530.修学旅行⑦ ミンコフ領〜王都
魔術科がエルファ国に向かったので、騎士科と文官科の数名が王都に向かう。王都までは、野営を二泊。さすがに、ここ数日で何度も野営をしているのと、文官科と言ってもザックのように冒険者活動をしている生徒も何人かいるので、テントの設置や竈の作り方がスムーズになっている。
「本当に素敵ですわぁ」
「卒業後は、きっと近衛隊ではありませんこと?」
「あぁ、わたくしも守られてみたいですわ」
「ねぇ?……あの人達、男子の真似事をして恥ずかしくないのかしら?」
遠くのテントの前に文官科の令嬢達がおしゃべりに花を咲かせている。
「あら? あなたは今年度からの編入生だから知らないのね? あの方々達は別格よ。騎士科でも学年十位までの成績をおさめていらっしゃるのよ。それこそ、男子生徒よりもお強いわ」
「でも、男子生徒の多い騎士科でチヤホヤされているんじゃないの?」
「……それぐらいにしておいた方が良いわよ。下位貴族令嬢が高位貴族令嬢に対して不敬だわ」
「そうよ。誰が聞いているかわからないもの」
「でも、きっとみんな思っているわよ。そうでしょ?」
「ごめんなさい。そろそろ、あちらに行かないと」
「そうね。わたくしも」
「わたくしも」
「えっ、ちょっと……なんで?」
取り残された一人も、先に行った令嬢の後を追って行った。
そんな様子を見ていた私達は、苦笑い。
「ねぇねぇ、チヤホヤしても良いよ。ほら……来いよ」
そう言って、同じテントのカリム、ソウヤ、ブラッドに向かって掌を上に向けて手招きしてみる。
「ばーか。そんなことより、さっさと竈作れよ」
「あははは。ってか、ストレージからキャンプ用五徳出したーい」
「しょうがないだろ、ジョアン。他の人が持っていないものは使うなって言われたんだから」
カリムに馬鹿呼ばわりされブラッドには鼻で笑われながら、ソウヤと共に竈を仕上げる。
「それにしても、アレは何なんだ?」
ブラッドは、先程まで令嬢達のいた方向を見ながら言い、私も首を傾げた。
「ん? 確か去年の冬に叙爵した元商人のとこのだろ?」
「で、先に去って行った令嬢達は子爵、男爵家だな」
「へぇー、カリムもソウヤも詳しいね」
「いやいや、逆に何で同じ令嬢のお前が知らないんだ?」
「んー、ほら私自体、お茶会行くのって限られた所だけだし。そこで知り合わなきゃ、知らないよね」
「「「あー」」」
私がお茶会や夜会に行くのは、親しい同級生や先輩の家ぐらいだ。それも、ほぼ高位貴族。クラスメイト以外、下位貴族と接する機会がない。通常の貴族令嬢であれば、学院卒業と共に結婚するのが一般的なので在学中に婚約者を決める為に、デビュタント後は率先して夜会やお茶会に参加する。要するに、相手探しに必死なのである。でも、騎士科に在籍している貴族令嬢に関しては、その感覚があまりない。卒業後は騎士団や私兵団、冒険者になりたい貴族令嬢は婚約に対して執着がない。現に、ウチの両親も叔母夫婦も結婚は遅かったし、政略結婚でもない。
「爵位を貰って間もなくて、今までは地方の教会で学んでいたらしいぞ。それが、爵位を貰って王立学院だとなぁ〜」
王立学院は貴族令息令嬢は義務で、平民は王立学院でも地方の教会でも良い。ただし、王立学院に通った場合は友人関係からコネやらツテができるし学べることは多い。しかも平民に限り、授業料は無料で寮費ーー毎日二食つきーーだけ負担することになる。制服は、古着屋でも売っているから安く購入する事もできる。だから、親としてもなるべく王立学院に通わせたいらしいが、地方に住んでいる平民は難しいらしい。先程の男爵令嬢も、父親が各地を飛び回っている間母親と共に地方に暮らしていたらしい。
「でも、あの制服は侍従コースだよね? あんなんで大丈夫なの?」
「あー、俺だったら侍女じゃなく下女でも嫌だな」
「元平民の男爵令嬢……ピンク頭じゃなかったな」
「「「あー、確かに」」」
全員が、飴ちゃんを思い出した。ちなみに、飴ちゃんとは今でも手紙のやり取りをしており、そこで教えて貰ったのは来年の春まで真っ当に仕事をしていれば、下女から料理人に昇格するらしい。料理人になると今よりも自由が効き、リーダス領の港街ノーマンまで看守と共に買い出しに行けるらしい。申請すればノーマンで面会ーーもちろん看守つきーーも可能になるらしい。その時は、キャシーちゃんと一緒に会いに行く予定。キャシーちゃんが王子妃になったら、尚更会えなくなるから。
二泊の野営は、何のイベントも問題もなく無事に終わり、今日の夕方には王都ディールに到着予定だ。
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