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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
123/192

新人さん、いらっしゃい

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 街から離れたところで、野営する事にした。


「ずーっと立ちっぱなしで、疲れなかったかな〜」


 声をかけながら、馬達の手入れをする。


「いやいや。ハナちゃん達が相手してくれてたしね。それより、ずいぶんとおもしろい話をしてたよね」


「ああ、あれですか。ローデンの王太子殿下にお借りした歴史書と、[北天の使者]さんの話から推測した仮説ですよ。本当かどうかは、これからわかると思いますけど。

 でも、そうなると、魔獣が出てきちゃいますよね〜」


「そうだな」


 そこには、うわさの[北天の使者]さんがいた。彼女、神出鬼没だなぁ。右手に、大きな動物の首根っこをつかんでいる。


「こんばんは。[使者]さん。こんなところに来るなんて、どうしたんですか?」


「いや。お、君が事の解決を図ってくれたというので、礼を渡しにきたんだ」


 また、言いそうになった!


「こちらこそ、自分の役に立つ情報を教えてもらったお礼です。お気になさらず」


「そういうわけにはいかんよ。というわけで、こいつを貰ってくれ」


 彼女が、右手をつきだす。猫に似ている。桁違いに大きいけど。猫じゃないな、虎だ。


「毛皮にしたいところだったが、私はその手の作業は苦手でな。申し訳ないが、君の手で捌いて欲しい」


 あ、あ、あばれてます。いや、暴れようともがいてますけど、逃げられない。


「自分、ナマモノは要らないんですけど」


「ならば、ここで捌くか」


 ぶみゃぁぁ。


 体格に似合わない、情けない悲鳴を上げる。


「ルー? 助けてあげようよ」


「レウムさん?」


「ほら、ツキちゃんとか気に入ったみたいだし」


 たしかに、なにやら、話し込んでいる、ようにも見える。


「君の好きにしてくれていい」


 そうは言いますけどね。って、みんな、なによ、その目は。うわ、思い出した。最初に水浴びした直後の時の顔だ。でぇぇ。


 ・・・大猫に声をかける。


「自分についてくるなら、ちゃんと言う事を聞いてもらわないと困るんだけど。それが我慢できないなら、ここで苦しまないようにしてあげる。君が選んで」


 ひどい選択を迫っていると思う。でも、獲物でもないし、自分の目の前で人を害しているわけでもない。自分には、選べない。


 うにゅにゅにゅ。


 器用に両手をすりあわせている。・・・これも縁、か。


 ハナ達の時のように、極少量の魔力を手のひらに乗せる。差し出すと、ぺろり、となめた。そのまま、自分の影に溶ける。


「うむむ。お、君はなかなか器用な事をするんだな」


「いえ。それほどでも」


 全く、褒められた気がしない。彼女にまで規格外と言われたようなもんだ。すごくへこむ。


「やっぱり、ルーはすごいねぇ」


 レウムさん、わかってて言ってるでしょ!


「やはり、アレだけでは礼には足りないようだ。これも差し上げよう」


 彼女は腰元に手を当てると、白くて長ーいものを引き出した。空間魔術が使えるんだ、すごいなー。って、そうじゃなくて!


「今はもういない魔獣の牙だ。私には使い様がないが、君なら何かの役に立つだろう」


 長さおよそ六メルテの象牙が四本も。貴重品中の貴重品。


「うわ。こんなに要りませんよ。一本でも十分すぎます!」


「そうだ、馬車の君にも礼を。巻き込まれたために、道行きが遅れてしまっただろうから」


 次に取り出したのは、槍だ。飾り気のない実用一点張りの武器。


「・・・なんで、こんな物が」


「[北天]で拾った物だ。これもまた私には不要の物だからな。では、あなた方の道行きに幸いのあらん事を」


 言いたいだけ言い置いて、返すとも言えないうちに彼女は闇の中に戻っていった。


「・・・なんか、すごい人だったねぇ」


「そですね・・・」


「その槍は、ルーにあげるよ」


「だめですよ。使者さんは「レウムさんに」って、出してくれたんですから」


 だいたい、自分は、そんな大物を使う気はない。レウムさんは、元々槍使いだから問題ない。


「・・・うん。わかったよ」


 シンシャから持ってきた槍の横に、貰った槍も並べる。


 気が抜けた。夕飯は、残り少ない[森の子馬亭]の料理を出して、二人で食べる。


「そうだ。さっきの子の名前はどうするんだい?」


 あ、忘れてた。


「おーい」


 影から呼び出す。


 うぐるるるる。


 何やらご機嫌だ。何が嬉しいんだ?


