SS 私兵団長の思い出
9/10発売の書籍予約記念SSです。
57話『私兵団の酔っ払い』の私兵団長の昔のお話。
「では、今から訓練を始める。まずは今日から君達が所属する班を発表する」
俺は、エル・ディーエイツ。ディーエイツ伯爵家の三男で、今春王立学院の騎士科を卒業して無事に第二騎士団に入団した。第二騎士団は、冒険者ギルドランクB以上の実力者であれば、身分を問わず入団出来る。騎士団長の下に副団長がおり、その下に班長がいる。今までは入団したばかりで基礎訓練だけだが、今日から班分けされて班ごとの訓練に入る。
現班長にも平民が何人かいるが、役職をもらえるだけの実力がある。A班のグレイ班長は、副団長の補佐をしているほどの方で常に冷静沈着だ。何よりも無駄を嫌うようで、効率の悪い動きをした団員に対しては容赦がない。C班のエイブ班長は、第二騎士団の料理番だ。山賊の頭のような大きいがたいにも関わらず、絶妙な味付けで団員の腹を満たしてくれる。F班のナンシー班長は、唯一の女性の班長だ。だが『氷華の悪魔』という二つ名を持っていて、冒険者ランクSらしい。
そして何人かいる班長の中でこの三人は別格だ。それは俺が入団してまだ基礎訓練を始めた頃、副団長を指揮官としてA、C、F班そして魔術師団の副団長の二人を含めた魔術師団数名でレッドドラゴンを討伐した実績があるからだ。確かに第二騎士団員も魔術師団員もいたが、後日、報告書と共に提出された魔道具の映像を見せてもらったが、レッドドラゴンを討伐したのは、ほぼ三人の副団長と三人の班長と言えるだろう。今後の魔物討伐の為の資料映像だったが、六人の連携や各団員のサポートの姿に俺たち新人にとっては手に汗握る映像だったのを今でも覚えている。トドメの一撃を打ち込んだところは、全員が立ち上がり声を上げた。このことは『ドラゴンハンター』という話になり、演劇や絵本にまでなって知らない人がいないほどだ。
「我がF班には、諸君らが配属された。歓迎する。配属初日であるから、本日の訓練は軽めにする。まずは演習場15周、腕立て150回、足上げ腹筋150回を3セット、始めーー!」
それが終わると、少しの休憩の後に次の訓練が始まった。
「次、素振り左右100、それが終わったら二人一組になり打ち合いを10分。10分経ったら、他の人と打ち合い。始めーー!!」
それをなんとか終了させると、ナンシー班長は満足そうに微笑んでいた。班長も同じように訓練していたはずなのに、なぜ息切れもせず微笑むことが出来るんだろう?しかも、打ち合いの最後にナンシー班長に当たった時なんて、一切疲れも感じさせない重い剣だった。さらに打ち合い中には【水】属性の《ウォーターアロー》まで飛んでくる。それを避けながら打ち込むも、簡単にいなされる。
「ほらほら、どうした? もう終わりか? ディーエイツ。こんなんだと、すぐに魔獣にやられんぞ?」
そう言いながらナンシー班長の剣と魔術の攻撃は終わらない。成人して初めて、俺は泣きそうになった時にようやく打ち合い終了の時間となった。
「よし! 新人達もバテずに付いてきたな。よくやった。では、最後に演習場の端から端までダッシュ30本だ。始め!」
それを聞いた瞬間、俺の目の前が真っ暗となり意識を失った。
「……起きて下さい!」
遠くから俺を呼ぶ声がする。
起きなければならないのはわかっているんだ。班長にも先輩方にも迷惑をかけて、本当申し訳ない。だけど、もう少し寝かせてくれ今は訓練の疲労で頭まで痛いん……
「あっ、ナンシーだ!」
その名前を聞いて、俺は……いや俺達は一気に覚醒した。
「「「「「「お疲れ様であります」」」」」」」
挨拶をし敬礼をするが、どこにもナンシー班長は見当たらない。その代わりに大笑いしているお嬢様とエイブ班長、そして私兵団の後輩がいる。
そうだ。俺はランペイル私兵団の団長だ。さっきのは、夢だったのか……。そして、先程のナンシー班長が来たと言うのはお嬢様の嘘だとわかり俺達は胸を撫で下ろした。
パンパンッ。
「はい、じゃあ、ともかくシャワー浴びて目を覚まして。お祖父様たちが来るのに、こんなんだったら本当にナンシーに怒られるよ?」
お嬢様の言葉に、一気に現実をつきつけられ俺達はシャワー室へと駆け込んだ。
9/10の発売まで、あと少し……。
いや〜ドキドキです!!
書籍版では加筆もしてますし、なんて言ったってLaruha先生のイラストが可愛い!!
ぜひ、宜しくお願いします!
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