一撃必殺
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蟻団子を拾った。
一番大きなてん杉の実と同じくらいの大きさ。元の大きさに比べると、ずいぶん小さくなっている気がする。ずっしりとした重量感。これでサッカーはできないな。けりを当てたとたんに、足が折れる。
それにしても、「へっ」が効かなかったのは痛かった。てん杉が燃えやすいのか、蟻の耐火性が強いのか。「へっ」の使いどころを間違えないように、ほかのものの着火度合いを調べてみる必要がある。
・・・そのうちに、この技にも何か名前を付けよう。技名「へっ」では、力が抜ける。
それはさておき。
戦い方として、[空気ごと「握る」]は大変有効であった。しかし、食料としての獲物相手に「これ」は使えない。食べられる部分が、なくなってしまうから。つまり、肉が食べたければ、今後、狩りの技術も開発しなくてはならない、ということだ。
いや、たとえ、肉をあきらめるとしても、戦い方のバリエーションは必要だ。火も「握る」も使えない場面もあるだろう。自分を守る為に、肉弾戦ができるか? 自分の手を血に染める覚悟があるか?
蟻団子をもてあそびながら、考える。
ここは、現代日本都市じゃない。自分の手で必要なものを手に入れるには、いざというときの本気の「殺す自覚」が必要なのだ。
それは、理解した。
次は、「どのように」殺すかだ。
ヘビも蟻も、偶然、滅殺できたに過ぎない。次も、このような「幸運」が続くとは思ってはいけない。
痛いのは嫌だ。自分が前世であれだけ痛い思いを経験したせいか、他人が痛みに苦しむ様も見たくない。
生木を切り裂くこの手ならば、そこそこ戦えるとは思う。かといって、素人の格闘戦で、苦しませずに殺すことなどできるはずはない。
一撃必殺のための手段を、改めて考える。
格闘戦がだめなら。
なにか道具を考えよう。
刀。扱う技量が必要。教師も無しに身につけられるとも思えない。
銃。構造がわからないし、加工もできない。
爆弾。周囲の被害甚大。
てん杉の実。蟻には効かない。
・・・もう少し、落ち着いてから、検討し直そう。
翌日。
日課が終わって、スコールの音に耳を澄ます。
雨が降る前に、また蟻が来た。今度は、てん杉に取り付かれる前に団子にした。
数日の間、森の中の蟻の様子を観察した。
森杉の実も食べるが、より大型の動物に襲いかかっている。目についたものはことごとく、打ち取られ、食べられている。
動物の中には、火を打ち出したり、風を叩き付けたり、いわゆる「魔法」を使って攻撃するものがいた。しかし、蟻にはほとんど効果がない。つまり、蟻は「魔法」の「耐性」を持っていて、私の炎も「魔法」の一種なので効かなかった、と考えられる。
さらに、蟻の二倍もある熊が、蟻に前足で往復パンチをかましているところも見た。が、これまた効果なく、大あごが片足をとらえ、切り飛ばされた。あとは、なす術もなくやられてしまった。物理的抵抗力、頑丈さも半端ないらしい。
蟻が、チャンピオンなのか?
ならば、蟻を一発で倒せる技は、ほかの動物は恐るるに足らず。となるかもしれない。よし、その方向で考えよう。
・・・すぐには、思いつかないものだ。
さらに数日がたった。
そして、大洞窟に転がしてあった、種を見て思いついた。
指弾。
急所を打ち抜き、即死させる。また、接近戦を回避できる。
発射スピードは多分、問題ない。ここのところ、枝の収穫がますます軽くできるようになった。指先二本で「ぽきっ」とイケるくらいだから、はじく力も十分、のはず。命中率は、練習あるのみ。
弾の材質も工夫すれば、より威力が上がるだろう。蟻団子だ。アレも、弾にする。なに、自分の「手」でこねたものだ。さらに、細工することもできる。と、信じて、いじり回す。
かなり練習したと思う。
小さな種子弾は、すぐ、底をついた。次は、枝を加工して練習用にした。真球に近いものでないと、命中率が落ちるようだ。弾をたくさんつくったおかげで、指先の器用さもあがった。やはり、木製の弾では、あまり強度がないようで、木片を的にしたときでも、一発でくだけてしまった。ただ、薫製にした種で作った弾は、生木よりも固いようだ。
蟻団子から作った弾もできた。団子をひも状にのばし、千切って丸める。その形状のおかげで、串のときのような脆さはない。軽く撃っても木の的に食い込むし、目一杯力を込めれば、そこそこの太さの枝も叩き伐る。ためしに、森杉の根元を的にしたときは、見事に撃ち倒した。 ・・・なんて凶悪な。
蟻の数が、どんどん増えているのだ。このままでは、ほかの動物がすべて食べ尽くされてしまう。もう、四の五の言ってられない。岩大蟻は、「サーチ&デストロイ」で決定。
死に物狂いで練習し、蟻弾の命中率がほぼ十割になったところで、岩大蟻にリベンジを挑んだ。
五匹が群れているところを見つけた。
急所は首の付け根。正面からでは当てられないので、空中から狙う。
ビシッ。
一発では止まらない。
二、三発続けて打ち込む。
蟻の首がもげた。
よし。
その後、二匹の蟻が指弾の犠牲になった。うち一匹は、一発で首が落ちた。
残りの蟻は、「空気ごと握る」で、始末した。蟻の殻ばっかり残っても邪魔になると思ったからだ。ついでに、玉の材料にするのに、最初から団子にする方が手間が減る。
さらに数日を、蟻ハントで過ごした。
どうしても、食欲優先。