「君の名前だけど、オボロ、でいいかな?」


 うみゃう。


 ずりずりと体をこすりつけてくる。わかった、わかったから。


「でも、オボロもずいぶんと体が大きいよねぇ」


 これが、街中を闊歩する様を想像すると、ため息がでる。


「かっこいいじゃないか」


 そう言えるのはレウムさんだけです。


 元の相棒達とオボロが、顔を突き合わせている。何の相談かな? そうだ、オボロのイヤリングも作らないと。ついでだ、全員のを新調しよう。


 オボロを呼んで、耳の形を確かめさせてもらう。モガシから貰った三翠角の角を取り出し、切り分けて、形を整える。自分用のも作って、音量調整の術式を付けくわえる。相棒達には『魔力調整』の術式だ。この素材なら、まーてんの魔力もある程度緩和してくれるはず。


「みんなー、イヤリングを新しくしたよ。ほら、オボロもお揃い」


 翡翠色のイヤリングだ。


「うん。みんな、似合ってるね。いいね。かっこいいね」


 レウムさんからも太鼓判が出た。


 なかでも、オボロの喜び様ったら。こら、重い、つぶれる!



 翌朝。なかばオボロの下敷きになった状態で目が覚めた。


「うー、オボロ。重い。どいて〜」


 ハナ達が、あわててオボロを引きはがす。あったかいし、もふもふは嬉しいけど、何事にも限度がある。

 先輩達に叱られて、オボロがしょげている。あはは、かわいい。


 朝陽の中で見るオボロは、黒地に銀の縞模様が付いている。とても綺麗だ。

 だた、とにかく大きい。長いしっぽも含めれば四メルテ弱にもなる。目立つどころか、電光掲示板を背負って歩くような物だ。・・・どうしたもんかね。


 軽い朝食を用意し、レウムさんと食べる。相棒達にもウサギ肉や干し藁を与える。オボロも気に入ってくれたようだ。


「今日中には、海に出られますかね」


「うん、そうだといいね」


 ・・・やめてくださいよ。



 出発した。でもって、昼前に呼び止められた。


 だから言霊ってやつは〜


「てめえら、待ちやがれ!」


 服装は変わっているが、ヘミトマさんのところの男達だ。相棒達は機嫌を悪くしているが、わざと近寄らせたのだ。用があるなら聞いておきたい。反省しました、って態度ではないようだが。


