529.修学旅行⑥ アニア国バートン領アレーズ
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宜しくお願いします。
「ようこそバートン領へ。そしてジョアン嬢は、お久しぶりですな。まずは、食事を頂きましょう。お口に合うと良いのですが」
バートン辺境伯家へ先触れを出して、指定された時間に伺うと挨拶もそこそこにダイニングルームへ案内された。そこには既に辺境伯夫人のサラビア様をはじめ双子兄弟のアハディ君とシェンジ君、そして双子姉妹のナラちゃんとサフィナちゃんが揃っていた。私達が入ると、立ち上がり出迎えてくれた。出された食事は、さすが獣人の国らしく肉料理が中心だった。
食事が終わりアフターディナータイムでは、私のストレージから手土産を渡した。子供達が喜ぶであろう焼き菓子セット、そして現在ジョウ商会売上一位のカレールーセットとバースト産のお米を渡した。お米の炊き方についてはレシピを渡したが、もし難しい場合は連絡をもらうことにした。
「この度は、私共に過分なお心遣いをいただき、誠にありがとうございます。更にお時間を取って頂いただけではなく、食事までご用意頂き申し訳ありません」
手土産を渡し、子供達がパールやロッソ達契約獣と遊んでいるのを横目にするとブライアン先生は話し出した。それに合わせて私達も背筋を伸ばした。
「いやいや、こちらとしてはジョアン嬢には返しても返しきれない恩がありますのでね」
「へ? 私にですか?」
バートン辺境伯のジェレミー様に、そう言われたが全く覚えがなく変な声が漏れ首を傾げた。それを見てジェレミー様は、パールを間近で見れたことそしてサフィナちゃんが番いを得ることが出来たきっかけを説明してくれた。
「ジョアン嬢には、いや人族の方にはわからないのかも知れないが、私達獣人にとっては番いとはかけがえの無い存在なのですよ。しかし、番いと出会える確率は低い。未婚のうちに出会えれば良いが、中には既婚者同志であったりかなり年を取ってから出会う事もある。にも関わらずサフィナは成人前に出会えた。しかも人柄、身分どれを取っても申し分ないお方だ。その出会いは、ジョアン嬢が我が家を訪れていなければ得ることがなかったのですよ」
確かに、私がウル様とミンコフで出会いバートン辺境伯家に来て、そこへトニー君がお迎えに来てくれなかったらサフィナちゃんと会うこともなかっただろう。
「ですから宿を準備することなど些細なことなのですよ」
「他にも私達で出来ることは、何なりとおしゃって下さいましね」
ジェレミー様とサラビア様が微笑んでくれた。
バートン辺境伯家を出て宿へ戻り、再びブライアン先生のスイートルームに入ると同室のヘクタール先生、ミヤ先生、ハリー先生が帰りを待っていた。その後、他の先生達もやって来るとジェレミー様から聞いた理由を話す。先生達はそういうことかと納得して部屋を出て行った。
「はぁー疲れた。まぁ、理由がジョアンらしいっていうか何というか……」
ブライアン先生は、ドサっとソファーに身体を投げ出すように座った。それを見て私達は苦笑した。
「でも、ジョアンちゃんのお陰でこんなに良い部屋に泊まれるんだもの。感謝だわ」
「そうそう団にいた時だって、こんな良い部屋なんて泊まったことないし」
ミア先生ハリー先生夫妻は純粋に宿のグレードアップを喜んでくれた。その後、矢面に立たされたブライアン先生を労って先生達と慰労会として呑むことにした。もちろん酒もツマミも私の提供だ。
「なぁ、ジョアン。さっきのバートン辺境伯様の話で出たけど番いってそんなに凄いことなのか?」
「あっ、それ俺も聞きたかった」
エドとカリムは、バートン辺境伯家で気になったけどさすがに水をさす様で聞けなかったらしい。
「あーそれね。中々巡り会わない番いと出会った場合は、なるべく早く婚約をするらしいよ。婚約成立まではエグザリア王国と同じだけど、アニア国では婚約者が番いの場合、王宮から番い専用の魔道具の腕輪を支給されるんだって。その腕輪は自分に番いがいるよーって周りに知らせる為だって」
「それは、虫除けの為か?」
「やっぱりそう思うよね? 私も最初に聞いた時に、そうだと思ったんだけど違うのよ。アニア国では番いのいる者に手を出して反撃されても罪には問われないんだって。だから、腕輪は無駄な殺生を止める為なんだって」
「「「「「「「怖っ」」」」」」」
『横から失礼致します。ちなみに既婚者が番いと出会った場合は、基本的に配偶者との話し合いで決めるそうですよ。中には番いの契りよりも、配偶者を取る方がいるようですよ。その場合は、神殿ですぐに番いの契りを消滅させるそうです。遥か昔、配偶者を殺して番いを得ようとする者が多かったかららしいですよ。……ソルティドッグでございます』
カクテルシェイカーを振っていたベルデが、番いについて補足説明してくれた。
「そういえば、番いって獣人同志だけなの?」
『いえ、他人種の場合もあるようですよ。ただし獣人と違って本能でわかるわけではないので、他人種側から気づくことはそうそうないらしいですが…… ウォッカマティーニでございます』
「じゃあその場合は、ホラーでしかないね」
「なんでジョアンはロマンチックな方に考えられないんだ?」
「いや、だって考えてみてよ。なんの感情も持たない獣人さんからしつこく言い寄られるんだよ。「君は僕の番いだー。さぁ結婚しよう!」って。婚約者がいても慕ってる人がいても、こっちの都合関係なくグイグイくるんだよ? 獣人さんが女性の場合もあるよ? どう?」
「「ホラーだな」」
『他人種の場合は、王宮にある鑑定球で調べることができるそうですよ。その場合は、他人種の意思を尊重しそのまま番いとなるか、契りを消滅させるようです…… アイリッシュコーヒーでございます』
「凄いなベルデ。その情報量はもちろんだが、カクテル作りながらって」
ヘクタール先生がベルデを褒めるが、ベルデは微笑むだけ。できるな私の契約獣。




