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最強スキルは勇者でも聖女でも賢者でもなく肝っ玉母ちゃん!?  作者: 紅葉ももな


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第十一話『家族のために出来ること』


 名前を呼ばれて振り返れば、何か言いたそうな複雑な表情をしたディートヘルムが由紀の方を見ていた。


 それはそうだよね、爆発したみたいな音が城中に響いていたし……


「とりあえず、今日は休みませんか? 奏音も眠そうですし、暗い中で下手に動き回るのは安全上問題があると思うんです」


 また起きてしまったのだろう、ディートヘルムに抱き上げられたまま、由紀に対

 して両腕を伸ばしてくる奏音を受け取ると、その背中をポンポンと叩く。


「そうですね、明日にしましょう。 念のために部屋の前に警護の騎士を配置させていただきます、明日私が迎えに上がるまで、室内でお待ちいただきたい」


「わかりました、おやすみなさい」


 短く挨拶を交わしたあと、ディートヘルムが部屋から出ていったので、扉に施錠してそっとため息を吐き出す。

 

 何はともあれ、原因となっていた星夜は回収したし、夜も遅いからそろそろ奏音を寝かせたい。


 眠さと安堵からかぐずぐずとぐずりだした奏音をベッドに寝かせて、隣に潜り込む。


 疲れていたのだろう、隣から聞こえてきた寝息を聞きながら、由紀も夢の中に旅立っていった。


 ……………………

  

 翌朝、今回の星夜の暴走の爪痕が、日が昇ったことにより明らかになった。


「これはまた……」


 昨晩の騒ぎの確認と、後始末の指揮のために夜通し対応に追われたクレマンティーヌは、改めて今回の勇者一行が引き起こした惨状に絶句した。


 対魔法を施した城壁は見事に崩れ果ててしまっている。


 壊れた調度品が散乱した庭の範囲を見れば、どれほど威力があったのか嫌でもわかる。


 わがままに育ってしまった妹のキャスティには、まだ召喚されたばかりの勇者一行は、母国から無理やりこの国へと連れてこられたせいで、精神的に非常に不安定だと部下を通じていい含めていた筈だった。


 魔王と言う巨悪を倒すべく勇者を異世界から召喚し、彼らに魔王を倒して貰うことは、これまでの歴史を見れば決して珍しい事ではない。


 実際に先代勇者として召喚された黒髪黒目の女性勇者ユリ・ミツヅカは、見事に当時の魔王アルトリードを打ち倒し使命を全うし、魔王と相討ちとなり姿を消したと伝えられている。


 圧倒的な力を誇る魔族の王を倒してしまえば、求心力に欠けた魔族とならば、勇者ではないただの人の力だとしても勢力は拮抗する。

 

「キャスティや助けに入った者たちの容体は?」


「はっ、騎士達数名に軽い凍傷と爆発に巻き込まれた事で受けた打撲がみられますが、命に別状があるものはおりません」


「そうか、それは重畳」


「しかし今回の件でキャスティ殿下が怪我をされた事に国王陛下が酷くご立腹でございます」


 キャスティを甘やかす父親に頭痛を覚えるが、頭を振ってやり過ごす。


「それから……」


「他にも何かあるのか?」


「はい……実は勇者の姉君に対して、魔族ではないかとの疑いが城中に広がっております」


「なっ!」


「昼間、理性的だった賢者様を魔族の力で操り、キャスティ殿下を襲わせたのだとキャスティ殿下の侍女達が騒いでいるようです」


「そんなわけがあるか! ユキ殿のスキルを見ただろう? 珍しい物だったが、他者に危害を加えるような物では決してなかったはずだ」


「それが、賢者様を鎮める際に歌を歌われたようなのですが、それが……とても禍々しく聞いた者の体調を悪化させる作用があったようなのでございます」


 困ったと言わんばかりの様子に苛立つ心を落ち着ける。

 

「聞いたことがないジョブスキルに加えて、不特定多数を状態異常に貶める奇術を使う姉君を国外に追放するべきだと訴えているものもおり、また陛下も賛同されているため苦慮しております」


