72.懲りないやつ
叔母様達のお弁当をストレージにしまい、厨房を出て辺りに人がいないのを確認する。
(えーと、演習場……。演習場……。【テレポート】)
シュン。
「「「「「うわっ!!!!! 」」」」」
転移した演習場には、アラン兄様以外にノエル兄様、ジーン兄様、ガンさん、マーティンさんがいた。
「えっ!?あっ…えへへへへっ」
「こら!ジョアン、伯父上に無闇に転移するなって昨日怒られたばかりだろ!」
アラン兄様は私の頭を掴みながら怒った。ハンドクローは痛いですー。
「痛たたた…ごめん、ごめんってアラン兄様。た、助けてノエル兄様〜」
「はぁ〜。ジョー、いくら可愛い妹でも、さすがにコレはフォロー出来ないよ」
「うぅ〜、本当ごめんなさい。アラン兄様〜」
「わかったな?もう、するなよ」
「………」
「ジョー、何で返事しねーの?」
不思議に思った、ジーン兄様は聞く。
「だって……便利なんだもん。だから、しないとは約束しない!!」
「なんで胸を張って、怒られる事どうどうと言えるんだよ」
ジーン兄様は顔を手で覆って呆れていた。
「だってぇー、しないって言ってしたら怒られるでしょ?だったら、最初からやるって言えば良いのかと……」
「はぁー、ジョー、それは屁理屈って言うんだよ」
ノエル兄様はため息を吐きながら言う。
「はぁー、ジョアンは転移を使いたいんだろ?じゃあ、転移先の人間が驚かないようにしないと。例えば……ここなら、演習場の端っことか」
アラン兄様が提案をしてくれる。
「そっか、周りを驚かせるからダメなんだね。じゃあ、客室ならクローゼットとか?」
「「「何で、クローゼットなんだよ!!」」」
アラン兄様、ノエル兄様、ジーン兄様が同時に言う。
「えっ、だって驚かない所」
「いや、ジョアンちゃん……いきなりクローゼットから人出てきたら驚くから」
ガンさんが正論を言う。
「あっ、そっか。じゃあ浴室?」
「誰か入ってたら、どうすんの?アラン兄とか…痛っ…例えばだって、例えば!」
ジーン兄様が例え話で、アラン兄様に叩かれた。
「っていうか、客室に転移しなければ良いんじゃないの?」
ノエル兄様に言われ
「あっ、そっか。それも、そうだね。じゃあ、客室には転移なしで。っていうことで、これからも転移するから、みんな驚かないでね。うっ……いひゃい……アリャンにいひゃま、はにゃひてぇ」
転移する宣言をしたら、両頬をアラン兄様に摘まれた。
「はぁー、だから何で怒られる事言うかなぁー」
ジーン兄様に言われる。
「しかも、驚いた方に非があるように言い切った」
マーティンさんも呆れていた。アラン兄様に散々怒られてようやく離してもらいベンチに座る。
「で、ジョーはどうしたの?」
ノエル兄様が聞く。
「今日も朝練してるのかなぁ〜と思って」
「あぁ、誰かが転移で驚かせるまでは朝練してたんだけどな」
そう言いながら、アラン兄様は目を細めてジョアンを見る。
「あははは…。あっ、はい、新作のスポーツドリンク。ミランジ味だよ」
笑って誤魔化し、ストレージから人数分のドリンクを出して渡す。
ゴクッ。
「「「「うっま!」」」」
「美味いな。コレの作り方もあとで教えてくれよ。」
アラン兄様から頼まれる。
「うん、わかった。あっ……」
思い出した。ヤバい、これはバレたら怒られる。
「ん?どうした?」
アラン兄様は不思議そうに私を見てくる。
「ううん、何でもない。えへへへへ」
「ねぇージョアンちゃんコレ美味いし、なんか疲れが一気になくなるね。何が入ってるの?」
マーティンさん、それは聞かないでーー。しかも、なぜ今なの?どうしよう、どうしよう…。誤魔化せるかしら?
「えっと……愛情?」
「「「「「へっ!?」」」」」
案の定、みんなが呆気にとられる。
「あーーーっ」
ノエル兄様が叫ぶ。
「何だよ、ビックリするだろ!」
ガンさんが怒る。
「ジョー、もしかして使ったでしょ?」
ノエル兄様が聞くが…
「ワタシ、ナニモシラナイヨ」
動揺して、何故か片言になってしまった。
「あははは、何で片言なんだよ。あははははーー」
ジーン兄様は笑った。
「ジョー……正直に答えなよ。スキル使ったね?」
ノエル兄様に両肩を掴まれ、目を合わせられ質問される。
「「あっ!!」」
ノエル兄様が言った事で、アラン兄様とジーン兄様もスキルの事を思い出し私を凝視する。
「……はい」
「はぁーー。もう、これは父上に報告しないとね」
「あっ、いや、ノエル兄様、それだけは……どうか。もう、しま…気をつけますから」
「どうして、そこで『しません』って言わねーんだよ。どうせ、同じ屁理屈なんだろうけど」
ジーン兄様は不思議そうにしている。いつも前世の記憶のおかげで、あの父上やグレンでさえ口で言い負かせられるのに、自分に非があるとここまで屁理屈になれるのかと。
「はぁーわかったよ。じゃあ、そのミランジ味のドリンクは他の作り方を考えて。良いね?」
「はい!!」
「返事だけは、良いんだな」
アラン兄様は嫌味を言うが
「もちろん!!」
私は胸を張って言ってみた。
「ジョーアーンー!!」
ノエル兄様にまた怒られる。
「ごめんなさーーー」シュン…。
「「「「「あっ!!!!!」」」」」
「はぁーー、なんで怒られたばかりで、またすぐ使うかなぁ〜」
と、ジーン。
「…あいつ、本当に懲りないな」
と、アランドルフ。
「はぁーーーー」
ため息しか出ない、ノエル。
その3人を見て、ジョアンは可愛いけど色々と大変だなぁ〜と同情するガンとマーティンだった。もちろん、その後ミランジ味のドリンクの事は5人だけの秘密にした。




