

 バネは、外から見えないようにしてある。自分が作った、となると、ロー紙のときのように、開発料だの特許料だのみたいなものが湧いて出てきそうな気がするので。そのうちに、誰かが発明するだろう。


 見た目は、最初に作ったものと大差ない。一体化させて、ムラクモに試し引きしてもらう。これも、いいようだ。


「今度、お披露目しようね」


 そういったら、ものすっごく嬉しそうな顔をして、荷馬車ごと影に引っ込んだ。だから、どれだけ、気に入ったってのよ。


 夕方になっていたので、宿に戻る事にした。机といすは、便利ポーチにしまっておく。研究室のドアには、「入るな、キケン」の札が下がっている。


 ・・・開けて、挨拶するのはやめておこう。



 宿に戻ったら、私服の主任さんと兵士さんが数人、プロテさんもいた。


「やあ。ルー、おかえり」


 レウムさんが、声をかけてくる。


「ただいま。は、いいんですが。どうしたんですか? 勢揃いしちゃって」


「私が、アルファ殿と食事がしたくて押し掛けたんですよ」

「俺は、レウムさん、の件だな」


「そうですか」


 今夜も、個室で夕飯をとる事になった。


 ただ、メニューが違う。なんていうか、猟師飯?


 丸っと一匹煮ました、焼きました、な料理がこれでもか!と出されている。

それを、全員がナイフとフォークでつつきだしている。

 別テーブルには、お櫃がででん、と置かれていて、炊きたての白いご飯がお代わり自由、になっている。数種類のスープも並べられている。これまた、好きにとれ!ということらしい。

 あとは、大量の酒瓶。


 ・・・無理だな。


 予想通り。まともな話ができる状態じゃなくなった。レウムさんですら、兵士さんの一人を捕まえて、同じ話を繰り返している。

 主任さんとプロテさんは、お互いに乾杯を繰り返しては、大笑いしている。兵士さん達も似たり寄ったりだ。


 しらふな自分が恨めしい。


 箸を取り出し、残った魚から身を集める。マグカップを出し、ご飯の上に乗せて、煮汁をかける。数杯作った。あとで、みんなに食べてもらおう。自分も食べる。魚の出汁が効いてて、おいしい。やっぱり、これ、醤油を使っている。


 米、味噌、醤油がそろった。[魔天]では、作れないからなぁ。定期的に買い出しにくるしかないな。それとも、隊商で取り扱ってるところを探すかな?


 全員が沈没したところで、後を宿の人に任せて部屋に戻った。



 翌朝、食堂にいくと、昨日のメンバーが揃っていた。顔色は悪い。思い思いの格好で、テーブルに懐いている。


 用意しておいた、二日酔いの飲み薬を渡す。


「ほらほら。今日も仕事でしょ」


「ゔー、すびばせん」


「これ飲んで。楽になるから」


「天国行き、ですかぁ」


「バカ言ってないで」


 自分はさっさと朝食を食べる。


「ルプリさんが、迎えにきましたから。話があるなら、またあとでおねがいしますね。じゃ、いってきます」


「「「いってらっしゃい」」」


 しまらないなぁ。



「工房長まで、どうしたの?」


「飲み過ぎです」


「へえ。見た目はああだけど、お酒に弱いんだよね。いつもは自重してるはずなのに、どうしたのかな」


「主任さんと延々乾杯し合ってましたね」


「うわぁ。仕事、大丈夫かな?」


「酔い覚ましの薬をあげましたから。まあ、自己嫌悪までは治せませんけどね」


「あははは。仕事ができるんなら問題ないね。それでさぁ、次の試作品なんだけど」


「もうできたんですか。すごいですね」


「ただねぇ。ちょっと材料か心もとなくなってきてて」


 そんな話をしつつ、工房に向かう。


 工房に入ってから、ルプリさんに質問した。


「さっきみたいな話を街中でして、大丈夫ですか?」


「うん? あたしが、いつもやってることだし。ただ、そうだね。アルさんと一緒、ってことで注目したやつはいるかも」


「よそ者と親しく話してるって?」


「さあ。他の街からの引き抜きを心配してるとかじゃないの?」


 そういうもんですかね。


「それより、試作品。二号、三号、四号まであるんだ」


 でえぇ!


