刊行記念SS お屋敷散歩
9/10に第1巻が発売された刊行記念SS第三弾!
今日の勉強は終わったし、今日は鍛錬もお休み。ん〜どうしよう? 今日は、平日だからお兄様達も学院だしお母様はお茶会でお出掛けしてるし、お父様は執務室に缶詰め状態。かといって、領都に行くには誰か付いてきてもらわないといけないしなぁ〜。しょうがない。そんな時は、お屋敷散歩だ!
「説明しよう! お屋敷散歩とは、我が家の城とも言える広大なお屋敷を宛てもなく彷徨うことなのであーる!……うん、行こう」
自室を出て歩いていると、掃除をしている侍女達の話し声が聞こえてきた。
「うぅ〜。この時期は何故だか目が痒いのよね〜」
「わかるわぁ。たまに朝起きると目がパンパンで開かない時があるもの」
「出来ることなら目玉を取り出して洗いたいわ」
「私は鼻水が止まらないの」
「私なんて両方よ」
それは、花粉症じゃないかしら? 前世でも今世でも私には縁遠いけれど、前世の夫や娘は見ていて可哀想になるぐらい辛そうだったわ。
「それって花粉症じゃない?」
「「「「「っ!お嬢様!?」」」」」
私が急に話しかけたことで、侍女達を驚かせてしまったみたい。
「目が痒い時はね、紅茶を冷まして目を洗ったり綿などに染み込ませたもので瞼の上を軽く叩くだけで症状が軽減するよ。それと、トム爺が育ててるハーブのカモミールをハーブティーにして飲むと良いよ。カモミールには、炎症やアレルギーを抑えるパワーが強いから。安眠効果もあるから、夜に飲むのもおすすめだよ」
フレッシュハーブティーは、摘みたてのハーブを軽く洗ってしっかり水を切り、手のひらに乗せ軽く叩いてからティーポットへ入れる。沸騰したお湯をティーポットに注ぎ、ふたをして5分ほど蒸らせば完成。
「「「「「ありがとうございます」」」」」
お屋敷散歩を再開し、しばらく歩くとドアの立て付けを修理している侍従達の会話が聞こえた。
「ここ、押さえておいて……ゴホッゴホッゴホッ」
「おい、大丈夫か?」
「あー、朝からなんとなく身体がダルいんだよなぁ。それに、ここ寒くないか?」
「は? 今日は暖かいぞ。熱あるんじゃねぇか?」
あー、きっと風邪の初期症状ね。軽いうちに治さないと、もっと辛くなるわ。
「風邪の初期症状よ」
「「うわっ! お嬢様!?」」
また、急に声を掛けて驚かせてしまったわ。気をつけないとね。
「風邪の初期症状には、ネーギメソ湯が良いよ。ネーギの白い部分には、血行を良くしたり代謝を高める効果があるから。えっと、ネーギの白い部分を細かく刻み、キャッツブシひとつかみとメソ大さじ1と一緒にカップに入れて、熱湯を注いだら良いの。熱いうちに飲むと体の内側からぽかぽかしてくるから」
作り方を説明しながら、ストレージから出した紙に書いていく。きっと、料理をしない人だと口頭説明だけだと難しいから。
「あ、ありがとうございます。あとで、ベンに作ってもらいます」
「うん。今日は、早めに休んでねぇ〜」
また歩き出して、中庭のテラスで一休みをしようと中庭に行くと庭師のマイクが雑草と格闘していた。
「ったく、なんでこの前抜いたばかりのやつが生き返ってんだよ! アンデッドか!? 不死身なのか!?」
この時間、中庭に誰も来ないだろうと結構な声の大きさで独り言を言っているマイク。わかる、わかるわ。雑草って本当にしぶといわよねぇ〜。前世でも、草抜きは一苦労だったもの。
「マーイク!」
「うわっ!! ジョアンちゃん、いつからそこに?」
「『ったく、なんで』あたりから?」
「うわー最悪。最初っからじゃん。んで、一人でどうしたの?」
私はマイクに、暇だからお屋敷散歩をして一休みしに来たことを話しながら、テラスのテーブルにアイスミランジティーを出してマイクを誘った。
「くぅー、うめぇー」
「うふふ、良かった。あっ、そうだ。雑草にはね、海水をかけると良いよ」
「海水って、あの海の?」
「本当の海水じゃなくていいの。海水と同じ濃度の塩水で。100mlに対して3.5gの塩水を作って、雑草にまくと一週間程度で雑草が枯れはじめて、三か月程度は除草効果が維持出来るよ」
「マジで!? それ、超便利じゃん!」
「花とかにかかると、それも枯れちゃうから気をつけてね」
「おう、ありがとう。やってみるわ、アイスミランジティーもありがとな」
そう言って、マイクはバタバタと中庭を出て行ってしまった。
「もう少し、おしゃべりに付き合ってくれてもいいのに」
と言う、私の呟きは誰にも届かなかった。
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