刊行記念SS ノエルとジーンとそれぞれの友人
9/10に第1巻が発売されたので、刊行記念としてのお話です。
《ノエルの場合》
「あれ? ノエル。眼鏡はどうしたんだ?」
「壊れたのか?」
「あっ、実は今日起きたら眼鏡が合わなくて。でも、裸眼でも見えるから良いかなって思ってさ」
「そっか。不便だろうから、何かあったら遠慮なく言ってくれ。友人が困っていたら助けたいから」
案の定、クラスメイトから眼鏡を掛けていないことを聞かれた。僕は、決めていた通りに答えるとクラスメイトは納得して僕から離れて行った。
「予想通りだったな」
隣にいるネイサンが、ニヤリと笑う。
予想とは、眼鏡をしなくなった僕に対してクラスメイト達がどう反応するかだった。僕を助けることで恩を売り、そこから僕との距離を縮めて我が家との縁を作ろうとするだろうと。
「僕はいつから彼らの友人になったんだ? クラスが一緒だけの関係だと思っていたけど?」
「まぁ、彼らにとったらクラスメイトと友人は同義なんじゃない?」
いつも一緒にいるネイサンは、僕の乳兄弟だ。だから、僕の裏表のある性格もよく理解しているし、一緒にいても気を使うこともないし疲れない。ネイサンの方もこのままいけば将来はグレイの跡を継いで我が家の家令となってくれるはず。
「おはようございますぅ。ノエル様ぁ」
「あら? 今日は眼鏡をされていませんのねぇ」
「素顔も一段と素敵ですわぁ。ねぇ、みなさん?」
「「「「本当に素敵ですぅー」」」」
クラスメイトの姦しい令嬢達が僕の机を取り囲んで、いつものように勝手に話していく。僕もいつも通り、微笑んで聞いているだけ。彼女らの情報も、たまには役に立つ事もあるから。
「そう言えば、聞きましたわぁ。大変でしたわねぇ」
「あら? 何かしら?」
「何かありまして?」
「あら? ご存知ないのぉ? 先日の洗礼式でのノエル様の妹さんのことですわぁ。なんでも気を失ったとお聞きしましたの。もう、回復なされて?」
「ええ。あの後、すぐに。ご心配頂いたようでありがとうございます」
「そんな些細なことですわぁ。……でもぉ、わたくしなら、どんな妹さんでも優しく支えられますわぁ」
と、彼女らのリーダー的な立ち位置の令嬢は意味あり気に僕の方をみる。その目は僕を気遣うように見せてはいるが、卑しい感情が隠しきれていない。僕はネイサンをチラッとみると、ネイサンはすぐさま理解し無言で頷いた。
「それは、ありがたい。今度、ぜひお話しさせてもらいたいですね」
「まぁ。ぜひ! お待ちしておりますわぁ」
そう言って、僕の側から離れて行った。僕に背を向ける際に見えた下卑た笑みは、本当に気持ちが悪い。確か、あれでも伯爵令嬢だったような気がする。今までは興味がなかったから気にしていなかったけど、まぁ、すぐ分かるだろう。さっきネイサンが窓の近くで文を飛ばすのが見えたから、すぐに《影》が動くだろう。
(ジョーに害がありそうなものは、早いうちに摘まないとね)
その後、しばらくして姦しい令嬢達が学院に来なくなったのなんて本当に些細なこと。
《ジーンの場合》
「あっ、ジーン。何、一人で美味そうな物食ってんだ?」
そう俺に話しかけてきたのは、一年からずっと同じクラスで同室のエリック。俺の父上とこいつの母上が元同僚ということもあって、すぐ仲良くなれた。今では、王都での冒険者活動はこいつとペアを組んでいるぐらい。
「あ? クッキーだ………おい、勝手に食うなよ!」
「いいじゃん、別に。おっ、うまっ! これどこで買ったんだ?」
「買ったやつじゃねーよ。あっ、また」
「うまっ! こっちは紅茶味か。買ったやつじゃねーって、お前、まさか俺に隠れて彼女でも出来たか?」
「ちげーよ。妹が作ったんだって。あー、食うなよ!」
「妹? あれ? 妹ってまだ小さかったんじゃねーの?」
「あぁ、まだ五歳だ。でも、料理が美味いんだ。このクッキーもーって何してんだよ!」
俺が話している途中で、俺の引き出しを漁りはじめた。俺の性格とかを熟知しているエリックは、あっさりと隠していたドライフルーツを見つけやがった。
「何だこれ? 干涸びた……フルーツか?」
「ドライフルーツって言って、あえて乾燥させたやつだよ」
「美味いのか? って、食えばわかるな……マジうまっ!! なんだよ、これ」
ドライフルーツのことを説明すると「へぇー」と言いながらも、どんどん瓶の中のドライフルーツが減っていく。エリックの頭に手刀を落として、なんとか瓶を取り戻した。本当にこいつは、油断も隙もあったもんじゃねー。
「ケチだなぁー。あっ、そうだ。今度、俺の分もお願いしてくれよ」
「んーじゃあ、妹に何か買ってくれよ。それを渡して作ってもらうからよ」
「お安い御用だ! 行くぞ!」
「は? 今からか? 次の雷の日でいいだろ!」
「いやいや、そのままタウンハウスに届けたらいいじゃん」
エリックは、友人の中で我が家のタウンハウスと領都の屋敷が転移扉で繋がっていることを唯一知っている。
「しょうがねぇーなー」
そう言い出掛ける準備をしながらも、ジョーに何をあげたら喜んでくれるか考える。お菓子か? それとも行きつけの串焼きでもいいか? それよりジェネラルで中々売ってないフルーツの方が喜ぶかもな。なんて考えていると、既にドアの前で待っているエリックから声がかかる。
「何ニヤニヤしてんだよ! 早くしろって!」
どうやらジョーの喜ぶ顔を想像していたらニヤけていたらしい。
「ったく、わかったよ!」
タウンハウス経由でジェネラルの屋敷のジョー宛に色々と送ってみた。喜んでくれるといいけどな。
*****
サラに呼ばれて厨房へ行くと、作業台の上には様々なフルーツや串焼きの肉、綺麗な飴や何かの塊肉が置いてあった。
「は? 何これ?」
「ジーン様からのお届け物だそうですよ」
添えられたカードには……
『クッキー美味かった! また何か作ってくれ』
の文字が。
配達をしたタウンハウスの従僕さんによると、ジーン兄様とジーン兄様のお友達が私宛に届けて欲しいと置いて行ったらしい。
これは、何か作って差し入れしなければならない感じか? と私は頭を抱えてしゃがみこんだ。それをチーム料理人とサラが苦笑いしながら見ていた、穏やかな日の午後。
お陰で様で、第1巻大好評販売中!
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