537.修学旅行14 コピペ
***コミカライズ情報***
『享年82歳の異世界転生!?〜ハズレ属性でも気にしない、スキルだけで無双します〜』が12/3よりコミカライズが連載されます。
詳しくは、活動報告をご覧下さい!
「奥様、ただいま戻りました」
「ご苦労様」
お母様が戻ったナンシーを労うと、ナンシーが書類を渡した。それをお母様が、一通り目を通すと私に渡し読むように言う。書類の内容は、『“食の女神”認定証』だった。
《認定証》
No.二十一 殿
貴殿は“食の女神”の料理教室を受講され、“食の女神”のレシピの認定試験に合格したことを証し認定証を授与します。
という文言が、綺麗なレタリングで書かれていた。その文言を囲むのは、金色のインクで書かれた蔦。
お母様が言うには、王都にはこの様な証書を書いてくれる前世で言うところの公証人のような職業があるらしい。そして高位貴族にもなると、お抱えの職人がいるそうだ。
お母様にとりあえず五〇枚お願いしたと聞き、この短時間にそんな早技が使えるのかと驚いていると、ナンシーが微笑ましそうに私を見て言った。
「初めて作業風景を見せていただいたのですが、書いた文言が光ったかと思うと次の瞬間には新しい用紙に同じ文言がそっくりそのまま書かれてありました。私は魔術には詳しくないのでわかりませんが、職人が申すにはこぴぺ? とか」
「こぴぺ……コピペ!?」
コピペ即ちコピー&ペースト。前世ではパソコン作業に欠かせない、他の文章や画像から必要部分の写しを取り、別の場所に貼り付けることを示すIT用語。
「お母様、その職人さんは何と言う方なんです?」
「文書屋の《アロイ》のロザン、だったかしら?」
「左様でございます」
文書屋の《アロイ》は、ランペイル家で代々利用している所らしい。そして、そのロザンという職人はお父様の代になって担当になった三十代ぐらいの職人だそうだ。
コピペということを言ってる段階で、転生者の可能性がある。もしかしたら、転移者かも知れない。
「どうしたの? ジョアン?」
「あっ、すみません。もしかしたら、そのロザンって職人、前世の記憶があるかも知れません」
「「えっ?」」
お母様とナンシーに、コピペという言葉の意味を説明しロザンが転生者か転移者かも知れないと説明した。お母様とナンシーは驚いていたが、コピペなどという魔術がないことから納得してくれた。
「ロザンのことは一先ず置いておいて、ジョアンはアニアに戻りなさい。この事は、スタンにも共有しておきます。何にしても、あなたが戻ってからね。修学旅行を楽しみなさい」
「はい。ありがとうございます、お母様。ナンシーもありがとう」
「ジョアン様、お気をつけて」
*****
翌日、ゴールダーの実家ティガー公爵家を通じてラギール殿下へ謁見を申し込んだ。やはりお忙しい身のラギール殿下、再び会う事が出来たのは申し込んで二週間後の週末だった。
「で、なんで俺達まで?」
そう聞いてくるのは、礼服を着て私をエスコートしてくれるカリムと私達の後ろでベルをエスコートしながら頷いているエド。それにたいして、私とベルは苦笑いするしかない。
今、私達は王宮で開かれた夜会に来ている。それと言うのも、ラギール殿下に謁見を申し込んだら私とベル宛に夜会の招待状が来たのだ。受け取った私達だけでなく、先生達も困惑した。一応、お茶会に出れるようなデイドレスは持って来ているが、なにせ修学旅行で夜会に出る予定がなかったのでドレスがない。
再びティガー公爵家に相談すると、公爵夫人であるマルタ様とシアさんが嬉々として私とベルのドレス選びを手伝ってもらった。今回の装いは、背の高い女性の多いアニア国らしく丈の長いドレスが多い。アニア国の女性と遜色ない身長のベルは瞳に合わせたダークグリーンのマーメイドラインのドレス。
そして、アニア国にいると小さいと思われる私は水色からネイビーのグラデーションが美しい、フロント部分がふくらはぎの半分程の丈のフィッシュテールのAラインのドレス。
二人共、オフショルダーでガッツリと肩を出している。冒険者活動や鍛錬で肩にも細かな傷があるが、公爵家の侍女さんがファンデーションで上手い事隠してくれた。
いつもはナチュラルメイクの多い私が、侍女さん達になされるがままに化粧され完成したのは詐欺メイク。鏡を見て「誰?」と声を出したことに、侍女さん達は苦笑していた。その後、他の部屋で準備をしていたベルと合流したけどお互いに笑ってしまったのはしょうがない。
もちろん迎えに来てくれたカリムとエド、そして玄関ホールで二人と話していたゴールダーの三人が顎が外れたのか? と確かめたくなるほど口を大きく開けてフリーズしていた事で、また笑ってしまった。




