86.街へ in 鍛冶屋
職域のワクチン接種で、二の腕がダルい…。
「「「こんにちはーー!!!」」」
3人で挨拶をする。すると……
「おう、なんだー!?ここは、ガキの遊び場じゃねーぞ。」
「危ねーから、帰った、帰った!!帰らねーと、水ぶっかけるぞ!!」
と、スティーブさんより若い職人たちに言われる。
子供だと思って、こういう態度なのかしら?
子供でもお客様の可能性があるのに、この接客でやっていこうなんてダメね。こんなのクレームの原因にしかならないわよ。
よく後輩が子供に馬鹿にした接客をして、後々親からクレームきてたわねぇ〜。
「そういう接客で大丈夫なん…モガッ…。」
「ジョー!!」
ジーン兄様に口を押さえられる。
「あぁん?何だ?乳くせーガキが生意気に。早く帰ってママのおっぱいでも飲んでろや。」
「「あははははーー。」」
職人たちが笑う。
「モガッ…離してジーン兄様…。ふぅー。苦しかった。ジーン兄様、ちょっとだけ待ってくださいね。で、お兄さん達はその接客で良いのか聞いてるんですけど?」
「ジョー。」
ジーン兄様が呆れる。
隣ではヴィーが固まっている。その後ろで、ノエル兄様とアラン兄様が無言でことの成り行きを見守っている。
「あー、なんだ。マジで水ぶっかけられてーのか!?」
と、1人が水の入ったバケツを持ち、かけるふりをする。
「謝るんなら今のうちにだぞ!!」
「そっちこそ、謝るんなら今のうちですよ?」
「なんだと、このクソガキがぁーー!」
「舐めた口きいてんじゃねーぞ!!」
これは優しく言っても聞かないチンピラみたいなもんねぇ〜。まぁ、そう言うお客様も相手に仕事してきた私は何とも思わないけどねぇ〜。
「チッ。子供だと思って舐めてんじゃねーぞ!所詮、下っ端の奴に言われたって何とも思わねーんだよ!!水、ぶっかけるだぁー?やれるもんならやってみろよ。出来んのか?やったら、てめぇーの首てめぇーで締めることなんだぞ。あぁーん?」
「「っ!!」」
職人たちは、幼女が啖呵を切るとは思わず驚き固まった。
「「「「っ!!!!」」」」
それと同時に、ノエル兄様達も固まった。
それもそのはず、以前私が啖呵を切ったのは厨房で、聞いていたのはエイブさんとベンしかいなかったのだから。
冷静に怒って説教してる姿を見たことはあるが、まさか啖呵を切るとはノエル兄様達も想像していなかった。
奥からスティーブさんと、スティーブさんの父親であろう男性と年配の職人たちが出てきた。
「おい、何だ?うるせーぞ。誰だウチの店で騒いでる奴は!……あっ!!」
「あら、スティーブさん、先日はありがとうございます。年末の挨拶をと思いまして、先触れもなく訪ねましたところ、こちらの職人さんたちに丁重にもてなされまして。まさか来てすぐに、お水を頂けるなんて…そんなに飲めませんのに。ねぇ〜。」
鍛冶屋では場違いなカーテシーで挨拶をする。
「ジョ、ジョアン様ー!?じゃあ、今の啖呵はジョアン様が?」
スティーブが驚く。
「あら、嫌ですわ。聞こえていたのなら助けてくれればよろしいのに、私怖くて、怖くて。」
「「「うわっははははーー。」」」
父親らしき男性と年配の職人たちが笑う。
「いや〜さすが、ウィルの旦那とリンジー様のお孫さんだ。」
「あぁー、あの啖呵の切り方はリンジー様そっくりじゃったな。」
「すまんのぉ、お嬢様。ウチの若いのが。」
そう言って、年配の職人が若い職人の頭にゲンコツを落とす。
「「痛っ…。」何すか、痛いっすよ。この子、一体誰なんすか?」
「ご挨拶遅れました。初めまして、ランペイル家が長女ジョアンと申します。この度は、お忙しい中私の思い付きを作って頂きましてありがとうございます。」
と頭を下げる。
ガシャッ。手にしていたバケツが落ちる。
「「ヒィッ…。と、とんだ御無礼を、申し訳ありません。」」
若い職人たちが、同時に謝る。
「謝罪を受け入れます。でも、子供だからと言って舐めた接客は命取りですよ?次からは誰に対しても平等に扱って下さいね。」
と、私は笑顔で言う。でも目は笑っていない。
