76.孤児院①
予定通り、3話同時更新します。
これは、1話目です。
ーーーランペイル領、孤児院。
教会の横にある孤児院は、赤煉瓦に蔦が絡まる建物だった。ここにいる孤児たちは、両親がなんらかの事情で他界した子、もしくは育児放棄などで親から見放された子だった。アニーは前者で不慮の事故に遭い2才のアニーだけが助かった。6才でランペイル家に料理人見習いとして働きだし、今に至る。
赤煉瓦なんて素敵ねぇ〜。よく主人と横浜で映画見て中華街で食事して、赤煉瓦で買い物したわねぇ〜。
孤児院を見ながら、ボーッと考えていると
「ジョアンちゃん、大丈夫?」
お祖母様から声が掛かる。
「あっ、はい。赤煉瓦が素敵だなぁ〜って思って」
「ジョアン、緊張してない?」
今から孤児院の子供たちの前で実演をする。
実演なんて働いていた時以来よねぇ〜。なんとか子供達の興味を引けたら良いわねぇ〜。
「大丈夫です。アニーちゃんも一緒にいてくれるし。ねぇー?」
「えっ、はい、頑張ります!!」
逆にアニーちゃんを緊張させてしまった。
孤児院からシスターが2人、ジョアン達の方へやってくる。1人は年配のシスター、もう1人はアニーよりちょっと上のシスター。
「院長先生、ご無沙汰しております。なかなか訪問出来ずに申し訳ありません」
お母様が挨拶をする。
「お越し頂きありがとうございます、奥様。ご無沙汰しています、大奥様。こちらはお嬢様でしょうか?初めまして、孤児院で院長をしております、シスタークラレンスと申します。こちらはシスターターニャです」
「初めまして、ランペイル家が長女ジョアンと申します。今日は時間を割いて頂きありがとうございます」
きれいなカーテシーを取る。
「ご丁寧にありがとうございます。先程、紹介頂きましたシスターターニャです。今日は宜しくお願いします」
「では早速、孤児院内をご案内致します」
院長先生を先頭に、お祖母様、お母様、私と続き孤児院内を見て回る。最後尾をアニーちゃんとシスターターニャが、コソコソ話し時折顔を見合わせて声を殺して笑ったりもしている。
アニーちゃん、嬉しそうねぇ〜。なかなか孤児院に来なかったって聞いたから、てっきり嫌な思い出でもあるかと勝手に考えていたけど、違ったみたいで良かったわ〜。
その後、孤児院の子供たちにランチバッグの便利さと作り方、ハンカチを野菜の皮で染めるやり方を教えた。子供達は私の話をとても熱心に聞いた。特に男の子達は染め物の手法の絞り染めに興味を持ってくれた。紐で所々キツく絞って染めれば、そこだけ染まらず、模様が出来る手法だ。
私による講習会が終わり、参加してくれた子供達にお菓子を配る。まるで、昔の紙芝居屋さんの水飴の様に。
「ありがとうございました、お嬢様。説明がわかりやすく、子供達も興味を持ったようです。特に男の子達が率先してやりたがっていたのには、私も驚きました」
院長曰く、今まで男の子はこういった内職系には全く興味がなく手伝う事もしなかったそうだ。
「きっと仕事よりもお嬢様の事が気になるんだと思いますよ。今もほら、話しかけたいのかチラチラと見てるじゃないですか」
そうシスターターニャに言われ、周りを見渡すとこちらを見ていた何人かの子供達がいる。ニコッと微笑む子、手を振る子、じっと目を逸らさず見てる子、慌てて目を逸らす子。
「お母様、話しかけてきても良いですか?」
「ええ、良いわよ。でも無理強いはしちゃダメですよ」
まずは、手を振ってくれた子の所に行ってみようかしら。年は私よりちょっと上ぐらいかしらねぇ〜。
「こんにちは。私、ジョアン。一緒にお話ししない?」
「こんにちはー、私はメーガン。この子はタニだよ。で、この子がタニの弟のコアよ」
メーガンは、微笑んだ女の子タニとタニの後ろに隠れている男の子のコアを紹介してくれた。
「3人は何才なの?あっ、私は5才だよ」
「えっ?ジョアン……様はまだ5才なの?私とタニは8才よ。コアが7才よ」
「……5才、スゴい。色々知ってて」
タニが言う。
「すごくないよ。やりたい事、作りたい事をしてるだけだから。やり過ぎてよく怒られてるよ。3人は何が好きなの?」
「私は裁縫が好きなの。だから、ジョアン様の考えたランチバッグ?あれを作ってお金にして大きくなったら服とかも作るお針子さんになることが夢なの」
と、メーガン。
「……私は裁縫より編み物が好き。ストレッチ編みってジョアン様が考えたんでしょ?……ジョアン様、やっぱりすごい」
「えっと、何となく編んだらストレッチ編みを見つけただけよ。コアは何が好きなの?」
「…………花」
「花?育てるの好きなの?」
私の問いかけに、無言で頷くコア。
「ごめんなさい。コア、人見知りで」
タニが謝る。
「謝ることないよ。ねぇ、コア君。今度、ウチの庭園見に来ない?温室にいっぱい花があるよ。庭師の人も優しいから、色々花の事教えてくれるよ。だから、3人で遊びにきて欲しいな」
そう言うと、コアは俯いていた顔をガバッと上げて目をキラキラさせながら
「ほ、本当?行ってもいいの?」
と、聞く。
「もちろん。後で院長先生に話しておくわ」
「ジョアン様、本当に私達もいいの?」
「うん、だってお友達だもん。あれ?お友達になって下さいって言ってなかったかな?……あの、私とお友達になって下さい!」
と、頭を下げる。
「えっ、あっ、私で良かったらこちらこそお願いします」
と、メーガン。
「……私も、お願いします」
と、タニ。
「………お、お願い…します」
と、コア。
「やったーー!!じゃあ、私のこと様付けないで呼んでね」
「「「えっ!?」」」
「だって、お友達だから」
「で、でも怒られるよ」
「大丈夫!!私がお願いしてることだもん。ねっ」
「じゃあ…ジョアンちゃん?」
「はい、メーガンちゃんよろしくね。ほら、タニちゃんも」
「ジョアン……ちゃん」
「はい、タニちゃんもよろしく。コア君も呼んで」
「………ジョ、ジョアン……ちゃん」
「はーい、コア君も仲良くしてね。じゃあ、これでお友達だね」
と、ニコッと笑う。それにつられた、3人もニコッと笑う。
やったわ、初めてのお友達ゲットーーーー!!




