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噴火、ふたたび

316


 その晩は、猟師さんや木こりさん達から、シンシャ周辺の話をいろいろ聞かせてもらった。

 話をしながら、川魚の薫製や猪肉の煮込みなどの料理をご馳走になった。料理代や宿泊費を払おうとしたら、「あいつらへの一発で十分だ!」といわれて受け取ってもらえなかった。せめてものお礼にヘビ酒を出したら、「こいつもうまいぞ」と逆に地酒を何本も貰ってしまった。


 翌朝、居合わせた人たちの万歳三唱で見送られた。なんなんだ?


 間道でも兵士さん達が待ち伏せしていそうな気がしたので、彼らが入り込めない[魔天]を突き抜けることにした。

 森から[魔天]に入る。当分街に立ち寄らなくても問題はない。


「そもそも、四年前まで森から一歩も出てなかったし〜」


 湖の西岸に注ぐ沢を覗き込む。鱒のような魚が群をなして泳いでいる。槍を構えて突き刺す。うん、数匹獲れた。河原でたき火を起こし、串に刺し塩をふった魚を焼く。二匹食べて、残りは便利ポーチにしまう。


 腹ごなしに、一気に北に向かおうとした。そのとき、


 火山が、特大級の爆発をした。


 空振で、木々の葉が散る。動物達もパニックを起こしかける。自分もだ。だが。


 だん!


 力一杯、足を踏みしめ、気合いを入れる。体はどうあれ、中身は人だ。今現在起きていることの原因を知っていれば、どう対処すればいいかの判断もできる。慌てる必要なんか、これっぽっちもない!


『おぉーちぃーつぅーけーっ!』


 周囲の慌ただしい気配のなか、力一杯叫んだ。ふん! どうだ!


 すぐさま、普段通りの森に戻った。というより、周りの動物達は、気絶したり、へたり込んだりしている。


 ありゃりゃ。声が大きすぎたか?

 ・・・乙女にあるまじき実態だね。反省。


 木に登って、火山の方角を見る。噴煙の高さはこれまでと変わらないようだ。一方、山体の北東方向、つまり自分から見えている斜面が土煙のようなもので覆われている。やがて、大きくえぐれている様子が見えた。噴火の勢いで、山が崩れてしまったらしい。・・・恐〜ぁ。


 見える範囲では、魔獣達が興奮して暴れている様子もない。さっきの喝は、どれだけの範囲に広がったんだ? とにかく、騒動は起きずに済みそうだ。やれやれ。木から降りて、一休みしよう。


 あ、そういえば!


「おーい! みんな、大丈夫?」


 昨日から、影に入りっぱなしだった四頭に声をかける。あああ、やっぱり。目を回してた。ちょいと、気合いが入りすぎたか?

 多分、自分の魔力の大きさにも当てられてしまったのだろう。次からは、影を「閉じて」おくことにしよう。そんな機会は、もうない、と思うけど。


「ほら、いいから。まだ、休んでて?」


 影から出てこようとするのを、戻らせる。


 ゆっくりと移動した。三日後、モガシ近くまで移動したころ、四頭はようやく回復した。街道からやや離れた森の端で、焼き肉やグラッセを出して食べさせる。


「今度から、気をつけるから! ほんと、ごめんね〜」


 自分と同時に、四頭も気づいた。森から何かが群れて出てくる。大噴火の直後、動物達は自分が落ち着かせたはずだ。いや、目を回したあと冷静になった。

 だが、違う影響を受けるものもいたらしい。


 街道に向かった。案の定、隊商がいる。護衛の傭兵に声をかけた。


「森から大群が出てきます! 防御してください!」


 隊長らしき男性が、騎馬上から質問する。


「あんたは何者だ? 森から出てくるのは何だ?」


「自分は、猟師のアルファと言います。森から出てくるのはロックアントを含む魔獣達です!」


「アルファ?! 本物?!」


「何を持って本物というかは知りませんが?!