「「はい、気をつけます!!」」
「いやいや、本当に申し訳ない。俺はスティーブとマーティンの父、ジョンです。お嬢様の発想には目から鱗でしたよ。いや〜試作品を作るのが楽しくて楽しくて、仕事を頂きありがとうございます。それにしても見事な啖呵でしたな。聞いていてスカッとしましたよ。あっ、こんなところで、いつまでも申し訳ない。何もないですが、どうぞ。」
と、ジョンさんが住居の方へ案内する。
「皆様にお出しするのは、心苦しいのですが…。」
マーティンさん達の母親が紅茶を出してくれる。
「突然お邪魔して申し訳ありません。ご挨拶が遅くなりました。私、ランペイル家長男、ノエルと申します。こっちは次男のジーン。こちらはロンゲスト家のアランドルフとヴィンス。この度は、ジョアンが騒がしく申し訳ありません。」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそウチの若いのが失礼な態度を取りまして申し訳ありません。御処分は如何様にも。」
ジョンが言う。
「それには及びません。こちらも先に名乗れば良かったことですから。ただ、接客に関してはジョアンが言う様に誰に対しても平等であるべきだと私も思いますけどね。」
ノエル兄様は言う。
「はい。再度、指導し直します。」
スティーブさんが言う。
「あっ、こちらささやかですが皆さんで食べて下さい。」
そう言って、ストレージから型抜きクッキー、ナババのパウンドケーキを出す。
「もしかして、このクッキーは…。」
「はい、作って頂いた型で抜いたものです。」
「あのぉーところで、マーティン……君はいますか?」
ジーン兄様が尋ねる。
「あっ、はい。少々お待ち下さい。おい、マーティン、マーティン下りて来い!!」
スティーブさんが2階に向かって声をかける。
「何だよ、兄貴。あっ…。」
マーティンさんが下りてくる。
「よっ、マーティン。」
「ジーン、来るなら先に言ってくれたら良いのに。ノエル様、アランドルフ様、ヴィンス様、この様な所で何のお構いも出来ませんのに申し訳ありません。ジョアンちゃ…様も、申し訳ありません。さっき誰か怒鳴ってたけど……もしかして、あれって。」
「ごめんな、マーティン。ちょっとジョーが大声出しちゃって……。あははは。」
「いえ、悪いのはこちらですので。」
スティーブさんが言う。
「マーティンさん、はいどーぞ。」
マーティンさんに型抜きクッキーを渡す。
「えっ!?俺に?ありがとうございます。大切に取って置きます。」
「いやいや、食えよ!」
ジーン兄様がつっこむ。
「で、何でウチに?」
「あー、ジョーの社会勉強?孤児院しか行ったことなかったから。で、ここには年末の挨拶と鍛冶屋を見たことなかったから。」
「先にこちらを訪ねたら良かったのに、ジーン達がいきなり店先に行ったから、あんな騒ぎになったんだぞ。」
ノエル兄様に言われる。
「「「ごめんなさい。」」」
ジーン兄様、ヴィーと謝る。
「僕にじゃないよね?」
「「「皆さん、申し訳ありませんでした。」」」
ジョンさんとスティーブさんに向かって再度謝る。
「いやいやいや、頭を上げて下さい。」
と、スティーブさん。
「そうですよ。こちらにも非があったわけですし。」
と、ジョンさん。
その後、職人達にも謝り、鍛冶屋の作業を私達は目を輝かせて見学した。私は見学のついでに欲しかった卵焼き用の四角のフライパンを注文した。
「で、この後どこへ?」
と、マーティンさん。
「次は木工工房に行こうか?あちらにも挨拶行かないとね、ジョー。」
と、ノエル兄様。
「はい、挨拶します。ガンさんにもクッキー渡したいし。」
「えっ…。(俺だけじゃないんだ…)。」
マーティンさんの肩をジーンがポンポンと叩く。
「マーティンも一緒行くか?」
「行く!」
「じゃあ、みんなで行こ!」
と、私は先頭を歩きだす。
……が、もちろん木工工房の場所は知らないので、結局ノエル兄様とアラン兄様に捕獲され、再び捕らわれた宇宙人と化す。




