成長期 1
012
このところ、体長記録が止まっている。
特に生活サイクルが急変した訳でも、気候が変わった訳でも、まーてんの魔力量が減った訳でもない。
心当たりがないので、落ち着かない。これ以上、大きくならなくなるのかもしれないし。慌てることはないのかもしれないし。
しかし、なんというか、変なのだ。体の中、特に鱗の裏側がむずむずする。
・・・とうとう、てん杉ぱわーに負けてしまったのか? 自分の仮説が全部間違っていたのか? 人と会うこともできず、このまま、溶けてなくなってしまうかもしれない。
などと、考えてしまったのも悪かった。
大洞窟の中で、身動きとれなくなってしまった。
大○ーグボール養成ギプスでもはめられたかのように、体全体が重く固い。
いつの間にか、眠っていたらしい。洞窟の入り口側がずいぶん明るくなっている。
おや? 見えるし、動けるし。回復した?
慎重に体をのばしてみる。なにかがはがれ落ちる感じがする。両手を見ると、皮が一枚、まとわりついている。
つまり、これは、何かい、「脱皮」だ。
頭や手足、しっぽもつばさも。
一皮むけた。
新しくなったワタシ。
急いで、洞窟の外に出る。心持ち、鱗の色つやがより鮮やかになったような気がする。
山頂に登って(ちゃんと飛べた)、体長記録をつける。今日は真っ昼間だが、確認が先!
・・・今までの成長分のほぼ半分、一気に成長したようだ。多分、洞窟にこもって3日はたっていない。相変わらず、ミラクルな体だな、自分。
軽く飛び回ってみる。クイック機動に一段と切れが増した。魔力隠蔽もできる。洞窟前に戻って、指弾を試してみる。前よりも軽い力で、枝を落とすことができた。パワーアップもしているワタシ。が、ちょっと照準が甘くなっているな。
とにかく、病気ではなかった、ということで。
洞窟内に戻って、安心のため息をついた。
が、安心ばかりではない。とうとう、洞窟の入り口に頭が引っかかるようになってしまったのだ。まーてんにあるほかの洞窟は、入り口が大きくても奥行きがないものばかりで、使いづらい。何より、薫製洞窟が使えなくなるのは痛い。
いろいろ工夫はしてきたが、やはり生食ライフせざるを得ないのか。またも、落ち込んでしまった。
この手が、人ならば。
一瞬、体が軽くなった。
じっと手を見る。よーく見る。穴があくほど見る。両手を目の前に広げて、表裏をなめるように見る。
うん、ひとの手だ。子供の手。肌色のすべすべした柔らかな手。ピンク色の爪。足も、おなかも肌色。顔を触ってみる。あご、口、鼻、目、耳、髪の毛。ぜんぶ、人の形。
多分5歳くらいの女の子になりました。
これはこれで、びっくり。
またまた、いろいろ考えなきゃならないことができた。
もう二度と、ドラゴン形態にはなれないのか。魔力は必要か。魔法は使えるか。体力は。
特に、体力の有無は重要だ。まーてんから一歩外に出れば、リアル野生の王国で。普通の人間の子供が、保護者も無しに生き延びられる世界じゃない。身を守る手段は、何が何でも確保する必要がある。
ということで、へんし〜ん。
できました。
もういちど、へんし〜ん。
子供になりました。
よし、次だ。
魔力は感じられる。質、量ともに、ドラゴン時とほぼ同じ。たぶん、魔力の供給は必要だろう。これは、今後も観察を続ける。
さらに、次。
洞窟から出て、「ひっ」をやってみる。
眼前、50センチくらいのところに、火の玉が浮かんだ。
魔法、オーケー!
次! 指弾で、体力テスト。
まず、種子弾を軽く撃ってみる。命中。弾は、砕け散った。指に異常はない。種子弾を全力で撃つ。弾と板が砕け散った。続いて蟻弾も撃つ。以前と同じように、的はくだけた。てん杉の枝を狙う。いつもよりも距離があるが、あっさりと折取った。
これで、一安心。
したところで、文明人の問題。
裸祭も遠慮したい。
中身も、大きく育ってね。