「ご用件は、なんでしょうか?」


「てめえらの全部の荷物と命を貰おうか!」


「「ぶぶっ」」


 レウムさんと二人で吹き出してしまった。


「ど、どこの役者だい?」


「笑いしかとれませんよね」


 男達が怒髪天の形相になる。


「ふざけやがって! おい、やっちまえ。じじいと女二人だ!」


「あ、オボロ? 殺すのも怪我させるのも駄目だからね!」


 馬車のまわりには『重防陣』を張る。自分も、黒棒を持って男達をのそうとした。が、


「は?」


 新人従魔、オボロの活躍はすごかった。というか。


 柔軟な体さばきでふるわれる武器を躱し、器用にも爪を引っ込めた状態で、びしばしと男達の顔に背中に張り手をかましていく。


「おぶぅ」

「べっ」

「あがっ」


「ねこ○んち?」


 体が大きければ手も大きい。オボロの一発で、ことごとくが気絶した。


 それを見たレウムさんは大笑い。


「すごい。すごいよ。オボロちゃんはすごいよ!」


「・・・」


 ま、まあ、死人も重傷者も出なかったんだから、いいのか。オボロは、そりゃもう得意げに戻ってきましたとも。

 頭をなでてやると、ぐるぐると機嫌良さげに喉を鳴らす。ハナ達も尻尾を振ってアピール。そうか、君達の指導のおかげなのね。


「うん、よくやったね。オボロ、偉いよ。みんなも偉い」


 武器を取り上げ、伐採団の持っていた縄の残りで、男達を縛り上げる。

 さて、この連中はどうしようか。放っておけば狼の餌食。歩いて連れてくには、足が遅すぎる。


「レウムさん、ちょっと待っててください」


 見ているのはレウムさんだけだし、この際だ。


 ロックアントの板を取り出し、荷馬車を作る。レウムさんの馬車の手入れもしていたので、だいたいの構造はわかっている。魔力を使って、荷台用の板や車軸などを成形する。車輪を真円にするのが難しかった。組み立てる時には、オボロやムラクモも手伝ってくれた。うう、すまないねえ。

 仕上げに、全体を一つに接着する。


 一刻経たないうちに、出来上がった。


 レウムさんが、ニコニコと見ている。


「レウムさん?」


「だって、ルーだもの」


 ・・・はい、左様でございますとも。


 真っ黒な荷台に、男達を乗せていく。落ちないように、荷台の縁に括っておく事も忘れずに。


 なんちゃって荷馬車は、ムラクモに挽いてもらう事にした。ハナ達は馬車周辺の警戒を頼む。って、オボロはどこ行った?


「オボロちゃんなら、ボクのところだよ」


 あわてて見に行く。あんな図体でのしかかったら、レウムさんつぶれちゃう。

 あれ? いない。が、御者台の上には、レウムさん以外に何やら黒いものが。


「オボロ?」


 長いしっぽをゆらゆらと振っている。どう見ても、猫。まんま黒猫様だ。小さくなるにもほどがある。だけど、かわいい!


「オボロちゃんがここにいるなら、前方はボクの馬車でいいよね」


 この後も襲撃されるとすれば、後方からだ。確かに、その方がいい。


「オボロ、レウムさんと馬車を守ってね?」


 うみゃう。



 西海岸の都市の手前には、小さな丘陵が連なっている。[北街道]は、その合間を縫うように続いている。丘陵地帯は死角が多く野営には向かない。

 その日は、丘陵地帯の手前で野営する事にした。


 そこにつくまでにあった襲撃は、三回。


 薮に潜んでいた者は、ハナに脅かされて道に飛び出し、待ち構えていたオボロの○こぱんちで沈没。馬で接近してきた者は、『瞬雷』でしびれて落馬して気絶。

 最初に襲撃してきた男達が途中で目を覚まし、大騒ぎしだしたので、ロストリスで眠ってもらう。以降の強盗達も以下同文。


 なんとか、全員を荷台に載せる事ができた。

 彼らの馬も、黒馬車に繋いで連れて行く。その中の一頭とムラクモを交代させようとしたら、拒否された。この馬車が気に入ったようで、所有権を主張している。・・・ムラクモよ、君の趣味がわからない。


「明日、丘陵地帯を抜ける時はどうするんだい?」


「『重防陣』で保護しながら、一気に抜けましょう」


「襲ってきたら?」


「あちらの攻撃は届かないですし、丘陵を抜けたら人目につきますからね。諦めて引き上げるでしょ」


「諦めなかったら?」


「見物人の前で立ち回りでもしましょうか」


 ぱちぱちとたき火のはぜる音がする。


「北都を出てから、すごく生き生きしてないかい?」


「こうなったら、とことん事態を楽しみ尽くしてやります!」


 やけになっている、とも言う。


「あー、お手柔らかにね?」


 レウムさんが苦笑している。


「だめですよ。こういうことで手を抜いちゃ。これからどんなことが起こるか、ほんとに楽しみです」


 自分の膝に上がり込んでいるオボロをなでながら、断言した。そう、お楽しみはこれからだ。

 アンゼリカさんがいないせいなのか、主人公、暴走モードです。誰か止めてーっ。


 #######


 オボロ

 金虎の黒色変異種。毛皮の美しさから[北天王]に目を付けられて、主人公に差し出されることに。従魔になることには少々迷ったものの、ハナ達から「おいしい物を食べさせてもらえる」と聞いて、あっさり陥落。

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