521.ハイコボルトとお話ししよう
★書籍発売情報★
このたび、9月10日にマックガーデン社から発売されます。
多少、加筆もしております。
どうぞよろしくお願いします。
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カレーの睡眠薬で全てのコボルトが寝たのを確認するとカズール班長の指示の下、13頭のコボルト達を檻の中に入れていく。この檻は第二騎士団で魔物討伐の際に使用されるもので、中に入れた魔物に対して闘争本能を抑える効果があるらしい。全てのコボルトを檻に入れると、カズール班長がハイコボルトを《水撃》で起こす。顔に水をかけて強制的に起こされたハイコボルトは、寝ぼけたように辺りを見まわし檻に入れられていることを認識すると、どうにか出ようと檻を触っていた。
「ジョアン、いけるか?」
「はい。ただ、私のスキルは触らないと話せないので、どうにか拘束出来ないですかね?」
「じゃあ俺が」
そう言うと、シェルトンさんが《風圧》でハイコボルトを拘束してくれた。先輩達に、気をつけろと言われ頷きながらハイコボルトに近づく。ちなみに、他のコボルト達は未だに起きない。近づく私を動きを封じられたハイコボルトは威嚇している。
ーー落ち着いて私の話を聞いて。
ーーッ!? ニンゲンガ オレニ ハナシテルノカ。
ーーそう。私達はできたらあなた達を殺したくはない。でも、あなた達にフースの滝の下流に住みつかれると、村人が困るの。
ーーコマル ナンデダ? オレタチハ ニンゲンニ チカヅカナイ。ソレハ ナカマモ ソウダ。
ーー村人達は、下流でキングシャーモンを獲って生活しているの。でも、あなた達がいると川に近づけないの。
ーーオレタチモ サカナガイルカラ アソコニスンダ。オレタチ タベルモノ サガシテ ココマデオリテキタ。タベルモノ ナイ コマル。
ハイコボルト達は、元々山の中腹の洞窟で住んでいたらしい。中腹ではホーンラビットやラットテイルなどを狩ったり、木の実や果物を見つけて生活していたそうだ。だが先日の大雨で土砂崩れがあり、その洞窟がなくなってしまった。その為、山の麓に下りて来て滝壺の下流の所に住み着いたという。
私は一度、檻から離れ聞いた情報を先輩達に話した。ちなみに、ハイコボルトの拘束は既に解いてある。
「先日の雨か。村長もここら辺は大雨だったと話していたな」
「確かに。だが村としてはコボルト達の討伐を希望しているが……。そこのところは、聞いた?」
「はい。ハイコボルトが言うには、食べる物に困らなければ場所は移動することは構わないそうです」
「しかし移動するにもどこに?」
「山に戻ることも出来ないだろうからな」
皆んなで移動先を提案していく中で、私としてはクリムゾンウッズはどうかと考える。クリムゾンウッズは、我が領にある森でファンタズモに行く際に必ず通る森。契約獣達の出身地と言っても過言ではない。あそこであれば、13頭のコボルトぐらい受け入れは可能だと思う。餌となるような小物魔獣もいるし、ロッソとベルデのいた泉もあるから水にも困らないはず。
皆んなが話し合っている隙を見て、私は先程先輩達が隠れていた木の陰に行き、木に触れながらベルデを心内で呼ぶ。緑の精霊であるベルデに連絡を取るにはこれで大丈夫。
ーージョアン様、いかがしましたか?
ーーあのね、コボルト達をクリムゾンウッズに移動させるのは問題あるかな?
ーーいえ、特に問題はありませんね。旦那様にも聞いておきましょうか?
ーーうん。報告よろしく。
皆んなのもとに戻ってからしばらくすると、お父様からの許可も貰えた。念のために、お父様に一筆書いて貰ったそうでメテオがこちらに向かっているそうだ。
「あの、移動先なんですけどクリムゾンウッズではどうですか?」
「クリムゾンウッズ……確かにあそこであれば餌にも水にも困ることはないだろうが……。ランペイル辺境伯様の返答次第になるな」
「その件ですけど、たぶん大丈夫です」
「いや、しかしいくらジョアンが大丈夫だと言ったとしても、辺境伯様の了承が得られない限り我々は動けない」
カズール班長の言葉に先輩達も頷いている。さすがにベルデと念話したことを説明するわけにもいかず、どうしようかと思案していると、遥かかなたに黒い点がこちらに向かって飛んでくる。
ーー姐さーん。お届けもんでーす
ーーえっ? 早くね?
王都からここまでは馬車なら一日半、スレイプニルなら一日ぐらいだがそれは街道を通った場合で、王都邸から直線コースで来れるメテオ。それでも速すぎる……。後で聞いたところ、ベルデに近くまで転移させて貰ったそうだ。
お父様からの手紙を読んだカズール班長は色々と私に聞きたいことがある視線を送ってきたが、それを私はスルーした。さすがに正式に配属されていない騎士団に、全てを話すわけにはいかない。
その後、ハイコボルトにクリムゾンウッズへの移動のことを説明すると喜ばれた。そして村長達村人には、檻に入れたコボルト達を見せて他に連れて行くことを伝えた。その時に、念の為檻に【バリア】を張っておいたのだが案の定村の子供達が石を投げてきた。もちろん【バリア】に弾かれたけど。
コボルトの檻を乗せ王都に戻る道中は、正直大変だった。何が大変かというと食事の面。人間達は通常通り私とリキが作るのだが、それをコボルト達が涎を垂らしながらジッと見ている。魔獣に対して申し訳なく思うのも可笑しな話だけどジーッと見られながら食事するのはキツいものがあり、先輩達が近くで小物魔獣を狩ってきて檻の中に入れて檻の周りを土壁で囲っていた。