「馬鹿なことを、魔族と争わずにすむ方法を模索するどころか、倒すべき魔王が復活したわけでもないのに、魔族の国を占領せんと勇者を召喚するという暴挙に出た愚か者は陛下と腰巾着共だろう」


「クレマンティーヌ殿下!」


 焦った様子を浮かべて発言を咎める腹心に軽く手を払う。


「わかっている、しかし召喚した我々には彼らを守る義務があることを忘れてはならない……陛下やキャスティ……貴族達に気を配ってくれ」


 了承の声をあげて離れて行く部下を見送り、クレマンティーヌは疑惑の勇者の姉君……由紀に会うためにディートヘルムと合流するべく歩き出した。


…………


 翌朝、悲しいことにいつも通りの時間に目が覚めた由紀は、ある意味軟禁状態の部屋の中で何も出来ずうろうろと室内をうろついていた。


 いつもなら洗濯やら朝食の準備やら、お弁当の支度やらで忙しく駆け回っているはずの時間だけれど、掃除用具はもちろんのこと、娯楽となるテレビもスマホも漫画本すらない。


「かなちゃんが起きるまでまだ時間があるし、星夜は、夜中にあんなことがあったからギリギリまで寝かせておきたいのよね……」


 とりあえず、今出来ること……わっと


「ステータスオー……」


 何度口に出しても、こそばゆいステータス確認するための呪文を口にした所で、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「うわっ、はい!?」


 ワタワタと開きかけたステータス画面を掻き消すようにして両手を振り払う。


「ユキ殿、少し宜しいか?」


「はい、今開けます!」


 扉を開けるなり、目を見開いたディートヘルムが真っ赤に顔を染めて扉を勢いよく閉めてしまった。


「誰か、ユキ殿に着替えをお持ちしてくれ!」


 その声に面食らいながら、自分の姿を確認する。


 寝間着として渡されたマキシ丈の長袖ワンピース……


 地球ではファッションとしてマキシ丈のワンピースは外出着としても普通にある、だからあまり気にならなかったけれど、この世界では膝丈スカート並みにはしたない!?


「ユキ様、お着替えをお持ちいたしました」


 ディートヘルムが頼んでくれたロング丈のメイド服を受け取り、急いで寝室に戻り着替える。


 着替えを済ませて、居間に戻るとテーブルに一人の女性が座っていた。


 いつのまに用意したのか、テーブルの上には高そうな茶器に入ったお茶と、お菓子やサンドイッチなどの軽食が乗せられたアフタヌーンティースタンドが並べられている。

 

 優雅にお茶を飲むその女性の斜め後ろで、女性の背後を守るようにディートヘルムが当たり前のように立っている。 


「こんな早朝に失礼した、初めてお目にかかる。 私はクレマンティーヌ・ローランド、このローランド王国の第一王女だ」

 

 クレマンティーヌ王女は、その場で立ち上がるとドレスを広げるようにして、美しく頭を下げた。


 これが世に言うカテーシーという物だろうか。


 どうやら見惚れてしまっていたらしく、ディートヘルムの咳払いで現実に引き戻された。


「わっ、すみません。 三ッ塚由紀です」


 勢いよく頭を下げる。


「ふふふっ、頭を上げてちょうだい」


 そう言われて、着席を促されディートヘルムが引いてくれた椅子へと腰を下ろす。


「むしろ私達が謝らなければいけないわ……あなた方をこの世界に同意もないまま連れてくることになった事、王族として謝罪致します」


「こうなってしまった以上、謝罪は結構です」


 クレマンティーヌの言葉に首を振る。


「クレマンティーヌ王女殿下、昨晩の……星夜の寝相の事ですが、申し訳ありませんでした」


「そちらに関しましても、妹……キャスティが夜間に許しもなく賢者様の部屋へと赴くという無礼を犯しました」


 由紀の謝罪にキャスティが首を振る。

 

「クレマンティーヌ王女殿下……星夜だけでなく、他の弟達もですが、突然この世界に連れてこられたことでみんな不安定になっています」


 召喚早々、訳もわからない混乱状態で言われるがままに家族ばらばらに引き離された。


「お願いがあります!」


 そう、勇者でも聖女でも賢者でも、聖者でも魔術師ですらない……それならば由紀は自分にできることをしようと心に決めた。

 

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