535.修学旅行12 料理教室(後)
唐揚げ、メンチカツの下拵えが終わり、唐揚げを漬け込んでいる間にメソ汁を作る。ちなみにメンチカツはパン粉をつけた後にマジックバッグに入れてある。
今回のメソ汁は、具材たっぷりな豚汁。季節的にキノコや根菜をいっぱい入れる予定。出汁は、豚肉から出るから今回は使わない。前世では、顆粒の出汁調味料を入れる家もあるらしいが、豚肉から出る脂と野菜から出るエキスで十分。
ご飯が炊き上がったところで、唐揚げとメンチカツを揚げていく。料理人達が揚げている間に、私は付け合わせの千切りキャベッジとたたきキューカンのオウメ和えを作る。
キューカンのオウメ和えは、キューカンを麺棒で軽く叩き、ひと口大の棒切りにする。オウメの塩漬けつまり梅干しは種をとって細かく叩く、ボウルに叩いたオウメを入れそこにセサミ油、砂糖、セウユ、削ったキャッツブシを入れて混ぜそこに先程のキューカンを加えざっくりと混ぜたら完成。
料理が全て完成したところで、王宮の使用人専用の食堂へ移動する。いざ、実食というところで第二王子ラギール殿下がお付きの人を引き連れてやって来た。私を含め料理人達が片膝をついて礼を取る。
「皆の者、頭を上げてよい。ジョアン嬢、本日は時間を割いて頂きありがとう」
「もったいないお言葉でございます」
「ここで私も一緒に食事させてもらうが、この昼食は料理教室の延長であるから私のことは気にせず料理についてなど意見交換をしてくれたまえ」
挨拶を終えて帰るかと思いきや、ラギール殿下は私のテーブルにやって来て私の隣に着席された。聞いていなかったが、どうやらこのまま一緒に食事をとるらしい。ラギール殿下が私達にも着席を促し、試食会兼昼食会が始まった。
私のテーブルには、ベルとラギール殿下、そしてラギール殿下の側近だという何とか侯爵家の令息や何とか伯爵家の令息が食事をしている。本来であればエイブさんやデルコ、ケリーと一緒に食べるはずが、さすがに王族の方とは食べにくいと三人はバラバラに他のテーブルに行ってしまった。でも、それが良かったのか三人がいるテーブルから私の料理についての質問などの会話が少しずつ広がっていったのでお通夜状態の昼食会にならなくて良かった。
「ジョアン嬢、我が国の料理人達はどうであったかな?」
「そうですね……みなさん、私のような人族の小娘の言葉でも真摯に受け止めてくれますし、学びたいという意欲もあります。本当に、人としても尊敬出来る料理人の方々ですね。今回は、唐揚げやメンチカツの基本的なレシピでしたが、こちらの料理人のみなさんであればそこからオリジナルの味付けなどアレンジしたものができる腕は既にお持ちかと」
私としては素直に思ったことを言っただけなのだが、周りの獣人の料理人にとっては思いの外嬉しい言葉だったようだ。あちらこちらの料理人達が、嬉しそうに笑っている。ちなみに、テーブルが離れていても獣人にとってはすぐ隣で聞いているぐらい聞こえるらしい。
「そうか。“食の女神”であるジョアン嬢がそう言うのであれば我が国の食事も良いものになるだろう」
ニコニコとラギール殿下は嬉しそうに言う。でも、その後に言われた言葉に驚いてしまった。
「今回、参加した料理人達には、後日、本日習った料理を実際に作ってもらいジョアン嬢のお墨付きを頂いたら、その者に認定証を渡したいのだが、いかがだろう?」
「に、認定証ですか?」
それは、あれか? お米マイスターとか出汁マイスターとか履歴書や名刺に記載できる民間資格のこと?
「ああ。それがあれば、アニア国では“食の女神”の料理レシピを購入しただけの粗悪な偽物が減るであろう?」
確かに、商業ギルドで販売しているレシピは、前世と違い写真もない。材料と調理工程しか書いておらずわかりにくい。だから、べちゃべちゃな唐揚げやパサパサな唐揚げが色んな店で売られている。このままだと、本当の美味しさを知らないし何より勝手につけられたとは言え、私の二つ名“食の女神”の名が廃る。
でも、料理教室は今回が初めてやったことで、しかも自国ではない。ここで認定証を発行してしまうと、後で色々と面倒になることは目に見えている。とりあえず認定証の件は、考えさせてもらいたいと保留にし、料理教室は終了した。
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