55.ジュリエッタ・ロンゲスト side スタンリー
ーーーロンゲスト邸。
「いらっしゃい、お兄様」
この屋敷の女主人、ジュリエッタ・ロンゲストが出迎える。
「あぁ、ジュリエッタ、久しぶりだな。息災か?」
「えぇ、もちろんよ。ギルがお兄様に会えないって残念がっていたわ」
「あー、私も残念だよ。またの機会に酒でも酌み交わそうと伝えておいてくれ」
応接間に通される。
メイドからお茶を出されると、ジュリエッタは人払いをした。
「で、いきなり、どうしたの?お兄様のことだもの、何の用事もなく訪ねたりはしないでしょう?」
こいつは、相変わらず察しがいい。
「あー、実は……」
ジョアンが【無】属性の判定を受けた事、前世の記憶持ちの事、スキルが7個と多い事など説明した。そしてノエルの話していた、文献について詳しく聞きたいと。
「なるほど、私の可愛い姪っ子が【無】属性で、スキルが7個…。しかも前世の記憶持ち………」
ジュリエッタが俯いて何かブツブツ言ってる…。
「お、おい、ジュリエッタ?」
「あぁーーーなんて素晴らしいのぉーーーーーー!!!ふっふっふっ…はっはっはっはーーーー」
立ち上がり叫ぶジュリエッタ。
「はぁー、相変わらずなんだな。ジュリエッタ」
今も昔も魔術馬鹿な妹。
だが、ジョアンに関しては1番の理解者だと確信している。
「で、どうなんだ?あの文献に記載していることは、事実なのか?」
「えぇ、私の研究では【無】属性は、あらゆる属性の能力が平均の場合もあるということ。要するにその人間によって、属性を使える者もいれば、使えない者もいるってこと」
「それは、どうやったらわかるんだ?」
「ん〜。そこは、まだ研究中なのよ。ただ言えるのは、後天性ってことね。なんらかの拍子に魔術が使えるようになるみたいだけど、それがどういう人間なのか、どういうタイミングなのか共通点がないから、今の段階ではわからないの」
「そうなのか……」
「で、ジョアンのスキルって何だったの?」
「あぁー【サーチS】【ストレージS】【リペア】【ファーストエイド】【アクア】【ドライ】【アシスト】だ」
「はぁーーーーーーー!?Sが2つもあるの?どんな性能なのよ」
「【サーチS】は、見ているあらゆるモノを検索、鑑定可能で、人物も鑑定できるんだ。しかも、その人間の隠し事の有無までな。現にジーンの隠し事がバレた……。で【ストレージS】は、許容量∞で収納内は一定時間停止だ」
「なんなの!?で?【アシスト】って何なの?聞いたこともないんだけど……」
「驚きだな、お前でさえ知らないスキルだなんて……。【アシスト】は、思考内のあらゆるモノや事柄について検索出来るらしい。それと、そのアシストを持ってることで、スキル発動は全て無詠唱可能らしい」
「なに?その規格外なスキル……」
魔術馬鹿でさえ唖然とするよな、ジョアンの規格外なスキルは。
「さらにーー」
「まだ、あるの!?」
「あぁ、サーチを他人に見せることが出来るんだ。ジョアンが言うに【アシスト】がジョアンなら出来ると言うから、試しにやってみたら……出来たんだ」
「ほえっ!?サーチを人に見せることが出来るのも、信じられないけど……スキルと、【アシスト】と会話出来るの?」
「あぁ、そうらしい……」
「………」
「………」
「ねぇ、お兄様」
「何だ?」
「規格外のスキルがあるのに、これ以上属性いるかしら?」
「……やっぱり、そう思うか?」
「えぇ、しかも前世の記憶持ちなのよね。そのへんの情報はないの?」
「あー、前世は結婚もして家庭があったと、趣味は旅行と食べること、料理することが好きだったことぐらいだな」
「じゃあ、これといって何かの技術を持っていたり、武力に優れていたりって事はないのね?」
「あぁ、それについては何も優れたものはなく、平凡な人間だったと言っていたよ」
「じゃあ、まだーーー」
「ただ……あの子が作った料理が……」
「なんなの?見たこと、食べたことのない前世の料理っていうなら…ってか、5才よね?料理できるの?」
「あぁ、料理ができて知識があってエイブ達に教えて、屋敷の料理の質が上がった……」
「まぁ、前世の記憶持ちなら、そういうこともあるんじゃないかしら?」
「でも、出来るどころか……効果が凄いんだ」
「何?料理の効果って」
「ドライフルーツといって、新鮮なフルーツをジョアンのスキル【ドライ】で乾燥された物なんだが……」
「えー!?乾燥させたら、美味しくないじゃない」
「いや、ジョアンが言うに、程良く乾燥させることで栄養と味が濃縮するんだと。で、みんなで食べたんだが、美味しかったんだ。美味しかったんだが……翌日、ブレープの効果でマギーが痩せ、ミランジの効果で私の疲れが取れ、プルーベリーの効果でノエルの視力が戻り、ナババの効果でジーンの便秘が治った……」
「ん?何で?えっ?痩せたり?視力が戻る?もぉ、お兄様、私を騙そうたってそうはいかないわよ」
「まぁ、そう思うよな。普通」
「えっ!?本当なの?」
「本当だよ。嘘ついてもしょうがないだろ?【サーチ】によると、ジョアンのスキルで作ることで効果が通常の3倍増しだと」
「………」
「ここに、そのドライフルーツがある。食べてみてくれ」
ストレージからドライフルーツミックスをあるだけ出し、テーブルの上に置く。
ジュリエッタが恐る恐る食べる。
「あら?本当に美味しいわ。こんなに味が濃縮されると美味しいなんて…新鮮な物よりこちらの方が好きかも」
「保存もきくから、遠征に持っていって栄養を取るにも良いだろ」
「そうねぇ。遠征が長引くとどうしても栄養不足になりがちだものね」
「効果は、だいたい早くて10刻間後だ。我が家で使用人にも食べさせて、検証してみた結果だがな」
「じゃあ、我が家でも検証させて貰うわね。もちろん守秘義務のために誓約書を書かせるわ」
「助かるよ」
「じゃあ、検証が終わり次第連絡するわ。もちろん、【無】属性についても他に文献がないか探しておくわ」
「頼むよ。じゃあ、また」
ジュリエッタに託し、ロンゲスト邸を後にする。
【無】属性について情報が欲しかったのもあるが、正直、ジョアンの味方を増やしたかった。
あの子が【無】属性というだけで虐げられて悲しむ姿を見たくない。我が家の家族だけでは少ない。
魔術に精通しているジュリエッタならと。もちろん夫のギルバートも信頼出来る友だ。あの2人なら、必ず味方になってくれる。
ジュリエッタに至っては、ドライフルーツの検証が終わり次第、きっと我が家に押し掛けジョアンを質問攻めにするだろうな。それを想像するだけで、口角が上がる。
ともかく検証を待つとしよう。
ジュリエッタから連絡をもらったら、隠居暮らし中の父上たちにも連絡を取ろう。父上達にも事情を話して、色々と後ろ盾になってもらおう。
まずは、屋敷に帰ったらジョアンを抱きしめ、ドライフルーツの追加を貰わなければ……。
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