 入れて出して、の実験を繰り返す事になった。


 二号は中に入る数が減った。三号は何度も使えた。四号は爆発した。


「最初のが、一番ましかぁ」


「そうみたいですねぇ」


 二人して、ロックアントの下から這い出す。


「そういえば、材料は大丈夫なんですか?」


「ああ、こっちの箱のは足りてるよ。別の実験で使う分の話だから」


 あ、あ〜、そうですか。主語が変わってたのね。


「では、箱ができたら呼んでください」


「え? 手伝ってくれないの?」


「自分も作っておきたいものがあるんですよ。でなければ、場所を貸してください、なんて言いません」


「そうなんだぁ。期待してたのに。つまんなぁい」


「自分のが先に終わったら手伝いますよ」


「しょうがないかぁ」


 ルプリさんは、未練がましそうに研究室に戻っていった。


 人目のないところで作っておきたいものが、まだいくつかある。手早く終わるものから作ろうか。


 [北天王]から貰った薬草を出す。これは、傷薬、なんだけど、効果がすごい。えぐられた筋肉すら数日で再生させる。もっとも、内臓や骨は再生しない。副作用もあるけど、これで、森で重傷を負った人を少しでも助けられる。

 旅の間に、程よく乾燥させておいた。これを、石臼ですりつぶし粉末にする。街で買ってきた植物油で練る。保存容器に移して出来上がり。


 次は、リタリサだ。これも乾燥済みだ。石臼で粉末にし、ガラスの密閉容器に入れる。これは、使う直前に水で練らないと、効果が出ない。


 昼時になったので、ルプリさんを誘おうと思った。が、またも「入るな、キケン」のプレートが。

 一人で街に出て、魚屋の店主さんに教えてもらった食堂に行った。豪快、大盛り、で大満足した。


 午後は、ポリトマさんに渡す書類を保管するための書架を作った。量が半端ないので、いきなり持っていっても、保管するところがないかもしれない。それなら、いっそ、棚ごと渡してしまえば、整理しやすいだろう。

 金庫も作った。どちらも、扉付きの総ロックアント製。おまけで、ちょっとした装飾を施してみた。喜んでくれるかな?


 あとは、小物、なんだけど。


 今度は、シルバーアントの板を出す。薄く引き延ばし、小さく切り取る。さらに薄くのばして、櫛のような切り込みを入れる。弾いてみる。ぴん。もう少し薄くしてもいいかな?

 何枚か試して、ちょうどいい厚さと、切り込み幅を決めた。ところで、夕方になっていた。

 うーん、細かい細工の方がやっぱり時間がかかるなぁ。続きは明日だ。


 広げていた道具を片付けて、部屋を出る。ルプリさんは、今日はこれで終わりのようだ。


「同じ作業ばっかりだと、飽きるのよね〜」


「確かに〜」


 なぜか、宿までくっついてくる。


「いいじゃない。ここの料理、気に入ってるんだ」


「それは、重要ですね」


「そうでしょう!」


「おう、今夜はルプリも一緒か」

「工房長、おごってよ」

「アレは、どうした?」

「もう少し」


 仲がいいんだな。


 夕食は、またも個室。ただ、昨日よりも広い部屋だ。でもって、ほぼ、昨日のメンバーが揃っている。兵士さん達が入れ替わっているくらいだ。


「今日は、飲み過ぎは駄目だからなー」


 プロテさん、あなたが一番心配です。

 でも、どうにかしらふを保ったまま食事が終わった。



 レウムさんから、話し始めた。


「アスピディの引き渡しは終わったよ。明後日には、荷物もそろう。出発は三日後にしたよ。それで、ルー、本当に一緒に行かないのかい?」


「それこそ、せっかくここまで来たんです。見てきたいんですよ、いろいろと」


 プロテさんが聞いてきた。


「明日、護衛を頼んだ奴らと顔合わせするんだ。アルファ殿も立ち会わないか?」


「まだ、予定のものができてないので。すみません」


「そ、そうか」

「別の者が、また砦に入り込みましたよ」


 今度は、主任さんが口を開いた。


「やっぱり、広がりましたね〜」


「それで、「工房を借りて、新しく作り直しているようだ」とそれとなく耳に入るようにしましたら」


 主任さん? 思いっきり、巻き込む気ですね! くぉのぉ!


「「「そうしたら?」」」


「場所はどこだ、ものはなんだと、ものすごい食いつきっぷりで」


「なんで、そこまでムキになってるんでしょ?」


「父が、「自分の気に入った物を持ってきた者に家を継がせる」と公表しているからですわ!」


 見知らぬ女性が、入り込んでいた。ただし、ドレスではなく、OLのようなパンツスーツ姿で、きりりとした目元が印象的。兵士さんが一人、ついてきている。彼が案内してきたんだろう。


「どちらさまで?」


「エレレラ・リギュラと申します。クアド・リギュラの末娘ですの」


「アルファ殿、もう一手、ご協力いただけませんかな?」


「主任さん?」


「父が当主である限り、他の貴族の取り締まりに時間がかかってしまいますの。可及的速やかに問題を解決するには、父の退位が必要ですわ。

 ラストル様からご連絡を頂くまで、ここまで深刻な事態になっているとは思っていませんでしたの。皆様には、深くお詫び申し上げますわ。

 アルファ様? 森の賢者様と呼び習わされている方に、このようなぶしつけなお願いをするのは大変失礼ではあるのですが、ごろつき同様の兄に爵位を与えるような事になっては、この街の存続も危うくなりますわ。なにとぞ、ご協力いただけませんか?」


「・・・」


 またも、御家騒動ですか!

 さらに、背景が膨らんで。

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