73.リンジーの鍛練
演習場から自室に転移した。
「はぁー、疲れた」
と呟いて、ベッドに倒れ込む。
良いじゃないの、便利なんだからー。でも、私のスキルやら前世の記憶持ちとかバレたら、王宮とかに行かないといけなくなるってお父様が言ってたし……。それは御免こうむりたいわねぇ〜。
ラノベみたいに王子様と婚約?……乙女ゲームみたいになって、断罪とか……それは嫌ねぇ〜。まず、王族と婚約って、面倒以外ないわよねぇ〜。別に豪華な服もアクセサリーも興味ないしねぇ〜。自分の時間だってないみたいなこと、ラノベに書いてあったし…。ライカにラノベ勧められて読んでおいて正解だったわねぇ〜。
トン、トン、トン。
「ジョアン様〜、ジュリエッタ様達がお発ちになられますよー」
サラが呼びに来た。急いで叔母様達の元に向かう。
「ジュリー姉様、ギル兄様、朝食も取られないって聞いたのでお弁当作ったんです。サンドウィッチですけど……良かったら食べて下さい」
ストレージから2人分のサンドウィッチが入ったランチバッグを出して渡す。
「まぁ〜ジョアンちゃん、ありがとう。すごく嬉しいわぁ〜。やっぱり娘って良いわね〜」
「まさか、仕事に行くのに弁当を渡されるなんてなぁ。(ジュリーからも渡されたことないのに…)」
「しかも良いわね、この小さいバッグ。お弁当用?」
「はい、前世ではお弁当とかを入れるのに使っていたんです。サイズ的にも色々と便利なので、作ってみたんです」
「えっ!ジョアンちゃんの手作りかい?」
叔父様が驚く。
「はい、暇な時に色々作っていた物ですけど……」
「ジョアン?後でこれについて詳しくお話ししましょうねぇー?」
お母様が笑顔で言う…でも目が笑ってない。
「あっ…はい」
これは、確実にストレッチ編みの時と同じように色々尋問されるわねぇ〜。
「ふふっ。じゃあ、お邪魔しました。お父様、お母様、また。お兄様、マギー、よろしくお願いしますね。アラン、ヴィー、迷惑かけないようにね」
そう言って、叔母様と叔父様は王都の屋敷に繋がる扉の向こうに消えていった。
*****
「はい、ではオーキ」
動きやすいパンツスタイルのお祖母様がオーキさんに声を掛ける。
「宜しくお願いします」
「「「「「「「「お願いします。」」」」」」」」
私兵団jr. 7人、孫5人、使用人4人が演習場に集まり、お祖母様の教えを乞う。
「まずは、基礎練習ね。演習場10周、腕立て100回、足上げ腹筋100回を3セット、始めーー!」
ここでは、全員クリア。
「次、ジョアンとザック2人は素振り左右50。それ以外は2人一組で打ち合いを10分。10分経ったら、他の人と打ち合い。始めーー!!」
あぁー私はいつ打ち合い出来るのかしら?
良いなぁ〜お兄様たち。
そう考えながら素振りをしていると、お祖母様の補佐として参加していたナンシーがやって来た。
「お嬢様、前より剣先がブレなくなりましたね」
「はい、アラン兄様に聞いて体幹を鍛えました」
私はアラン兄様から体幹を鍛えた方が良いと言われ、その日からプランクを30秒3セットしていた。
「よし!止め!!……はい、では一旦休憩しましょう。ジョアンちゃん、お願いね」
「はい!」
お祖母様に言われて、ストレージから人数分のスポーツドリンクを出し、ナンシーとザックに手伝って貰いながら全員に渡す。
「じゃあ、10分休憩後、ジョアンちゃんとザックはナンシーと、それ以外は私と実践的な打ち合いしますからね」
「「はい!」」
私とザックは初めての打ち合いが楽しみでしょうがない。
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
それ以外は、ぐったりして声も出せない。
「アラン兄様、この前教えてもらって体幹を鍛え始めたら、前より剣先がブレなくなったよ」
「おう……良かったな」
「アラン兄様、大丈夫?」
「あぁーなんとか。ここまでお祖母様の訓練がキツいとは思わなかったけどな。俺より、ノエルのほうがヤバそうだしな」
そう言われてノエル兄様を見る。確かに魂が抜けそうなほどグッタリしてる。
「ノエル兄様、大丈夫?どっか痛い?」
「ん?ジョーか……。どこも痛くはないけど、疲れた」
あぁ〜スタミナ切れなのね。確かに、ノエル兄様は持久力がなさそうよね〜。でも、こればっかりはどうしようもないからねぇ〜。《おまじない》も効かないだろうし……。
「ノエル兄様、もう少し頑張ろうねぇ〜。ノエル兄様なら、大丈夫!出来るよ〜」
そう言って、頭を撫で撫でする。気休めだけど、少しは喜んでくれるかな?子供扱いにはなるけどねぇ〜。
「ありがとう、ジョー。もう少し頑張れそうだよ」
ノエル兄様は満面の笑みで言う。
「あ、あのぉ〜、ジョアンちゃん。……俺も」
ガンさんが遠慮がちに言う。
「あはは。はい。ガンさんも、もう少し頑張ろうねぇー。ガンさんなら大丈夫!出来るよー」
そう言って、ガンさんの頭を撫で撫でする。
「ありがとう、俺、頑張れる!」
元気よくガンさんが言う。
「あっ、ずりぃー。俺もいい?」
「はい。マーティンさん、もう少し頑張ろう。大丈夫、マーティンさんなら出来るから、頑張って応援してるよ」
マーティンさんにも頭を撫で撫でする。
「うん、うん、頑張る!!俺、出来る!」
立ち上がり頑張る宣言をしたマーティンさん。
「はい、休憩終わり。じゃあ、そこのやる気のあるマーティン、1番よ。来なさい」
お祖母様に呼ばれて、実践的な打ち合いが始まるが……。
「脇が甘い!!もっと踏ん張れ!!隙があるぞ!!まだまだー!!遅い!!!」
お祖母様に勝てるわけもなく……。
「ジョアンの側にいたいのなら、もっと強くなりなさい」
リンジーは、息を切らししゃがみ込んだマーティンに、ボソッと言って離れて行った。
その後、誰一人勝てず全員が演習場に倒れ込んでいた。




