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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
127/192

晴朗なれど

416


 翌日、レウムさんとそろって商工会に行った。そもそもは、レウムさんが持ってきたアスピディの頭を売るためだったんだから。


 応接室で、プロテさんと契約内容について話をする、のを聞いていた。


「じゃあ、アスピディはこの価格で決まり、でいいんだな?」

「うん。預かった人達からの最低価格よりは高いから」

「だけど、それじゃ、運送料が採れないだろ」

「大丈夫だよ。途中まで、他の依頼も引き受けててね。それで十分もとはとれてるから」

「そうなのか? なら、いいんだが。だいたい、普通は、重複依頼は引き受けないもんだろ? 契約が複雑になるし」

「それも、大丈夫だよ。ルーのおかげなんだ」

「・・・そうか。なら、問題ないな」


「なんで、そこで、そういう結論になるんですか!」


「だって、なぁ」

「ルーだからね」


 理屈になってない!


 自分がプンスカしている間に、双方の契約書にサインが入れられた。あとは、商品を引き渡し、レウムさんの口座に売却金が支払われて、契約完了となる。本当は、振込が先らしいけど。


 こんこん。


 ドアがノックされた。


「ラストル様がお見えになりました」


 にゃ? 主任さんだ。なんの用があるのかな?


「お? これは、おはようございます、アルファ殿。ちょうどよかった」


「はい、おはようございます?」


「例の件で、商工会長にも協力をお願いしにきたんです。ご一緒ならば、話は早い」


「って、ここには、プロテさんとレウムさんと自分と・・・」


「おや? アルファ殿はご存じなかった? プロテが商工会長ですよ」


 はい?


 レウムさんとプロテさんが、にやにやしている。してやったり、って顔だ。


「え? 掛け持ちしてるんですか」


「いつのまにか、なぁ」

「中型から大型船の建造では、プロテの工房が一番でして。港都の要は船ですからね。何よりも、真っ当な男です」


 ニコニコと主任さんが自慢げに言う。


「そ、そですか」


「木材の不正取引がすでに行われているかどうかは、商工会の方が確実に調べが付けられますからね」

「俺も、昨日、アルファ殿からあらましは聞いた。今、調査中だ。下請け、孫請けの船工房は少し時間をくれ」

「こちらも罠を仕掛けて、揺さぶってやるつもりです」


「罠って?」


 プロテさんが、質問する。


「黒い荷馬車」


 主任さんの一言で、その場の全員が自分を見る。


「あ〜、その〜、主任さんにお任せしましたから!」


 あれ以上の協力は無理!


「ところで、アルファ殿は、商工会に何用で?」

「それが、アルファ殿からシルバーアントを商工会で買い受ける事になったんだ。そうだ、砦でも買わないか? 結構な数があるぞ」


 プロテさん、勝手に話を進めないで!


「で、金額なんだがなぁ」

「うちなら、これだけ出します」

「え? それじゃ、商工会も同じ額にしないとな」

「大丈夫なのか?」

「少々借金しても、交易船が軌道に乗れば、おつりが出る!」

「そのためには、虫どもをとっとと排除しないと」

「ああ、木材の取引も調べ直した。今のところ、俺の工房と、取引のある下請けの工房にはそれらしいものは入ってない」

「じゃあ、いつ入ってくるかな?」

「くくっ、持ち込む直前だったんだろうな。それをアルファ殿が木っ端みじんにしてくれた。んじゃないかな?」

「とすると、奴らは、大慌てしている最中、ですか」

「いや、工房には入っていなくても、街には持ち込まれていると思うぞ」

「なるほど。いや、腕が鳴ります」


 どんどん、物騒な方向に話が進んでいる。ま、まあ、すっきり解決できるんなら、いいよね。


「それで、アルファ殿」


「ひゃ、はい?」


「金額はこれでよろしいか?」


 金貨五百五十枚。


 う〜ん。


「え、ルー?」


 気絶した。




 ざりざりとほっぺたをなめられてる。


 ふな〜う


 時折、肉球もプニプニと押しあてられている。ぷにぷに、いいよね。って、あれ?


「気がついたかい?」


 長椅子に横になっていた。額に絞った布も乗せられている。顔の横にはオボロがいて、なめたりつついたりしている。


「ああ、お世話かけました」


「うん。大丈夫?」


「あんまり大丈夫じゃないです。なんなんですか、あの金額は!」


 部屋には、プロテさんも主任さんも残っていた。


「うん? この辺りのロックアントの買い取り価格に、変異種ってことでその半額を上乗せした。後は、数を掛けて端数を切り上げただけだぞ?」

「これでも、送料とか保管料は入れてないんですが。足りませんでしたか?」


「だから、多いんですって!」


「いや、当然の金額だと思うが、なあ?」

「そうですよ」

「うん。二人の言ってるのは普通だと思うけど」


「うそでしょ!」


「ほら、計算表」


 ぐ、ローデンでの買取が金貨二枚、この辺だと送料込みで金貨三枚、にしてもやっぱり盛り過ぎだ。計算が合わない。ガリガリと計算し直して渡す。


「違うじゃないですか!」


「そこはそれ、協力費とか、いろいろと」


「要りません。というより、高すぎます!」


「そうか?」

「では、もう少し上乗せして・・・」


「言ってる事が逆です!」


 ひょっこりと、ルプリさんが入ってきた。五十センテ四方の箱を抱えている。救いの女神様だ!


「聞いてくださいよ! 全然合わない計算で買い取るって言うんです!」


「どれどれ」


 さっきの計算表を覗き込む。


「いいじゃないの、これくらい貰っといても」


 がーん。ここに味方はいないのか!


