508.強制依頼
今日は、本当であれば第一騎士団での顔合わせのはずだった。しかし、先日の皇太后様との王都視察の際に第一騎士団の問題が発覚した。そのことで、受け入れ体制が整えられず第一騎士団での職業体験が出来なくなった。だから、今日から6日間私達Aチームはフリーとなってしまった。他のクラスメイトを見送ると、私達は食堂のテラスでお茶をしながら話し合うことにした。
「どうする?この5日間」
「急に休みになるのも、困るんだな」
「確かに、最初から休みだってわかってれば色々計画出来たのにな〜」
「そうだ!!」ガタガタッ、バタン。
ソウヤが話し始め、リキの言葉に私は即座に反応し声をあげ勢いよく立ち上がると椅子を倒してしまった。アハッと誤魔化しながら椅子を直すと、待っていたかのようにカリムが声をかけてきた。
「で?何を思いついた?」
「冒険しよう!」
「「「「「「「はー!?」」」」」」」
「ジョアン、冒険って?ギルドで依頼受けるって事?」
「そう。だって、春の季になってから武闘会とかで忙しくて、みんなもギルドに行けてないでしょう?」
「「「「「「「確かに」」」」」」」
6日間フリーとは言っても、その翌日には第二騎士団との顔合わせがあるので6日目の昼には戻るつもり。そして、さすがに臨時でパーティを組むと言っても8人では多すぎるので、4人ずつに別れることにした。
「じゃあ、競争しようぜ!どっちが多く稼げるか」
「「「「「「「賛成!」」」」」」」
ダガーの提案に全員が賛成し、組分けをすることにした。この8人のギルドランクは、ランクBが2人にランクCが3人、ランクDが3人なので、ランクの高い2人が各パーティのリーダーとして、順にメンバーを選んでいくことにした。その結果は、次の通り。
チーム・ジョアン
・ジョアン ランクB
・ベル ランクC
・ソウヤ ランクC
・リキ ランクD
チーム・エド
・エド ランクB
・カリム ランクC
・ブラッド ランクD
・ダガー ランクD
チームが決まり、早速王都南冒険者ギルドへみんなで向かう。ちなみに、パール達、私の契約獣を入れてしまうと戦力過多になってしまうので今回はタウンハウスでお留守番となった。
*****
久々の王都南冒険者ギルドは、朝のピークがひと段落したようで冒険者達もまばらだった。
受付にウェンディさんが座っていたので迷わず、ウェンディさんの元へ向かう。
「おはようございまーす」
「あら?みなさん、お揃いで。全然来てくれないものだから忘れてしまったのかと思ってたわよ」
「いやいや、忘れませんって。ちょっとバタバタしてて」
「うふふふ。知っているわ。武闘会でも頑張ってお手伝いしていたものね」
ウェンディさんは、観客として武闘会を見に来ていたらしい。というか、武闘会には冒険者ギルドへ優先的にチケットがもらえるそうでウェンディさんだけではなく、ギルマスも他のスタッフも観戦に来ていたそうだ。知らなかった。
私は、臨時パーティの話をするとウェンディさんの目がキラリと光ったような気がした。
「そう、報酬額で対決をねぇ〜。みんな、時間あるのよね?ちょっと、良いかしら?」
ウェンディさんに案内されたのは、ギルマスの執務室。私達が入ってくると、ギルマスはギョッとした顔をする。
「お、おい、ウェンディ。何なんだ?」
「ギルマス、ジョアンちゃん達臨時パーティで対決するんですって」
「対決だあ?で、それがここに来る何の理由になるんだ?」
「ほら、あの案件類ですよ」
「ん?あっ、アレか」
「ジョアンちゃん達なら……」
「確かにな。でかした、ウェンディ!」
何やら2人で盛り上がっているが、私達としては嫌な予感しかしなくて互いに顔を見合わせて苦笑いするしかない。
「報酬額対決をするのなら、依頼は何でもいいんだろ?」
「まぁ、そうですけど……。何すか?さっきから悪い笑顔っすよ?」
「うんうん。普段から悪党顔なのに更に拍車をかけて極悪人顔になってる」
「相変わらずジョアン嬢は酷いな」
「そうよ、ジョアン。ギルマスは強面なのよ。それが凶賊顔になっているだけよ」
「いや、ベルも大概酷いから」
私にだけではなくベルにまで言われてしまったギルマスは、さすがに凹んでしまって申し訳ないと思ったので、ストレージからシュークリームをお茶受けとして出した。それを見ると、目をキラキラさせて喜んでいる強面のギルマスはギャップが凄い。
「それでだ、実はやって欲しい依頼があってだな……」
「もしかして……強制依頼だったり?」
「正解だ」
冒険者ギルドの依頼の中には、大変なのに報酬額が少ないものなど誰もやりたがらない依頼が残ってしまうことがある。そうなると、冒険者ギルド側から該当ランクの冒険者に強制的に割り当てられることになる。つまり冒険者の実力などを考慮して「この期間内にこの依頼。よろしくねー」と押しつけられるということ。もちろんその依頼を完了したら、残った依頼から好きな依頼を受けられるし、更に強制依頼を確実にこなしていけばギルドからの信頼も評価も得られる。どちら側にもメリットはあるというわけ。
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