92.鬼神現る
一夜明けて、新しい年になった。
私はいつも通りに起き、これまたいつも通りに厨房へ向かう。
向かう途中、パーティールームを覗くとアルコールの匂いが充満している。よく見ると、あちらこちらに人が倒れて、いや、爆睡している。
「はぁ〜、どんだけ呑んだのよ。」
腰に手を置き、ため息をつく。
「おはようございます、お嬢様。今年もよろしくお願いします。」
と、ナンシーから声がかかる。
「あっ、ナンシー。おはよう。今年もご指導よろしくお願いします。」
「うふふ、はい、かしこまりました。…まずは、これをどうにかしないといけませんね。」
ナンシーから笑みが消え、真顔になる。
あっ、コレはヤバい。
ナンシー鬼神モードだわ…。
チラッと寝ている人を確認する。
お父様、ギルバート叔父様、グレイ、エイブさん、アーサー、ベン、エルさん、ウーサさん、ダイさん、マツさん、アッシムさん、ヒロさん、キラさん、マイク。
あっ、ダメだ。コレは誰も勝てないやつだ…。
ん?エイブさん、アーサー、ベン?じゃあ、厨房にアニーだけ?
ヤバい、朝食が滞っていたら、お母様やお祖母様まで鬼神モード突入じゃない…。さすがに三鬼神はヤバすぎるわよねぇ〜。
「あっ、あの、ナンシー?私、厨房でアニーを手伝って来るね。」
と、言い残し厨房へ急ぐ。
お父様たち、ファイトー!
でも、自業自得だから諦めてーー!
パタ、パタ、パタ…。ガチャ。
「おはよう、アニー。」
「おはようございます、ジョアンちゃん。良かったー、1人でどうしようかと思ってたんです。」
「だよねー。エイブさんもアーサーもベンもパーティールームにいたもの。」
「えっ?パーティールーム?どうしてですか?」
「泥酔で寝落ち。」
「あぁー、やっぱりですか。私が下がる時に、ヤバいかな?と思ってたんですけど。起こしに行かないといけないですよね?」
「あっ、大丈夫。起こしてくれる人がいるから。」
「誰が起こしてくれるんですか?」
「えっと、ナンシー。」
「あっ…。それは…怒ってますよね?」
「うん…。かなりね。…ともかく、朝食作らないとお母様たちまで怒ることに…。」
「あっ、そ、そうですね。急ぎましょう。2人でいけますかね?パンは昨日の残りがありますけど。」
「フレンチトーストとサラダと卵料理のワンプレートにしよう。でも、ん〜ちょっと、キツいかな?じゃあ、助っ人を呼ぼう!」
ガチャ。
スゥーー。
「サーーラーー!!」
シュタッ。
「はーい、ジョアン様。お呼びですか?」
えっ?どっから現れた?
忍びなのか?ってぐらいに早いわねぇ。こんなに広い屋敷なのに…。
「忙しいところ、ごめんなさい。朝食の準備の手伝いをして欲しいの。」
「あっ、もしかしてエイブさんとかパーティールームにいたりします?」
「うん。たぶん、あの状態だと使い物にならない。」
「ですよね〜。お手伝いします。」
「ありがとう。じゃあーーー」
「大きな声出してどうした?」
と、アラン兄様。
「あっ、アラン兄様。おはようございます。今年もよろしくお願いします。」
「あぁ、今年もよろしくな。で?どうしたんだ?」
「あっ、ちょっと朝食の準備が滞っていて…。」
「もしかして、パーティールームのやつか?」
「見ました?あそこに料理人が3人いて、アニーと私だけだと間に合いそうになくて、今サラを呼んだところだったんです。」
「じゃあ、俺も手伝うよ。」
「えっ!?どこか行く予定だったんじゃ?」
「いや、朝練から戻って来たところ。ちょっと着替えて来るから。」
そう言って、客室の方に行くアラン兄様。
「よし、ともかく人員は確保した。頑張ろう!」
「「おーー!!」」
3人で朝食の準備を始めていると…。
ガチャ。
「ジョー、来たぞー。」
と、ジーン兄様。その後ろにノエル兄様、アラン兄様、目を擦るヴィーがいる。
「「「えっ!?」」」
「もしかして、みんな手伝いに?」
「あぁ、暇そうにしていたから連れてきた。」
と、アラン兄様。
「まぁ、僕は読書してただけだから良いけど……。」
と、ノエルが言いながらジーンとヴィンスを見る。
「俺らは起こされた。なぁ。」
と、ジーン兄様が言うとヴィーが頷く。
「あはは。ありがとうございます。じゃあ、ジーン兄様と、ヴィーはサラダを、アラン兄様はパンケーキを、ノエル兄様はオムレツを皿に盛り付けてもらえますか?」
「「「「了解!」」」」
皆んなの頑張りもあり朝食に間に合わせる事が出来た。
ーーーモーニングティータイムにて。
朝食の時にいなかった、お父様とギルバート叔父様の話になる。
「お父様たちは大丈夫なんですか?」
「えぇ、二日酔いみたいよ。お義父様もお義母様もいらっしゃるのに。本当に申し訳ありません。」
お母様がお祖父様達に謝る。
「あら、マーガレットが謝ることじゃないわ。いいのよ、アレは放っておけば。」
朝の事を聞いたのか、お祖母様も御立腹のようだ。
「本当に、お兄様もそうだけどギルも調子のりすぎなのよ。」
ジュリエッタ叔母様も御立腹だった。
「父上たち、ジョーが寝たあとアラン兄に色々とカクテル作らせて呑んでたからなぁ〜。」
と、ジーン兄様。
「えっ、そうなの?俺が寝た後かな?でも、俺が寝るまではエールとワイン呑んでたよ?」
と、ヴィー。
あぁ〜チャンポン状態なのね…。
そりゃあ、泥酔するし床の上で寝て、二日酔いにもなるわよ。
異世界でも、年越しパーティーで羽目を外す人っているのねぇ〜。
私のスキルの水飲んだら治ると思うけど…お祖母様たちを見てると、飲まさない方が良いかもしれないわねぇ。これで治るとわかって、また同じ事繰り返す気がするしねぇ〜。
まっ、自業自得だしねぇ〜。