「そうだ、試作品持ってきたんだ」


 ・・・ルプリさん、マイペースですね。


「お、例のマジックバッグか」

「なんですか?」

「ああ。いい保管場所がなくて、うちの職人になんかいい方法がないか検討してもらってるんだよ。ルプリだ」

「これはこれは。よろしく。砦主任のラストルです」


 おお、紳士な挨拶だ。


「あ、よろしく、主任さん。砦でも使いますか?」

「試作品をみてから、ですかね」

「それもそうね。アルさん、アレ、出してもらえる?」


「ここで?」


 結構な人数がいる部屋の中に、二メルテの蟻を出せと?


「いいじゃん。いまから、別の部屋に行くのもめんどくさいし」

「それもそうだよね」


 レウムさん、そこ、同意するところじゃない!


「そうですよ、移動すれば、変に勘ぐられますから」

「それで、バッグは?」


「これだよ」


 ルプリさんが示したのは、抱えてきた箱そのものだった。


「これで、数体は入るはずなんだ。それに使えるのは一回切り」


「「「?」」」


「一度入れて、出したら壊れる。盗んで、中身を確かめた時点で、ばらまかれるんだ。ごまかしはできないよね」


「それ! 名案です!」


「アルさんのあれは、専用だから気にしなくてもいいよね?」


「それはそうなんですけど。そうだ。ついでに、鍵を付けちゃうのは?」


「鍵?」


「術具とか身分証で開く、とか」


「お! いけるかも! 早速作って・・・」

「待て! 試作品の使い勝手を見てからだ!」


 プロテさんがあわてて静止する。


「あ、そうか。そうだね。じゃ、出して」


 ここまで盛り上がってるんじゃ、しょうがない。


 全員が壁際に下がったところで、シルバーアント一体分を取り出す。まわりから、「おおっ」と声が上がる。


「なるほど、シルバーアント、ね」

「こんなのを相手によくまあ・・・」

「触ったかんじは、ロックアントと変わらないようだが」


「入れるよう」


 ふたを開けた箱の上に、ロックアントを乗せると、すぽぽぽん、と中に消えた。


「次、出して」


 出して入れて、を繰り返す。


「うん。これなら、四体は入るね。工房長、どう?」


 ルプリさんがプロテさんに確認する。


「この大きさで二十七個、か。まずまずだな。さっきアルファ殿が言った鍵はどうだ?」

「ちょっと。まだ試作もしてないのに、わかるわけないでしょうが!」

「いやな? 保管する部屋にも鍵を付けたらいいな、と思ってな」

「あ、そうか。それなら、工房の一室が使えるし。空き部屋、いいよね?」

「おう、やってくれ!」

「一回きり、の方はどうかな?」

「わかった」


「って、それはここじゃ駄目!」


 あわててルプリさんを止める。


「なんで?」


「四体分のロックアントがどばっと」


「「「あ」」」

「どうしようか」


「全員で、確かめる必要もないですよね。その、保管に使う予定の部屋、しばらく自分に貸してもらえませんか? そういう口実で出入りすれば、少しはごまかせますよね」


「借りてどうする?」


 プロテさんが聞いてくる。


「自分も、ちょっと作りたいものがありまして。貸してもらえると助かるんです。賃料も払いますから」


「それで?」


「そこで、この箱の実験とロックアントの移し替えができます」


「「「おおお」」」


「でもって、そのまま保管できちゃう」


 全員が拍手した。


「すばらしい! アルファ殿、うちで働きませんか!」


 主任さんが、またも勧誘してきた。


「いやまあ、ご遠慮します!」


「う、そ、そうですか・・・」


 がっくりと肩を落とす。


「レウムさんは、この後の予定は?」


「うん。頼まれてる買い物があるんだ。それを持ってシンシャまで帰るよ」


「それ、早く済ませて街を出てくださいね」


「ルー。それはどうしてかな?」


 真剣な顔をして聞いてくる。


「だって、貴族とのケンカもありえるんですよ? レウムさんの出番はないです。それに、お買い物を頼まれてるなら、なおさら、最後までちゃんと運ばないとだめでしょ」


「ル〜」


 涙目になって、のけ者は嫌だと訴えてくる。でも駄目。


「また、奥さんを泣かせたいんですか?」


「うっ」


「でもって。自分は、海都を回って帝都に向かいます。ほら、若いうちはあちこち見て回れって、レウムさんが言ってくれたし〜」


 あ、ほんとに泣き出したよ。でも駄目。


「プロテさん? ギルドについていって、帰りの護衛の手配を見てもらえませんか?」


「あ、ああ。わかった。とびきりのやつを頼んでやる」


「護衛料は自分が持ちますから」


「ルー!」


「だって、レウムさん。本当は、自分と一緒に帝都に戻るはずだったんでしょ? それを、自分の都合でやめるんだから、そう、違約金ですよ」


「でも、でもでも!」


「はい。話はおしまい。皆さんも、そんなに時間に余裕があるわけじゃないでしょ?」


「はっ。そうでした! とにかく、金額はアレで決まりですから。また、後で連絡します!」


 主任さんが飛び出していった。しまった、金額、訂正してくれなかった。


「あたしも、工房に帰るわ。アルさん、一緒に行こう」


「宿にいる間は、ご飯、一緒に食べられますから。それに、オボロ?」


 みいゃ。


 オボロを呼ぶ。


「港都にいる間は、この子に付いててもらいます。なら、安心ですよね」


「こいつは?」


「自分の従魔です。いい子なんですよ〜」


 ふみゅう。


 胸を張るオボロ。うん、よろしく。


「じゃ、プロテさん。工房、お借りします」


「ルー!」


「はい?」


「夕食には、ちゃんと宿に戻ってね?」


「はい」


「アルさん、行くよ〜」


「行ってきま〜す」


 商工会所を出た。

 だいたい、予定が決まった、はずなんだけど。どうなる?

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