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いつか、どこかで -森の約束-  作者: しまいね れーん
迷えるものたちの狂想曲
121/192

ex. とある班長の覚え書き

ショートです。

 ○月○日


 主任より、女性を紹介された。

 見合いではない!


 違法伐採団摘発に協力していただく方として、班長を集めた席で、だ。北峠でロックアント変異種二十三体を瞬殺した実績の持ち主との事。にもかかわらず、ずいぶんと小柄な少女で、また、気軽に声をかけてくださる。

 密林街道では、「森の賢者」殿と呼ばれているそうだ。ご本人は、そう呼ばれる事をお気に召していらっしゃらないご様子。


 主任もおっしゃっていたが、国外から来られた無縁の方に斯様な重大案件の解決に助力を頼むなど、本来あり得ざる事ながら、現状において我々が無力であるがゆえ、懇願した次第。

 誠に歯がゆい。


 ○月□日


 本日は、草都と牧都間の巡回であった。そこで、例の違法伐採団を捕縛した。というか護送をまかされたのだが。


 北都での班長会議で、賢者殿の従魔方とも引き合わせていただいた。四頭も従えていらっしゃるとは、さすが賢者殿。それはさておき、そのうちの、ムラクモ殿と巡回途中でお会いした。お持ちになった手紙によれば、「捕縛したので運んで欲しい」とのことだった。


 急ぎ、ムラクモ殿に従って、現場に着いた。着いたところでは、男ばかり三十人余りが、既に馬車の荷台に載せられていた。全員が暴れる様子もない。眠り薬を使われたそうだが、それにしてもこの人数をお一人で縛り上げ、荷台に並べてしまわれるとは。


 奴らは、見た事もない格好をさせられていた。裸足で足を曲げて、かかとの上に尻を乗せている。「正座」というそうだ。

 三人から四人を後ろ向きに座らせ、手足をしばった縄にもう一本縄をくぐらせ、その左右を荷台に固定している。

 馬車が揺れても落ちないようにするため、なのだそうだ。普通に横に転がしておいても良さそうなものだが、薬で眠っていて、万が一、隣の男が覆いかぶさって窒息してしまうのも防げるとの事。なるほど。


 奴らの建てた小屋の処理をどうするかを聞かれた。放置して朽ち果てるに任せてもよかったが、別の盗賊に再利用されるかも、と言われてしまった。よければ、すぐに壊してしまおう、と賢者殿がおっしゃる。壊す事に異議はないので、お任せした。

 何をどうしたのかわからないうちに、一群の丸太小屋は消え去った。魔術を使われたようだ。部下共々、声が出ない。


 さらには、野営にもお付合いくださった。

[北天]領域をむやみに荒らす事は、魔獣の出没を促す事になる、と[北天の使者]殿からの伝言を教えていただいた。

 賢者殿が今回の討伐にご協力されたのは、魔獣によって被害を受けるかもしれない隊商や住人をお守りくださるためだったのだ。


 街道の安寧を守護する立場のものとして、深く感謝に堪えない。主任にも、そのようにご報告しよう。


 ○月△日


 賢者殿と別れ、「北都」に向かう途中、奴らは全く目を覚まさなかった。到着後、馬車から降ろす前に、賢者殿から預かった解毒薬を飲ませて回る。

 服薬後、奴らは、すぐに目を覚ました。目は覚めたが、誰一人、自力で荷台から降りる事ができなかった。


 いわく、「足が痛くて、しびれて、動かせない」


 冗談を言っているのかと思い、足をつついてみると、凄まじい悲鳴を上げた。その男は隣に倒れ込み、倒れ込まれた者が次の悲鳴を上げるという変な循環が起きてしまった。声も出せずに、その場で痙攣しているものもいる。斬りつけられたとか骨が折れたという痛みとも違うらしい。

 脚縄も切って、一人ずつ地面に下ろしたが、誰一人自力で立ち上がれない。悲鳴も痙攣も収まったところで、兵士二人が支えて牢屋に連行した。その際も、歩き方がおかしなままだった。


 そう言えば、賢者殿から渡された報告書には、奴らは当分まともに歩けないだろう、とあった。主任にも目を通してもらう。


「・・・これは、賢者殿の怒りの深さの現れだ」


「は?」


「奴らへの報復でもあり、奴らの苦しみ様を見る我々への戒めでもある。ちがうか?」


「「・・・」」


 他の班長も、そろって顔色を失っている。「正座」させられたものの中に我が班にいた造反者も含まれている。先日までの同僚が苦悶に喘いでいる様は、我々への警告と言う指摘もありえる。


 集められた団員の中には、この様子を見て自首してきたものが多数いる。


 班員達が言っていた。


「俺たち、真面目に仕事していてよかったな」

「でも、賢者殿の怒りっぷりだと、まだ足りないってことだよな」

「・・・そうだな」

 

 その通りだ。我々は、これ以上かの方のお手を煩わせないよう、綱紀粛正に励み、一刻も早い秩序の回復に努めなければならない。


 ・・・さもなければ、次は、我々が、どんな「お仕置き」をされることか。

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