 モガシとシンシャに連絡を出してもらえませんか? 隊商の馬車には、自分が保護結界を張ります。 皆さんには、ロックアント「以外」の討伐をお願いします!」


 ムラクモに卵入りの鞍袋を預け、隊商と一緒にいるように言う。すぐさま、『重防陣』を発動。


「ユキ、ツキ! 連絡の使者さんについていって! 護衛をお願い!」


「な?! 従魔が四頭?!」


「驚くのはあとで。来ますよ!」


 まず現れたのが、猪のようなグロボアが数頭、いずれも体のあちこちから血を流している。なまじ、丈夫なだけに激しく抵抗し、結局怪我を負って逃げてきたのだろう。他にも熊型の魔獣アンフィや真っ黒な狼のジャグウルフなど。

 皆、怪我をしている。


「なんで、あんなに傷だらけなんだ?」


「興奮しているので、倒すのはちょっと大変ですよ?」


「だから! なんで怪我を!」


「ほら、後ろ」


 彼らのあとから現れたのは、たくさんのロックアント。ほかに、アスピディという体長四メルテの巨大なバッタが十数頭。


「・・・無理だ。俺たちだけでは対抗できない・・・」


 自分一人でも無理だ。数の暴力は、それだけ強い。でも、傭兵さん達に負傷した魔獣達を取り押さえてもらえれば、何とかなる。


「あの昆虫型魔獣は自分が引き受けますから。ではあとよろしく」


 言い残して、突進する。


 アスピディは、[魔天]西側では見たことがない。自分も、ギルドハウスにあった図鑑で見ただけだ。とはいえ、生き物だ。弱点は大体同じだろう。

 まずは、アスピディを殲滅する。あの巨体で、ぴょんぴょん飛び回られては、討伐の邪魔だ。


 『照点』をつけて、数本の槍を投げ上げる。上空で大きく弧を描いたのち、アスピディの首を貫く。首を地面に縫い付けられてじたばた暴れるが、すぐさま動かなくなった。残りのアスピディも狙い撃ちしていく。


 あとは、いつも通りロックアントの首を取る。しかし、同時に八十匹以上は初めてだ。どんだけ蹴っても減ったように見えない。


 ハナは、ロックアント戦は初めてだろうに、群がばらけないよう周囲から威嚇している。怪我しないうちに、早く全部仕留めよう。


 ようやく、動き回るロックアントがいなくなった。さて、傷ついた魔獣達は? 


 グロボアが結界に体当たりしている。うわ、中の人たちがパニックにならないうちに止めなきゃ。

 体当たりした瞬間を狙って、槍を投擲する。よし、全部脳天を貫いた。


 アンフィは、残り一頭。傭兵さん達の手で、すぐに倒れた。


 ジャグウルフが二頭残っている。別の傭兵さん達が、円陣を組んで防御に徹している。

 元気のいい方の前に飛び出し、鼻面を黒棒で殴りつけた。


 ぎゃおぉぉぉおん!


 悲鳴を上げて飛び退く。その声を聞いたもう一頭も、円陣から離れる。


「ほら、もうおしまい! 帰る? それとも殺る?」


 二頭に黒棒の先端を突きつけて、選択を迫る。しばらくは、うなっていたが、やがて頭を下げて森に戻っていった。


「さて、怪我人はいませんか〜」


「「「違うだろ!」」」


 おや?


「死人は返事しませんから」


「「「じゃなくて!」」」


「まあ、それだけ叫ぶことができるんだから、無事みたいですね〜。じゃ、後始末にかかりましょうか」


「「「おい!」」」


 ロックアントの始末は時間との勝負だ。とはいえ、今回はさすがに数が多すぎる。いっぺん、全部便利ポーチに放り込むしかない。

 アスピディは、・・・利用方法がわからん。ローデンの図鑑にはそこまで載ってなかった。


 ロックアントを全部しまって、槍もすべて回収した頃、モガシから援軍が到着した。

 ちょっと遅かったね。いや、無駄足にさせてごめん。


 援軍の隊長さんが、呆然と見渡して言った。


「・・・魔獣は、どこだ?」


 隊商の隊長さんが、十数頭の魔獣の死骸を剣で示す。


「これだ」


「・・・ロックアントの大群だと聞いてきたんだが」


「あそこのやつが、ぜーんぶ片付けちまった」


「・・・どいつだ?」


「黒髪のちっこいやつ」


「どこの誰だ?」


「さあ? 名前はアルファ、と言っていたがな」


「あるふぁ、・・・って、あのアルファ?!」


「さてな。本人に聞いてみろ」


 呼ばれて飛び出て〜、って場合じゃないね。


「ご足労お掛けしました。こちらの隊長さんや傭兵さん達が頑張ったので、なんとか無事に終わりました」


「・・・あんた、いや、貴殿が、あの?」


「「あの」がなんなのかは知りませんが。自分は猟師のアルファです。よろしく」


「〜〜〜」


 モガシの隊長さんがよろめいた。なにが、そんなに驚くことなのかな?


