527.修学旅行④ 東の国
ファンタズモ到着日に大捕物があり、翌日、ファンタズモを歩いていると顔見知りに声をかけられた。
「おっ、姫さん。おっ、弓の兄ちゃんもいるな。いや〜昨日は凄かった。おじさん、ビックリしちゃったよ。皆んなも誘導してくれたんだろ? ありがとよ。ほら、これ食いな」
ファンタズモに来るたびに買いに行く、串焼き屋のおじさんは嬉しそうに私達に焼きたてのエビやら貝やらを渡してくる。今回もお金を払おうとすると、おじさんはニカッと笑いながら言った。
「これは、ただじゃねぇよ。昨日の報酬さね。だから姫さん達には、食べる権利があるんだよ。まぁ、お代わりするなら金はもらうがね。わっははは」
串焼きはいつも通り美味しく、全員が二本以上食べた。その後も、街ゆく人に声をかけられ肩や背中を叩かれながらファンタズモの街を楽しんだ。
ファンタズモから東の国への航路は、天候も良く魔物も出ることもなく順調に進んだ。中には船酔いでフラフラな生徒もいたが、具合が悪かったら寝てれば良いとミア先生が嬉々として催眠魔法をかけまくっていた。
船で一泊し東の国に到着したのは、ファンタズモを出て二日後の夕方だった。この日は、港街で泊まり翌日文官科は東の国の都ヒノモトへ、魔術科と騎士科はまた船に乗ってアニア国へ向かう。
宿屋は、前回お世話になった大衆食堂の《エビス》、その隣にある魚屋の《ダイコク》と同系列の宿屋の《ビシャモン》だった。港街で一番大きい建物で、船旅のお客さんで賑わっていた。夕飯は、近くの飲食店でとることも宿屋でとることもできた。この修学旅行では、前世とは違い全員揃って食事をとることは少ない。特に、旅に慣れていない生徒ーー主に文官科ーーが皆んなと同じように食べれるわけもなく、お互い合わせるのは難しいとし自由に食事することになっている。ただし戻って来たら、必ず担任に報告しなければならない。そして何かあれば、すぐ報告するために文を飛ばすことが義務づけされている。
ということで、船酔いも旅の疲れもないいつものメンバーで夕食をとるために《エビス》に向かった。
「ファンタズモの魚も美味かったけど、ここのも美味いのか?」
「うん。鮮度も味も間違いないよ。東の国の地魚料理もあるから期待して大丈夫だと思う。東の国の地酒もいっぱいあったしね」
「いらっしゃい、いらっしゃい! どうだいお兄さん、美味しい魚と酒があるよ〜。飲んでいかないかい? おススメは、旬の魚の漬け丼だよ〜!」
店頭で声出しをしているのは、船長カツヤさんの妹で《エビス》で働いている子だった。
「すみません、八人と契約獣なんですけど空いてます?」
「はい、喜んで! あれ? お客さん、前に来ましたよね?」
「あっ、覚えてました?」
「はい、契約獣連れのお客さんって少ないし、この可愛いわんちゃんは忘れないわ」
『ワン』
どうやら妹さんはパールのことを覚えていて、その契約者だから覚えていた。
「それに、店長とお兄ちゃんと朝まで飲み続けること出来る女の人なんてすくないもの」
……いや、しっかりと私のことも覚えていたようだ。
「店長ー、八名様と契約獣様ー」
「あ? なんだ? 契約獣様だと?……ん? あっ、あん時の嬢ちゃん。なんだい、今度は友達連れで来てくれたんか?」
「はい。修学旅行で《ビシャモン》に泊まっているんです」
「あー、確かに団体さんの予約が入ってるって言ってたな。で、明日はヒノモトか?」
「生徒の一部はヒノモトに、私達は明日アニア国に行くんですよ」
「なるほどなぁ〜。じゃあーー」
「ちょっと店長! まずはご案内!!」
「あっ、すまんすまん」
店長も相変わらず妹さんに怒られているのを見て、つい笑ってしまう。
相変わらず美味しい魚と地酒に舌鼓を打っていると、文官科侍従コースに通い今回の目的地をアニア国にしたザックと東の国にしたボン&コッシー、キャリーちゃん、サンちゃん、レベちゃんから文が飛んできて場所を教えると《エビス》にやって来てプチ同窓会状態。
「一般科以来じゃね? 皆んなで飯食うの」
「そうだな。個人個人では交流はあったりするけど、皆んなでってことはないな」
「でもザックがアニア国だったとはな」
「まぁ、俺の場合はランペイル家の意向だな。ウチのお嬢様が大人しくしているはずないからな」
ザックは地酒を呑みながら私の方をチラッと見る。
「「「「「「「「あぁ〜」」」」」」」」
と言いながら、チーム男子が私の顔を見る。
解せぬ。
「そう言えばキャリーちゃんは、東の国ってのはやっぱりリリー様がいるから?」
リリー様は、東の国の殿様の正室でありエグザリア王国の国王陛下の実妹だ。
「それもあるけれど、王妃様からのアドバイスかしら」
「なんて言われたの?」
「側室チグサ様とメルロス様がいらっしゃるから『リリーちゃんと仲良くなれて、東の国のことだけじゃなくエルファ国のことも知れて一石三鳥よ』って」
他国の王妃&側妃捕まえて一石三鳥って……。それを聞いた皆んなは、どう反応して良いかわからず無言で呑んだり食べたりして誤魔化している。ちなみに、皆んなが揃った段階で防音の魔道具を使っているので他には聞こえてないから周囲から不敬とは言われない。
第一巻を発売して2日たちました。
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