「それより、ちょっと教えていただきたいんですが」


 隊商の方の隊長さんに聞いてみた。


「なんだ?」


「アスピディの利用方法って、何ですか?」


「羽が一番高価です」


 おや、隊商の商人さんが出てきた。


「助けていただき、ありがとうございました。私はスティロニ、モガシの商人です」


「いえ、皆さん無事でよかったです。それで、アスピディの羽、ですか?」


「はい。ガラスよりも薄くて丈夫なので、貴族の屋敷の窓に使われます。あとは、頭ですね。西部の港の方で、最近人気らしいんです」


 へえぇ。


「中身は?」


「特に聞きませんが」


 傭兵さんの一人がひょいとくわわった。


「いや、討伐直後なら、足が食える!」

「時間が経てば、匂いが出てきて食えなくなる。今のうちしか食べられんよ」


「じゃ、薪を取ってきましょ。皆さんは、解体をよろしく」


 スティロニさんが「足が食える」と聞かされて驚いている間に、その場を離れた。


「なんで、出てきたんだろうな」

「三日前に大きな音がしただろう。多分それだよ」

「じゃなくて! ロックアントだよ。あれ、滅多に出てこないじゃないか」

「だからさ〜」


 アスピディ以外の魔獣は、街で解体することになった。運搬用の荷馬車が到着すると、素早く積み込まれ、モガシに引き返していった。

 傭兵さん達は、いろいろ話ながらもアスピディの解体に励んでいる。

 二対のうち、使われるのは下の羽だけだそうだ。羽を切り落とし、丁寧に梱包する。重くはない。次に、頭を転がす。


「・・・へえ。ふっとい首なのに、きれいに切れるもんだ」

「こいつの解体は、初めてなんだろう?」


「ナイフがいいんですよ」


 「変なナイフ」で、さくさく切って落とす。


「頭の中はどうするんですか?」


「くりぬいて捨てるけどな」

「お前んとこのが、興味津々だな」


「・・・そうですね」


 ユキとハナが、転がされた頭に首を突っ込んでしゃぶっている。


「傷付けないようにね〜」


「おーい! 焼けたぞーっ!」


 アスピディの焼き方にはこつがいるというので、薪を預けて解体の手伝いをしていた。やぁ、待った甲斐があるってもんだ。


「あんたから食ってくれ!」


「隊長さんじゃなくて、いいんですか?」


「あんたがいなけりゃ、こうして飯を食うこともできなかったはずだからな」


「では、遠慮なく!」


 かぶりつこうとする前に、気配を感じて顔を上げた。

 かなり大きな生き物が近づいてきている。でもこの方角だと、[魔天]領域からは外れている。なんだ?


「北西方向から、何か来ます!」


 全員が、そちらを向いた。そして、硬直した。


 生ドラゴン。


 巨体が、土煙を上げて迫ってくる。


「なんで・・・」

「竜の里には手出ししてないだろう?」

「今回の騒ぎについて訊きにきたとか・・・」

「あるわけねえ!」


 そう、ロックアント程度じゃお話にもならないほど、ドラゴンは強い。今、こちらに向かってくる個体なら、前足で「プチ」っとしておしまいだ。


「〜〜〜」


「なんか、叫んでるのか?」

「なんて、言ってるんだ?」


 ぎゃあ! 自分には聞こえた。はっきり聞こえた!


「アルファさぁ〜〜〜〜ん!」

 火山は、活動を始めたあとに大噴火を起こすことがあります。この話はセントヘレンズ火山を参考にしました。・・・怖いですねぇ。


 #######


 主人公の『喝』

 声と一緒に、魔力も大放出。そのため、領域の魔獣達がすべて目を回すはめに。どこまでも、規格外な主人公。

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